親孝行
「一体何が気に入らないっていうんだ、ロゼ」
「そういうところだよ!」
録画鑑賞なんてしてるからじゃん。
僕を悶死させる気か?
「でも息子の成長記録は改めて見るために撮ってあるんだぞ?」
「よしんばそうだとしても、今じゃないでしょ」
「私は24時間常に見ていられるわよ?」
「お母さんは少し黙ってて」
…………いやちょっと。
一々僕の言った言葉に凹まないでよ。
罪悪感感じちゃうじゃんか。
「僕の話をまず聞いて欲しいんだ」
「そうだな。話が脱線してしまったからな」
「誰のせいで…………まぁいいや。それでね2人とも、大切な話というのが、僕は…………」
「「断る!!」」
「まだ何も言ってないんだけど!!!」
「そんなロゼ一人で旅なんて危なくて行かせられないわ!」
「何で何も言ってないのに一人旅って分かってるんだよ!」
「親っつーのはな、子供のことならエスパーにだってなれるんだよ」
もう凄さ通り越して恐怖だよ。
親じゃなくてストーカーと同じ思考回路だよ。
というか断るってなんでだ!
「何でダメなのさ?」
「そりゃお前、外の世界には恐ろしいものがたくさんあるからな」
「そうよ。ロゼみたいに可愛い子が外を歩いていたらきっと、変態な大人が連れ去ってしまうわ」
「そんなのいないでしょ……」
「私だったら連れ去るもの」
「それお母さんが変態ってことじゃない!?」
マジでストーカーと同じ思考回路じゃん!
「そもそも、何でロゼは一人で旅に出ようなんて思ったんだ?」
「それは…………」
理由はとてつもなく簡単なものだ。
僕は生まれてからこのかた、自分の家の敷地内から外に出た事がない。
というのも、見ての通り両親が大のつくほどの過保護というのもあるけど、そもそも僕の家の敷地が山3つ分あるんだ。
『ここは元々魔王様の居城ですからね。これだけ広いのは当然です。もっと広く言うとするなら、魔国の領土全てが家みたいなものですよ』
スカル先生は前にそう言っていた。
つまりここはお母さんが住んでいたところで、わざわざ外に出る必要もないほど広大な土地があるんだ。
勉強も武術も、お母さんやお父さんの知り合いの人が家にやってきて教えてもらっていた。
だから学校とかいうのにも行く必要は無かったし、僕も行く必要があるとは思わなかった。
でも最近になって、先生達に外の世界の事を聞いたら興味が出てきた。
それに、このまま二人にベッタリしていたら、いずれ僕はダメになる。
勇者と魔王の息子が引きこもりなんて、考えられなくない?
だから僕は、独り立ちする意味でも旅立つ事を選んだんだ。
だけどこの二人に説明するのに、中途半端な答えじゃすぐにNOを出されるだけだ。
というか既に一回出されてるし。
この二人を説得するためには何と答えればいいか……。
「僕は…………」
「うん?」
「僕は…………外の世界で見聞を広めて、二人に親孝行したいんだ!!」
「さすが俺の息子だぁ!!」
お父さんに肩を引き寄せられて抱きしめられた。
お母さんは感激のあまり泣いている。
…………ねぇ二人とも。
僕の顔、真顔だよ。
「自ら親孝行したいだなんて…………なんて出来た息子なんだ……!」
「ホントね……! 反抗期? いいえ、これが成長というやつなのね……!」
チョロい。
チョロ過ぎるよ。
世界とも戦える二人がこの調子じゃ、息子として心配になるよ。
「そういうことなら、認めないわけにはいかないな。ロゼの頼みを断るわけにもいかないしな!」
「いや、さっき断ってた……」
「そうと決まったら準備しましょ! まずは八連魔将に護衛に付くよう指示させて……」
「え?」
「俺も王国に連絡を取って私兵を300人ほど寄越すように頼んでみよう。シシマルの奴もまだ独身だし、暇ならロゼに付いていってもらうよう頼んで……」
「な、何してんの二人とも!?」
「何って……ロゼが危険な目に合わないように護衛を…………」
「一人旅って言ってなかったっけ僕!?」
全然人の話聞いてないじゃん!!