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ルーシアに飛ばされました  作者: 岡田祐介
第二章 異世界ルーシア
5/10

元魔王と戦車と……

 えっと? コンビニのおにぎり二つ、防御力は皆無であろう旅衣装。それに安っぽい刀。金は三千ウィル。ウィルってのは通貨の単位らしい。日本円にすると三千円で、まぁ上手い事数えられるらしい。便利な事ですな。

 さて、俺が所属したギルド・レニアスがある街はニューベリーと言うらしい。俺はてっきりルーシアは国境など無く、人類は人類で纏まっていると思いきや俺がいるのはレイスメイアという国らしい。そして、ニューベリーはレイスメイアの中でも首都に並ぶ大都市らしい。

 らしいらしいらしい、はっきりと自分で調べたわけじゃなくエルに訊いたので、らしいになってしまうな。

 ちなみに、街に入った時は憲兵に睨まれたが、出る時は睨まれなかった。どうもエルによると俺の着ていた黒ローブは魔の証とかなんとか、疑われていたようだ。


「コゼットはあの豪邸の馬小屋だったな」


 街を出てすぐ、その豪邸は姿を見せてくれた。豪邸の周辺には家畜がおり、その家畜たちが逃げ出さない様に柵がしてあり、畑もある。そこでは使用人らしき人間がせっせと働いている。

 俺は何でか許可も取らずに馬小屋に乗り込んでいた。しかしそこにコゼットの姿は無く、小屋を出て辺りを見渡す。あの可愛さだ、いればすぐに分かるのだが……どこにいるのだろう。

 さて、今の俺はどんなだろう。安物装備で固めた男が豪邸の敷地内を歩き回っている。無許可で……。ここでこうしていればきっと怪しんで屋敷の人間が


「貴様、俺の屋敷で何をしている!」


 キターッ! 俺の背後からの声の主、自分に心酔していそうなナルシストさが伺えるぞ! ふりかえってぇ? さて! どんないけ好かない奴が―――――


「何をしていると聞いている!」


 声の主……屋敷の主らしいちょび髭のデブ、高そうなスーツだなぁ、と言いたいところだがそうじゃない! この男、何故か小脇にメイド服姿のコゼットを抱えているではないか。


「貴様! 何をしていると訊いているだろう!」

「それはこっちのセリフだ! このデブ! その子をどうするつもりだ!」

「どうもこうも貴様に言う筋合いなど無いわ! さては貴様、私の考える計画に気付いて……それにその装備、レニアスの人間だな? ギルドの連中め気づいたら軍を寄越すかと思っていたが」


 何だ? いや何しようとしてたか気になるんだけどどうにも勘違いした様だぞ。


「このドール・ロン、ギルドなんぞに野望を打ち砕かせはせんぞ!」

「待て待て、あんたが何言ってるか分からないからな! 俺が気にしてるのはその子の事だ」

「何? コゼットの事か? だったら先に言え、てっきり私のクーデッ! おっと、何でも無い」


 このおっさん。何を言いかけたのだろうか……俺の予想ではクーデターって言おうとしたのかな?


「それよりコゼット、お前何してるんだ。そんな恰好で」


 魔王のクセに、可愛いじゃんかよ


「逃亡する体力が無いだけだって……」


 どうも本人はこの格好を望んでいないらしい。しかしこのおっさん、コゼットにこんな格好させて何をさせようとしていたのだろうか。まさか、あんな事やこんな事? だとしたらメイド服とは趣味が大変よろしいな。だが、そうだとしてもその行為は絶対に許されないゾ?


「貴様、コゼットに用があると言ったな? ……もしや、貴様もこういう趣味がおありかな?」

「んん? こういう趣味とは?」

「ふふ、答えよう……コゼットを見ろ、可愛いだろう? こいつは二週間前にオークションで購入した一級品でな」


 えええええぇ、オークションって何? まさか人間とか盗品とかをさばいたりする犯罪的競売の事か? 何それ、さっきエルから天界のブラックっぷり聞いちゃったけど今度はルーシアの闇聞いちゃったよ! しかもおっさん、頬赤くして息遣いが荒いんだけど。完全に俺を同じ人種だと思っちゃってるよ。


「それでもう……もう! 私の秘める高尚な趣味、家族に隠すのが大変でなぁ、おかげでこの衣装調達も今日になってやっとだ」

「あんたが何しようとしたか分かったけど、金持ちなんだろ? 別荘とか建ててそこで楽しめばよかったじゃん」

「そ、そうもいかん理由があったんだ」


 そうもいかん理由と言うのはさっき言おうとして誤魔化した話題の事だろうが、俺は何故この変態にアドバイスしてしまったのだろうか。と、何か言おうとした時だった。豪邸の角から爆音が聞こえたかと思えば、緑色の戦車が飛び出して来て急停車。すぐに戦車から使用人らしい燕尾服の青年が顔を出し、こちらに手を振ってくる。


「当主ー! レイスメリアでのクーデター用の戦車ですけど、ダメですね! エンジンが言う事聞きませんよ!」


 あー、言っちゃった。クーデターって言っちゃったよ。


「このバカ! 大声でなんて事言うんだ! ……あ! ち、違うよ! 絶対クーデターとかじゃないから!」

「いや言ってんだろうがクーデターって」

「分かった。私と共にコゼットであんな事やこんな事する事を許可する! だから、な?」

「いらんわ! ……よし、黙っててやるから。ほら、コゼットをこっちに渡せ」


 うぅ、とおっさんがコゼットを後ろに隠すも、クーデターの事をばらされる方がマズい、と理解したのか渋々俺の横にコゼットを下ろし、コゼットはすぐに俺の背中に隠れる。可愛い。というか、言ってみるものだなコゼットがこっちに来て――――上手く収まると思ったのだが、突然動いた戦車の砲塔、ニューベリーを狙った主砲が直後に火を吹き砲弾の飛んでいく音の後、街の方で悲鳴と爆発音。


「貴様! こういう事だったのか! コゼットを手に入れた瞬間にニューベリーを撃つとは!」

「いやお前の使用人がやったんだろ!」


 戦車では「すいませーん。何か弄ったら出ちゃいました」と燕尾服の青年。


「あのバカが! これでロン家は終わりだ! 栄光ある家が国家反逆罪の汚名を被る事になるのだ!」


 クーデターなんか考えるからだろうが、さてこのおっさんの焦りっぷり、恐らくは軍とかそういう権力のある組織が来るに違いない。俺はコゼットを抱え、逃げようとしたのだが


「戦車が動いた!」


 とコゼットの声にハッとする。戦車の主砲がこちらを狙っており、すぐに発砲。俺は全力で右にジャンプしてみると、身体能力が本当に上がっているらしく十メートル以上飛ぶ事が出来た。着地し、自分の足を見る。身体能力向上は半信半疑だったが、急なピンチにやっとそれを感じる事が出来るとは。

 戦車の方に目を向けると、おっさんが駆け寄っており、戦車に乗り込んだ。


「こうなればやるだけやるまで! 愛しき天使コゼットよ! 私の愛を受け止めてもらう前に殺してしまうのはもったいないが、クーデターの事を知られてしまった以上生かしておくわけにはいかん! 死んでもらうぞ! その男もろとも!」


 おっさんの声の後、再び戦車からの攻撃、それを左に飛んで回避しようとしたが力の入れ方を間違えてしまい高く飛んでしまう。戦車の砲塔が小さく動き、主砲もそれに合わせる。まずい、着地の瞬間を狙われる。さすがに空中での二段階ジャンプなんてできないからな。


「どうするの?」


 状況を察しているであろうコゼットからの声、やけに落ち着いている。


「どうにかする!」


 だが俺は落ち着いてなどいられない、腰の刀を抜き迫る地面を睨んだ後視線を戦車に、案の定、着地のタイミングを見計らって戦車から砲弾が飛んでくる。俺は何を思ったか、抜いた刀の切っ先を左に向け、砲弾が迫ったタイミングでそれを右に振る。


「弾いた?」


 俺より先に、冷静に状況を分析していたコゼットが口に出した。彼女のいう通り、俺は刀で戦車の砲弾を弾いていた。上手い事弾道を反らしたのか? 逸れた砲弾は後ろの方で炸裂する。

 安物の刀じゃないのか? と、刀を見た直後刀身にひびが入り粉々に砕け散ってしまった。


「えええええええ! どう考えてもこれからだろ! この流れで戦車両断してカッコよく決めるんじゃないのか!?」

「運がよかったんだよ。その刀で砲弾を逸らせたんだから」


 まぁ、コゼットのいう通りだろう。しかしどうする。武器は無くなったぞ? ん? いやいや、俺が戦う理由なんてないじゃないか、これからやってくる軍に任せればいいんだ。よーし、とりあえずあの移動し始めた戦車から距離をとって、と思ったのだが動き始めた戦車は黒煙を咳込んだかと思えば、次の瞬間には火を吹きだし乗っていたおっさん、燕尾服の青年を含める搭乗員が飛び出し、突如集結した戦車隊がおっさん達を捕縛しどうも戦いは終結したらしい。








「あのおっさん、賞金首だったのかよ……」あれだけの騒ぎを起こしておきながら、俺はお咎めも何も無かった。集結した戦車隊は軍所属。俺は軍の連中に連れられギルドに戻ってみれば、軍の連中が事情を報告。

 あのおっさんは六千万ウィルの賞金首だったらしく、俺には軍からの謝礼金がまるっと入ったわけだ。


「お腹空いて力が入らない」


 とコゼットはメイド服のまま、ギルド内の六人掛けテーブルに突っ伏していたのでエルから受け取ったコンビニおにぎり二つを与えると、持ち直したらしい。コゼットが元気になったのなら聞きたい事もあるし、ここを離れなければ。

 入ったばっかの俺が賞金首を捕獲した事で、軍がわざわざギルドに来てギルドの面々は俺に何か話しかけたそうにしている。


「コゼット、一旦ここを離れるぞ。お前には訊きたい事がある」


 無言で頷いたコゼットを連れ、「あ、おじゃましましたぁ」と俺。我ながらナイスな退出の仕方だ。


「野郎! 六千万ウィルも一人で使う気かよ!」

「あんだけ金手に入れたなら奢れよな!」

「あのモジャモジャ、さっきは可愛い白装束の女といたかと思ったら今度は小っちゃくてかわいい子を!」


 出てから聞こえてくる店の中からの声、なんて連中だ。大金手にした連中が奢ってくれると思うなよ? それとまるでモジャモジャが可愛い事一緒に居ちゃいけないみたいな言い方は何だ? 誰か分かったらタダじゃおかないからな。

 まぁいい、人の多い露店が並ぶ通りに入って、俺の服の裾を掴むコゼットに声をかける。


「元魔王がメイド服着てるとはな」

「誰かさんが魔剣を将軍に奪われたから」


 う、それはそうですね。


「あれは、急に盗賊ギルドの連中が……ってか、何で知ってるんだ?」

「魔王だった時は色々知る事が出来てから。だから、あなたを屋敷の近くで見つけた時は驚いた。まさか、魔剣を失って素っ裸で森の中に倒れているなんて思いもしなかったから」

「え? 俺裸だったの?」

「うん。全然目を覚まさなかったし、だからあたしが持ってたローブを着せたの」

「ああ……そっか、まさか魔王に助けられるとはな」


 言ってみると、コゼットはちょっとしゅんとする。


「はぁ、人の気も知らないで」

「何だよ」

「いきなりやって来たあなたが魔剣を持ってて、あたしはあなたから魔剣を奪う事を考えた」


 え? そうなの?


「コゼット、訊かせてくれ。お前が何をしようとしていたのか、それと俺に協力できるかどうか」


 頷かず、コゼットは俺に目を合わせどちらともなく歩く足を止めた。


「――――教えてあげる。あなたが必要としている情報を全部」


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