美少女は墓を荒らす
俺の異世界生活、チート武器やら眠っていた俺の潜在能力が突然覚醒し、魔物を狩り、変で個性的な美少女たちに囲まれてドタバタでちょっとエッチな事もある、そんな素敵なファンタジーライフが待っている筈だった。
のだが、そうもいかなかった。
俺に与えられたチート武器は盗賊ギルドに奪われ、その武器はラスボスの手に渡り。あろう事かラスボスは機動戦士なる巨大ロボット兵器をも持っていたのだ。俺はそんなボスを倒し日本へと帰り、俺をこの世界に追いやった不良連中にささやかな復讐をしなければならない。
あ、そうだ。俺はそのラスボス、将軍の居る要塞の牢獄に閉じ込められてて、俺の物だったチート武器、魔剣ゼロの切っ先が迫って――――――
「はぁッ!」
いきなり目が覚め、辺りを確認しようと起き上がろうとしたが自分を見下ろしているエルに気付き、上げた頭を下ろし、今自分はエルに膝枕されているのだと理解する。
「目が……覚めたっ!」
俺の顔を見るなり涙をためたエルがギュッと抱き着いて……!? あれ!? そうだ、エルは可愛い女の子でヤバい、良いにおいする!
「よかったああああああああ! 傷は急速治癒で治ったのに起きないからぁ! 心配したんですよおおおおお!」
「バカーっ! 抱き着くなぁ! ヤバい! 柔らかいって! 顔に胸乗ってるから!」
「すけべええええええ! でも元気でよかったああああああああ!」
何なんだ全く、まぁ中々に嬉しい状況だし俺の事心配してくれるくらいには優しいみたいだし、落ち着くまで待ってやるか。
HAHA! やれやれだぜ☆
「ここはどこでしょう」
落ち着いたと思ったらエルはこんな事を言い出したではないか。俺から離れ、俺も立ち上がって辺りを見渡す。牢獄では夜だったのに今はすっかり明るくなって、何だここ。墓地じゃん。俺達十字架に囲まれてわんわんやってたのか。
「なぁエル……俺ゼロの切っ先が目の前に迫ったところまでしか覚えてないんだけど」
「ああ、そりゃあなたは首刎ねられて、ミサイルの爆風で私と一緒に気が付いたらここに」
ええええええ俺ってば首スパーンされたわけ!?
「あ、そうだ。要塞! 要塞は?」
「あそこです」
エルが指差した先、雲の上までの高さがある真っ白な山、どうもあれがスティア山脈であそこにアベル要塞があるようだ。
「あー……どんだけ飛ばされたんだよ。つか、将軍の部隊は? 俺達を追撃とかしないわけ?」
「多分まだ私たちの事なんて把握してないんですよ。それより、私たちは確実に将軍の勢力圏に居る筈です。脱出しなければ」
「脱出も何も、もう障壁は無いんじゃないか? お前は天界に帰ればいいだろ」
「そ、それが……」
困ったようにエルは後頭部を撫でながら
「機動兵器をルーシアに持ち込まれた責任を取れって、あの機動兵器を片付けるまでは天界に戻れなくて……てへへ」
「てへへじゃないだろ……どうするんだよ。武器だって失くしちまったし」
今の俺達は白の囚人服、持ち物は無しだ。俺が見張りから奪った剣も恐らくは爆風の衝撃でどこかへ。
「あ、武器はありますよ」
とエルはどこかからゴソゴソと黒い鞘に収まった刀を取り出し、俺に渡してきた。
「どうぞ、抜いてみてください」
「あ、ああ」
刀を抜いてみると刀身には『零式』とか書かれている。何だよ、零式って。
「これは?」
「何か埋まってないかってお墓を荒らしてたら見つけたんです」
「バカかお前は! 何墓を荒らしとんじゃこの罰当たりが!」
「しょうがないじゃないですか! 持ち物ゼロですよ! 背に腹は代えられないじゃないですか!」
「人としての最低限のやっていいこと悪い事があるだろうが! ほら、お前が墓を荒らすから死者が蘇って来てるだろ! ……ん?」
墓を指差し、よくよく目を向けると地面から出て来た死体達。
「このおバカがああああ! 死者が蘇っちゃったじゃんか!」
「刀! その刀でばったばったとアンデットを倒してくださいよ!」
「人任せかお前は! ったく、離れてろ」
エルはささっと離れ、アンデットたちは数が出そろうと俺の方へ走ってくる。意外に足が速い、さっきまで気を失ってたとは思えないほど俺の身体は軽く、戦闘のアンデットの拳を避け、それはまるで舞っているかのようにアンデット達をばったばったと倒していき、最後の一体の首を左に一閃、アンデットの首が空高くに舞い上がる。
「おおお! 中々カッコいいですよ!」
おおっと、俺がカッコよく刀を鞘に納めたら後ろからアンデットを呼び出した張本人がまるで他人事だ。さて、どうしてくれようか、この天界の契約社員を。
「うんうん……ってあれ? どうしたんですか私の目の前で怖い顔をして。……まさか、私が可愛いからってヒドイ事する気ですか!」
「おうおう、してほしいなら本当にお望みどおりにあんな事やこんな事してやろうか」
「や、止めてください。確かにルックス、プロポーションには自信がありますけど」
「何もしねーよ、ったく。なんてナルシストだよ、お前絶対女子から嫌われて孤立してたタイプだろ」
「ちょ! なんて事言うんですか! ……否定できませんけど」
冗談で言ったのに否定できないのかよ。
「はぁ……まぁいい。とりあえず移動するぞ」
「あ、はいはい」
と、エルは俺の左手を握ってくる。おおっと、ドキッとなんてしてないぞ。
「どうして、手を握るのかな?」
「私、怖がりなんで」
あ、ちょっとその恥ずかしがった感じすごく可愛いです。