256男の人魚の本当の思い
みんな静かになって、ルトブルが怒ったままお話します。
「なぜユーキをここへ連れてきた。お前は、お前達はそんな事をする者達ではなかったはずだ」
ハッて男の人魚さんがお椅子から立ちました。それから女の人魚さんに慌ててお話します。
「彼が街に居たんだ。まさかとは思ったがさっきその姿も確認した。見間違うはずがない。彼が今ここに居るんだ」
「どういう事ですのお兄様」
「彼があのアスピドケロンなんだ!」
「!!」
女の人魚さんがとっても驚いたお顔しました。それで何かお話しようとしたとき、ルトブルがまた怒りました。
「なぜ連れて来たと聞いている。返答次第ではこの国を消し去るぞ」
「………それをすればその子供はし」
お兄ちゃんが僕のお耳塞ぎました。シーラお姉ちゃん達が僕達の前に立って、人魚さんを威嚇してます。どうしたの? し? 何て言ってたの?
「お兄様まさか!? アスピドケロン様全てお話いたします。ですがその前にその小さなお客様を、お部屋にお連れしたいのですがいかがでしょうか。大切なお客様としておもてなしいたします。どうか」
少し黙ってたルトブルが頷いて、お兄ちゃんがお耳からお手て離して、これから休憩のお部屋に行くって言いました。女の人魚さんがお手て叩いたら、お爺さんがお部屋に入って来て、女の人魚さんと一緒に歩き始めます。ついて来てって言われて、僕達はそれについて行きました。
来た時は人魚さんいっぱい居たのに今は全然居ません。普通の人ばっかり。僕が人魚さん探してたら、女の人魚さんがお名前教えてくれました。
「私の名前はアイリーンです。この度は兄が大変な事を。後ほどゆっくりお詫びに伺います。ですがその前に少しお休みください。ですが…アスピドケロン様は先にお話なさいますよね」
「勿論だ」
名前アイリーンさんでした。連れて行ってくれたお部屋は、お家の僕のお部屋と同じくらいのお部屋でした。でもお部屋の中お水でグショグショです。そしたらアイリーンさんがお部屋の真ん中に立って魔法使いました。キラキラした魔法です。何の魔法かな? お部屋アイリーンさんの魔法ですぐに乾いちゃいました。
お兄ちゃんがお椅子に座って僕はお膝抱っこです。う~ん。なんか違う感じがします。お父さんとなんか違うの。お父さんのお膝抱っこはお膝で寄りかかって丸くなれる感じ。でもお兄ちゃんは座るだけ? う~ん。
ルトブルが絶対に部屋から出るなって言って、アイリーンさんとお部屋から出て行きます。出ていくとき別の女の人が入って来て、ジュース持って来てくれました。ルトブルジュースの入ってるコップすんすん匂い嗅いで大丈夫って言いました。それから1度僕達の方に戻ってきて、お兄ちゃんに木の実くれました。それからお兄ちゃんにこっそりお話です。
「いいか。飲んだり食べたりする前に、この木の実の種をつけろ。赤くなったら絶対に口にするな」
「…分かった」
何お話してるか聞こえなかったけど、すぐにルトブル出て行っちゃいました。
それからお爺さんが名前教えてくれて、お名前はイルンさんです。イルンさんが僕達のお部屋の用意とかしてくれるって。準備があるからってお部屋から出て行きました。
僕ジュース全部飲んでお兄ちゃんのお膝の上で足ブラブラです。シーラお姉ちゃん達はお部屋の中グルグル歩いていろいろ見てました。
少ししてイルンさんが戻ってきて、ボールとかお絵かきの道具とか、いろいろ持って来てくれました。
ボールねとっても面白いの。ふわって浮かんだり、ボヨョョョョンって変な形になったり、シャボン玉みたいなボールです。
それからお絵描きの道具も僕の持ってるのと違います。石?で出来てる板に、いろいろな色の貝で絵を描くの。描いた絵はお水つけるとすぐ消えちゃいます。
シーラお姉ちゃん達がルトブル戻ってくるまで、一緒に遊んでくれるって。ルトブル早く帰って来ないかなぁ。僕みんな一緒が良いです。バラバラはダメダメです。それにマシロ達やお父さんやお母さんの所に早く帰りたいなぁ。
(ルトブル視点)
話を聞きに奴の居る王の間まで行こうとすれば、アイリーンが別の部屋で待っているからと、ユーキ達が居る部屋の近くの部屋へと移動した。
中に入ると奴が立ち上がりその隣にアイリーンが立ち、2人で頭を下げて来た。
「アスピドケロン様、この度は兄が大変失礼なことを。何とお詫びをしたらいいか」
「手荒な真似をして申し訳ない。まさか貴方がここに居るとは」
「我をアスピドケロンと呼ぶのはやめろ。我にはユーキから貰った大切な名前がある。ルトブルだ。今からはそう呼べ。良いな。それに謝罪は我よりもユーキにしろ。まずはなぜこんなことをしたのか全て話せ。それから先程お前が言いかけた死ぬと言ったことも全てだ」
「勿論です。俺は、俺達はルトブル様に助けていただいてから、何百年とかけ、ここに俺達の国を築いてきました。今回のことはそれに関係しているのです」
そう我はこの者達のことを知っている。この男の名前はアルマンド。2人に初めて会ったのは数百年前か? 彼らがまだ子供の頃だった。あれからどうしたかと思っていたが、まさかこんな事で再会するとは。
「ではまず、あの子供のことについてですが」
「ユーキだ。それから呼び捨てはやめろ」
「はい。先程ルトブル様がこの国を消し去るとユーキ様が死ぬと言ったのは、結界を張る前に、俺が従属の鎖の魔法を使ったからです」
我はそれを聞いた途端、アルマンドを殴り飛ばしていた。奴は吹っ飛び壁に当たると膝をついた。アイリーンはそんな奴を助け起こすことなく、静かに立ったままだ。しかしその表情はとても怖く、オリビアが怒っているときと同じ表情だ。
従属の鎖。それは奴隷などに使われるもので、昔船に乗って来た者達に話を聞き直に見たことがあった。従属の鎖の魔法を使われた者は、その魔法を使った者から逃げることができなくなる。無理に一定以上、魔法を使った主から離れれば、鎖が現れ首に巻きつき、その鎖で無理やり魔法を使った者の元へと引きずってくる。そしてもしその魔法をかけた主が死ねば…。なぜ、そのようなものを。
我は膝をつくアルマンドを立ち上がらせ、もう1度奴を殴った。そしてすぐに魔法を解くように言った。
「ぐっ、ゲホッ、それは出来ないのです。10日は開放できない。俺の名前を魔法に載せました。名前を使えば普通よりも魔法が強くなるのです。ですから魔法を解くには力が弱くなる最低でも10日後です。ですがこれには訳があるのです。奴らが帰って来ました。あの海の死神が。あのクラーケンの攻撃は奴らによるもの」
その答えにアイリーンの方を振り向けば、悲しそうな顔をして頷いた。我は深呼吸すると弾みで倒れていた椅子をもとに戻してそれに座る。アルマンドもなんとか立ち上がり椅子に座った。そうか…、奴らが復活したか。
奴等とは海と陸、両方を自分達の支配下に置こうとする、「海の死神」と呼ばれている人魚の一族だ。
昔我が住んでいた海に、アルマンドの父親スカイラーが一族を伴ってやって来た。海の死神に国を追われて逃げて来たのだが、その時スカイラーが我に手を貸してくれと言ってきた。ここで止めなければ海全体が奴らに支配されてしまうと。
海の平和を守るため、我は喜んで手を貸した。奴らは強力な海の魔獣達を操り攻撃を仕掛け、戦いは激しさを増し、かなりの犠牲者を出したが、なんとか奴らの侵攻を止める事ができた。が、その戦いでスカイラーは命を落とした。
スカイラーが亡くなり、後継のアルマンドがスカイラーの後を継いだ。そしてどこかに新たな国を作り海の平和を守ると宣言し、我の所から再出発して行った。まさかここに居るとは思わなかったが。
「つい最近になって、いろいろな街が襲われ、我々のところに助けを求めてきたんです。調べるうちに奴らが復活した事をしり、まずはこの国を守らなければと。この国を守らなければ何も始まらない。そしてそれには力が必要だ。そこで私は力を借りようと陸に上がりました」
そして陸に上がって、そこでユーキや我らに目を付けたのか。アイリーンに言われただろう話し合いをしようとしているうちに、何処からか突然現れたクラーケンに我らが襲われ、ちょうど良いと連れて来たか。
ふん。まぁ、あそこにいるよりはここの方が安全か。が、ユーキに従属の鎖をつける必要がどこにある。話がしたいのであれば、いきなり連れて来た事を謝罪し、話をすれば良いだけだろう。
そうアルマンドに言えば、あのクラーケンはユーキ様を狙っていたと言ってきた。確かにあの3体目のクラーケンの動きはおかしかったが。奴らもユーキの力に気づいていたのではないかと。アルマンドが陸に上がったのと同じように、奴らも陸にあがっていたとしたら。確かにあり得ないことではない。
「ユーキ様がもし奴らに囚われてしまえば、2度と家族の所へ戻ることはできなくなります。それどころか力を奪うだけ奪い、そのまま殺されるでしょう。奴らは必要のなくなった人間人魚は全て殺してしまう。ルトブル様も分かっているでしょう。だからあのとき私は考えました」
ユーキに従属の鎖をつけてしまえば、奴らが連れて行こうとしても、必ずアルマンドの元に戻る。安全が確保できるまでつけておこうと考えたらしい。
「今の段階では陸にいるより、海で暮らす俺達と居た方が安全です。それに俺はユーキ様が家族と一緒に居るときの、あのとても幸せそうな様子を見て知っている。奴らに捕まれば、ユーキ様に幸せは2度と訪れない。そんな事は嫌なんです」
そうかユーキを守るために。だが、それは我らにひと言話してからでも良かったのではないか? つける付けないは別として、アルマンドが死なないとは限らないのだぞ。もし奴らに連れ去られなくてもアルマンドが死んでしまえばユーキは…。そう奴を怒れば、奴はずっと頭を下げて謝って来た。
我は溜め息をついた。アルマンドなりにユーキのことを考えた結果か。これ以上文句を言ったところでしょうがない。
「これからどうするつもりか聞かせろ。詳しい話はそれからだ」
「!! はい!!」
早く話を終わらせてユーキの元へ戻らねば。




