37いよいよお外へ!
足音が近づいて来ます。僕はマシロに乗っかって、マシロがしっぽで支えてくれます。他の皆んなも、自分達の場所で、準備万端です。
「マシロ、ぜったいおうち、かえるでしゅよ。ぼく、がんばりましゅ。」
「我が必ず連れて帰る。絶対主を離したりしない。だから安心して我に乗っかっていろ。」
「はいでしゅ!」
足音がドアの前で止まりました。僕はドキドキです。でも僕、皆んなの事信じてるから大丈夫です。絶対お外出られます。
ドアが開いて男の人達が入ってきます。リュカがサッと、お部屋の外へ。男の人達が全員お部屋に入るのを待ちます。
「ん?お前ら何やってんだ。おいガキさっさとそいつから下りろ。」
全員が僕達の方に来たから、ドアの所に誰も居なくなりました。マシロが頷きます。僕は目を瞑ってマシロの毛に顔を埋めました。そして…。
「わああああ!な、何だこの光は!!」「目が、目が見えねえ、どうなってんだ!」
「イタッ、誰よ足踏んだの!?」
「まさかアイツら、魔力使ったんじゃ!」
「まさか、そんな訳あるか、部屋の中じゃ使った途端に部屋が吹っ飛ぶ!くそ、ほんとに何も見えねえ!」
「でも、外からの光だったら!」
目瞑ってるから声しか聞こえないけど、成功したみたい?です。騒ぐ声が聞こえます。マシロが小さい声で、
「主、行くぞ。しっかり掴まれ。」
そう言いました。僕はしっかり掴まります。マシロが動くのが分かったけど、僕は良いって言われるまで、目を瞑ったまんまです。右のポケットが動くのがわかりました。きっとリュカが僕のポケットに入ったんだね。
「マシロ!ぼくポケットに入ったよ。行って!」
リュカの声です。やっぱりリュカだ。良かった。ちゃんと皆んなで考えた通りに出来てるみたいです。
「よし、面倒くさい!壁と屋根を壊して外へ出るぞ!」
ドガッ、バリッ、ってすごい音してる。多分マシロが壁壊してる音。あと少しだって言うマシロの声と同じくらいに、男の人達の声が聞こえました。
「くそ、どこ行きやがった!探せ!」
「こっちの壁、穴が空いてるわ!」
「まだ目が慣れねえ!」
もう追いかけて来たみたいです。マシロのスピードが速くなった気がするよ。
「マシロ、1人こっちに来ちゃった!」
「大丈夫だ、もう魔力が使える。主、どんな声を聞いても、目を開けるな。閉じていろ!」
「はいでしゅ!」
マシロが止まった気がしました。男の人の声が聞こえます。見つけたぞって、すごく怒ってる。ガキを殺してやるって。ガキって僕のことだよね。怖いよマシロ!
僕がギュッと目を瞑ったときでした。
「ぎゃああああああ!!」
男の人の悲鳴が聞こえました。とてもとても大きい悲鳴です。その後に女の人の悲鳴も聞こえました。
「きゃあああ!アイツの、アイツの上半身何処なのよ!!」
女の人の悲鳴の後、他の人達の声も聞こえたけど皆んな、わあああとか、いやあああとか叫んでました。マシロが今のうちに行くぞって、また走り出したのが分かりました。あの人達どうしたのかな?でも、こっちに来てないみたいだから、逃げるなら今のうちだね。もう1度ドガッ!って音がして、そしてついに…。
「外に出たぞ!主もう少しだけ目を瞑っていてくれ!」
「はいでしゅ!」
お外に出た僕達。お外の匂いがする。本当にお外に出れたんだ。まずは、シルフィーの言ってた、優しいおじさんの所に行かなくちゃね。
「この気配は!」
マシロが何かに気付いて、少しスピードが遅くなったみたい。どうしたの?逃げないの?
「くそ、予定より早く戻ったのか!絶対に姿が見えない所まで一気に行くしかない。だが、早く走れば主の体が…。」
「マシロ…。」
マシロの声が慌ててる。ギュッとマシロにしがみつきます。逃げられるよね。大丈夫だよね?その時シルフィーが、マシロに言いました。
「マシロ、僕、みんな色変えられる。」
「本当か!」
「うん。今から変える。アイツ見えなくなる。そしたら逃げられる?」
「ああ!もちろんだ。」
「あの黒服嫌い、ユーキ助ける。でも力使いすぎる。寝ちゃうから案内出来ない。いい、今の方向にまっすぐ飛んで。ディル、逃げられたら僕、回復して。そしたら起きるから。」
シルフィーの話から、近くに黒服の人がいるんだって分かったよ。何でもうここに居るの?シルフィー力使いすぎたらダメだよ。危ないよ。
そう言いたいのに言葉が出ないよ。皆んな僕の大切な友達なのに、僕何も出来ない。何も…。
「…。主。力を貸して欲しい。」
マシロの言葉に、僕はそっと目を開けました。ほんとは目を開けちゃダメだけど、今は良い気がする。マシロはずっと前を向いたまま、静かにお話始めました。
「主にしか出来ないことだ。だが、主はそのせいで具合が悪くなるかもしれない。それでも我らに力を貸してもらいたい。」
「ぼくにしか、できましぇんか?ぼくおてちゅだい、できましゅか?やるでしゅ!おてちゅだいしましゅ!どうしゅればいいでしゅか?」
「主、ありがとう。」
皆んな僕のために、頑張ってくれてるんだもん。僕だって皆んなのために頑張るよ!
マシロが簡単に説明してくれました。今からマシロが僕に魔力を流すんだって。そしたら体が暖かくなるから、それをもっと暖かくなれって、思って欲しいんだって。そしたらその暖かいものが、皆んなの力になるんだって。うん。それなら僕にも出来そう。
黒服の人、もうすぐここに来ちゃうから、すぐにお手伝い開始です。
マシロが言った通り、何したか分からないけど、体が暖かくなりました。初めて魔力石持った時みたいに。僕は暖かくなれえ、っていっぱいいっぱい思ったよ。そしたらとっても暖かくなって。
「力、来た。これなら皆んな一瞬で変えられる。行くよ。」
シルフィーが光ると、皆んなの体とか全部が、森の葉っぱとか木とかの色に変わって、僕にも良く分かんなくなっちゃった。そして。
「うん。成功。僕…、寝るね…。」
「ああ、我も力をもらった。これなら攻撃されても主を守ったまま戦える!行くぞ!」
あれ、マシロの声聞こえたけど、何か僕も眠くなっちゃった。それになんか気持ち悪い…。僕はそのまま、マシロの上に、倒れちゃった。覚えてたのはそこまで。
<マシロ視点>
魔力を使い過ぎ、気を失ってしまった主をしっぽで支えて、落とさないように気を付けながら、木々の間を走る。
「何処へ行ったああああああ!!にがさんぞおおおおおお!!」
あの黒服の声だ。しかし我々の姿は主とシルフィーのおかげで見えていないらしい。全然別の方向を攻撃している。今のうちだ。
「マシロ、もっと離れてあいつの気配が消えたら、ぼく周り明るくして、走りやすくするね。」
「頼む。」
「オレは、ユーキとシルフィー回復するぞ。」
「先に主の回復を。だが最低限の回復でいい。そしてシルフィーは出来るだけ回復させてくれ。」
「でもユーキは…。」
ディルに説明する。シルフィーを起こして案内させなければ、主を休ませる所にたどり着くことが出来ない。さっきわけて貰った主の魔力があれば、シルフィーを回復した後でも、十分に回復させる事が出来る。主には申し訳無いが、安全な場所を確保するのも大切な事だ。
我の説明に、ディルは渋々了解した。
黒服の気配が消えるまで走る。気配が消えても十分な距離まで走り続ける。そして…。
「ここまで来れば大丈夫であろう。よしリュカ明かりを頼む。ディル、回復だ。」
「任せて!」
「おし、やるぞ!」
我々はどうにか、あの場所から逃げることに成功した。




