レックス・グレーデル
町? 冗談だろ? 朝になり、アルとか言う将軍勢力の男の地図を頼りに町へと向かったのだが、そこには町と呼べるような物は無かった。堅そうな山々に囲まれた線路と車庫と、採掘設備らしきものだけしかない。
「うえー、町はー? 何か食べたかったのにー」
隣で寝起きのまま頭の働いていないエルがぶーたれる。飯つっても、今の俺達は一文無しだぞ。
「というか、どこで手に入れたんですか? そんな地図。ハッキリ言いますけど、そのレベルの正確な地図、このルーシアじゃ作れっこありませんよ」
「地面掘ったら出てきたんだよ」
「あー! 散々人の事墓荒らしだのなんだの言っておいて! お墓を荒らしたんですね! そうなんですね!? もー、それならそうと言ってくれればいいのに。お墓を荒らすって結構なアイテム稼ぎと思いません?」
「お前のような罰当たりと一緒にするな。全く、それより誰かいるだろうから。ほれ、お前物恵んでもらって来い」
「はあああああ!? 何ですか、私をなんだと思ってるんですか! 正社員ではありませんが私はこれでも高貴な天界の存在! そんな私が下界の下々に物を恵んでもらうなんてっていひゃいれふ!」
ぎゅーっとエルのほっぺを抓ってやると、「わかりまふぃひゃ! やれわいんれひょ!」と渋々駅の方へ。
物を恵んでもらうならこんなモジャモジャ頭が出て行くよりも美少女の方がいいに決まっている。さて、エルはどんなものを恵んでもらって来る事やら――――
「貧相な格好をしていると思ったら、お二人とも中々に大変な旅をされている様ですわ」
等と、エルからの簡単な説明を受けた金髪の似合うドレス姿のお嬢さん。俺達はどうなっているかと言えば、レイスメリア軍が所有する装甲列車に乗せてもらっているのだ。どうしてこうなったか、駅に向かったエルを見つけた金髪お嬢さんが、エルから「物を恵んでください!」と言われたそうで、見かねたお嬢さんは列車の中で食事と着替えをくれる事になり、それはもう今までにない待遇だった。
「そうなんです! 私の隣のもじゃもじゃ頭はたまーに強くてカッコいいんですけど、それ以外は何度も気絶するわ、盗賊にコテンパンにされるわと頼りなくて」
「それはまぁ……お二人とも、大変でしたわね」
この天界美少女め、人が黙ってりゃ好き勝手言いやがってからに。
「ああ、申し遅れました。私、グレーデル商会のレックス・グレーデルの一人娘、ミーシャと申します」
「これはご丁寧に、私はエル、こちらのモジャモジャ頭は浩一です」
「ええ。よろしくお願いします。さ、どうぞ。エルさんはお腹が空いていたご様子、冷めないうちに召しあがってください」
今までにない待遇、それはこの列車の客車とは思えない豪勢な客室に招かれ、あげくミーシャと向かい合うデカいテーブルに並べられた料理の数々。そしてエルと俺にちゃんとした衣装をくれたりと、それはもうこの世界に来て初めての待遇で、感動しながらもアルの言葉でどこか疑っている俺は他所に、エルは一人料理をバクバクと食べ進めている。
「ごめんなさい、服がそれしか無くて」
それしか、と言われた服、俺が着ているのは黒のシャツに茶色のベスト。それにポケットやポーチが付けられたズボン。で、エルの衣装はと言うと白のローブ、その下にはチェックのスカートにセーターっぽい奴。流石、見た目だけは美少女なだけあるぜ。
「いいや、ありがとうミーシャ」
「いいえ。ここで会ったのも何かの縁です。よろしければ何なりとお申し付けください」
何なりと? 君はそう言ったのかね? よろしい、まずは服を脱ぐんだ。等と恩人の綺麗なお嬢様に言う筈もないが、こんな助け船は願っても無い。ところだが信用は出来ない。こんなファンタジー世界だ、弱肉強食に決まっている。
「どうかされました?」
「いや……ミーシャ。これは軍の列車なんだろ? 何故君がこんなものに乗っているんだ?」
「大規模商会の娘ともなると、私を誘拐し悪質な要求をされる方がたくさんいらっしゃるのです。だからこそ、外出すべきではなかったのですが将来は商会を担う物として、少し前ここに流した採掘設備や使用している方々の言葉を訊こうと思いまして」
「それで、こんな列車に?」
「はい。何も危険は人だけではありません、魔族の勢力圏が急速に近づいたここだからこそ、高レベルの魔物が現れても不思議じゃありませんから」
そうか、と俺は返事。
「移動手段に困っているのでしたらこの列車でよろしければ、送らせていただきます。と言っても、列車の目的地はレイスメリアの首都ですが」
「それは助かります! このまま乗せてもらいましょうよ!」
口の周りにソースやら、ああもう汚い。俺はテーブルのナプキンでエルの口回りをゴシゴシ拭き「もうちょっと綺麗に食べなさい」と一言。
「俺としても乗せてもらいたいところだが、ここまでしてもらっても俺達から返せる様な物は何もないぞ」
「何も見返りを望んでいるのではありません。これは私の信条です。ここで会ったのも何かの縁」
じゃあ、と俺達はお言葉に甘える事にした。