表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッド・ニュースペーパー  作者: 和島大和
第一章 始まりの始まり
18/31

第十八説


 「ソラは無事、だと? 貴様……どの口がそれを告げる?」




 全身を黒コートで包み、銀髪を足首まで伸ばした少女が、目の前の人物に問い掛けた。


 シェリド・レ・カーミラ。


 肌は異常に白く、一目で人外であると認識できた。


 最強の吸血鬼にして、最強の妖怪。


 彼女の存在そのものが伝説化してしまうほどの強大な力は、東西南北あらゆる人外たちを黙らせる。


 そんな最強の吸血鬼と対峙するのは人間の少女。


 猫神(ねこがみ)菊梨花(きりか)


 猫神流(ねこがみりゅう)神術(しんじゅつ)という特殊な術を使う一族・猫神家に生まれ、巫女として認められるか否かの瀬戸際に立たされることとなった。


 そんな彼女は不運にも伝説的に存在する最強の吸血鬼と、こうして対峙することを余儀なくされたのだ。


 しかも彼女は、自身の恩人たるソルダの治療をしたばかり。


 体中が強烈な痛みによって悲鳴をあげている。




 「人間ごときが……もう少しマシな嘘を吐いたらどうだ?」




 シェリド・レ・カーミラは憤怒と憎悪を全身から発する。


 それと共に菊梨花(きりか)を睨みつけた。


 あくまでも菊梨花(きりか)一人に向けた。


 だが、それだけで周りに立っていた猫又などの妖怪たちが、次々と失神する。


 シェリド・レ・カーミラから漏れ出たような微かな殺気であっても、彼等には重いものだったようだ。


 当然、直接当てられた菊梨花(きりか)にとっては、たまったものではない。


 こうして意識を保つだけでも精一杯なのだ。


 先ほどまでの痛みなど、とうに忘れている。


 いや、寧ろ痛かったという過去すら忘れている。


 自分が先ほどまで、何かの痛みを感じていたのかすら覚えていないほど、強烈な殺気だった。


 その中で問いに答えなければならない。


 猫又(ソラ)が無事であるかどうか。




 「う、嘘では……ありません。」




 全身から汗を噴き出しながら、震える声で必死に答えた。




 殺される。


 それ以外の思考が、上手くいかない。


 ソラが無事か否か、正直どうでもよかった。


 初めて出来た友達であり、大切な友達であったにも関わらず、それすらどうでも良くなるほどの、強烈な殺意を向けられる。


 彼女は早くも限界を迎えたのだ。


 それほど、菊梨花(きりか)とシェリド・レ・カーミラの力の差は大きい。


 天と地の差、歴然の差。


 表現のしようは多様に存在するだろう。


 だが、それら全てが陳腐(ちんぷ)に思えてくるほどの、絶対的な力の差だ。


 絶望、と称するのが的確かもしれない。


 猫神流(ねこがみりゅう)神術(しんじゅつ)や式神、剣術に弓術。


 それら全てが、無に帰すほどの差があると、対峙しただけで理解できた。


 戦闘経験が乏しい菊梨花(きりか)ですら、そう感じてしまったのだ。




 「嘘ではない、とする根拠はなんだ? 証拠があるとでもほざくつもりか? 人間の言うことを、今更信じろと?」




 見た目とは不相応な口調で、シェリド・レ・カーミラは淡々と問い掛けを続けてくる。


 そして、菊梨花(きりか)の目の前までやってくる。


 身長は菊梨花(きりか)の方が高い。


 見下ろすほどの身長しかないシェリド・レ・カーミラ。


 だが、纏っている空気のせいか、何倍にも大きく見えてしまう。




 「()が高いぞ、人間。」




 一言呟くと同時、シェリド・レ・カーミラの白目が真っ赤に染まり、瞳が金に輝いた。




 「ッ!!?」




 それと同時に、菊梨花(きりか)はガクンと膝が折れる。


 突然、足の力が抜け、シェリド・レ・カーミラを見上げるような形となった。


 それだけではない。


 全身の力が、抜けていく感覚を味わった。


 まるで、吸血鬼に血を吸い取られるかのように。




 「フン。


  猫神家の次期後継者、などと戯言を言う手前、どの様な力を持つのかと思ったが……大した力もないのか。


  喰らった気分すら味わわせられんゴミが……。」



 「っ、うッ!!」




 シェリド・レ・カーミラは、菊梨花(きりか)の首を鷲掴みにする。


 白くて細い首を、容赦なく締め付け始めた。


 苦しみのあまり、菊梨花(きりか)は顔を歪める。




 「死ね。」




 冷酷に、冷徹に告げる。


 そこから更に首が締まる。


 息が出来なくなる。


 気道が塞がれ、苦しみのあまりに吐きそうになるもそれすら許されない状況。


 シェリド・レ・カーミラの手首に手を添える。


 彼女の瞳を見れば見るほどに力が抜け、それと共に締め付けが強くなっていった。




 「ダメ―!!」



 「ッ、ソラ!?」




 見知った声を耳にし、菊梨花(きりか)の首を掴んだままに視線を向ける。


 先ほどの威風堂々とした声音とはうって変わり、見た目相応の少女のような声音のシェリド・レ・カーミラ。


 ソラが彼女の元に駆け寄ってくる。


 その様子を、やや離れたところで蓮華(れんげ)が見つめていた。




 「殺しちゃダメ!」




 そうしてガシッとシェリド・レ・カーミラの腕にしがみつく。


 菊梨花(きりか)の首を掴む腕に、飛びつく。




 「っ、ソラ……何をするの?」




 シェリド・レ・カーミラは訳が分からないと言った風情で問いかける。


 それにソラが睨みつけた。




 「殺しちゃダメ! ソラは無事だから! 怪我も何もないから!」



 「…………。 相手は人間よ? 今ここで殺さないと、また同じことの繰り返しじゃない。」



 「そんなことないもん! ソラ、何もされてないから! とにかく放して!」




 ソラから強く言われ、シェリド・レ・カーミラは手を放す。


 それと共に菊梨花(きりか)が解放された。




 「ッ、かはッ!……ゴホッ、ゴホッ!」




 一気に気道が確保され、息が噴き出す。


 絞められた首を抑えながら、幾度か咳き込む。


 シェリド・レ・カーミラの瞳は、元の状態に戻る。




 「……確かに、無傷だな。」




 ソラの体を見つめ、呟くシェリド・レ・カーミラ。


 彼女に視線を向けた菊梨花(きりか)が口を開く。




 「で、ですから……本当のことと……」




 だが、それを遮り




 「だが、ソラの着物にシワがある。


  それも、誰かに掴まれたようなシワだ。」



 「っ!」




 と言った。


 それと同時に蓮華(れんげ)が目を見開いた。



 刹那




 「貴様だな? 血流が早くなったぞ。 なぁ、猫神(ねこがみ)蓮華(れんげ)。」



 「ッ!? オレの名前を……」



 「敵の名は知ってて当然だろう? 貴様の行動が、我らに盾突く者であるのは自明の理。


  貴様をここで、殺してやる。」




 名を呼ばれて困惑する蓮華(れんげ)に対し、不敵に笑うシェリド・レ・カーミラ。


 再び先ほどの瞳に変わる。


 白目が赤く、瞳が金に。


 それと同時に彼女の姿が消えた。




 「死ね。」



 「っ!」




 すぐに蓮華(れんげ)の背後から声がした。


 咄嗟に跳躍する。



 ザッ!



 回避しようと思ったものの、横腹を掠めてしまう。




 「くッ!……テメェ……いきなり何しやがる……。」




 蓮華(れんげ)は突然の攻撃に、シェリド・レ・カーミラをキツく睨みつける。




 「言ったろう?……貴様を殺すと。」



 シェリド・レ・カーミラは不敵な笑みを浮かべながら、一言だけ告げる。


 宣戦布告は済んでいると示すかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ