182怒られるハロルド3人組
(ウイリアム視点)
ユーキがオリビア達と部屋を出ていくと、すぐにまた話を再開させた。汚れた洋服の着替えのついでに風呂に入り、今までのことを一応簡単にまとめていたら、結構な時間がかかってしまったんだ。そのせいでハロルド達との話し合いが今からだ。
正座をして座るハロルド達3人。まあ私は今は叱るだけで、今まで何をしていたかの詳しい話は、1度眠ってからと思っていたのだが。父さんがなぁ。1番最後に部屋に来た父さんのあの顔。1人だけ気合の入った顔をしていた。これから叱る気まんまんと言ったところだろう。
はぁ。これだと今までのことも一緒に聞く羽目になりそうだ。ただでさえ徹夜して、あの騎士達への尋問があるっていうのに。あまりハロルド達に体力を使いたくないのだが。
「で、ユーキにだいぶ嫌われたハロルド。ずいぶん家に帰ってくるのが遅かったな。家を黙って出て行ったのはもう2年以上前か?手紙もよこさずに、一体どういうつもりだ。私達が心配しなかったと思うか?」
「悪かったよ、手紙も何回か書いたんだが、書いてる途中で面倒になって…。」
「ほう、面倒というだけで、途中で手紙を書くのをやめたのか。母さんはお前から手紙がくるんじゃないかと、いつも待っていたんだぞ。」
そう母さんはハロルド達がいなくなってから、季節が1周する間、いつも手紙を待っていたんだ。まあそれ以降は、元気にやっているんだろうと自分に言い聞かせて、手紙を待つことはなかったが。いくら私達が大人だったとしても、母さんにとって私達はいつまでも子供なのだ。
この前のハロルドから手紙が届いた時など、休憩室を夜中に通った時見てしまった。母さんが手紙を読み、とてもとても嬉しそうにしているところを。それを見た私は、ハロルドが戻ってきたらどうしてやろうかと思った。
「それは…。母さんには悪いと思ってるさ。」
「母さんには?」
「い、いや、お父さんや兄貴達にも悪いと思ってたさ。」
「いなくなった時は仕事もたまっていたし、私も父さんもみんなが忙しくしていたのが分かっていただろう。それをお前達は。」
そこで話を聞いていた父さんがソファーから立ち上がった。そしてズカズカとハロルド達が正座している所まで歩いていくと、それぞれにゲンコツをくらわした。
「ガツンッ!ガキッ!ガコンッ!」
「てっ!!」
「うっ!!」
「ぐっ!!」
それぞれが呻き声を上げた。手加減なしで殴ったからな。あれは相当痛いはずだ。挙句。
「ガツンッ!ガキッ!ガコン!!」
「って~な!父さん!」
「ふん。文句が言える立場か!それとももう1回やるかのう?」
「………。」
ハロルドが黙った。そりゃぁ2回も殴られればなぁ。父さんは現役を退いたものの元凄腕の騎士だ。かなり痛かっただろう。ハロルドだけでなく残りの2人も、さらに体を小さくさせていた。
父さんのゲンコツで私はだいぶ落ち着いた。私の方は少しの言葉の説教で済ませてやるか。後にはオリビアと母さん、それからオリバーとアシェルの説教が待っているからな。………ハロルド達はもつのか?体力もそして命も。逆に少し心配になってきたな。
「それで、急に街から出て行った理由を聞こうかの。」
父さんがそう聞けば、ハロルドが渋々と話し始めた。そしてその理由がまたくだらないものだった。
ハロルド達が街を出て行ったとき、カージナルではいろいろな仕事が立て込んでいたため、手分けして書類整理をしていた。別に街が危険に曝されているとかそういう忙しさではなく、ただたんに書類上の忙しさだったのだが。ただ、私達だけでは終わる量ではなく、オリバー達やアシェルにも手伝ってもらっていた。
もちろん初めの頃は大人しく書類整理を手伝っていたハロルド。ハロルドはもともと体を動かす仕事の方が得意だった。まあ、冒険者として活躍していれば、机に向かい動かない事がどんなに辛いか、少しは分かるのだが。
まったく。書類仕事にあきていたハロルドはタイドスにギルドに向かわせ、依頼書を確認しに行かせた。そしてちょうど依頼として出されていた、少し遠くの街までの護衛の依頼を受けてしまったらしい。
私達に怒られるのを承知で護衛依頼に出ると、そのまま冒険者生活を満喫していたというのだから呆れてしまった。
その話を聞いた父さんにもう1度殴られたのは言うまでもない。
「バカモンが!!」
「だってあのままじゃ、体が鈍って、そのあとの冒険者活動に支障が出るじゃないか!」
「だからと言って我々が護る街のための書類仕事を、放っていく奴がどこにおる!」
そこからまた父さんの説教が始まってしまった。私が口を挟む暇もないほどだ。そして最終的に…。
「これより2つの季節が過ぎるまで、冒険者資格の剥奪をする!」
「そ、そんな!!」
「ギルドにはワシから頼んでおく!いいか、今日よりお前達は屋敷での仕事についてもらう。」
3人がガックリと肩を落とした。まあ、自業自得だから仕方ないな。これで私の仕事も少しは減るしちょうどいい。
ようやく説教が終わるときになって、誰かがドアをノックした。
「あなた。良いかしら。ユーキちゃん起きてしまったのよ。」
「ああ、入れ。」
オリビアがユーキを抱っこしながら部屋に入って来た。その後をゾロゾロとマシロ達が入ってくる。妖精達はディル達に頼んで、寝室でそのまま寝てもらっているらしい。
「ふえ…、とうしゃん…。」
泣いているユーキをオリビアから受け取ると抱きしめた。
「どうした。また怖い夢を観ちゃったか?」
黒服達に変な夢を観させられて以来、ユーキはたまに怖い夢を観てしまうようになった。偽物の家族がユーキを追いかけてくる夢らしい。モリオンにユーキが観せられていた夢の内容を聞いて、頭に血が昇る思いだった。大切な家族を使って悪夢を観せるなんて。
ただでさえ1人で寝ることが出来なかったユーキは、余計に私かオリビアの姿が見えないと、寝られなくなってしまったのだ。小さな家で寝ている時も、家に付いている窓からこちらが見えるように、母さんが直してくれた。
少しするとユーキはすうすうと再び寝始めた。いつもより落ち着くのが早かったな。ユーキのことをジッと見ていたハロルドが話しかけて来た。
「なぁ兄貴、いつの間に生まれたんだ?オレ達がここにいた時はそんな様子、全然なかったんだが。」
「ん?ああ、そう言えばそうか。」
う~ん。どこまで話したものか。当分街から出られないハロルド達。冒険者として相応の力を持っているハロルド達に、長く隠し事は出来ないだろう。冒険者バカでも一応家族と、家族相応に付き合って来た2人だしな。それにユーキにまた何か危ない事があったとき、3人にも手伝わせる事ができる。
私はこれから話すことは絶対に秘密だとし、もしバラすような事があれば、それ相応の覚悟をしておけと忠告しておいた。家族だから話すのだと。3人が真剣な顔つきに変わった。
そして私はユーキと出会った時のこと、これまでのこと、ユーキの周りにいる契約魔獣、妖精、精霊について全てを話した。
これまでの事件と魔獣と妖精までは信じた3人。しかし流石にエシェットとルトブル、精霊までは信じなかった。そこでオリビアにユーキを私の寝室に戻すと、庭に出てエシェットとルトブルに変身を解いてもらった。そのままの姿では屋敷が潰れるからな。だいぶ小さく変身してもらったが、それを見た時の3人の顔が凄かった。
目を見開き口は開いたそのままの格好で固まっていた。そしてそんな3人の周りをうさぎの着ぐるみを脱いだシルフィーとキミル、そしてモリオンが飛び回る。
「え?あれって、本に載ってる…。」
「伝説のカーバンクル?」
「シルフィーだけじゃないもん。キミルも精霊だもん。モリオンもそうだよ。」
「僕は闇の精霊。僕達可愛いでしょう。」
それを見て聞いた3人はまたまた固まった。そんな3人が面白かったのか、キミルとモリオンが顔の前を飛びながらお尻を振り、シルフィーは羽を出してクルクル宙返りをしている。
部屋に戻ってアシェルに淹れてもらったお茶を飲むと、少しは落ち着いたのか体の強張りが取れた。
その後は3人を部屋に戻して寝ることにした。考える時間を与えなければ可哀想だ。突然伝説の生き物達が目の前に現れたんだ。部屋に戻る3人は父さんの説教と、エシェット達を見たせいでフラフラだった。起きれば母さんとオリビア、オリバーとアシェルの説教が待っているのに。回復できると良いが。




