森の中の合唱―1
始まり始まり
あの夜、ベメリスさんの言葉が記憶に残る。
たやすく人に心を開くな。それは一体何のためのアドバイスだったんだろう。
ベメリスさんは今も相変わらず物語ったり楽器を弾いたりしている。
旦那さんがいるってことには流石に驚いたけど、まああの人柄にしたら当たり前っちゃ当たり前だけど。
そもそもこの冷たい世界で俺に優しくてくれる希少価値の高い人物だ。
しかしいくら人柄がよくて声も綺麗で顔も……多分きれいで超絶美人に決まってるはずの彼女だとしても、俺が必ず惚れるとは限らないのにあの言いぐさは何だったんだがね。
あくまで確率が高いだけであって、必ずではないのにさ。
現代数学の確率で例えると多分9が円周率の長さくらいは着くけど必ずではないんだけどね!
「何曇ってるんですか。手が止まってますよ」
「ぜ、全然泣いてないんだよ俺! 知ったかご主人様!」
「……誰がご主人様ですか、無能で不能のあまりに女々しさ増倍中のエイさん。あと気持ち悪いから掃除始める前に顔洗ってきてください」
リビが髪の毛を布切れで結びながら居酒屋の掃除をする準備をする。
あの日から俺はリビの仕事を手伝っていた。
一日わずか四時間ぐらいの働きだが、あれこれもう4日は続けている。
仕事のミスが多かったせいで700ロワだった借金がいつの間に3200ロワまで上がっていたのが問題だった。
まあ俺がミスったわけだしそのことについては言い訳の余地がない。甘んじ受け入れるとする。
しかし。
「もう結構借金返せたと思うんだが、実際どうなんですかよ」
どうやら涙を流していたような顔を洗ってカウンターを拭いていたリビに聞いた。
すると意外な言葉が返ってきた。
「それならすでに借金の分働いてもらってますよ。むしろ給料が少し出てましたね」
「お、そうか? やったなーそれは」
それを聞いて一安心。
俺はとっさにテーブルと椅子を拭いていた雑巾を投げ捨てた。
「ああっ! 何するんですかエイさん!」
「なんでやねーん! お前な! 終わってたならさっさと言えよ! タダ働きさせやがって!」
怒りにまして柄でもないツッコミを入れて、恥ずかしさに後悔する暇もなく怒りは増していった。
「ちゃんと毎日仕事帰りにお酒やってるじゃないですか」
「あれそういう意味だったのかよ! 知ってたら飲んでねーよ!」
未だ日本でもバイト先見つからなくてもんもんしてるのにここでタダ働きされてたまるか。
あと日本でも仕事帰りでロスになったコーヒぐらいは飲ませてくれるんだよ!
なんだ、このブラック企業もとい、ブラック店!
まあ知ってたけどね! 新入りに仕事の責任を負わせるところからまるっきりブラックだったけどね!
「別にいいじゃないですか。どうせ不能で無能な無職のエイさんだし、やることないじゃないですか」
「やることあるに決まってんだろーが!」
「ふーん。例えばなんでしょう」
「例えば……まあ、息しなきゃならないし、空も時々見上げるし、あと昼寝とかもするし、そこんとこトボトボ歩くしでな」
「まともなこと一つもないじゃないですか。ダメ元でダメダメ人間じゃないですか。そんなんで時間費やすくらいなら無給でかわいい村娘の手伝いでもしていれば良いのです」
「よくねーから。それ労働基準法違反だから」
あとかわいくない。むしろ怖い。
「はあ、冗談ですよ。弁財は昨日の働きでちょうど間に合います。今日からはちゃんと給料やりますから」
こいつはまた冗談に聞こえない冗談を。いや、冗談だって言った今でさえまだ本当に冗談なのか疑わしい。
「何勝手に今日からとか言ってんだ。俺はまだ働くとか一言も言ってない」
「ふふふ。エイさんも冗談がお上手ですね。まさか晩ご飯ずっと食べない気ですか?」
悔しいがそのとおりだった。俺はここに来ている時、何も食べていない。リビが「お疲れさまです」と言って渡してくれたお酒以外は。
そもそもそれは食べ物じゃなく飲み物だ。
もともと仕事などしないからお金がないのである。というわけでこの世界じゃ滅多にすることもない。
でもまあ、家に帰ったらまだ食べ物くらいはある。最近、フェべロスが先に家のものを食い散らかして結局コンビニに行くことが多いけども。
大丈夫だ。現代社会、食料の生産量が増えすぎて人々は普通に過食ぎみになっている。俺はここでその肥満への進化を避けているのだ。
そう考えたら意外と悪くなかったりした。
「またバカなこと考えてますね」
「余計なお世話だよ」
「でも私は本当にエイさんが手伝ってくれたら良いなーって思っていますよ」
「ハハハ。ご冗談はやめてくださいな。怖いから」
リビから言葉はもうなかった。
俺はもう時間も曖昧だし、一応やり始めた今日の仕事までは付き合う気だ。そしてやっとこの世界での自由時間を手に入れるんだ。
さっき適当にとぼけたりはしたけど、別にやることがあるのは嘘じゃない。
彼女の提案は、まあ、どんな裏があるとしても一応もとの世界のバイト先でさえ返事がない今の俺としては嬉しい限りだ。しかしそれでもなお、俺は情報収集を優先しなくてはならない。
この世界で情報収集をするにはやはり居酒屋か、町の語り手、あとは貿易を主にする商人辺りだろう。場合によっちゃ他の国に行かなくてはならないかもしれない。
なんにせ、光の守護者とかいうふざけた名前がターゲットだからな。おとぎ話や伝説などで片付けられたら手も足も出ない。
カラン、カラン。
「あれ?」
開店まではまだ何時間も残っている昼の居酒屋に凄まじい勢いで入ってくる人がいた。
宿探しだとしても部屋のチェックインはまだ一時間先になるんだが、どうしたものか。
……おい、ちょっと待てよ。
この世界じゃ普通に見かけるマントでかくまった人だった。しかし怪しいのはそこじゃない。
辿ってきた床が水滴の落ちる音とともに水たんまりになっていた。
背は低いが図体は大きい。体格からして多分男性。顔はフードを深くかぶっていてみえなかった。
その人は真っ先にカウンターへ重い足乗りで向かった。そしてリビを目掛けて声をかけた。
「イスターニア·リビリック……?」
リビが頷くと、彼は懐の中から大きな皮袋を取り出した。
「45万ピッツだ。残りは終わり次第渡す」
袋の入口から窺える金銭の山を前に、カウンターを拭いていたリビの手が止まった。
居酒屋の奥、いつもべメリスさんが座っていたテーブルに今は珍しい面々が話し合っている。
ずぶ濡れのまま入ってきた男性とリビ、それにヒッチーとトーイ、最後に居酒屋で物静かに一人酒をしていた面識のない女性一名で席はちょうど満席になった。
俺はリビの手伝いとはいえ、このことに関与するほど利害のある人物ではないということで、警備隊小屋で待機していた二人を連れてきてから、馬車に残った重い酒樽の運びを任された。
フードを外した男性は顔のあっちこっちに傷ができていて、体も仕事を一緒にする積み下ろしの人など比べ物にならないほど鍛えられている。
最近映画俳優に転職したプロレスラーみたいな体つきだった。
その人を中心にみんなの顔の色が変わったり、ジェスチャーが変わったりする。きっと何か困難なところや仕事が順調に進められない要素でもあるんだろう。
リビはいろんな仕事をしている。それこそ宿屋から売春まで。しかしあの値段。
45万ピッツで前金、そして終わり次第また渡すということからして、間違いない。
密入国の仕事だ。
初日、俺に接近したリビはそれを提案してきた。断ったらすぐ警備隊に逮捕されたが。
「まあ今更気にしてもしかたないさ」
触らぬ神に祟りなし。俺にはこれぽっちも関係ないことだ。
自分の仕事を黙々と続けていると、ふとテーブルが視界に入った。
彼らの話はまだ続く途中、のはず。
しかしなぜだろうな。
みんなの視線がここに集まっている気がする。
「まさか触らぬ神が直接祟ってくるとは」
「なんのことだ」
「いやあ、なんでも」
俺はリビから何も言われず、あの面識のなかった女性に続いてどこかへ向かっていた。
彼女の名はエティーヤ。リビの仲間らしい。ぱっとみて冒険者っぽい着こなしから荒事向けなのがわかった。
きりっとした表情と発するオーラから気安く近づくことのできない、まさにプロって感じで腕が立ちそうだ。
「なぜあの子はこんなもやしを……」
あるいは、ただお気に召してないだけかもしれない。
深く静まった雰囲気の中で俺たちはただ町の中を歩いた。足を運ぶに連れて景色はどんどん路地裏に変わっていく。
最初にリビの店を探していたあの時を思い出した。
二人の間を静寂が隔ててもう会話は諦めていた時、彼女が足を止めた。
「準備はいいよね。万が一にもこの仕事が流れたら承知しない」
ある古びた建物の前。どっちかっていうと大きな生地のようなもので適当に隠しているようにも見えた。
「え、準備ってなんですか。全然できてないですよ?」
ってかもう着いたのか? もしかしてここなのか?
その同時、何か光るものが首筋を走った。
「……心の準備。いいよね」
短い刃物。
ナイフが俺の首筋を狙っているのだと、冷たい感触がちくっと肌の上を鋭く刺激する。
つばを飲み込むだけで切れそうな気がして、俺は徐々に全身を引きながら精いっぱい元気を装った。
「も、もちろん今できました。心の準備! もう何でもどんとこいですよ!」
「……はあ」
彼女がナイフを戻してやっと息を吐く。
俺としてはまだ息を吐けるほど安心できたわけではない。俺はただ彼女の理解不能な質問にうっかり本音が漏れただけというのに。
こっちは何も説明されず、ただ彼女についていけばいいと言われただけで、あと仕事をすると言ったのも今日一日限りの居酒屋の手伝いであって、こんな見知らぬところまで来てまでやるつもりもなかったんだ。
その不条理を踏んでなお手伝うことにした俺が、どうしてこんな雑な扱いをされなくちゃならない。
この世界の住人どもはべメリスさんを除いて常識というものがないんじゃないのか?
「言いたいことがあったらはっきり言ってくれないかな。もちろん内容次第で処分が決まるけど」
にしても“処分”とか普通に言ってる人間の前で不満を漏らすわけにもいかず、ただ首を横に振るしかなかった。
「じゃあ行くよ」
そうして俺達は“心の準備”が要るほどの、古びた建物の中へ入った。
そして入った途端変な匂いがした。それこそ変な、薬品のような臭さ。
その小さな空間でエティーヤは何ともなく壁を漁って手探りで何かを探している。
間もなくかちゃっ、という効果音とともに地面の瓦礫が割れ、階段が現れた。
「なんだこれ!」
あれか!? ダンジョンなのか!? ファンタジー世界に欠かせられないあの魔窟なのか!
エティーヤは不安と好奇心で戸惑う俺を哀れな視線で一瞥したらどんどん進んでいく。
その後ろに続いて階段を下りると、薄暗い廊下ができていた。
怖くないといえばうそになる状況で、絶対何か罠があると思わせる道のりだったが前方のエティーヤが特にこれといったそぶりを見せなかったので、俺はおとなしく歩いた。
数分歩いたところ、左曲がりの角でエティーヤが立ち止った。
そして右側の石垣叩くと前方の壁が開いた。
「なるほど……」
これは普通に左曲がりに見せかけて本命の部屋を正面に隠したんだ。
確かに、こうすれば少しは見つかり難くなるだろうな。
「うぐっ」
開いた秘密部屋に入る途端広がる匂いが、すでに変な薬品の匂いに侵された鼻の穴を上書きしてきた。
暗い部屋の中は天井から長い暗幕があちこちにぶら下がって視界を邪魔している。
全体的な広さは結構ありそうだが、部屋として使えるスペースは俺たちが歩くこの真ん中ぐらいだった。
暗い部屋を少数の薄いランターンだけがあっちこっちを照らしていて、印象としては現像用の暗室に近かった。
部屋の奥にたくさんの書籍とガラス製の容器で埋め尽くした長い机がある。それに一つの人影が見えた。
「おー、エティーヤじゃん。久しぶりだね」
椅子をがらっと回して背板に掛かった小さな女の子が適当に手を振る。
地面を引きずるくらい長い紺色のローブを着ていることと小柄の体型から、少なくとも力仕事をしてそうにはなかった。
その少女は俺を一瞥して、興味なさそうにエティーヤを向いた。
「仕事よミヤ。例の件でね」
挨拶もなしで本題に入るエティーヤの言葉にミヤと呼ばれた少女は目を丸くする。
「れいのけーん、?って。さてはて、ミヤちゃんはなんのことかさっぱりだよぉ?」
初めて見た俺でさえわざとやってる小芝居だってわかるくらい、彼女は適当に体を揺らしていた。
「……冗談はやめてもらえるかな。半年前、リビと一緒に来たあの件よ。あなたみたいな天才がそれを忘れたとは思えないけど」
後方の言葉がどうも褒め言葉には聞こえなかった。
二人の関係がどんなか俺はわからなかったが、一つだけ確実だ。
絶対友好的な関係ではない。いい線いってビジネスパートナー。
その真中にあの宿の主がいる。
それでもなお、少女は知らんふりを続けた。
「だーかーらー、それがどのような仕事なのか、ミヤちゃんは、わからないのだよ」
はっきり言ってくれないかな?と、含みのある言い方でエティーヤに言いつける。
小柄な少女とは思えない威圧感がそこにはあった。
エティーヤは諦めたのか、形相を変えて言い放った。
「密入国の仕事よ」
すると暗い部屋に籠もった薄汚い空気を少女の声が切り裂いた。
「にゃははははははっ!!! 本当に言っちゃったよこのバカ!」
いきなり響き渡る笑い声に状況がつかめない俺に初めて少女が声をかけた。
「ねえねえ、そこのあんたも聞いたよね?! このロワイヤン国立魔法研究部の首席魔法使い、ミャスティー・テコ様の前で密入国の依頼とはいい度胸だよー!」
え? 国立魔法研究部? つまり王国のお使いなのか?
おい、それって国家警察に共犯になってくれってお願いしてるのと一緒だろ!
凄まじい勢いで警備隊長から直々に首を締められたあの日の思い出が蘇った。
「な、何考えてんだよ! この子国の使いだろうが!」
「にひひひっ! そうだよ~? ミヤちゃんは墨付きの国のお使いでーす」
「ど、どうする! どうする、エティーヤ!? エティーヤさん!? エッさん!?」
「何勝手に名前略してるの。私の名前も気安く呼ばないでもらえるかな」
そんなこと言ってる場合か!? このままだと俺はまた捕まって眼鏡おじさんの出来の悪い刑事ごっこに付き合う羽目になるんだぞ!?
あ、そうだ。訪問証を元に戻して逃げるーってまだ夜の魔法がかかっていない!
しかし助けを求める子犬のようにエティーヤを見つめても彼女はただ鬱陶しさに患わているようにしか見えなかった。
「何考えてんだよ、リビのやつ! 国の使いが犯罪手伝うはずがないだろうが!」
「ん? やるよ?」
その予想外のセリフはついさっきまで自分を王国の使いと紹介した少女の口から出ていた。
「……は?」
唖然としている俺を残してエティーヤはとぼとぼ歩いて少女と対面した。
そしてポケットから紙類やら小物やらを取り出しミヤに渡した。
「何が楽しいんだか」
「にひひっ、楽しいよ~? やはり人をからかうのは面白い! あんたはバカだし相変わらずだけど、そのお兄ちゃんに楽しませてもらったから、ミヤはまあまあに満足です」
え? 俺?
「よかったね。あんたを連れてきたかいがあったよ」
ぽつんと一人取り残された俺は、それ以上、仕事の話を進めるエティーヤとミヤの視界にとどまることはなかった。
隠れ部屋での商売算段を終えた帰り道で、俺は考えずにはいられなかった。
この仕事、俺全然いらないだろ。
それをエティーヤに言いつけるかと思ったが、当然のように肯定されそうでやめた。
俺、要らないだろ!と聞いてああ、あんた要らない。って言われたらどのみち負け犬は俺だけになる。
リビのやつ、なんなんだ一体。無職に対する憐みでもあるのか?
配当なしじゃただのいやがらせなんだけどよ。
「しかし、あんたがバカで助かったよ」
いきなり何を言うかと思えば、エティーヤは普通に人を貶してきた。
「はいはい、俺はバカで役立たずですよ。思う存分叩いてくれ」
俺の嫌味が答えたのか、エティーヤは歩きを止めた。
「違う。あんたは十二分役に立ったよ。あの子の機嫌を取るのがこの仕事で一番難関だったから」
おかげで他の方法を使わずに済んだ、と。
エティーヤは俺に頭を下げた。
「え、え?」
この世界で頭を下げる行動にどんな意味があるのか俺はわからない。しかし俺から見れば頭を下げるとは相手に普通に礼を示しているという行為で、つまり。
彼女は俺に今、感謝しているのか?
「ちょ、あのな、頭を下げるのかどんなことかわからないからやめてくれないかな」
「そうね。あんたはよそ者だしね。どの町から来たのかはわからないけど、とんだ無礼なところかな」
「おい、普通にあるけどね? 俺の国では頭を下げるってことは相手に礼を表したり謝る時だけどね?」
つまりお前は今両方の意味で頭を下げなくちゃならなくなったってわけだけどね?
「じゃあ同じだね。私は今、あんたにお礼を言っているんだよ」
「お、おう」
なんか、こっぱずかしい。
ここ最近、お礼を言われたことがあったのかと。
しかしバカで助かったとか、そんな嫌味にしか聞こえない言葉を喜ぶのもなぁ。
そして次の言葉が俺を困惑させた。
「本当、あんたがあそこでバカみたいにあわてなかったら、あんたを渡すしかなかったとこだよ」
「え? それってどういう意味?」
頭の中でク疑問符が盆踊りのパレードを広げた。
「簡単なことよ。あの子は仕事絡みでもそうだけど、もともと身体を弄ぶのが趣味でね。あれで機嫌を取れなかったら、多分上部にバラすことはなかったとしても、仕事を受け入れてくれなかったでしょう。その時はお土産としてあんたを」
「ちょっと待て」
整理する必要がある。
俺を渡す、というのも理解しがたいけど「仕事絡み」で「身体」を「弄ぶ」のが、趣味だと?
あの小柄な少女が、そんなことを好んでやっていると……?
俺は決してロリコンではない。どっちかというとボインボインのメガネ巨乳が好きだ。
だがしかしそれは本当に俺の趣向なのか? もしかして世界の理に、法律に捉えられ、自分の欲を抑えているだけではないのか?
ここは異世界だ。俺の住んでいる世界ではなく、俺の知っている常識をここに押し付けるなど、傲慢のほかならない。
リビという「前例」だってある。この世界ではああいう仕事の正当性が通っているかもしれない。
だとしたら俺は、これで満足していいのか。
今ならまだできるかもしれない! 目指せ合法ロ…。
「あんた……今とても気持ち悪い顔してる」
「こ、こほんこほん! えーと。それで? その、コホン! ……ミヤちゃんって、どんな仕事してるの?」
俺はなるべく平然を飾って、なんの思惑も感じさせないよう、ジェントルに聞いた。
そして何を今更という感じでエティーヤが答える。
「遺体管理人よ」
続き続き