12:女神と竜の国
あれから半月ほどの歳月が流れた――
再びグランシェス王国が日常を取り戻しつつある最中、フェリシアの元に一通の書簡が届いた。
それはモレク王が認めたものだった。
『此度の戦線は見事なまでに敗れてしまった。貴国は竜を味方につけ、周辺諸国を味方につけた。あれは貴殿らが常日頃から行ってきた施政の、そして外交によって勝ち得た力だったのだろう。
我々はどうやらこれまで驕り高ぶってきていたようだ。ダンターラの加護の元、我が力のみで人心を得て異国の協力を得てのし上がってきたと考えていた。しかしそれは誤りだった。我らはダンターラの加護を剣のように振るい、異国を黙らせていたに過ぎなかったのだ。
此度の戦はそれを思い知らされた戦場だった。また、加護だけではならぬという事も。
我々はこれから国家として再出発しようと思う。今後は戦神ダンターラの足元で踏ん反り返る腰巾着ではなく、主神の誇れる真の武人となれるよう精進したい。
また、貴国については益々の発展を願っている。 ヴィルヘルム=ヴァルストン=モレク』
勅使が読み終えた後、フェリシアは頷いていた。
「今回の件につきましては三年前の確執がもたらした事です。こちらにも非が無かったと言い切る事はできません。幾万もの兵と王子を失われたそちらに対し、こちらもまた民を、一時は国土を、前王を失っております。互いに失くした物は多くある筈です……以後も民の間における確執は残るかもしれませんが、国同士と致しましては、一先ずはこれで痛み分けといたしましょう。 もうこれ以上、何事も無い事を願っております」
最後の一言にフェリシアの本音が詰まっていた。
何はともあれ、フェリシアは勅使に対しもてなすので泊まっていくようにと告げる。
勅使は頷くと、グランシェス城のもてなしを受ける形となった。
前回は無かったこと。しかし今回はそれを行う事が出来る。
その事はどれだけフェリシアをホッとさせただろうか。
(女神と竜の元、願わくば永久の平和が約束されますように……)
フェリシアはそのように考えていた。
人々が住まう純白の大地の上に、今日もしんしんと雪が降り積もる。
まるで純白の花弁が舞い落ちるかのように、白銀色をした女神の破片は大地を純潔の色で飾り続ける。
白き女神と白き竜の加護を持つ、最北の国グランシェス――
そこは女神の化身と謳われる女王と、女神の神官と謳われる王が納める常冬の国。
リュミネス山の頂きに居を構える竜に見守られ、原初の民の国でありまた原初の竜の国であるそこは、新たなる歴史と伝説を紡いでゆく。
その歴史は、伝説は、語り部たる竜が居る限り、幾つ世が移り変わろうとも忘れ去られる事は無いだろう。
―― 女神と竜の神話 ―― 終
女神と竜の神話、完結いたしました。
春頃から始めたこの作品ですがおよそ10ヵ月近く毎日無事に連載を続けることができました。
私にとって、戦記も群像劇も100万文字超の作品というのも全てが初挑戦でしたが、最後まで書き切ることができ、無事やり遂げたことにほっとしております。
また、雪国のお話でしたが、奇しくもクリスマスイブでの完結となったことも個人的に、ちょっぴり嬉しい奇跡です。
読んでくださる方がおられるからこそ、ここまで書き切ることができました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!




