表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッド・ニュースペーパー  作者: 和島大和
第一章 始まりの始まり
6/31

第六説


 「……そこまで心配してくれて、私も嬉しく思います。


  ですが、今回はお帰り下さい。 貴女の大切な人も、心配しているかもしれませんから。」



 「あ……。」




 菊梨花(きりか)の礼と共に紡がれた言葉を聞き、ソラは我に返る。




 「……。」




 そうして俯きながら黙考するソラ。


 考える間、菊梨花(きりか)もジッと待ち続けている。




 「菊梨花(きりか)、友達は? ソラ以外に居るの?」



 「……えぇ、他にも居ますよ。 ですから、独りではありません。」



 「……そう……。」




 ソラの問い掛けに、やや間を置いてから優しく微笑み、首肯する菊梨花(きりか)


 ソラは視線を落として尚も考えた。


 それから数分後、彼女は菊梨花(きりか)を見つめ




 「じゃあ……帰る。


  ソラの大切な人、独りぼっちだから。」




 と言った。


 菊梨花(きりか)から友人の有無を確認し、彼女が肯定したことで一人ではないと知った。


 だからこそソラも決心したようだ。




 「分かりました。 では、行きましょう。」



 「……ん。」




 ソラの言葉を受け、菊梨花(きりか)は彼女に手を伸ばす。


 その手を小さく白い手で握り、(ほこら)から出てくるソラ。


 月明かりに照らされた白の髪は肩付近で切られ、キメ細かな銀糸のように風に揺れていた。




 「ソラさんは、どこから来たのですか?」



 「……ん。」




 菊梨花(きりか)に問い掛けられたソラは、彼女と繋いだ手とは逆の手で指差した。


 その先に灯りはなく、闇色で染まり、微かに山の輪郭が見える。




 「山から降りてきたということでしょうか。


  それで、どうして捕まったのでしょう?」



 「……それは……チョウチョを追いかけてたら人間の子どもが見えて、一緒に遊んだの。


  そしたらなんか、ポカポカの太陽に照らされて、眠くなっちゃって、お昼寝してたら……捕まっちゃった。」



 「そ、そう……お昼寝、ですか。


  それは……抵抗などできませんよね。」



 「でも、お昼寝……気持ちよかったよ。


  また今度、菊梨花(きりか)も一緒に寝よ!」



 「……そう、ですね。 その時は、よろしくお願いします。」




 人間に捕らわれた経緯を聞いて苦笑する菊梨花(きりか)に対し、ソラは無邪気な笑みを満面に浮かべながら昼寝に誘った。


 それを了承する菊梨花(きりか)


 二人はそのまま、集落へと続く道外れの木々を縫って歩く。


 目的の場所へと行くには神社を降り、集落を突っ切る必要がある。


 ただ、集落の周りには緊急用の林道が続いているため、菊梨花(きりか)は念のためにこの道を使っていこうと考えていた。


 この林道には照明はないため、集落側からこちらを認知することはほぼ不可能だ。


 その上、この道を通るのは集落内でも地位の高い者ばかり。


 ソラを脱出させる道としては最適ともいえた。


 二人は神社を降りた後、そのまま林道へと足を踏み入れる。




 「暗いね。 菊梨花(きりか)は、いつもここを通ってるの?」



 「ん~、ここを通る時もあれば、通らない時もあります。」



 「そうなんだ……。 ……ここでは、妖怪って居ないの?」



 「居ませんね。 寧ろ、あまり妖怪をよく思っていません。」



 「ふ~ん。 人間って、よく分からない……。」



 「そう、かもしれませんね。 ですが、私も妖怪のことはあまり分かりません。」



 「そうなの? じゃあ、今度友達を紹介する! 菊梨花(きりか)も紹介、してね?」



 「え?……そ、そう、ですね……。


  ……ただ、先ほども言った通り、ここでは妖怪はよく思われていませんし、その友人も……ですから、紹介は……。」



 「そう……。……残念。」




 歩きながら会話を続ける二人。


 そんな中、林道の先に灯りがあるのを菊梨花(きりか)は視認した。




 「ッ!!?」




 菊梨花(きりか)は息を呑む。


 そして、瞬時に思考した。


 あり得ない、と。



 この時間であれば、集落の者たちは寝静まっているはずなのだ。


 しかし、灯りが見えたということは人が居るということ。


 この林道を通るのは集落の中でも上位の権力を持つ者だけだ。


 猫神家の者か、長老の側近たちか。


 後者は一先ずないだろう。


 それこそ、集落でも特記した緊急事態でない限り、この道を通ってくることはまずない。


 前者であれば可能性があっても猫神家当主たる自分の父親だけ。




 『長老様でもないだろうし……もしかして、お父様? ……どのみち、誰か来る。』




 そう、誰か来るのは確かだ。


 光はこちらに向かってきているから。




 「……? 菊梨花(きりか)、どうしたの?」



 「シッ!」




 ソラが菊梨花(きりか)の思案した顔を見て、キョトンとしながら見上げる。


 すると、菊梨花(きりか)は黙るように自身の人差し指を口元で立てながらソラに顔を向ける。


 ソラはそれを見て目を丸くし、彼女と同じように口元で人差し指を立て




 「シ?」




 と、深く首を傾げる。


 更に彼女の言葉は続き




 「もしかして、人間の遊び? ……どうするの?」




 なんて、尋ねてきた。


 ソラにとって、人間の仕草などは理解の外だったらしい。




 「ッ!!?」




 流石に予想外の反応だったのか、菊梨花(きりか)は一瞬だけ硬直してしまう。


 その間も向こうから光が近づいてくる。


 グズグズしていたら見つかってしまう。




 「ち、違います。 とにかく、こちらにッ!」



 「うにゃッ!!?」




 菊梨花(きりか)は慌ててソラの手を引き、茂みに飛び込む。


 その間に漏れたソラの悲鳴も無視した。




 「にゃ、にゃにするにゅぐぐぐぐッ……ッ!」



 「シッ! 静かにしてください。


  説明は、後でしますから……っ!」




 酷く混乱し、叫びだしそうになるソラの口を塞ぎ、必死に抱き寄せながら暴れないようにする菊梨花(きりか)


 ソラの瞳孔(どうこう)が縦筋状になり、髪が逆立ち始めるも、後で説明すると告げる菊梨花(きりか)の言葉で落ち着きを取り戻した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ