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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鈍感少女

作者: 雅樹

書きたくなったので


 

 青空の下、メイド服を着ながらたくさんのシーツを手際よく干す。

 すべて綺麗に干し終えると気持ちいい風が動いて火照った体を冷やしてくれる。

 

 

「よし、これで洗濯も終りょ…。」

「リアお姉さま!またこんなことをなさっているのですか!!」

「げっ!り、リズ…。」

「げっ!ではありませんわ!」

 

 満足気にしていた気分も一転、振り返ってこちらにやって来た義妹の姿と言葉に見つかってしまったというように顔をしかめる。

 側にやって来たリズは腰に手をあて、頬を膨らましながらこちらを見上げた。

 

 リズベル・フィアット侯爵令嬢。

 絹糸のような美しい金の髪と明るい空のような天色(あまいろ)の瞳をもつ、天使と称されるほど可愛らしいという表現がよく似合う少女。

 ここ、イスラ王国の侯爵家でも筆頭の地位にいるフィアット侯爵家の令嬢で正真正銘のお姫様。

 本来なら平民だった自分とは関わりがないような存在。

 なのにとても私になついてしまっている義理の妹。

 未だに何故自分をこれほどまで慕ってくれているのか分からない。

 

 

「侯爵家のお姉さまがこんなことをしなくてよろしいのですのに何故毎日毎日メイドの仕事をなさっていますの!?」

「や、だって私は妾の娘だし…。お世話になってるし、それにリズに姉と呼ばれるような立場じゃ…。」

「何を言ってますの!お姉さまは(わたくし)とちゃんと血が繋がっていらっしゃるではないですか。妾の娘がなんです、母様も父様も自分の娘として受け入れたのですからお姉さまも慣れてくださいませ!」

「え、えぇー…。」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 私の母は平民で侯爵領の宿屋の娘だった。

 勝ち気で男勝りな性格、誰に対しても愛想が良く、皆から好かれていた。

 まだ侯爵家次期当主という立場であった父が身分を隠して領の視察に来たときに見初められた―父の一目惚れ―らしい。

 そして、その時婚約者で同行していた現夫人も何故か気に入られたとか。

 

 母は元々結婚願望などはなく、私の祖父母も好きにさせていたという。

 なのに突然やって来た整った顔立ちの明らかにお忍びの貴族というのが丸分かりの父のアプローチを嫌がっていたという話は祖父母から聞いていた。

 しかし、何故か婚約者である現夫人も協力し始め、今までにないことに疲れきっていたらしい。

 

 そんな弱ったところを父に優しくされ、流れで一夜を共にしてしまったことに母は逃げた。

 眠る父の横から、実家である宿屋から。

 すぐに父と夫人が探したらしいが母は見つからず、二人は祖父母に本気で長年謝り続けたらしい。

 

 しかし、大変だったのは母だ。

 一度の交わりで身籠った。

 それも貴族の子供を。

 

 父に似ていたらどうしようという不安はあったが、折角できた我が子。

 母はひとりででも産んで育てようと決心し、侯爵領でも侯爵家の目があまり届かない小さな町で母は私を産んだ。

 

 運の良いことに私は母に似た。

 母と同じ明るめの青灰色の髪に灰色の瞳につり目がちの目。

 成長すれば母と並べば姉妹のようだと間違われるほど似ていた。

 

 私が知る母はとても元気だった。

 私を産んだはずなのにスタイルは良く、男勝りな性格は相変わらずで周囲にもすぐに溶け込んでいた。

 

 それでも流行り病には勝てなかった。

 

 

「私の可愛いリア。貴女は貴女の好きなように生きて幸せになりなさい。」

 

 

 病気でも元気であったが、最後はそんな言葉を残して眠るような亡くなった。

 私がまだ十歳の時だ。

 

 母が亡くなる前に初めて祖父母に会った。

 自分の死期を感じた母が連絡して住んでいる町にやって来てくれた。

 孫である私の存在を喜んでくれた。

 

 

「大丈夫だよ、私達がお前をひとりぼっちにはさせないから。」

「だから、泣きなさい、リア。子どもは我慢するものじゃないわ。」

 

 

 母が亡くなったときの祖父母の言葉。

 私は二人に抱きついて大声で泣いた。

 

 それから母を埋葬してから生まれ育った町を祖父母と出た。

 向かったのは母の生家である宿屋のある街。

 街に着いてからは祖父母のために精一杯働いた。

 体を動かすことは好きなため、周りが思春期の時期を思い思いに過ごしていても私は働き続けた。

 

 気づけば周囲の年の近い子達が結婚していく年齢になったが焦ることはなかった。

 自分の複雑な出生を祖父母から聞いているから、結婚なんて興味もなかった。

 

 でも、自分が成長すると同時に祖父母は年を取っていくわけで…。

 

 

「ごめんなさいね、ひとりぼっちにはさせないって約束したのに…。」

「寿命には勝てんか…。すまんな、リア。」

 

 私一人を残すこと心配して泣く祖父母に私は最後まで笑い続けた。

 泣いて困らせてしまうのは嫌だったから。

 

 

「じいじ、ばあば大好きだよ。私のこと育ててくれてありがとう。」

 

 

 そう言えば本当に本当に嬉しそうに祖父母は笑ってくれた。

 それが祖父母の最後だった。

 

 近所の人達に手伝ってもらい、祖父母を埋葬してから一人、祖父母のお墓の前で声を殺して泣いた。

 

 

「キミは…クレアの…。」

 

 

 泣いていた時に聞こえたのは母の名を言う驚いたような男性の声。

 顔を上げ、ゆっくりと振り返れば三人の貴族と思われる夫婦とその子供が立っていた。

 

 本来なら涙を止め、頭を下げなければならない相手だが、母に続き祖父母まで亡くした自分にはそんなことをする余裕もなく、涙を流す。

 

 

「母さんの知り合いですか…?」

 

 

 聞けたのはそれだけ。

 急に体の力が抜け、その場に倒れる。

 意識を失う間際に見えたのは心配そうな顔で慌ててこちらにやって来る三人の姿だった。

 

 


 目を覚ました時、最初に視界に入ってきたのは隣で眠る可愛らしい少女。

 しっかりと私の手を握り、そのまま抱き締めて眠っている姿に訳が分からず固まってしまった。

 

 

「お目覚めになりましたか?リア様。」

「っ!?」

 

 眠っている少女の後ろ、ベッドの側に立っていたのであろうメイドの声に驚いて漸くそこに人がいたことに気づく。

 少女のインパクトが強すぎて周りが見えていなかったのだ。

 

 そのメイドの私の様子を気にすることなく、眠っている少女を優しく揺すって起こしていた。

 

 

「ん、んー。…なぁに?」

「リア様がお目覚めになりましたよ、お嬢様。」

「お姉さまが!!」

 

 

 その見た目に似合わず勢い良く起きた少女はずっと固まっている私を見れば(かんばせ)を綻ばせた。

 

 

「お目覚めになったのですね、お姉さま!」

「お、お姉さま…?」

「はい!」

 

 

 どういうことか分からずにいると部屋の扉がすごい音をたてて開くと気を失う前に見た貴族の夫婦が髪も服も息さえも乱して入ってきた。

 

 

「目覚めたとは本当か!?」

「目覚めたのね!?」

「旦那様、奥様、落ち着いてください。リア様が驚いて固まったままでいらっしゃいますから。」

 

 

 メイドからの注意に夫婦は目に見えて落ち込む。

 立場逆転してない?なんて思ったが口には出さなかった。

 

 それから落ち着いた夫婦から聞いた話によれば私はこの旦那様の娘でずっと彼らは母の行方を探していたということ。

 つい先日に祖父母が私のことをこの夫婦に知らせていたということ。

 

 

「君を我々の娘として籍をいれるためにいろいろしていたら迎えに行くのが遅くなってしまった。」

「ごめんなさいねぇ、もう少し早くに迎えに行く予定だったのよ。」

「お姉さまに会えて嬉しいです!」

 

「は?」

 

 

 三人の言葉に私はそんな言葉しか返せず、脳の理解を越えたのか私はまた気を失った。

 次に目を覚ました時、私は平民のただのリアではなく、ロベルト・フィアット侯爵の娘、リア・フィアットになっていて、美男美女な両親と可愛い妹ができていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「お姉さま!きいていらっしゃりますか!?」

「えっ!?あ、ごめん、聞いてない。」

 

 

 現実逃避のため、過去のことを思い出していたが、義妹の声に我に返れば素直に謝る。

 自分を慕ってくれる義妹にはどうも敵わないためだ。

 

 

「もう!もう一度言いますわね。父様も母様もお姉さまに好きにしても良いと確かにおっしゃいましたわ。でも、何故メイドのお仕事なのですか!(わたくし)はもっとお姉さまと一緒の時間を過ごしたいのに!」

「いや、だってさ、社交界にも出なくて良い、政略結婚もさせないから好きに生活してくれて構わないって言われても貴族様の生活なんて分かんないし、なら出来ることしようかなーって。」

「分からないことは(わたくし)と母様が手取り足取り心を込めてお教えしますと言っているじゃないですか!」

「いや、もう二十歳の行き遅れに二人の大事な時間を使わせるのも申し訳ないし…。というか、どっかの後妻に放り込んでくれて良いんだよ?そうすればリズとかの役に立てる…。」

「お姉さまを何処かの後妻になんて私達がするわけがありませんわ!お姉さまは私達とずーーーーっと一緒にいるんです!」

 

 

 リズの迫力に体が無意識に下がる。

 そう、侯爵家の人達は何故か私を可愛がるのだ。

 両親と義妹を中心にメイドや執事などからもとても優遇されている。

 両親と義妹に至っては溺愛といっても間違いないほど構ってくる。

 

「いや、それば無理だろ。リズは第二王子の婚約者なんだし、結婚したら城に住むわけだし…。」

「問題ありませんわ!毎日お姉さまに会いにここに来るつもりですもの。」

「なんで!?」

「お姉さま成分が足りなくなるからです!もしアスラン様―第二王子―かお姉さまを選べと言われたら(わたくし)はお姉さまを選びますもの!」

「それ駄目なやつだろ!!」

「駄目なんかじゃありませんわ!」

「じゃあ、お姉さんも城に住めば良いんじゃないかな?」

「っ!?」

 

 

 突然会話に混ざってきた少年の声にそちらを向くと最近よく会う高貴な身分のリズと同い年の第二王子が立っていた。

 

 金髪碧眼という見目麗しい第二王子の姿に普通の令嬢であればため息を漏らしながらうっとりとするであろう。

 何度見ても爽やかな印象を受ける。

 

 私は慌てて礼を取ろうとするが義妹に止められ、義妹は第二王子と彼の後ろにいる青年をを睨むように見ていた。

 

 

「あら、アスラン様。まだ約束のお時間ではない気がするのですが?それに、何故、病弱設定(・・・・)のために表に出ることのない第一王子のキール様がご一緒なのでしょう?そんな連絡は受けておりませんが?」

 

 

 第一王子という義妹の言葉にアスラン王子と一緒にいる青年を見る。

 アスラン王子とは違い黒髪碧眼のキール王子は何処か儚い印象を思わせる雰囲気を纏っていた。

 

 

「たまには驚かせようと思ってね。それに君の溺愛するお姉さんとも話したかったし。」

「残念ですが王子方にお姉さまとお話する機会など今後もありませんので。というか、お姉さまが穢れるので見ないでいただけませんか?」

 

 

 そう言って私を隠すように前に立つリズだったが身長的に私が大きいため隠れるはずもない。

 というか、リズ…、王子にそんな口を聞いて駄目なんじゃなかったっけ!?

 

 

「婚約者に向かって穢れるはないんじゃないの?リズ。」

「あら、何か問題でも?」

「君以外がそんなことを言っていたら罰を与えなきゃいけないところだよ?」

「いえいえ、アスラン様に失礼を働く(わたくし)にも罰を与えるべきですわ。そうですね、婚約破棄なんて妥当ではな…。」

「婚約破棄は絶対にしないからね?リズ。」

「ちっ…。」

 

 

 …今、可愛い義妹から聞こえたのは舌打ち?

 目の前の光景が信じられず、誰かに助けを求めようと視線をさ迷わすとキール様と目が合う。

 

 彼は目が合った途端、何故かとても嬉しそうに微笑んだことで余計に混乱したのは言うまでもない。

 

 

 

 後日、何故か私に第一王子の婚約者になってほしいという書状が王から届き、それを見たリズと義母が怒りながら王宮に抗議をしに行き、書状を読んだ父が本気の声で爵位も領地を返上し、隣の国に行くなんて呟き始めたり。

 

 世間で自分が“雲に隠れてしまっている月の女神”なんて呼ばれていると初めて知ったり。

 

 何処かで話を聞きつけた留学中の隣国の皇太子が父に隣国に来るのを進めつつ、私を妃に欲しいと言って父を激怒させたり。

 

 リズが婚約破棄をして同性が結婚できる国に行って私と結婚するとか言い出したりといろいろな出来事が起きるが、それはまた別のお話。

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