第十四話 作戦
ナガレと共にエントランスに下りるとそこのソファーにサラとパールが座っていた。
「終わったか。では、ワシは持ち場に行くぞ隊長」
そう言うとパールは立ち上がり出口へと淡々と歩いて行った。
「ナガレも持ち場に行ってくれ」
落ち着かない様子のナガレにロッドはそう声をかけた。
それを聞きナガレは丁寧にお辞儀をした後パールの後を風のように追いかけた。
「どう? 隊長の気分は」
「どうって言われてもな。別に変わったことはないけど」
ロッドは向かいのソファーに座った。
エントランスでは他の解放軍の兵士たちがあわただしく行き来しているが、二人の座る空間だけは静かで重苦しい空気が流れていた。
大きな時計が時を刻む音がやけに大きく聞こえる。
「ヴロンはどう出るつもりなんだ? いくら解放軍とはいえ正面からぶつかれば負けちまうだろ?」
サラは組んでいた足の上で手を組んだ。
そしてゆっくりと視線をロッドに向ける。
「グランデ・テレノにはアクィラの他に五つの国があることはわかるわね?」
帝国として急激に勢力を拡大するアクィラ帝国の他にこの大陸には五つの国が存在する。
そのうちでアクィラと西側で接している最も軍事力の無いシュラム王国にアクィラが攻め込むという情報が最近流れた。
アクィラ帝国とシュラム王国がぶつかれば短期決戦ののちアクィラ帝国が勝利し領土が拡大される。
他の大陸とも有益な貿易関係を持ち、あらゆる金属の鉱山を持つシュラム王国は軍事力より外交能力で生き残ってきた国だが、グランデ・テレノの他の四か国にとってシュラム王国をアクィラ帝国に取られるのは是が非でも避けたいことだった。
そのため、シュラム王国防衛のため、国境を接するレーヴェ王国、そしてグランデ・テレノ最大の軍事力を誇るファザーン帝国がシュラム王国防衛のために出兵した。
これが二週間前の話だ。
「アクィラの皇帝が大きな戦争をしようとしてることはわかったけど、解放軍の動きとなんか関係あるのか?」
サラの説明の真意がつかめずロッドはそう言った。
サラは焦らないでと言って組む足を変えた。
「アクィラとシュラム、レーヴェ、ファザーン連合軍が戦うとなればそれは大きな戦いになるわ。国境は火の海になるかもしれない」
その一言を聞いてもロッドにはサラの言いたいことがわからなかった。
それを察したサラは大きくため息をついた。
「もったいぶるなよ」
しびれを切らしたロッドがそう言って身を乗り出した。
「アクィラの皇帝の防御は薄くなるってことよ」
サラも身を乗り出し小さな声で囁くようにそう言った。
しかし、ロッドの耳にはしっかりとその言葉が伝わった。
「ヴロン総長は零番隊、参番隊をミルタリアスに残し明朝ここを立つわ」
ロッドは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
本部の中があわただしいのはそのせいだろう。
「俺は聞いてないぞ」
「いくら隊長といっても今日まで一般人だったんだから話が回らないのも仕方ないわね。それにその話が私の所に入ったのもついさっきだし」
そう言うとサラは苦い顔をして髪をかき上げた。
「ちょっと待てよ」
ロッドの頭は急に冷静になった。
顔に手を当てて考え込む。
「その情報はどこから来たんだ? 信用できるのか?」
指の間からサラの顔を見据える。
一瞬サラは目をそらしたように見えた。
「いくら民間組織とはいえ協力者は多方面にいるのよ。私が帝国軍の砦にいたのもその一環としてよ。シュラム王国にいる協力者、帝国軍内部の協力者の上方が一致しているわ。間違いないはずよ」
サラはロッドの目をまっすぐに見据えてそう言った。
アクィラ帝国の帝都アルバはミルタリアスから見て北東に位置する。
そして連合軍とアクィラ軍がぶつかるとされているシュラム王国との国境は西側、解放軍が得た情報によるとアクィラ帝国軍はミルタリアスの北側にあるトラモント高原を超え、国境へ向け進軍中であるという。
そこで起こる戦いにはアクィラ帝国軍もかなりの兵を裂いているようで、帝都の守りは手薄になっているようだ。
「そこを解放軍の主力で叩くことになるわけか」
ロッドはソファーの背もたれに体を預けてそう言った。
「えぇ、かなりの強行軍になるそうだけれど、短期決戦で帝都を落とす作戦のようね」
そういうとサラはエントランスの大時計に目をやった。
時計の針は夜九時を指そうとしていた。
「ご飯でも食べに行かない?」
「そうだな」
二人は解放軍の本部をあとにして、飲食店が集まる繁華街を目指した。