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ゴッド・ニュースペーパー  作者: 和島大和
第一章 始まりの始まり
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第四説


 「誰っ!?」




 この場に立ち入り、自分に話しかけた者。


 その者へ反射的に問い掛けるように、バッと振り向き立ち上がる。


 そして、瞬時に懐から一枚の札を取り出し、右の人差し指と中指で挟み掴んだ。


 振り向いた先で視界にまず飛び込んできたのは、月明かりによって煌く金糸。


 次いで捉えたのは青の光を放つ瞳。




 「おっと、札で攻撃する暇があったら、俺の問い掛けに答えてくれないかい?」




 この集落ではあり得ない金髪と青い瞳を持つ少年。


 白シャツと長ズボンという簡素な服装で、長身の体を覆っている。


 菊梨花(きりか)は警戒するように彼を見つめる。




 「ソルダさん、ですね。 貴方の問いかけに答える前に、こちらから質問させてください。


  いつからそこに?」




 構えを解くことなく尋ねる。


 ソルダは一先ず両手を上げて敵意がないことを示し




 「ずっと。 あんたがここに入る時から。」




 と言った。


 ソルダは続ける。




 「で、さっきの質問なんだけど……。」




 それを菊梨花(きりか)は遮り




 「嘘です。」




 と言った。


 それを受けて今度はソルダが




 「は?」




 と、思わずトボケ顔になってしまう。


 先ほどまでのミステリアスな印象が、もれなく台無しといったところだろう。


 もっとも、彼の登場にミステリアス性があったかは問題ではない。


 そんなソルダに菊梨花(きりか)は気にせず呟く。




 「だから、私がここに来る時から、貴方が私の後ろに居たこと。


  それは嘘ではないのかと訊いたのです。」



 「……。 どうしてそう思う?」




 彼女からの問い掛けに黙り、真剣な顔で補足を求めるソルダ。




 「長老様にお父様、集落の皆さんの声を聞いています。


  ソルダは嘘を吐き、皆を裏切る異端児である、と。」



 「……。 なるほどねぇ……。


  で、そのソルダを疑うお嬢さんは『妖怪は殺すべき存在で、理想世界を築くために駆除しなければ』と教えられたか。


  人が言っていたから、皆がこう言うから……だから正しい。 そう思ってんだろ?」



 「ッ!?」




 補足として述べた菊梨花(きりか)の言葉を黙って聞き、確認するように告げるソルダ。


 それを聞いた菊梨花(きりか)は目を見開かせ、押し黙ってしまう。


 ソルダは更に続ける。




 「で、妖怪を殺さなければならないと教えてもらい、お前がそれを鵜呑(うの)みにするなら今すぐその子を殺せ。


  それができないなら、俺を疑うな。 何も知らないくせに、他人の意見で俺の性分を決めつけんじゃねぇよ。」



 「わ、私は……。」




 ソルダの言葉を受け、菊梨花(きりか)は目を泳がせる。




 「人間なら手足、目に耳、口まであるんだぜ。


  お前のそれは飾りか? それとも、耳で入った情報がお前の世界の全てなのか?」




 ソルダの問い掛けに、菊梨花(きりか)は遂に俯いてしまう。




 「で、ですが……妖怪は……。」




 消え入りそうな声。


 そこに自信などは一切存在しない。


 当然だろう。


 集落で当たり前、普通、常識とされた思想が間違っているかもしれないのだから。




 「悪いからじゃないだろう? 妖怪だから、敵だから、殺さなければ理想世界は実現できない。


  善悪ではなく、あるのは単なる決めつけさ。


  そして、今のお前はその妖怪に情が沸いてしまった。 だから苦しいのさ。」




 ソルダはまるで語り部のように口を開いた。


 余裕と自信に満ちた言葉の数々は、今の菊梨花(きりか)の心を容赦なく突き刺していく。


 更に彼の言葉は続く。




 「自分の言葉には責任を持てよ? アンタはその子に悪い子かと訊かれて、否定したんだ。


  で、悪くないのに殺すのか? 妖怪だから? 邪魔だから? ただそれだけの理由で殺すのか?


  それとも、理想世界の実現のためか?」



 「そんなこと……私は……私はただ、お父様や皆のために……。」




 ようやく口を開き始めた菊梨花(きりか)


 だがそれを、ソルダは即座に遮り




 「それがテメェの言い訳か?」




 溜め息混じりに呟く。


 それに彼女は眉をひそめる。




 「言い訳ではありません! 私は、本気でお父様や集落の皆のために動きたいだけです。


  貴方に……私の何が解るというのですか。」



 「分かるかよ。


  だが、テメェも俺のことは何も解ってねぇだろうが。」



 「っ!?」





 菊梨花(きりか)の問い掛けに即答するソルダ。


 その言葉を受けて目を見開く。


 ソルダの言葉は未だ途切れることはない。




 「結局、テメェの言い分は自己中心的なのさ。

 

  動機は確かに皆のためと立派に謳っているが、行動に移していない今のお前は、動機を盾にして逃げているだけ。


  自分から逃げ、自分が本心でやりたいと思うことを押し殺し、動機を言いふらしてチヤホヤされたいだけなのさ。


  外部からの攻撃にビビり、自分の想いから逃げ、外部の奴の言うことを聞く。


  言い訳以外の何物でもないだろ? ご立派な理由を掲げて現実から逃げる奴に、この集落を任せられねぇって言ったんだ。」



 「……。」




 淡々と語られる言葉に、ただただ黙って聞くしかない。


 最後に聖錬(せいれん)の儀式で言われた言葉を返され、それが決定的となった。


 だから、あんな言い方をあの時の彼が自分に掛けてくれたのかと実感した。


 そして、次に菊梨花(きりか)が口を開き




 「貴方なら……貴方が今の私の立場なら、どうしますか?」




 と尋ねる。




 「……何で、そんなことを訊くんだ?」




 またも補足を求めるように、ソルダはジッと彼女を見据えた。


 今度は菊梨花(きりか)も真剣な顔で見つめ返す。




 「私が、私自身の意思で突き進むためです。」



 「そうか……俺なら、その子を助ける。 どんな手を使ってでもな。」




 彼女の答えにソルダも答える。


 それは彼の考えのほんの一部。


 自分がしたいと考えたことだけを告げた。


 だからこそ彼は、さらに続けて見せる。




 「だが俺の意見であって、お前の意見じゃあない。 俺の意見が正しいとか間違いだとかじゃない。


  大事なのはお前が、お前のしたいことをしろってことだ。


  それがたとえ周りから見て『普通』ではなくても、自分がしたいこと、正しいと思うことをやり通せ。


  その結果で成功できれば『普通』よりも達成感もあるし、失敗しても『普通』より後悔を感じないと思うぞ。


  ……。 ……チッ、お前みたいな曲がった奴を見てると、イライラしてくるぜ。」




 最後にソルダは舌打ちしながら吐き捨てるように告げ、その場を去っていった。

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