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昨日と今日と明日の鬼退治  作者: ジーン
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第一話

 どんどん下に降りていく感覚だけが彼には伝わっていた。

どこまでも下に降りていく。

ロッドは腕を目いっぱい伸ばしてみたが、壁のようなものは触れられなかった。

どこまでも続く闇、ふと右手が熱くなっていくのを感じた。

右手に目をやると、いつの間にか片刃の剣がロッドの手には握られていた。

剣はこんな闇の中でおぼろげに輝いていた。


「いったい何なんだ?」


 ロッドがそう叫んだ瞬間、下の方にまばゆい光が見えた。

その光がロッドを包み込む。

目の前が真っ白になり体に衝撃が走った。

ロッドは盛大にしりもちをついた。

目を開けると大理石の敷き詰められた部屋にいた。

こんなものにしりもち着いたらいたいはずだと思いながら、打った部分をさすり、彼は立ち上がって周りを見た。

だだっ広い部屋で、薄暗くよくわからないが、石造りの頑丈そうな建物だということは把握できた。

そして、何よりもはっきりしていたのは、すぐ隣にきれいな赤毛の長髪で簡易的な鎧をつけた人が倒れていることだった。

鎧の間から見える体のラインから女性だということがわかる。

彫りが深くてシャープな輪郭に整った顔立ちが目立つ。

うっと彼女は苦しそうに息を漏らした。

彼女の顔に見とれていたロッドは、はっと我に返り彼女を抱き起した。


「君、大丈夫か?」


 ロッドは少し彼女の体をゆすった。


「……あなたは?」


 苦しそうな顔をして彼女はそう絞り出した。

開いた眼はきれいな琥珀色をしている。

その声はどこかで聞き覚えのあるものだった。


「俺はロッド。君の名前は?」


「私はサラ」


 彼女はそう言うと体を起こした。

彼女の体を支えるロッドの手に生暖かいぬるっとした感触が伝わる。

サラの体に刻まれた傷を見れば、それが彼女の血液だということがすぐに分かった。

がしゃりと甲冑のすれる音がした。

ロッドがその音の方を向こうとした瞬間、サラは思い切りロッドの胸を突き飛ばした。

ロッドは後ろに倒れ、サラは滑らかに整えられた医師の床の上を転がった。

その拍子でロッドの握っていた剣が離れたところに滑って行った。

次の瞬間、金属が叩き付けられる音と共にサラがいた位置に剣が振り下ろされた。

剣の持ち主は銀色の甲冑を身に着けていた。

その銀色の兵士はロッドに殺気のこもった視線を一度送り、サラの方へ向き直った。

サラは体を引きずり、銀色の兵士から離れようとしていた。

その距離をじわじわと銀の兵士が詰めていく。

ロッドは体を起こし、穴の中で手にした剣を拾った。

すると解放の剣はまばゆい光を放った。


『振りぬけ。大気の鼓動と共に』


 一度大きな鼓動が聞こえた後、突然ロッドの脳裏に文章が浮かんだ。

その文章の意味を考えるよりも早く彼の体は動き出していた。


「真空剣!」


 ロッドはそう叫び、横一線に剣を思いっきり振った。

振った剣の軌道に沿って、白い空気の塊が飛び出し、銀の兵士に向かってものすごいスピードで飛んでいった。

空気の塊は銀の兵士にぶつかり弾けた。

その威力は銀色の甲冑を粉々に砕くほどだった。

銀の兵士は苦しそうに叫び壁まで吹き飛ばされ、壁に激突し気絶しながら倒れた。ロッドはサラに駆け寄った。


「大丈夫か?」


 近づいてみると、サラは一本の槍を右手に握っていた。

その槍はかなり長く、恐らく2メートルくらいある。

さっきのサラの行動は、逃げようとしていたのではなく武器を取りに行こうとしていたのだ。


「えぇ、もう大丈夫。」


 彼女はそういうと立ちあがった。

出血はある程度収まっていたが、まだ辛そうだ。


「それより…、その剣、解放の剣ね。あなたが選ばれた人なのね」


 サラはそう言ったが、ロッドにはまったく理解できない話だった。

今日は穴に吸い込まれてから、この短い時間にいろいろありすぎてロッドの頭は混乱を通り越して思考をやめていた。

その方が状況の把握がしやすかった。

今のサラの言葉で分かったのは、ロッドの持っている剣の名前と、何かに彼が選ばれたということ。


「順を追って説明してくれ」


 ため息交じりにロッドが言った。夢かなにかと思いたかったが、今日森の中で着いた擦り傷や切り傷がそれを許さなかった。


「ここは帝国軍の城よ。私は解放軍の一員として破壊活動をするために……」


 サラは突然口を閉ざした瞬間この薄暗い部屋に続く通路の奥の方からたくさんの金属音が聞こえてきた。

おそらく先ほどの銀の兵士の仲間がこちらに向かってきている。


「ついて来て。ここから出るわ」


 サラがそう言って走り出そうとした。

しかし、よろめき倒れそうになった。その体をロッドが支える。


「背中に乗れよ」


 ロッドがそう言ってサラに背中を向ける。サラはそれを拒否し、ふらふらと歩き出した。


「そんな体じゃ逃げきれないだろ」


 ロッドはサラの腕をつかみそう言った。

サラはしぶしぶロッドの背中に乗った。

サラの華奢な体は毎日森の中で鍛えた強靭な足腰を持つロッドにとって鎧をつけていてもそれほど重くはなかった。

部屋を出て通路に入った。

壁に掛けられたランプの薄明りが照らす中を駆け抜ける。

ごつごつとロッドのブーツが床を踏み鳴らす音があたりに響く。

サラの指示に従い、数々の扉を無視し、曲がり角を曲がってしばらく走った。

サラの息は荒く苦しそうだ。

しきりに肩のあたりに手を当てている。

傷が開いたのかもしれない。

そんな中、ロッドは不謹慎にもサラの体からいい香りが漂っていると考えていた。


「サラの武器は槍なのか?」


 今まで無言で走っていたが、ふと気になった。


「えぇ、そうよ。紅龍の槍って言うの」


「サラの槍にも俺の剣と同じ玉がついてるな」


 ずっと気になっていたことをロッドは尋ねた。

彼の解放の剣の刃の根元と、サラの紅龍の槍の刃の根元には黒色の玉が埋め込まれていた。

サラが答えるよりも先に、開けたところに二人は出た。

目の前に大きな扉がある。そこでロッドは気配を感じ立ち止まった。


「ここを無事に出ることができたら話すわ」


 サラはそう言ってロッドの背中から降りた。


「大丈夫か?」


 ロッドは周りの気配に気を配り解放の剣を構えて言った。


「えぇ、大丈夫。私も戦うわ。あの扉を出れば外に出られる」


 サラは槍を構えてそう言った。

ロッドたちを追ってきたものとは違う金属音が響く。門番なのだろうか。

軍隊ならそれぐらいいてもおかしくはない。

薄暗い中、十人ほど人影が見える。全員が漏れなく銀色の甲冑を身に着けている。

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