プリティナイフでTHE END
承知しました、と言う紫髪の白装束の言葉の後、椅子に座っていた筈の俺は何か中世ヨーロッパ風の街が見渡せる丘に居た。まぁ、日本じゃないな。えっと、ルーシアでしたっけ。
俺がここでやるべき事は、何か成し遂げなければならない。それも大きな事だろう。言ってしまえば――引きこもってたけど異世界に召喚されて世界を救っちゃった? 的な事に違いない。
だったらこの世界は魔法あり、魔物ありのファンタジー世界に違いない。さ、装備とかスキルとかステータスとか確認しとこうかな? こういう場合初っ端からチート能力与えられてるのがセオリーだよな!
「ヒャッハーっ! こんなところに哀れなモジャモジャ頭だぜ!」
何だ!? と俺が振り返るとまさに盗賊の様相の馬に乗った四人組が現れたではないか。マズい、まだ何も理解してないんだぞ。しかも町から離れた丘の上だし!
「俺達は盗賊ギルド、プリティナイフだ! 早速だがモジャモジャ、有り金前部と持ち物全部おいて行ってもらおうか!」
ウソだろぉ! 初っ端追剥とか聞いた事ねぇぞ! ってか何だよプリティナイフって。いやそうじゃない、ここを切り抜けなければ。ここは日本じゃない、ファンタジー世界だ。何かある筈だ。俺はふと腰の辺りに目を向けると、やたら強そうな剣が鞘に収まっているではないか。と言うか、何か俺の格好旅初心者みたいになってる。
こいつしかない、慣れない動作で剣を抜くと紙切れが落ち、それを拾い上げ読む。
『ルーシアはどんな感じですか? あ、申し遅れました! 先ほどあなたをルーシアに送り付けた紫髪に白装束の美少女! エルと申します! さて引きこもり一直線だったあなたが戦え、と言われても石ころ以下なのは目に見えてますよね? なので、特別サービス! 圧倒的な魔力を秘めた魔剣・ゼロを差し上げます! これで石ころ以下のあなたもパーティーの一角を任されても大丈夫! ではではー エルより』
馴れ馴れしすぎるわ! ふざけんな、引きこもりが皆石ころ以下だと思いやがって、いやまぁ喧嘩なんて小学校の頃以来だし、運動だって出来るわけじゃないけど。いや、それよかこの魔剣! こいつで俺は強くなったんだ! まずは手始めにこの盗賊達だ!
「おいおいまさかその剣で俺達と戦うつもりかぁ?」
「ヒャッハァー! 面白れぇ、身ぐるみ剥いでやるぜ!」
ふん、こちとら魔剣だ。
「そ、それはこっちのセリフだ! ははは! これで、この剣でお前らなんてあっという間に蹴散らしてやるぜぇ!」
初めて武力で人の優位に立った所為か、ついつい声を大きくしちまったぜ。さて、このまま行けば俺はこいつらを蹴散らし、華々しく異世界デビューを果たす――――――
やけに冷たい、と思っていたら俺はその辺の小川に転がっていた。浅い川に下半身がガッツリ浸かっており、自分がどういう状況にあるのかを確かめるのに時間はかからなかった。既に陽が落ちており、あ、メッチャ星空綺麗なんだけど! やべぇ、俺の家田舎だったけどそれよか綺麗なんだけど。
じゃない! そうだ、俺はプリティナイフとかいう盗賊ギルドの四人に襲われ、見事に返り討ちにして……。
「あれ?」俺は腰に手を当てる。剣が無い、ボロボロの旅衣装のポケットからは明らかに金銭の類が入っていたであろう小袋。「……ん? あれ? 蹴散らして、華々しくデビューしたんじゃなかったっけ?」
よくよく思い返してみる。そう、俺は魔剣の能力を知り盗賊ギルドなんてあっという間に蹴散らせるぜ! 等と息巻いていたのだが、魔法の発動方法など知るわけが無くなんか「あれ? あれれぇ?」とかやってる間に連中から袋叩きにあったのだ。
「いやデビュー……出来てないじゃん」
立ち上がって周囲を確かめる。深い森、明かりなんてのは月の光だけ。
「やべー、やべーって……」
GPSとか、いやスマホか、それ以前に持ち物全部奪われてるんだ。ってか、ここまでやるか? 旅衣装がボロボロに――――あれ? 見ると右腕に斬られた跡? 血もついてる。それは足にもあった。にしては痛みが無い、どころか傷が見受けられない。
何だ、加減してのこけおどしか? まぁ今はここから離れなければ、魔剣とかあるんだし魔物の存在は確実だ。魔物と言えばガチの凶悪生物に違いない、近所のドロップキックしてくる野良猫とはレベルが違う筈。戦う術がない、危険だ。
グルル……
「!?」
何だ、明らかにヤバい生き物の唸り声! 俺の後ろの森は暗闇で草の根の判別が出来ないのに、なんか目みたいなのがめっちゃ光ってるんですけど……。あれかな、市役所とか保健所に連絡した方がいいのかな。
そんな馬鹿な事を考えていると、その目を光らせていた生き物が飛び出して来た! 月明かりに照らされたそれはオオカミ的な……やばい、一匹に続いてどんどんでてくるんですけど……やばいって、マジでやばい。
すると今度は
ウオオオオオオオォッ!
何かデカい咆哮! 直後、向こうの方から巨人が走ってくる! 間違いない! あの岩か土か分からんが、月明かりに照らされたアレは間違いなくゴーレムだ!
ゴーレムが迫ると、自分を囲もうと動いていたオオカミ達が一斉にゴーレムの方へと走って行き、ゴーレムはオオカミに拳を振るい始める。
「か、勝手に戦い始めてるんだけど……やべぇ」
勝手に戦い始めたゴーレムとオオカミ、巻き込まれちゃ敵わない、ここは逃げが得策ですね!
俺は勝手に戦うゴーレムとオオカミとは反対方向に駆け出し、逃亡を図ったのだがさっきまで明るかったのが暗くなったのに気付き足を止めて後ろの空を見上げてみると、月を背にゴーレムがこちらに飛んできている!
あ……今度こそ、THE END――――