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昨日と今日と明日の鬼退治  作者: ジーン
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第十二話 零番隊就任

 しかし、フライドチキンが水浸しであることに変わりはなく思わずため息が漏れた。

事の発端となった少女はというと、解放軍の兵士とサラに事情を聞かれている最中であった。

持っていた長い包みが少し体にあたってしまったことが原因らしい。


「念のため中身を改めさせてもらってもいいかしら?」


 サラの申し出を少女は快諾した。

やましいことはなさそうだ。

くくられた紐をほどき、中身を取り出す。中身を見たその場にいた人たちは一瞬凍り付いた。

漆黒の長い鞘、抜くと、綺麗な流線型を描いた鏡のように周りを映し出す長い刀が姿を現した。

ミルタリアスの規則で、解放軍以外の人は簡単には武器を所持できないことになっている。


「あなた名前は? どうしてこんなものを持ち歩いているの?」


 解放軍の紋章をつけず、自分の身の丈に合わなさそうな長刀を抱える少女に対しサラは警戒心をむき出しにして聞いた。


「すいません。あ、あの……ナガレです。ここの解放軍に入隊するためにやってきました」


 サラの鋭い目つきにおびえながら、おどおどとナガレは言った。

サラは一人の兵士を本部へと確認に行かせた。

その間、ナガレを含めたロッドたち四人はテーブルを囲んだ。

しばらくしてパールの前に新たなフライドチキンが運ばれてきた。


「食べるか?」


 パールの問いにナガレは大きくかぶりを振った。

すぐに彼女はうつむいてしまった。

先ほどから何もしゃべることはなかった。

その原因は彼女の体に突き刺さるサラの鋭い視線のせいだろう。

さしずめ肉食獣の前に放り出された小型の草食動物だ。

いつも通りの賑やかさを取り戻した店内だったが、ロッドたちのテーブルだけが空気が重い。

空気の違いを感じ、こちらをじろじろと見ている客もいる。

パールの視線がロッドを捕らえる。

ロッドは肩をすくめて見せた。


「そんなに威圧しなくてもいいんじゃないか?」


「そう言うわけにもいかないの。解放軍以外で武器を持つ人間はすべて登録済みなのよ。身元が分からいのに武器を持ち歩いているのは大問題よ」


 サラはナガレから目を逸らさずにロッドの問いに答えた。

ため息をつきながら、ロッドは頭の後ろで手を組み背もたれに体を預けた。

重苦しい空気は解放軍の兵士ががしゃがしゃと甲冑の金属音を響かせながら店に戻ってくるまで続いた。

解放軍の兵士が持ち帰った報告は拍子抜けするものであった。

ナガレは本日付で解放軍に入隊することが決まっていたのだ。

入隊試験は他の街で受けたのだが、成績が優秀であったため、解放軍本部のあるミルタリアスに配属することになっていたという。

身の潔白が証明されたナガレの顔には安堵の色が広がっていた。

サラの目からも鋭さが消えていた。


「そんなことじゃろうとワシは思っとったわ」


 パールは大口を開けて笑っていた。

よくよく話を聞いてみれば解放軍本部に手続きに行く道中でこの店に立ち寄ったのだという。

サラは早とちりだったと謝罪した。

それを聞き、ナガレは恐縮して身を小さくした。


「さて、ならば今から手続きとやらに行くとするか」


 そう言って立ち上がったパールは解放軍の兵士が持っていたナガレの刀を受け取り、ナガレに渡すと、彼女を連れてロッドたちが止める間もなく店をあとにした。

店を出る直前、ナガレはロッドたちに深々とお辞儀をした。


「さて、じゃあ俺も散歩でもしようかね」


「な、ちょっとロッドまで」


 残っていた水を飲み干しロッドは席を立った。

現場の処理があるためサラはこの店からまだ動けずにいた。


「集合まで時間があるしいいだろ?」


「もうっ!」


 止めてもいう事を聞かないロッドに対し、サラは頬を膨らませて怒った。


「怒ると美人が台無しだぜ」


 ロッドは軽口を残し、店を後にした。


 ミルタリアスという要塞都市は周囲を大きな壁で囲まれている。

東西南北にそれぞれ門がひとつずつあり、警備兵ががっちりと固めている。

南にある正門以外は固く閉ざされている。

鉄壁の守りを誇っているという安心感からか、ミルタリアスの街に住む人々の表情は柔らかいように感じる。

大きな商店街を歩きながら、ロッドはあくびを一つした。

満腹感からかものすごい睡魔に襲われた。

まだ集合時間までは時間があるはず。

商店街を抜けると大きな広場があり、石を切り出したベンチがいくつか並んでいた。

ロッドはその一つに体を投げ出した。

円柱状の大きな壁にかかる屋根のような青空が目の前には広がっている。

目を閉じるとすぐさま眠りへと落ちた。


 どれだけ時間が経ったかわからないが、ロッドは自分を呼ぶ声で目を覚ました。

その声の主はサラだった。驚いたロッドの口からは変な声が出た。

すぐさま体を起こす。


「そんなにびっくりすることないじゃない。こんなところで寝てると風邪を引くわよ」


 少し口をとがらせてサラが言った。


「何でサラがここにいるんだよ?」


「探したのよ。もう集合時間になるから早く行くわよ」


 二人は急いで解放軍の本部へと向かった。

足早に集合場所の大会堂へと向かう。

階段を上がり、大きな扉を開いた。

ずらりと椅子が正面の演説台を向き整然と並んでいる。

ほとんどの席が埋まっている。

今回呼ばれているのは重要なポストを与えられる者と、新たに入隊した者だけだとサラが言っていた。

他の解放軍のメンバーはすでに本部に設けられたそれぞれの隊の部屋へと向かうように言われているそうだ。

奥の方でパールが手招きをしている。

隣にはナガレがちょこんと座っていた。

ロッドたちが席に着き少し時間が経った後、大きく低い鐘の音が七回響いた。

七時を告げる鐘だ。

それを待っていたかのように大会堂の扉が勢いよく開け放たれた。

装飾の施された式典様の鎧を身に着けている。


「おっさん時間ぴったり」


 ロッドは笑いながら小声で言った。

サラが眉間にしわを寄せ咎めるように彼の袖を引っ張った。

ヴロンは演説台の前に立ち、大きな紙を台の上に広げた。


「これより編成式を執り行う。名前を呼ばれた者は立て。まずは零番隊からだ」


 朗々とした声でヴロンは言った。

そしてロッドの名前が呼ばれる。

それに呼応してロッドは大きな返事と共に立ち上がった。

大会堂に集まった人々の視線がロッドに注がれる。

中には小声で何かを話している者もいる。

今まで存在していなかった隊という事もあり、注目度は高いのだろう。

次に名前が呼ばれたのはナガレだった。本人が一番驚いていた。

零番隊所属となった。つまりロッドの部下という事になる。

式典は滞りなく行われた。

サラは参番隊の隊長を留任、パールは参番隊の所属という事になった。

解放軍は大きな隊が零から拾番隊まであり、それぞれの隊に小隊がいくつかあるという構造になっている。

ヴロンは壱番隊の隊長である。

式典の最後にそれぞれの隊の隊長が演説台の前に呼ばれ、それぞれの隊の名簿を渡された。


「以上で隊の編成を終了する。それぞれ、隊の会議室へいき隊ごとに会議をしろ」


 ヴロンの退場を見送った後、みな席を立ちそれぞれの隊の会議室へと向かった。


「ロッドさん一緒ですね」


 ナガレは立ち上がりながら無邪気な笑顔でロッドに向かい言った。


「そうだな。ところで、零番隊の会議室ってどこにあるんだろうな」


「三階に上がってすぐ左の部屋よ」


 ロッドに続きサラが立ち上がる。

パールが最後に立ち上がり、無言で会議室に向かった。


「ロッドさん。先に行ってますね」


 ナガレがパールの後を足早に追いかけた。

ロッドとサラはお互いの顔を見合わせた。


「なんかパール機嫌悪いのか?」


「ロッドがナガレと同じ隊になったから妬いてるんじゃないの?」


 そう言い残し、髪をなびかせ、凛とした姿勢でサラはその場をあとにした。


「まさか……」


 大会堂に最後に残ったロッドは苦笑いを浮かべそうつぶやいた。

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