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昨日と今日と明日の鬼退治  作者: ジーン
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第七話 出発

「解放の剣、根源の弓、紅龍の槍。これで、三つの宝玉が全部そろったわけね」

 三人は街の酒場で仕事終わりに酒を飲んでいた。

日は傾きはじめ、仕事を終えた商人たちで酒場は盛り上がっていた。


「お前傷は大丈夫なのか?」


 ロッドがサラの体を心配そうに見て言った。


「えぇ、大丈夫。ありがとう」


 サラは自分のお腹のあたりを触って確かめながら言った。

その後彼女は、この時代にある鬼神の宝玉が何者かの手に渡り、その力が目覚めていることを改めて説明した。


「やはりな」


 パールは口にしていたコップをテーブルに置きながらそうつぶやいた。


「心当たりが?」


 サラが逃さずにそう尋ねた。

パールは一呼吸置き、


「ワシはこの時代の生まれじゃ。思い当たる節はある。じゃが、今はまだ話せん」


そう苦い表情で言った。少し沈黙が三人の間に降りた。


「まぁ、今すぐに聞かなきゃいけないわけでもないだろ? それよりもみんなはどこで宝玉の話を聞いたんだ? ちなみに俺はじいちゃんだ」


 ロッドがサラをなだめるように言った。


「ワシは、父じゃ」


「私も」


 そう言った二人は浮かない表情だった。

また少しの間があった。


「とにかく、これで宝玉は三つそろったわね」


 仕切りなおすようにサラがそう言った。

先ほどの表情はもう消えていた。


「今度は一緒に来てくれるのか?」


 ロッドは隣に座るパールの肩に手を置いて言った。


「当然じゃ。ワシらには使命がある」


 パールが笑顔で答える。


「決まりね。明日の朝にはここを発つわ」


 サラはコップの中に残っていた最後の一口を飲み干してそう言った。

酒場を出るとサラは報酬を受け取りに行くと言って、ロッドたちとは別れた。

宿屋への道中、パールはそれぞれの宝玉の力について話してくれた。

まず、ロッドの持つ宝玉は天空の力、サラの持つ宝玉は紅龍の力、パールの持つ宝玉は自然の力だという。

宿屋について空き部屋の確認をすると、幸いにも一部屋とることが出来た。

その日の夜は、夢にオーガが出てきた。

何度も同じ場面を繰り返し、何度も首を切り落とした。


 次の日の朝、朝日と小鳥のさえずりがロッドを眠りから引きずり出した。

支度を整えロビーに降りると、サラとパールが先に待っていた。


「ロッド、こっちじゃ」


 ロッドに気付いたパールが手を上げて呼んだ。

サラからもいつも通り落ち着いた挨拶が聞こえた。

サラとパールはロビーの椅子に座り朝一番のコーヒーを飲んでいた。


「そう言えば、目的地はどこなんだ?」


 ロッドは空いている椅子に座りそう尋ねた。


「軍事都市ミルタリアスよ」


 サラがそう言うと辺りがどよめいた。


「ほう、去年帝国に反旗を翻したという……。なるほど解放軍に入るということか?」


 パールのその言葉にどよめきは一層強くなる。

いくら帝国の締め付けが厳しいといえども、帝国と敵対することは未だにタブーなようだ。

周りの空気がロッドたちにそれを伝えていた。

ロッドは少し居心地の悪さを感じていたが、サラとパールは微塵も気にしていないようだ。


「ロッドを新しく入隊させようと思って。パールも入る?」


 サラがそう言うと、パールが小さく笑った。


「ワシらの目当てのものは帝国軍が握っている可能性が高い。解放軍と共に行動する方が、効率が良い。それに、戦いの匂いがプンプンするわ。断るわけなかろう」


 パールは好戦的な笑みを浮かべそう言った。

この二人の神経は少し常人からずれているのではないかとロッドは思っていた。

そもそもこんな場で話していたら襲われそうな話題である。


「悪いけど、ここから早く出ていってくれないか?」


 ばつが悪そうに、宿屋の主人がロッドたちに声をかけた。

返答の代わりに切り捨てられるのではないかとおびえた様子だ。

争いを望まない一般市民にとっては、帝国軍も解放軍も同じに映るのかもしれない。

ローラルの顔を思い出してロッドは少し歯がゆい気持ちになった。


「つい最近だって、ラルシア村の向こうにある帝国軍の砦の攻略を解放軍が失敗したせいで……」


「ごめんなさい。すぐに出るわ。あなた達に危害を加えるつもりはないから安心して」


 サラは笑みを浮かべて宿屋の主人の言葉を遮りそう言うと、残っていたコーヒーを飲み干した。


「まるで俺等が悪者だな」


 ロッドが席を立ちながらぼそっとつぶやいた。

宿屋の主人の顔が一瞬曇る。

罪悪感からだろうか。


「やめなさい。行くわよ」


 サラはそう言ってカップを置くと、立ち上がり髪をなびかせて出口へ向かっていた。

その後をパールも追っていく。

ロッドは一度ふんと鼻を鳴らし出口へ向かった。


 三人はオーガを討伐したことに対しての報酬を使い馬車を借り、軍事都市ミルタリアスを目指した。


「あ~あ、鬱陶しいなぁ!」


 ロッドは馬車の中でそう叫んだ。

向かい側に座っていたサラがうるさそうに眼を閉じる。


「仕方が無かろう。皆自分に面倒事が舞い込んでくるのは嫌なのじゃ」


 馬の手綱を引きながらパールがいう。


「まだ、解放軍は受け入れられていない部分もあるのよ」


 サラは窓から遠くを見つめて静かに言った。

いくら住みにくい環境だとしても、その環境が変わることに対して反対する保守派というのはいつの時代もいるものだ。

帝国軍の戦力が解放軍の戦力を大きく上回っているこの状況ならなおさらだとパールが付け加えた。

いくら軍事都市ミルタリアスを落としたとはいえ、宿屋の主人が言っていたようにラルシア村近郊にある帝国軍の砦の攻略に失敗したのは事実だ。

大勢は未だ帝国軍にある。


「そう言えば、ミルタリアスが解放軍の手に渡ったのって『元暦832年』か?」


 ふと、ロッドが運転手にそう投げかけた。


「そうじゃが……」


 質問の意図がつかめない様子のパールが馬車の中を覗き込んだ。


「それからミルタリアスは『奪われた盾』って呼ばれてないか?」


「さっきから何を当たり前のことばかり聞いておるのじゃ?」


 さすがに呆れたと言わんばかりに溜め息が漏れる。

何か悪いことをひらめいた子供のようにロッドは笑いだした。


「じいちゃんが教えてくれた通りだ」


 彼は目を輝かせて言った。


「そうか、ワシが一番過去の時代を生きておるんじゃな。それは興味深い。これから先は何が起こるんじゃ?」


 興味津々といった感じでパールが尋ねる。


「鬼神の宝玉が絡んでいるし、私たちから見てもこれから先は未来になるの。私たちが学んだ歴史とは違う結果が起こってもおかしくないわ。その証拠に鬼神の宝玉による争いなんて現実の歴史では聞いたことが無いわ」


 得意げに話し出そうとしたロッドを制してサラが割り込んだ。

ロッドはつまらなそうに口を尖らせ、背もたれにもたれた。

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