455何故こうも問題が起きるのか(アシェル視点)
アンソニー様とジョシュア様に付いて来ていた私は、突然のフィオレート様の言葉に動きを止めました。
「アンソニー、ジョシュア、依頼は中止です。アシェル、君は勝手にリリースにつかまってきてくださいね。行きますよ!」
リリースがアンソニー様方を掴み、私は言われた通りすぐに足につかまると、リリースは一気に上空へ。そして森の奥へと向かって飛び始めた。
何処まで行くのかと、何故急に森の奥へ? と考えているうちに、アンソニー様方のお力では、行ってはいけない境界線を過ぎてしまい、だからといって今止める訳にもいかずに、そのまま運ばれるままになってしまいました。
そして見えてきたのは、ユーキ様のご友人のアースとストーンでした。何故ここに? アース達のレベルの魔獣が、街に来たユーキ様の気配に気づかないはずがないのに。ユーキ様方がいらっしゃる子供の森に行かなかったのか?
「やはり…。こんな獲物が居るなど、なんて運が良いんでしょう」
アース達を確認したときだった、フィオレート様の声が。まさか目的はアースたちか。そういえばこの方は、強い魔獣と戦う事が趣味だったな。
戦うというかゲームで遊ぶ感覚で、強い魔獣を見つけると、どれだけ怪我をしようと、負けて逃げることになろうとも、帰って来たときには何時も物凄い笑顔で、オリビア様に怒られていたな。
そうか。おそらくご自身でも何となく気配は感じておられたのだろうが、私達が依頼で森の奥へ進んだことによって、リリースがはっきりとアースたちの気配を感じ取ったのだろう。良いおもちゃが見つかったと、アンソニー様方の依頼を中止して、アース達が居なくならないうちに急いで飛んできたのか。
そのままアース達の前に降りるリリース。アンソニー様方は草が生い茂っている場所に投げ下ろされ、私は自分からアンソニー様の隣に着地しました。そしてアース達の方を見れば、すでに戦闘を開始したフィオレート様とリリースが。
フィオレート様とリリース。アースとストーン。普通に考えれば人と、いくら強いとは言えグリフォンが、アース達にかなうとは思えない。が、生憎とフィオレート様とリリースは普通ではないですからね。最初の攻撃と、次の攻撃だけで、まわりの木々は一瞬で何本も倒れ、地面には穴が複数空き。
このまま森を破壊し続ければ、レシーナ様方に何と文句を言われるか。勿論、魔獣達と人が楽しく過ごせるように、そしてお互いが力を試すことを良しと思っている、この森をお創りになられたレシーナ様方です。戦い森が破壊されたら、すぐに直せばいいと思っていつもなら放っておくでしょう。だが、このまま森が破壊され続ければ。
そしてもう1つ。こちらはもっと問題です。アース達がもし怪我をしてしまったら? そしてそのままユーキ様に会いに行けば、ユーキ様はアース達の怪我を見て悲しむことに。そんな事などあってはならない。どうにか皆を止めなければ。
さて、どう止めるか。アース達も普段だったらすぐに私達に気づいただろうが、突然のフィオレート様の登場と、強力な攻撃に、私達の存在に気づいていない。
「どうしようか。怪我でもして、そのままユーキに会ったりしたら、ユーキ絶対悲しむよ。それかとっても怒るか」
横を見ると、アンソニー様が服の汚れを叩きながら、やはりフィオレート様方を止める方法を考えておられるようで。
私があの戦いの間に入っていっても、止められるかどうか。さすがの私でも、それは無理に等しい。
と、ここでジョシュア様が。
「ユーキが大人の森に居るって言えば、止まるんじゃないか?」
「え?」
アンソニー様が何を言っているんだ、という表情でジョシュア様を見る。
「あんなにお互い興奮してたら、そう簡単に止められないし、アース達は俺達が居るけど、周りの気配を感じてる場合じゃないだろうし。だからユーキのことが気に入ってるアース達、ユーキのことに興味津々なおじさんに、ユーキが居るって言えば、何でここに居るんだって、思わず止まるんじゃないか?」
そしてアンソニー様も私も答える間もなく。
「あれ? ユーキ!! 何でここに居るんだ? ここは大人の森だぞ!!」
わざとらしく叫ぶジョシュア様。それで止まればどんなに楽か。が、ジョシュア様の言葉を聞いてアース達は動きを止め、同じタイミングでフィオレート様も止まり、フィオレート様が止まったのを見たリリースも攻撃を止めた。
まさか本当に戦いを止めてしまうとは。
私はため息をつきそうになりながら、フィオレート様方の間に。
「皆様、このままではあなた方の大切なユーキ様が、悲しまれることになるかもしれません。お互い戦うのは止めていただき、私の話を聞いていただけますでしょうか」
『アシェルか!? それに…気づくのが遅れたがこの気配、アンソニーとジョシュアか!』
アース達が首を伸ばしアンソニー様方の方を見る。
「どういう事ですか? 何故名前を知っているんでしょう?」
「今からお話いたしますから」
私がアンソニー様方に頷くと、こちらに向って歩いて来て、それぞれが一定の距離を置き離れてその場に座わる。
ふう、これでひとまずは安心です。が、話をする前に、何はともあれ先ずはフィオレート様にご注意もうし上げなければ。
「フィオレート様、アンソニー様方をあのようにお運びするのはどうかと」
「フィオレートおじさん、移動するときは言ってください!」
「うえっ、ちょっと酔っちゃったぜ」
「すまない、久しぶりの大物だと思ったからね。でもこの様子、まさか彼らもユーキの友達だったとは。本当にあの子は面白いね」
『おいアンソニー、この男は誰だ?』
こうして私はフィオレート様とユーキ様の関係、アース達とユーキ様の関係を、皆様に話すことに。アンソニー様方がこんな危険な範囲に居るのは心配でしたが、話の最中、そして終わって森から抜ける時まで、魔獣達は1匹も姿を現すことはなかった。
これは後からアース達に聞いたのですが、あの戦いで強い魔獣達はすべて、被害を受けないように周りから避難してしまったのだと。
もしかしたらこれから、フィオレート様が大人の森に居る時は勿論、子供の森にいたとしても、森、街から完全にフィオレート様の気配が消えるまでは、出てこないかもしれないとのことだった。




