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ルーシアに飛ばされました  作者: 岡田祐介
第二章 異世界ルーシア
6/10

ザコ装備でラスボス前へ

 辺りが暗くなるのは早かった。さっきまで明るかったかと思えばあっという間に夜が訪れ、街に明かりが灯る。露店通りに並ぶ店では陽気な連中が酒を飲み、騒ぎ、誰も旅初心者な男とメイド服の少女を気に留めない。まぁルーシアは変な格好してる奴多いし、俺たち二人じゃ注目の的にはならないか。


「コゼット、お前は俺が必要としてる情報を教えるって言ったな。俺の事をどこまで知ってるんだ」

「この世界の人間じゃない。それに天界と通じてる」


 驚いた。俺が異世界人だと見抜いた上、天界の事も知っていたのか。


「一応魔王だから。……脅威となり得た者の事は見えてたから」


 脅威に成り得た、まぁ魔王って役職から落ちた上、異世界人はちょっと戦える程度の旅初心者。脅威もクソもないか。


「で、浩一。何が訊きたい?」


 何が訊きたいか、と言われても。俺のやるべき事は魔王なきバラッド将軍勢力との和解。だが、そんな事が出来るわけがない。


「俺のやるべき事はバラッド将軍勢力との和解だ」

「無理だよ」


 だろうな。


「魔剣ゼロは天界最強の武器。まだ将軍は完全には使いこなせてはいないけど、その状態でも圧倒的」

「でもやらなきゃならないんだよ」

「はっきり言うけど、将軍は完全に人を滅ぼすつもりだよ。和解なんて絶対にあり得ない」

「……じゃあ、将軍を倒せば解決するのか?」

「しないよ。将軍が居なくなっても魔族は人間と戦う事を止める事は無い」


 話し合いで解決できない、じゃあ全滅させるしかない。俺はこの世界に留まりたくないからな、ビビって隠れてるなんてしてたって将軍勢力が人を圧してしまえばとんでもない事になってしまう。


「ねぇ、浩一が将軍勢力と人間を和解させようとしてるのって、浩一が異世界人だって事と関係あるの?」

「ああ。俺はそれをする為にこの世界に送り込まれたんだ」

「そうなんだ……」

「でも和解が無理なら、将軍勢力を潰すしかない」


 無言で頷いたコゼット、俺はチラと横顔を盗み見ると複雑そうな表情を浮かべている。


「バラッド将軍を倒すにはどうしたらいい?」


 複雑そうな表情を浮かべているコゼットに訊くのは酷かと思ったが、天界が使えない以上こいつに訊くしかない。


「将軍は西のスティア山脈、アベル要塞に居る。将軍を倒すならそのアベル要塞に攻め入るしかない」

「将軍は要塞から出ないのか?」

「今は人間から奪った勢力圏維持でかなりの軍を動かしているから、将軍は大人しく要塞に籠ってる」

「将軍はいつごろに動き出す?」

「自分を脅かすものが現れれば。それに、将軍には弱点なんてものはないよ」


 こいつの口ぶりからして裏技なんてのは無いんだろうな……。寝ているスキを突くとか、四方から同時強襲とか。あ、弱点が無いんだっけ。


「あと将軍は新兵器の開発を急いでるの」

「新兵器?」

「うん。元々は異世界から流れ着いた兵器だったけど、それを元にした新兵器。見つけた時、あたしは回収に反対だったけど、放っておけば人の手に渡ってしまう。残虐さには人も魔族も関係ないから」


 どんどんバラッド将軍攻略計画がやっかいになってくな。


「俺が将軍を倒すとして、時間的な猶予は?」

「どうだろう……何とも言えない。正直言って、将軍が一気に動けば今の状態でも更に人から土地を奪える。それをしないって事は人との戦いを完璧にしたいって事だから」


 はぁ、溜息しか出ない。時間を掛けたいところだが、そうすれば将軍の準備が完了してしまう。それに急いだとしても今の俺に何が出来るか、将軍勢力の勢力圏に入れたとしても、俺より強い敵がゾロゾロ出てくるだろう。


「まぁ、この位でいいか。で? コゼット、お前はどうするんだ? 俺はお前の仲間達を倒そうとしてるんだぞ」

「どうすればいいんだろう」

「元つっても魔王なんだろ? 俺を殺すくらい造作もないんじゃないか?」

「今のあたしにそんな力ないよ。……追い出される時に全部をバラッド将軍に奪われたから」


 じゃあただの小娘ってわけか……まぁ、俺が魔剣を奪われたのがそうなった原因の一つなんだが。それに罪悪感……はないな。うん、魔族って基本的だし。さ、俺はさっさと新しい武器の調達に行くかね。と立ち上がった瞬間だった。


「失礼」


 と、茶髪に赤い瞳、黒のコートを着た男が目の前に立っていた。なんてビジュアルだ、どんなアニメに影響……いや、イケメンだから絵になるな。なんかムカつく。


「君はあのクーデターを企んでいたドールさんを捕えた者だな?」

「それが?」


 男は困ったように笑い、口を開く。


「全く、厄介な事をしてくれたよ―――」


 最後に見たのはさっきと同じ男の困ったような笑い顔、視界が急に真っ暗になった。





 視界が明るくなったと思ったら……


「くさッ! くさすぎ!」


 なんじゃここは! 俺が居たのは街の露店通りだろ!? どこだよ! ササッと辺りを見渡す。目の前、鉄格子。高い天井の窓から差し込む月の光、夜になってるし。で、月の光の差す床を見ると椅子に縛り付けられた白骨化した人間。


「あああああああああッ! なんじゃこりゃあああああああ!」


 叫ばずにはいられない! 通りで臭いわけだ! しかも白骨死体の周りはスプラッター映画で見たような血糊! つか、俺の両手に手錠してあるし! しかも六千万ウィルの引換券が入ってたはずの旅衣装から白地の囚人服っぽいのに変えられてるし!

 やべぇって! 今回ばかりやべぇって! このままじゃこの白骨化した死体の様に……いや、俺は不死で傷がすぐに再生する、絶対に拷問されて一生サンドバックだって! んな事になってたまるか!


「うおおおおおおおおお! 手錠! こいつぅ! 外れろおおおおおお! 外れねぇええええええええええええええ………あれ?」


 何か一人で両手を上にあげて騒いでたら手錠がパカーンと外れたではないか、俺のパワー? いや手錠は何か木製だし弱ってたのか。よし、後は。俺は目の前の鉄格子を睨み付ける。

 俺はジャッキーだかブルースなんだか的な「アチョー」な左足で鉄格子を蹴ると、なんと鉄格子は簡単に吹っ飛んでいった。


「あれ……? 何か騒いでたのがバカみたいなんだけど。手錠も鉄格子も簡単に外れたんだけど」


 廊下? 通路? 俺が居た牢屋らしきところから出て見ると、壁のロウソクが一気に灯った。何だ、まるで俺が逃げ出すのを分かっているかのように。


「どこだここ……」


 何かロウソク灯って壁も血まみれだし……絶対悪魔の城とかそう言う類だろ?


「この声は……! もしかして浩一ですか!?」


 んんん!? この声は! 俺は声のした二つ隣の牢を見て見ると、薄暗い牢の中、鉄格子を掴むエル! 


「何しとんじゃ貴様ぁッ!! 天界に戻ってスロットかましてたんじゃないのか!!」

「あっという間に五万すってすっからかんですよっ! それより助けてくださいよ! 魔王に接触したあなたの様子見に来たらこんなとこに閉じ込められちゃったんですよ!」

「バカかお前は! 天界の奴だろ! 武器とか持ってないのかよ!」

「契約社員に何求めてるんですか! 武器の所持が認められるのは現地赴任の正社員だけですよ!」

「つか、その鉄格子簡単に壊れるから! さっさと外して出てこい」

「外れませんよ!」


 言いながらエルは手錠掛けられた手で鉄格子をガチャガチャさせるが、あれ? 壊れないの? どれ。と俺が鉄格子を蹴ってみると簡単にぶっ壊れた。


「簡単に壊れるじゃん」

「それは、あなたが身体強化されているからですよ……手錠」


 牢から出てきたエルは俺に両手を差し出す。


「……外してくださいは?」

「はぁ? 何ですか? 上から目線ですかっていひゃいいひゃいれふ!! わかりまひぃひゃ! はゆひひぇくやひゃい!!」

 

 頬を抓ってみるとエルは簡単に俺におねだり、って何かこのシチュエロいな。いや、まぁいい。「ほれ」と手錠に手刀を落とし、パカーンと壊してあげる。


「ふぅ、やっと自由です。どこなんですかここ?」

「それはこっちのセリフだっつの」

「どうします? 逃げた方がいいんでしょうけど、ここの構造が分からない以上動き回るのはかえって危険かと」

「だな……。だが見た感じ牢屋いっぱいあって牢獄って感じだし、大人しくしてちゃまた牢に逆戻りだぞ」


 と、俺が言って通路の角に目を向けた時だった。見張りらしき二足歩行するワニに見つかった!


「なっ! どうやって逃げた!」


 俺達を見てワニは腰から剣を抜き、走ってくる。


「わああああああ! ワニが二足歩行してます! キモイ!」

「黙ってろバカ!」


 左手でエルを後ろにやり、その勢いのまま右足でワニの足を払い、顎を蹴り上げ剣を奪い右手に。そしてワニが体勢を立て直す前に剣を持つ右手の甲で顔を殴り、上手い事ワニの両腕を背中で押さえつける。


「答えてもらうぞ、ここはどこだ!」

「おおおおお! カッコいいですよ! カッコいいですよぉ元引きこもり!」

「やかましいわ! で、答えろワニ野郎! ここは!」


 ここは、とワニはゆっくりと


「ここは……スティア山脈のアベル要塞だ」


 ん? んんんんんんんんんッ!? スティア山脈のアベル要塞だと!?


「あれ? 知ってるんですか? そのなんたら山脈なんとか要塞って」

「お前は把握してないのかよ! 俺の魔剣を奪ったバラッド将軍の根城だよ! 俺達は今、ザコ装備でチート級ボスの根城に来ちゃってるんだよ!」


 ちょっとの間をあけて、段々とエルは目を見開いて


「えええええええええええええええええええ!」

 

 と、大きく叫ぶのだった。

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