608剣がユーキを選んでしまった…(ウイリアム視点)
それは突然だった。向こうにいるマシロの声が、急に慌てたものに変わり。結界から少し離れて剣を持っていた私は、それをしっかりとは聞き取れなかったのだが、何かが現れた、戻って来た?というような事を言っていたように思う。
そしてマシロが慌て始めたほぼ同時に、エシェット達も結界を睨み、そしてルトブルがボソッと、『間に合わない』と。どうも向こうに、あの黒服達が現れたようで、マシロ達の話から、もう少し余裕があると思っていたのだが、凄い速さでユーキ達の方へ向かって来ているようだ。
そしてそれ以外にもほぼ同時に、私達の方でも変化が起きた。私の持っていた剣が、再び激しく光り始めたのだ。
私がここへ着いてどのくらい経ったのか。エシェット達が剣を使い、結界に穴を開けたり、切って隙間を作っていると、突然エシェットが集中して1カ所穴を開け始め。
そしてその穴からマシロの声が聞こえた時は、本当にビックリしたと共に、ユーキが無事だという事も聞き。まだ結界からは出られていなかったが、それでもかなりホッとした。
この時剣は、私の所へオルガノ殿が持ってきた時よりも、かなり落ち着いていて。相変わらず光を放っているものの、もうすぐ消えるのではないか? と思うほどになっていた。
そしてそれはユーキ達が来ても変わらず。このまま光が消えて、やはり剣に選ばれたのはユーキではなかったと、そうなれば良いと思っていたのだが。
それが黒服達が現れたと話しを聞いた瞬間、激しく輝き出したのだ。エシェットがマシロに結界に開けた穴から、もしかすると剣がユーキの方へ行くかもしれない。そう伝えている間に穴は閉まってしまい。
すぐにエシェットは再び穴を開けようとしたが、今までのようにそれができなくなってしまった。どうやらさらに黒服が、結界を強化したらしい。
それからも何とかユーキを助けようと、エシェット達は剣を使うが、傷1つつかない。そして私の持っている剣は、さらにその光を増し。そしてこれ以上目を開けているのは限界だとなった時だった。
さらに光を強めた剣に、結局見ている事は出来ず目を瞑ると。次の瞬間、今まで手にあった剣の感覚がスッと消え、重さも感じなくなった。そして目を閉じていても眩しかった光の感覚も消え。
『向こうへ行ったようだ』
エシェットの声で目を開ける。手を見れば私はもう剣を持っておらず、エシェットの方を見れば、剣はユーキの方へ移動したと。それだけ言うと、すぐにまた結界を切り始めるエシェット達。
私は再び目を閉じた。ああ、本当にあのまま光が消えてくれていたら。エシェット達が破れない結界を、私が破ることなどできないだろうが、それでも私が何とかできていれば。ユーキの元へ、剣は行かなかったかもしれない。
これはもう、確実だろう。剣はユーキを選んだ。選んでしまった。
『まだこれからであろう。そんな顔をするんじゃない』
エシェットに言われてパッ!と目を開ける。
『今回の事で剣が目覚めたのか、他にも何か問題が起きていて剣が目覚めたのか。まだ分からぬだろう。たまたま何かに反応し、それと今回の事件が重なり、ユーキの元へ来たのかも知れぬ』
話しを続けるエシェット。もし今回の事で剣が目覚めたのならば、さっさとこれを解決してしまえば問題はなくなる。
もし他の事で目覚めたのならば、それが何かは分からないが。まだ我々が気づいていないほど小さな問題ならば、それが大きな問題にならぬよう気をつければ良い。
『どちらにしろ、ユーキが1人で剣を使う事はできん。何か起きても今のユーキではな。我々が手伝えば別だが。だからユーキを守るために、剣を使わせなくとも良いように、我々がしっかりしなければ。お前もそんな顔をしていないで、しっかりしないか。…しかし面倒な結界だな。奴らの近づいてくる感じがする。早く結界を破らなければ』
エシェットの話しを聞き、私はパンッ!!と頬を叩き気合を入れた。そうだ、エシェットの言う通りだ。私がしっかりしなければ。
私は自分の剣をとり、エシェットが持ってきてくれた石がしっかりと着いている事を確認すると、ルトブルの隣で一緒に剣を振り始める。エシェットがフッと笑ったのが見えた。
そして私も一緒に剣を振り始めてどれくらい経ったのか。突然エシェットが結界から離れろと言い、慌てて離れると。エシェットが切っていた辺りに、いきなり何かが向こう側から結界に突き刺さった。そしてそこからヒビが入り。何だと確かめると、それは剣の先で。
『これをやったのはユーキだ。これはあの剣だ』
は? これをユーキがやった? だが1人ではあの剣を持てないはずだ。ハロルドかアンドレアスと一緒にやったのか? そんな事を思っていると更に、今までどうする事も出来ずにいた結界に、物凄い勢いでヒビが入り。
それは一部だけではなく、向こうの方まで続き、もしかしたら全体的にヒビが入ったのではないかと言うくらいで。
これが剣の力なのか? そんな事を思っていると、今度は剣の先が抜け、それと同時に、その横に大きな穴が開いた。そして…。
一気に結界が崩れ始めた。窓が割れるように、パリンッ! バリンッ!と、剣で開けた穴と、横にできた穴から外側へ、どんどん崩れ始めたのだ。
そして結界が崩れた向こう側を見れば、そこには。地面に刺さっている剣の後ろに、ユーキ達の姿が。ああ、良かった。これでユーキを助ける事ができる。そう安堵したのだが。思わず私はユーキ達を見入ってしまった。
何故そんな格好をしている? 今、この状況で何故? ユーキやディル達の頭にはウサギの耳?のような物が付いていて、お尻にもしっぽのような物が。挙句頬と顎にまでモコモコした物が付いていた。向こうを見れば、ハロルドまで似たような格好をしているではないか。
何故? 考える私に、ユーキの元気な声が聞こえると、皆が一気に動き始めた。




