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見送り

「行ったか……」


 遠くなっていく息子を眺め、感傷に浸っている俺。

 いつか子離れはしなければならないと思っていたが、物事はいつも唐突である。


「実際のところ、2ヶ月で辿り着くと思うか?」


 トールが聞いた。


「……どうだろうな。俺達はどれぐらいかかったっけ」

「5年半だな」

「おう絶望的だな」


 もちろん人類と魔族が戦争中の間の話である。

 人類の領土内はともかくとして、魔族の領土内を進むのに時間を要するのは当然のことである。



 俺は始まりの国でトールと共に修練を積み、冒険者として世界へ旅立った。


 そのころは勇者などと呼ばれてはおらず、各地の国へ赴いて魔族に困っている人達を助けて回っていただけだった。

 その途中でロカ、シシマル、アリア、リタと出会い、6人編成のパーティを組んで世界を回っているうちに勇者と呼ばれるようになっていた。


 6人で行動していたのに、俺だけが勇者と呼ばれるようになった理由は、主に他の5人が悪い。

 奴らは人助けが終わった後、俺の知らないところで名前を聞かれると毎回、パーティのリーダーであった俺のことを勇者だと紹介していやがったみたいだ。


 それがいつしか世界に浸透し、俺は勇者と呼ばれるようになってしまった。


「まぁ、敵に見つからないように動いていた当時とは違うからな、距離だけで言えば2ヶ月で辿り着くだろう」

「お前も子供達がいなくなって寂しいんじゃないか?」

「バカ言え。お前と一緒にするな」


 俺と一緒たぁどういうことだ。

 俺だって別に寂しくなんて思ってないぜ。

 ちゃんとご飯は食べれるのかなーとか、服の洗濯とかできるのかなーとか、食後はしっかり歯磨きするんだぞーとか、そういう心配しかしてないからな。


「お前の箱入り息子はともかく、うちの子供達は世間に揉まれてきたからな。一緒にいれば安心だ」

「何だてめぇこの野郎!! 結局お前も子供大好きの子煩悩じゃねぇか!!」

「俺は子煩悩じゃない。ティムとディドのことを信頼しているだけだ」

「そんなもん俺だって同じだからな! 俺だってロゼのことを信頼してるからな!」


 子供の事を想う気持ちなら誰にも負けねぇ!


「とにかく2ヶ月だ。期限以内に帰ってこれるかどうかだな」

「まぁ…………万が一の場合のことも考えて、ロゼの荷物の中に救難信号入れておいたから大丈夫だろ」

「お前………………! それを押したらどうなるんだ…………?」

「簡易的な一方通行の転移魔法陣が開かれて、俺かマイナが召喚される」

「そういうところが過保護だって言われるんだろうが!!」

「えっ!? ダメなのか!?」

「当たり前だこのタコ!!」


 だけど魔族にも人間にも俺達のことを敵視している奴らはいるし……もしものことがあったら大変だろぉ?


 困った時ぐらいは大人に頼るのが普通だしよぉ。


「ったく…………というかシシマルは?」

「そういや見てねーな。見送りに来ないわけねーんだけど」

「いやースマンスマン! 遅れた!」


 言ったそばからシシマルがやってきた。

 汗だくで、一本の剣を持ってきていた。


「おせーよ」

「いや〜見てくれよ。ロゼに渡そうと至高の一本を作ったんだぜ? ロゼが旅立つっていうからさ、それからずっとこの剣を作るために鍛冶場に引きこもってーーーーーー」

「もう出発したぞ」

「え?」

「もう出発したぞ」


 シシマルが笑顔のまま固まった。


 この人は昔から時間にルーズなところがある。

 俺達よりも5も歳が上で、筋肉ゴリラであり、天然で、未だに独身だ。


「そんなバカな!!」

「馬鹿はあんただよ」

「剣なら俺が使ってた奴を渡したぞ」

「あ、そう……」

「露骨にガッカリしてる…………」


 シシマルには独身であるのをいいことに、ロゼの剣術担当の先生として仕事を住み込みでしてもらっていた。

 魔族の先生ばかりの中、唯一の人間の先生になる。


 魔族の先生っていうか、ほとんどはマイナの配下にいた幹部達だが……。


「シシマルから見てロゼの剣術はどうよ?」

「ん? あー、うん、まあ、頑張ってるとは思うぜ」

「なんで言葉を濁すんだよ」

「いや別に。悪くはないんだが……マイナさんとラプラスの子供という目で見れば……物足りないな。マルティムとディバイドの方が上だと思うぜ」


 トールが誇らしげの顔を見せてくる。

 腹立つ。


「ポテンシャルは一番なんだよ!!」

「そうだな。何かのキッカケがあれば……」


 その時、正面玄関の扉が音を立てて勢いよく開いた。


「ロゼー!! 私のロゼー!!」

「だ、ダメだ!! 取り押さえられねぇ!!」

「魔王様落ち着いて!!」


 マイナが従者や先生を大量に引きづりながら出てきた。


 ロゼが言っていた収拾が付かなくなるというのはこのことか。


「ああっ……! 行ってしまった……! 私の可愛いロゼが行ってしまった……!!」

「よし!! お坊ちゃんが出るまで時間稼ぎができたみたいだ!!」

「「「やったぜ!!」」」

「あんたら………………覚悟は出来てるんでしょうね」


 空気が震え、マイナの身体の周りに電流や炎が散り始めた。


 ブチ切れてる時のやつだ。


「う……うわあああああああ!!」

「や、やべぇ!」

「逃げろ!」

「あっ! ラプラス殿! なんとかしてください!」


 こっちにぶん投げてきやがった。

 従者なんだから自分達でなんとかしてもらいたいものだが。


「魔王ヤバイな……。ほら行ってこいよ勇者」

「けっ、うるせーよ……ったく」


 俺はブチギレ寸前のマイナの方へと歩いていった。

 そもそもこれのどこが怖いのか分からん。

 怒ってるマイナもめちゃくちゃ可愛いじゃないか。


「マイナ」

「あ……アナタ……」

「ロゼは行っちまったけどよ、まだ俺がいるじゃねぇか。そんなに悲しむなよな」

「うう…………アナタぁ……うえーん」

「おおよしよし」


 少女のように泣くマイナを抱き締めて、頭を撫でた。


「応援してやろうぜ、俺達の息子をさ」

「…………うん。そうね」


 落ち着いたマイナの姿を見て、周りの従者達のホッとした声が聞こえた。


 頑張れロゼ。

 力の限り頑張れ。

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