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崇拝

 扉を開け、中に入った僕は部屋の中を見渡した。


 長方形のような形で奥行きが広い部屋で、最奥にルーザーさんが座っており、その正面には僕が座るための椅子が用意されていた。


 思ったより質素。

 それ以外特に何もない部屋。


 ただ、ルーザーさんの横側に扉があることから、さらに奥にもう一つ部屋があるのだろう。

 恐らくは私室だと思う。


「こちらへ来なさい」


 僕はルーザーさんに促されるまま、ゆっくりと席に近づいた。

 恐る恐るって表現が正しいのかな。


「座りなさい」


 言われるがまま座った。

 この緊迫した空気は何だろう。

 重苦しいよう。


「ロゼ=マグナート……。魔王様と勇者ラプラスの間に産まれた子……」


「は、はい」


「見た目はクソ勇者にソックリだ」


 クソ勇者って。

 やっぱりお父さんのこと恨んでるんだ。

 だから僕も恨まれてるんだ。


「だが……金色の目。それに、人を陶酔させるような雰囲気は……魔王様そのもの」


「目は……そうですね、よく言われます。雰囲気はよく分からないですけど、お母さんと似てるって言われて悪い気はしません」


「私は、貴方の父親であるラプラスと命を懸けた死闘を繰り広げたわ」


 …………みたいですね。

 歴史学で学びました。

 魔族にとって最後の砦であるルーザーさんは、お父さんをお母さんの元へ行かせまいとして戦い、負けたんだと。


「私は奴に負け、魔王様の元へと奴を通してしまった。それだけじゃなく、奴は私の仲間達を多く殺した。それは今でも忘れることはない」


「………………」


「だが、愛すべき魔王様はそんな勇者と結婚し、幸せな家庭を築いている。ならば私はそれを祝福して差し上げることこそ、本物の忠義心と言えるのではないだろうか」


「……つまりルーザーさんは、今はもうお父さんの事を恨んではいないということですか?」


「違う。勇者の恨みが消えることはない。だが……魔王様の望んでいないことをするわけにはいかないということよ。こちらから勇者を攻撃するような真似はしないわ」


 なーんだ良かった。

 ルーザーさんてどんな人かと思ったけど、結構話の通じる人じゃないか。


「ただ一つ、問題点がある」


「問題点、ですか?」


「そう。魔王様が勇者と結婚したことにより…………私が魔王様から寵愛を受ける機会が無くなったということよ」


 ん?

 寵愛?


 部下として可愛がってもらってたってことかな?


 確かに僕の家にルーザーさんが来たことはないし、お母さんがルーザーさんの話をすることもあまりない。


「構ってもらえなくなったってことですか? だとしたらルーザーさんも結構可愛いところあるんですね」


「そうね……。勇者と結婚してからは魔王様、私にムチを打つことも無くなったし、華奢で綺麗な御み足で踏んでくれることもなくなったわ」


 おっと。

 急にどうした。


「人間達と争っていた頃なんて、何か少し気に食わないことがあれば私の腕を切り落とすことも普通だったのに…………あぁ! 思い出しただけで興奮してきちゃう……!!」


「ちょっとルーザーさん? 何で息を荒げてるんですか? 腕を切り落とすって何」


「ふふふ…………。私は不死の体を持っているから直ぐに再生するのさ。故に『不死身のルーザー』と呼ばれているのよ」


「へ〜そうなんだぁ…………じゃないよ!! つまりお母さんは常習的にルーザーさんを傷つけていたってこと!?」


「傷つけていたなんて人聞きの悪い。あれは魔王様なりの愛情表現よ。魔王様の一撃一撃が私の子宮にまで響いて…………ハァ……ハァ……」


「まずは息を整えましょうか」


 わあああああああ!!!

 やべえええええええええ!!!

 とんでもない変態だよこの人!!

 再生いう本来であれば驚くべき情報が霞む!!


「えっと…………とりあえず、ルーザーさんのお母さんに対する忠誠心は伝わりました」


「そ、そうか……。しかし、勇者と結婚してからの18年間、私は一度も魔王様からの寵愛を受けていない……。自分から魔王様のお城に出向き、自らムチを求めるのも臣下として恥ずべき行為…………」


「そもそもムチで叩かれること自体が恥ずべき行為であることに気付いて下さい」


「かといってこのまま放置されては私の我慢も限界。そうして悶々と過ごしていた私の所に、愛すべき魔王様の息子が来るというじゃないか! 見た目こそ勇者に似ているが、その雰囲気は確かに魔王様そのもの!」


 嫌な予感しかしない。


「さぁロゼ! いや、ロゼ様! 卑しい私めを存分に虐め抜いて下さい!!」


「嫌だよ!!」


 僕が何かされるんじゃなくて、僕が何かするのかよ。

 部屋に入る前の心配を返せ。


「何故です!? 魔王様の息子であるロゼ様なら、私はロゼ様の臣下も同然! あ、私の体を気遣ってくれているのですか? だとしたら問題ありません! 先程申しました通り私は不死身ですので、ほら、ご覧の通り。腕を千切っても問題ありません!」


「ぎゃあああああああ!! 何してんの!? 何してんの!? 血出てるけど!! とめどなく出てるけど!!」


 目の前でルーザーさんが自分の右腕を引きちぎった。


 血を吹き出しながら笑顔って恐怖以外の何者でもないよ!


「やはり自分でやっても気持ち良くない…………。やはりロゼ様が!!」


「やらないよこの変態!!」


「くぅぅん……!」


「…………何で今感じたこの人」


「こ……言葉責めとは流石ですね……! 魔王様は肉体的な責めを好まれていましたが……ロゼ様は精神的苦痛を与えるのがお好みのようで……」


「好んでねーわ!!」


 何だよこの人無敵か?

 あ、不死身だったわ。

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