案内
「思ったよりも質素な入り口だな」
「ここは裏口だからね」
僕らはカイゾウ王国へと辿り着いた。
ディバイドが言った通り、裏からの入り口には門兵の人が一人立っているだけで、扉自体もさほど大きくない。
言ってみれば裏から来る人なんて、僕や両親の関係者の人しか来ないのだから当たり前だ。
厳重にすべきは表の方、ということだね。
「あの人に聞けば通してもらえるのかしら」
「だと思うけど…………これでダメだとか言われたらショックだよね」
「だーいじょうぶだって! もしロゼの言うことに反対したら不敬罪で死刑だから」
「ならないよ!」
「仮にも魔王の息子だものね。さぁ見せてきなさい、アナタの権力というものを」
「絶対嫌だ!!」
と言いつつも、裏から来る時点でお察しはされてると思う。
あまり態度に出ないように、嫌な奴だと思われないように接しないと……。
「とにかく聞いてこいよ王子様」
「次その呼び方したら能天気バカって呼ぶからな」
「望むところだ!」
「望んじゃうのかよ……。分かった、とにかく行ってくるよ」
ここを通らないと先に進めないのは確かだ。
僕は覚悟を決めて門兵の人に近づいていった。
「あの〜……すいません」
「こちら側から来られるとは珍しい…………っ!! もしかして、魔王様の御子息であるロゼ様では!?」
「え? あ、はい。そうです」
「ようこそお待ちしておりました! ささ、ルーザー様が一度貴方にお会いしたいと申しておりましたので、こちらへどうぞ」
「あ、あの、友人も一緒にいるんですけど…………大丈夫ですか?」
「友人……? ああ、あの2人でございますね? 人間のようですが……まぁ大丈夫でしょう。ご一緒にどうぞ」
よ、良かった。
2人も一緒に入れるみたいだ。
というか、この口ぶりからすると先に連絡いってたりするのかな。
多分お母さんの仕業だと思うけど…………まさかこの先の国全部に連絡してないだろうな。
「ティム! ディバイド! 通してもらえるって!」
僕は2人を呼んだ。
2人が集まったところで、門兵の人が門を開けて僕達を通してくれた。
「ロゼ様とその御友人が参られた。ルーザー様の所へご案内してあげてくれ」
「了解した」
外にいた人は中にいた人にそう告げると、再び外へ出て門を閉めた。
今の人が案内してくれるのかと思ったけど、そうしたら門を守る人が居なくなっちゃうのか。
「それではこちらへどうぞ」
新しい人に連れられて、僕らは国内に入ることが出来た。
これが、いわゆる国ってところなんだ。
まだ街並みも何も見えないし、この感じからして僕らが入って来たところは直接お城に繋がっているみたいだった。
それでも感動的というか、感慨深いものがある。
「この道は直接ルーザー様のお城へと繋がっています。昔から魔王様がお忍びで来られることがありましたので、国民からは見えないように直接お城へと繋がるルートを、過去の一将の方が作られたようです」
「はえ〜なるほどですね……」
じゃあお母さんもお忍びで来ていたりしてたのかな。
「間も無く城内に入ります。人間を見慣れていない者が多いために、少々騒つくかもしれませんがご容赦下さい」
そうだよね。
普通こんな所に人間なんて来ないもんね。
僕の場合は人間と魔族のハーフだけど、見た目は人間よりだし。
というかお母さんが人間寄りだし。
「愚弟。なるべく目立った行動は控えるようにしてね」
「おいおいねーちゃん、そんなこと言ったらまるで俺が落ち着きのない奴みたいじゃんかよ」
「そう言ってるのよ」
「マジかよ!! 衝撃的事実だ!!」
そういう所だと思うよ。
うん、本当に。
「こちらになります」
ガチャリと鉄扉を開けた先には、煌びやかな通路が広がっていた。
煌びやかと言っても、僕の家の廊下とさほど変わりはしないけど。
通路では、多くの人が行き交い、通路の両側にある部屋へと出入りしている。
「それではルーザー様の元へ参りましょう」
案内の人を先頭に、僕達は一列になって歩いた。
僕が二番目でティムが三番目、ディバイドが最後だ。
「俺達からしてもこの人達の見た目はスゲー見慣れないよな」
ディバイドが言う通り、皮膚の色が青色であったり、鱗がついていたり、腕が6本あったりなど、およそ見た目が人間とかけ離れている人達ばかりだった。
まぁ僕の場合は先生達が魔族寄りの人達が多かったから特段気にならないけど。
「あれは…………人間か?」
「どうして人間がこんな所に……」
「いや待て、あのお姿は確か…………」
「ロゼ様じゃないか?」
「そーよロゼ様だわ!」
「生誕の儀以来だ……」
「どちらかというと勇者に似ているけど……魔王様の面影もあるわ。お美しい髪色ですこと……」
「カッコいい……」
やっぱり珍しいのはこちらも同じのようで、案内の人が話した通り、みんなが足を止めて僕達の方を見ていた。
というか……少しこそばゆい気持ちになるんだけど。
「ロゼ、モテモテじゃない」
「やめてよ。そんな柄じゃない」
「どの人で童貞捨てるの? それとも私?」
「そんなこと考えないよ! 僕は猿か! というかさらりと自分を選択肢に混ぜるな!」
「だって将来の種馬候補でしょ? 立場的に」
「おいこら」
案内の人に続いて2階3階へと登っていく。
ルーザーさんがいるのは5階のようだ。
そして気付けば階を登るたびに人だかりの数が増えていた。
どうやら既に城中に、僕達が来ていることは広まってしまっているようだった。
「なんだか大事になっちゃったね……」
「申し訳ありません。すぐに散らせます」
「その必要はない」
間も無く5階に辿り着くという所で、階段の頂上に1人の女性が立っていた。
緑色の髪を後ろで一本に束ね、綺麗な顔立ちをしている。
胸元を露出している身軽な軽装で、腰に一本だけ剣を差している。
必要ないと言ったのは彼女のようだった。
「あの人は……?」
「なぜそこに…………。ご紹介します。我らが主人、不死身のルーザー様です」
こ、この人がルーザーさん……。
背高い。
180近くあるんじゃないの……?
というかルーザーさんて女の人だったのか!
ずっと男だと思ってた。
「待ちわびたわよロゼ。こちらへ来なさい」
「ルーザー様…………御子息にそんな言葉遣いを……」
ルーザーさんはそのまま奥へ進んで行ってしまった。
案内の人はハァ……と溜め息をついていた。
結構強気な人なのかな……。
「これより先はロゼ様お一人で入って頂きます。お連れの方は別室にて待機して頂きますのでご了承下さい」
「なぜ? 私達も一緒に……」
「今お会いして分かりますように、ルーザー様は気難しい方に御座います。ルーザー様がロゼ様との一対一の面会をご所望のようですので、申し訳ありませんが……」
「でも……」
「僕なら大丈夫だよ。少しだけ2人で待ってて」
ちょっと話すだけさ。
きっと。
たぶん。
だってお母さんの部下の人なんだし、変なことはされないでしょ。
「じゃあ……私達は向こうで待ってるね」
「せっかくだしゆっくり話してこいよ!」
「うん。また後で」
「あの人の胸が大きいからってイタズラしちゃダメよ」
「いいから早く行きなさい」
余計な一言を言っているティムを追い払った。
2人は近くの部屋へ案内され、僕はルーザーさんが待つ部屋の扉に手を掛けた。
「ふぅ…………行くぞ!」