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ルーザー

「なぁなぁロゼ、あの魔物ってなんだっけ?」


「あれはイッカクトカゲだよ。長く伸びた一本のツノが目印。切れてもまた生えてくるんだって」


「マジかよ、蘇生能力持ちとか反則だよな! 俺も腕が千切れても生えてくるようになりてー!」


「人間やめてるよね、それ」


「愚弟、私達には魔法があるでしょ? 最上位治癒魔法を使えば千切れた腕もくっつくわ」


「姉ちゃん分かってねーなー。千切れた腕が粉々にされたら魔法でも復活できねーだろ? それに、最上位治癒魔法なんて使える人は滅多にいないしな!」


「え? 千切れた腕をくっつける治癒魔法ってみんなが使える初歩的な魔法じゃないの?」


「「え?」」


 あれ…………?


 でも前に僕が転んで擦り傷作った時、お母さんが慌てて治してくれたけど……。

 確かそのとき、最上位治癒魔法とかなんとか言ってたような……。


「おいおいロゼ、いくら箱入り息子だからってその認識はないぜ」


「箱入り息子て」


「ロゼは最上位治癒魔法を使えるの?」


「いや無理だけど……。だから僕に魔術のセンスが無いのかなって思ってるし。お母さんが当たり前のように使ってたから…………」


「「………………」」


 ちょっと。

 二人して、「あーあ、常識が無い人はこれだから」みたいに顔を見合わせるな。

 僕の認識が間違っているのは分かったから、可哀想な目で僕を見るんじゃない。


「あのねロゼ、貴方は身近すぎて分からないのかもしれないけど、貴方のお母さんは魔王で、魔族のトップなのよ。その時点で普通の人ではないことを認識したほうがいいと思う」


「わ、分かってるさそれぐらい」


 そもそも魔術担当のマジコ先生はそんなこと、一言も教えてくれなかったよ。

 どうなってるのさ。


「さ、さぁ、もうすぐカイゾウ王国に着くよ。準備して」


「はーい」



 ーーーーーーーーーーーーーーーー



「ルーザー様、魔王様から通達が届いております。御子息がこちらへ向かっているようなので、宜しくとのことです」


「御子息……。魔王様と勇者の子か……」




 不死身のルーザー。


 彼女・・の生涯戦績の勝率は2割を切っている。

 それほどまでに敗北を経験している。


 なのに、なぜ魔族で魔王の次に最強と呼ばれているのか。

 それは彼女が何度殺され敗北しようが、その都度蘇り、リベンジを果たして強くなってきたからである。


 敗北、挑戦、敗北、挑戦、敗北、挑戦…………。

 彼女の人生はそうやって構築されてきた。

 故に、一度の敗北如き彼女にとって取るに足らないことだった。



 勇者に敗北するまでは。



 ルーザーは心の底から魔王様を敬愛しており、魔王様のためであれば身体を何度切り刻まれようと、何度焼かれようとも厭わない、そんな心持ちであった。


 しかし、敬愛する魔王様を殺そうとしている勇者に敗れたことで、彼女の心には大きな傷がついた。


 今までは自分のために戦い、何度敗れようが最終的に勝てばいいと考えていたからこそ、敗北を気にした事は無かった。

 しかし、今回の戦いでは自分ではなく魔王様が敗れれば終わりの戦い。


 一度でも自分が負ければ勇者は魔王様の元へと進んでしまう。

 そんな大事な局面で勇者に敗れたことで、彼女は自分自身を責めた。


 その後、魔王様と勇者が結婚するという話を聞き、彼女は心底複雑な気分になった。

 私の仲間を殺し、自分の主人を殺そうとした勇者が敬愛する魔王様と家族になる。


 憎しみが心の中で強く渦巻き、魔王様を憎むことこそなかれ、勇者は隙があれば殺してやると考えていた。


 ところが、魔王様と勇者の結婚式に呼ばれたルーザーは、毒気を抜かれてしまった。



(勇者と共にいる魔王様の何たる幸せそうなお顔か)



 一度も見たことが無いほどの魔王様の笑顔姿を見て、ルーザーは勇者を殺そうとするのはやめようと思った。

 もし勇者が死んだら、あの笑顔が損なわれてしまう。

 魔王様の幸せこそが、ルーザーの願い。


 その日を境に、ルーザーは魔王様に近付くのをやめた。

 自分が魔王様の近くにいると必ず良くない考えが浮かんでしまい、魔王様の幸せの邪魔になるのは間違いないだろうと。


 それ以降ルーザーは、魔王様から直接呼ばれない限りは魔王城へと入るのをやめた。



「いかがされますか、ルーザー様」


「来るとしたら裏門からだろう。もし見かけたら連れてこい。話がある」


「御意」


 側近が部屋から出ていった。

 部屋に一人となったルーザーは、笑っていた。


「ふふ、ふふふふふ。遂に…………遂に来た……。愛しき魔王様と憎き勇者の間に産まれた男の子……。生誕の儀に参加して見た時以来ね…………」


 時間が経っても、勇者への感情は変わっていなかった。


 ルーザーの笑い声は、静かに部屋の中に響いていた。

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