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ゴッド・ニュースペーパー  作者: 和島大和
第一章 始まりの始まり
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第十六説



 「それはそうと……お前、なんで捕まったんだ?」




 蓮華(れんげ)はソラに問いかける。


 それにソラはジッと蓮華(れんげ)を見つめた。




 「ちょうちょを追い掛けてたら、人間の子どもが見えて、一緒に遊んでいたの。


  そしたらなんか、ね。 太陽にポカポカ照らされて……眠くなって……そのままお昼寝してたの。


  それで、捕まっちゃった。」




 それを聞いた蓮華(れんげ)




 「ぷっ、あはははっ!」




 笑い出す。


 声を出して笑った。


 そんな彼女の反応に、ソラは目を瞬かせる。




 「よりによって昼寝かよ! 傑作だな。」



 「ん。 でも、お昼寝……気持ちよかったよ。


  蓮華(れんげ)も一緒に、お昼寝する?」



 「オレが? ……ハッ! 冗談。


  俺は妖怪と寝る趣味なんかねぇよ。」




 蓮華(れんげ)の言葉にソラは頷き、感想を述べる。


 それと同時に昼寝に誘う。


 だが、蓮華(れんげ)は鼻で笑い、キッパリと断ってしまった。


 それに残念そうに俯くソラ。


 だが、彼女はその程度ではめげなかった。




 「じゃあ、この子たちと一緒だったら?」




 再度誘いをかける。


 それも、周りに集まってきた子猫たちと共に。


 流石の蓮華(れんげ)も、それには断る理由がないようで、すぐに




 「それならいいぜ。 お前となら無理でも、コイツ等が居りゃ断る理由がねぇ。」




 断言した。


 それも即答。


 本来はソラと寝ること自体を嫌悪しているわけではないのかもしれない。


 だが、ソラ自身は非常に嬉しそうに笑っていた。


 純粋に、蓮華(れんげ)が自分の誘いを受けてくれたことが嬉しいのだろう。




 「えへへっ! ……じゃあ、これで、菊梨花(きりか)蓮華(れんげ)とこの子たちで……お昼寝できるね!」




 ソラは変わらず嬉しそうに笑いながら、言葉を紡ぐ。


 だが、その言葉の中に蓮華(れんげ)の双子の姉である菊梨花(きりか)の名が出た途端、蓮華(れんげ)の表情が険しくなった。




 「ちょっと待て、猫又(ねこまた)菊梨花(きりか)の奴も居るのか?」



 「ん。 それが、どうかしたの?」




 蓮華(れんげ)からの問いに頷き、分からないといった風情でソラは首を傾げる。


 そして、どこか不機嫌そうな顔を浮かべ



 「……。 その昼寝、やっぱり断るぜ。」




 と告げた。


 それと同時にソラは目を見開かせる。




 「にゃっ!? ……どして?」



 いきなり断られ、驚愕(きょうがく)のあまり口調まで変わってしまうソラ。


 すぐにその真意を確かめるために尋ねる。




 「菊梨花(きりか)の野郎が居るからさ。」



 「……菊梨花(きりか)のこと、嫌いなの?」



 「大っ嫌いだ!」



 「ッ!?」




 ソラが尋ねると、気持ちいいほどの即答が返ってきた。


 怒鳴るように答えられ、ソラの身がビクッと震える。




 「蓮華(れんげ)、嫌いなもの多いね。」




 ソラは思ったことを呟く。


 それに蓮華(れんげ)が睨みつけた。




 「余計なお世話だ。」



 「……どうして嫌いなの?」



 「……。」




 ソラの問い掛けに、蓮華(れんげ)は答えない。


 そんな彼女に対し、ソラも更に問い掛ける。




 「何かあったの?」



 「……。」




 それでも答えない。


 というよりも、彼女の中で答えたくないというのが本心だった。


 この問題は家庭の事情の中で繰り広げられたことであって、他人が踏み入れるような話ではない。


 それを、純粋なまでのソラには、理解できないのだ。


 家庭の事情よりも、目の前で抱いた疑問を解決するために問いかけている。




 「妖怪と菊梨花(きりか)、どっちが嫌いなの?」




 だからこそ、こんな質問になる。


 妖怪を嫌う蓮華(れんげ)は、同時に菊梨花(きりか)を嫌っている。


 その両端を嫌う彼女に対しての疑問には、どちらが嫌悪する対象なのかという問い掛けに行きつくのだ。




 「どっちもどっちだ。」



 「蓮華(れんげ)、やっと答えた。」



 「ハッ! それくらい個人的な問題なんだよ。


  そもそも、他人のお前が、この問題に首ツッコんでくるな。」




 ようやく答えを出した蓮華(れんげ)に対して、ソラは不満げに頬を膨らませる。


 当の蓮華(れんげ)は吐き捨てるように告げた。




 「家族の、問題だから?」


 「あぁ、そんな感じだ。 お前には分からないだろうけどな。」




 ソラの首を傾げながらの問い掛けに肯定する蓮華(れんげ)


 家族というものがないソラには、分からない。


 そう思っての言葉だったが、ソラは首を振る。




 「……分かるよ。 今は、家族が居るから。」



 「そうか。」




 ソラの言葉を聞き、内心でどこか安堵する。


 そんな自分の心が




 「……。」




 気に入らなかった。


 自分は今まで数えきれないほどの妖怪を斬り、殺してきた。


 中には人間を殺したことだってあるのだ。


 その度に家族を崩壊させてきた。


 家族を破壊してきた。


 そんな自分が、目の前の猫又の少女を見ては、彼女に家族がいる事実に安堵している。


 今更なのだ。


 これまで破壊してきたものであり、特別に見ていいものでもない。


 だが、少なくともソラに対しての感情が、妖怪に対する感情とは別であるのは確かだった。


 ふと、窓の向こうを見てみる。


 既に朝日が昇り始めていることに気づいた。


 もう、こんな時間が経ったのか、と考える。




 「もう、朝か。」




 ボソッと、独り言のように蓮華(れんげ)の口から発せられた。


 その言葉を聞き、ソラが窓の向こうに視線を向けた。




 「ッ!? 朝……。 今日で……三日目……。」




 ソラの声音には、焦りが孕んでいた。


 表情は蒼白。


 何か、良くないことが起こることを予兆するかのように。




 「どうした? 顔色、悪いぞ。」




 蓮華(れんげ)がそう使役した瞬間




 「ソラ、帰らなきゃ!」




 突然バッと立ち上がっては、駆け出そうとした。




 「あっ、ちょっと待て!」




 蓮華(れんげ)はすかさず彼女の後ろ襟を掴む。


 反応速度は常人のそれを圧倒する蓮華(れんげ)だからこそ、この行動が可能である。




 「ぐにゃッ!! ……蓮華(れんげ)、離して!」



 「バカが! 離すわけねぇだろ!!」




 軽く首が絞まり、声を上げたソラは蓮華(れんげ)の手を掴んで離すように言う。


 だが、当然それで離すわけがない。


 自分が監視するように言われているのだから。


 その対象が何の理由や説明もなく脱走しようとする事実を、見過ごすわけがないのだ。




 「このままじゃマズいにゃ! とにかく離すの、にゃあッ!!」



 「こ、こいつッ!……大人しく、しろッ!」




 激しく抵抗し、振り解こうと暴れだすソラ。


 大した力もなく、蓮華(れんげ)の手で抑え込める程度の力。


 見た目相応の、小さな力だ。


 妖怪らしい強大な力は有していない。


 そんなソラに業を煮やした蓮華(れんげ)は、ソラの足を蹴り払う。




 「うにゃ?」




 空中に自身の体が浮き上がり、トボけた声と共にキョトンとする。


 視界が天井に向けられた直後



 ドカッ!



 床に背中を打ち付けられた。




 「にゃうッ!」




 痛みのあまり、ソラは声を上げた。


 表情も歪んでいる。


 すぐには行動を起こさないだろうと踏み、蓮華(れんげ)は手を離す。




 「い、痛いにゃ……酷い、にゃ……」




 痛みのあまり、逃げることなど考えていないらしい。


 そんな余裕は、彼女には存在しないようだ。




 「テメェの方こそ、いきなり逃げようったってそうはいかねぇぞ。」



 「う~、でも、マズいにゃ! 早く行かなきゃ、心配して降りてくる。」




 ソラが背中を擦りながら四つん這いになり、涙目で訴える。


 それに蓮華(れんげ)が首を傾げた。




 「あ? 降りてくる? 一体何が……」



 「カーミラ! カーミラが来るの!」



 「……なに?」




 詳しく聞こうとした蓮華(れんげ)の言葉を遮り、ある人物名を口にする。


 それを聞いた蓮華(れんげ)が、険しい顔をする。




 「蓮華(れんげ)さん、大変っす!」



 外から声が掛かる。


 若い男の声だ。


 蓮華(れんげ)はそちらに視線を向けた。




 「どうした?」




 蓮華(れんげ)が再びソラを抑え、問いかける。


 それを受けて男が扉の向こうで言葉を紡ぐ。




 「カーミラが! シェリド・レ・カーミラが軍勢を率いてきました!」



 「ッ!? ……よりによって『閃血の迅爪』か。」




 報告を受けて目を見開く蓮華(れんげ)


 シェリド・レ・カーミラ。


 蓮華(れんげ)が『閃血の迅爪』と呼称した人物。


 その速度は閃光のように速く、後に飛ぶのは血飛沫(ちしぶき)


 一撃一撃は凄まじく速くも重い爪の応酬。


 そんな武勇から付けられた、二つ名。


 だが、その実態は不明。


 そもそもそんな化け物が存在するかどうかも疑問なのだ。


 もはや伝説と言っても過言ではない。




 「だから言ったにゃ! 早く、早くソラが行かなきゃ。


  ソラの家族だから、カーミラもきっと怒ってる!」



 「菊梨花(きりか)が勝てば放してやる。


  それまで大人しくしてろ。 見物くらいはさせてやるが、オレが居ないところでの行動は許さねぇからな。」



 「わかった。 だから早く!行く!」




 急かすソラの後ろ襟を掴みながら立ち上がり、勝手な行動は許さないと念を押す。


 即座にそれを受け入れたソラは、相当切羽詰まっている様子だった。




 「おい! お前はさっさと帰れ。」



 「わ、分かりました! 撃退はお願いします!」



 「あぁ。」




 ソラの手を握り、外に居るであろう男に告げる。


 その後の男からの激励を受けつつも、表情は険しい。


 部下に対する余裕も、表面だけだ。


 ひとまず、蓮華(れんげ)はソラを引っ張りながら外に出た。

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