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九話 人狼の思い

 カーラは前回この洞窟で起きた異常事態に遭遇した一人だ。

 途中から記憶をうしなっているとはいえ、その彼女から詳しい情報をヒアリングすることはむしろ当然だし、異常があった場所への同行を求められることだってありえるだろう。


 理屈で考えればそうだ。

 だが、暴走状態とはいえスラ子とあれだけ渡り合ったカーラが、もし相手の戦力としてそのまま加わることになったら。とても落ち着いてなんかいられない。


「大丈夫です。マスター」


 顔色を変える俺にスラ子がいった。


「カーラさんは、自分にできることをしようとしているだけです」


 それに、と続ける。


「もしあちらにつくようなことがあれば。そのときは私が彼女を倒します。それだけのことですよ」


 少し前ここで仲良くしていたことなど、まったく関係ないというような冷ややかな眼差し。

 スラ子の迫力に俺は反論できず、不審と不安をいっしょくたに、吐き出した。


「わかった。計画どおりにするぞ」

「はい、マスター」


 スラ子とシィと隠し扉をでて、広間に繋がる手前で待機する。


 一帯は暗く、光もないし音もしない。

 空を飛んで戻ってきたシィと違い、森を歩いてくる調査隊が到着するのには時間がかかる。広間に来るのに周辺を調査をしながらだと、もっとだろう。


 ……この待つ時間ってのが一番嫌だな。ろくでもないことしか頭に浮かばない。


「ふふー」


 後ろからやわらかい感触が抱きついてきた。


「……緊張とかしないのか、お前は」

「緊張してるので、マスターに抱きついたらほぐれるかなあと思いましたっ」


 絶対に嘘だろというような台詞だったが、スラ子は前の作戦で戦闘中という異常な状況に興奮して暴走しかけた経緯がある。


 俺は肩にあごをのせてくるスラ子を暗闇のなかでみとおすようにして、


「こないだみたいのは、注意しろよ。お前も」

「はい、マスター。もうマスターにご心配かけたりしません」

「そうしてくれ」


 これもスラ子なりの緊張のほぐしかたというなら、しょうがない。

 べたべたとひっついてくるスラ子のされるがままになりながらひたすら待つ。


 どのくらい経っただろう。頭で数をかぞえるのも面倒になったころ、広間の向こうにぼんやりとした光が浮かびあがった。


 近づいてくる足音。

 そして、


「――ここですね」


 覚えのある冷ややかな声が洞窟内に反響する。


 物かげから見守る俺たちの前に、冒険者たちのライトの魔法を数個、広間に打ち出しながら前に進みでるのは美貌の女性。

 戦闘に準備してのものか、生地のよさそうなローブに身を包んだルクレティアが、後ろを振り返って声をかける。


「貴女がスライムたちに囲まれたというのは、ここで間違いありませんわね? カーラさん」

「……うん、そうだよ」


 冒険者たちに囲まれるようにした立つカーラが答えた。その顔は、光源が満足ではないせいかそれとも遠いせいか、どこか緊張しているように見える。


「ボクたちがここに来て、灯りを強くしたら、すぐにスライムたちがあらわれて。……そのまま大勢に囲まれたんだ」

「灯り。やはり妙ですね。スライムに走光性などなかったはずですが……ライトの魔法程度の放射魔力にひきよせられてというのも考えにくいですし。なにか特殊な環境下で生息していたか、それとも――」


 決して大きくはない声に聞き耳をたてながら、俺はひやひやものだった。

 あの女は俺が長年の研究でつちかった経験でスライムちゃんズに与えた習性に、当たり前のように気づいている。


 ルクレティアがなにか考え込むようにしているあいだ、それ以外の冒険者たちはスライムの集団に警戒していた。

 異常事態があるとしたら、もっともそれに遭遇する危険性が高いのがこの広間だ。彼らの警戒は当然で、もちろんそれは俺たちにもわかっている。


 はじめから警戒されている奇襲なんて通用しない。

 連中がいくら待っても、広間にスライムの群れはあらわれなかった。


 逆に、スライムなんてこの場に一匹もいやしない。かわりに光に刺激されたコウモリたちが声高く鳴き、ばたばたと羽ばたく音が近くや遠くで騒がしい。


「お嬢、どうしますか。見た感じ、俺らが駆け出しのころに来たときと変わりませんがね」

「やっぱり、ルーキーどもがパニクっただけだったんじゃねえのか? よくあることさ、誰だって自分の失敗を他のなにかのせいにしたくなる」

「それで自分が暴走しちまって味方に迷惑かけたってんなら、そりゃあほんとのことなんていえないだろうしな」


 冒険者どもの軽口。

 急にかき集められたメンツなせいか、冒険者たちはほとんどごろつきのような連中ばかりらしかった。


 まあ、いつまでもこんな町にたむろしているあたりでたかがしれるというものだ。

 仮に冒険者としての上昇志向がある連中なら、もっと実入りのよい依頼を受けるために、さっさと他の街にでもいくはずだった。


 揶揄するように笑いあう一同のなかでカーラは唇をかんで押し黙っている。

 自分が見たものを弁明するのでもなく、ぐっと拳を握り締めて周囲からの侮辱に耐えている。いつかの町長の家での態度を思い出して俺が顔をしかめていると、


「静かに」


 ぴしゃりとルクレティアがいった。


「無駄話の分まで依頼内容にいれたつもりはありません。仮にもプロだと名乗られるのでしたら、黙って自分の仕事をなさってほしいものですわ」


 上から目線の台詞に一瞬、冒険者たちのあいだから険悪な気配がうまれるが、ルクレティアはそれらに一歩もひく様子はない。


 自分が調査隊のリーダーなのだろうとはいえ、たいしたものだと思う。

 いつ目上の相手に襲いかかってくるかもわからないごろつき半ばみたいな連中に、あんなふうに強い態度にでる自信は俺にはない。


 それだけ自分が特別な人間であるということを理解しているのだろう。

 容姿、能力。そして立場。決して勘違いではないたしかな自負は目に見えない威光となって、そういうものに弱い者の尻尾をたやすく振らせてみせる。


「……失礼しました、お嬢。気をつけます」


 護衛連中のリーダー格らしい男がいった。

 ごろつきみたいな連中だからこそ強者には弱いし、そういうのを見抜く嗅覚だって鋭い。


「けっこうです」


 鷹揚なルクレティアの態度はほとんど王族や貴族のそれだった。


「それで、どうしますか。ここに来るまでのあいだでは異常も見つかりませんでしたが、やはりこの広間を中心に調査を?」

「そうですね。私はここの調査をしてみるつもりですが」


 といって、周囲を見渡すように頭をめぐらせて、


「貴方がたには二人一組になって別行動をとってもらいましょう」

「別行動? なにかやることがあるんで?」

「ええ。とりあえず、そのあたりの魔物を片っ端から殺してきてくださいな」


 昼下がりのお茶にお気に入りの銘柄を指定するような気安さで、女はいった。


「なっ……」


 カーラが声をあげかける。

 俺は無言で後ろのスラ子を見た。スラ子は感情を落ち着かせた瞳で、俺にうなずきを返してくる。


 指示された内容に戸惑いをみせたのはカーラばかりではなく、他の冒険者たちも互いの顔をみあわせているようだった。


「命令ってんなら従いますがね。……いったいどんな理由が?」

「命令を聞くのに納得する必要はないと思いますが」


 冷たくいって、ルクレティアは嘆息してみせる。 


「たんにアクションに対するリアクションを期待しているだけです。異常事態が落ち着いているというのなら、こちらからつついてみれば状況が再出するかもしれませんから。ここに沸くのは所詮スライムやコウモリ程度。パニックを起こしたルーキーならいざしらず、貴方がたなら物の数ではないはずですね?」

「そりゃそうですがね」

「けっこう。それでしたらさっそく行動を。私の護衛は一名だけでかまいません。組決めはそちらにまかせます。二名二組に分かれてダンジョンを進み、目につくものすべて皆殺しにしてまわること。異常な兆候が見られればすぐにここまで戻ってきてください。念のため、広間につながる出入り口には塩を盛っておくように。狭いダンジョンとはいえ、マップの確認も怠りなく。ここを調査の前線基地とします」


 きびきびと命令をくだす女に、一人が異議をとなえた。


「待って。ちょっと待ってよ」


 準備にとりかかりはじめる一同にむかってカーラが両手を広げる。


「意味がわかんない。皆殺しって……調査をするのに、そんなことする理由があるんですか?」

「先ほどいったとおりですが」 

「そんなの、ただの虐殺じゃないか!」


 声が一際大きく、洞窟に響き渡った。それに対して、


「それがなにか?」


 あくまで冷ややかにルクレティアは答える。


「魔物を殺してまわる程度のことに、それ以上の理由が必要ですか? 連中はそこらの吹き溜まりからいくらでも沸いてでてくるような存在。それを駆除してまわるのが貴方がた冒険者の仕事。そうでしょう?」

「それは……っ。けど、だからって。ギルドでも、駆り尽くすようなことはバランスを崩す恐れがあるから、しないようにって」

「欺瞞です」


 ルクレティアの一言が、カーラの台詞を断ち切った。


「この町が今までこの洞窟を残してきたのは、それがギルドの初心者鍛錬に適していたからにすぎません。魔力の吹き溜まり、そのバランス調整などというのはその口実。ただのおためごかしですわ。もしここがその程度で深刻な問題に発展するような場所なら、いっそのこと封鎖してしまったほうがよろしいでしょう。別にルーキーたちの修行には洞窟でなければいけないということはありません」


 よどみなく正論を並べ立てて、そこで微妙に口調が変わる。


「それとも貴女は魔物などという下賎な存在の命を尊重しろとでも? おかしな思想ですね。度の過ぎた博愛主義。あるいは、ご自分の身体に流れる血があるからかしら」


 冷淡な声色にまぜられた毒。

 それを聞いたカーラの全身が、憤怒にまみれたのが俺には見えた気がした。


「ボクは、別に……!」

「貴女が」


 歯ぎしりした奥から漏らすような唸り声に、ルクレティアはあくまで冷ややかなまま、


「貴女が、間違いなく自分は人間だと胸を張りたいのなら。中途半端さは自分の首を絞めるだけだと自覚するべきですわ。貴女のような人だからこそ、周囲から疑いをかけられる言動は慎み、模範的な在り方をこころざすべきでしょう。人の目は善意によらず、信用は砂のようにもろいもの。鈍感な善人であれば認められるというほど、この世は甘ったるくはできていません」


 言葉は辛らつだが、それは正論だった。


 先祖からウェアウルフの血をひいたカーラに、そのことで責められるべき理由なんてひとつもない。生まれ育ちを自分で選べる人間なんていない。


 だが、そんなことに同情をもってくれる人間なんかほとんどいない。

 からかうどころか、悪意を向けてくる連中のほうが多いだろう。


 カーラが人間として生きていくということは、そうした偏見や悪意に立ち向かっていくということだ。

 投げかけられた言葉に声を失って立ち尽くしたカーラが、


「――ボクは」


 震える声で、言葉を押し出した。


「ボクは、あなたは間違ってると思う」

「そうですか」


 ルクレティアのため息が静かに場を払う。

 それまで二人の口論を見守っていた冒険者たちに、


「貴方がた。先ほどの命令は撤回します。かわりにこの女をすぐに捕まえてください」 


 命令した。


 な、と声がでかけるのをあわてて抑える。


「なるほど。そういうことですか……」


 俺の肩に捕まったスラ子が苦々しげにいった。 


「いったいどういうことですかね。俺たちあんまり頭のまわりはよくないもんで、わかるように説明してもらえると助かるんですが」

「この洞窟になにかあることは間違いないようですわ。異常事態とやらを起こしたなにか、あるいは誰か。それはカーラさんの態度でわかりました」

「最初から……っ、それが目的で!」


 ルクレティアが笑う。


「はい、わざわざ本人から証言までいただきました。これで確定ですわね。この女は魔物に通じています。明確な反逆者。調査隊のリーダーとして命令します、ひっとらえてください」


 その場の展開に頭がついていかない。俺はスラ子にささやきかけた。


「どういうことだ。あの女、最初からカーラを疑ってたのか……?」

「そうかもしれません。あるいはただのかまかけだったのかも。ですが、どちらにしてもカーラさんが相手をするのにはちょっと向こうがやっかいすぎましたね」


 いったい、いつからだ。俺とカーラが一緒にいたときからか? 最初からこの洞窟を怪しいと踏んでいた?

 そんなことはどうでもいい。問題なのは、ルクレティアがカーラの言葉から「なにか」を察したことと、


「くっ……!」


 五人の冒険者に囲まれるカーラの身の危険だった。


「やばい。いくぞ、スラ子っ」


 あわてて身を乗り出しかけた俺を、


「駄目です」


 スラ子がひきとめる。後ろからひっぱられてバランスを崩し、抱きかかえられた。


「おいっ」

「駄目ですよ、マスター。カーラさんはまだ選択してません」

「選択?」

「はい、そうです。マスターがいったじゃないですか。決めるのは、私でもマスターでもないって」


 俺とスラ子がやりとりをしているうちに、広間の状況は加速していく。


「お嬢。殺っちまってもいいんですか?」

「かまいません。責任は私がとります。ああ、ですがその前にせいぜい嬲ってさしあげてください。悲鳴につられて、なにか引き寄せられてくるかもしれませんから」


 男たちが下卑た笑い声をあげる。


「俺らの依頼人は過激だぜ」

「言葉に気をつけろ、将来の権力者様だぞ。まあ、そのお方からわざわざ公認してもらえるってのは悪くねえ。これからも使ってもらうために、いいところを見せておかないとな」


 反吐のでそうな台詞を吐く連中に、カーラが先手を打って飛びかかった。

 無言のまま振りかぶった大振りの一撃が、余裕をもってかわされる。そのまま円にとりかこんで、冒険者たちが獲物を手にかまえた。


「は、活きがいいじゃねえの、ルーキー!」

「そうじゃねえとな。せいぜい楽しませてくれよ」

「っ……!」


 挑発にこたえず、カーラが一人に距離をつめる。殴りかかろうとしたところを横合いから鞘にはいった長剣で小突かれ、体勢をくずした。


「おいおい、こっちだこっち」


 反対側から蹴られる。カーラは受けた衝撃を利用して距離をとろうとするが逃げられない。行く手にすぐ別の男があらわれて、


「おっと。こっちは通行止めだぜ、狼ちゃん」


 両手で押し飛ばした。


「あぅ……!」


 悲鳴をあげてカーラが倒れこんだ。

 あわてて起き上がって警戒のかまえをとる彼女をなにかの見世物のように、男たちが笑う。


 ――限界だ。

 たやすい沸点はとっくに上限を越え、俺は後ろからゆるく羽交い絞めしてくるスラ子をにらみつけた。


「放せ、怒るぞ」


 スラ子はおだやかな表情のまま、


「マスター。マスターはどうして、シィを女にしたか覚えています?」


 訊ねられて一瞬、なにをいわれてるのか理解できなかった。


「それは私を助けてくださるためで。そして、シィがそうして欲しいといったからですよね。妖精にとって一生を決める大事な性分化。シィはそれを、あくまで自分の意思で決めました」

「それがどうした……!」

「でしたら。もう少しだけ我慢してください。カーラさんも、そうあるべきです」


 スラ子の言葉に呼応するように、


「あああああああああ!」


 咆哮がとどろいた。


 あわてて視界を戻すと、数人の男に取り押さえられようとしていたカーラが力任せにそれを振りほどいているところだった。

 遠くからでもわかるその獣じみた振る舞いに、俺は覚えがある。


「お、おい、なんだ。こりゃ――」


 あわてて半歩をひいた男以上の速度でせまったカーラの拳が、男の頬骨を砕いた。

 声もなく。馬に体当たりされたように吹っ飛んでいく。


 翼をもたずに宙を飛んだ男はそのまま壁に激突し、壁面に抱きつくような格好でずるずると倒れこんだ。


「なんだこいつ!」

「急にキレやがった、なんだいまの力!」


 軽いパニックにおちいりかける冒険者と違い、


「なるほど。これがバーサークですか。……まったくもって美しくありませんわね」


 ルクレティアはあくまで冷静だった。


「なにを浮き足立っているのですか。一人が防ぎ、一人が崩して残る全員で抑えなさい。いくら化け物じみた力だろうと所詮は一匹、対抗できないものではないでしょう」


 指示に、冒険者たちが落ち着きを取り戻す。

 慎重に距離をとり、一人が別の一人を必ずフォローをできる間隔をたもって、死角からカーラの注意をひきつけ、的をしぼらせない。


 凶暴な獣を狩るような連中の動きにカーラも迂闊にとびこめず、


「選択、しましたね」


 緊迫したその様子を遠くから見るスラ子が満足げにいった。


「マスター。カーラさんはちゃんと自分で決めました」


 俺はスラ子の言葉を聞いて耳をうたがった。


「あれが選択だと? 追い詰められて、他にどうしようもなくて。それで狂暴化しただけじゃないか」

「そうですね。血に酔ったバーサーカー。あのままではカーラさんは仲間であるはずの人間に噛みついて、群れから追われて。かといってもちろん他からも認めてもらえない、ただの可哀想な狼人さんです」


 けれど、と艶やかな声がささやく。


「マスターが飼ってあげれば、カーラさんにだってきちんと居場所ができますよ?」


 俺はおもいっきりしかめっつらになって、


「お前、最初っからこうなるってわかってたのか」 

「そんなことありません」


 スラ子はやんわりと首を振る。


「けれど、カーラさんの気持ちなら。こうなるんじゃないかとは思いました」

「意味がわからん」

「マスターのいう、ちゃんと自分でっていうお考えは正しいと思います。ですが、少し無理やりにだって、相手からそうしてほしいときもあるんですよ。もちろん自分が望む相手にってだけで誰でもいいってわけじゃゼンゼンありません」


 わけがわからない。

 いったいなんのことについてスラ子がいっているのかも理解できなかった。


 だが、今はそんなことを議論している場合じゃないということだけははっきりしている。


 広間では今も戦闘が続いていた。

 凶戦士と化したカーラと、それを取り囲む四人の冒険者。


 バーサーク状態のカーラはルーキー離れした異常な戦闘能力を発揮しているが、対する冒険者たちも初心者なんかではない。それなりの経験と技量でそれにわたりあっている。


 多勢に無勢。

 このままではやられてしまうのはカーラだ。


 そして、そんな緊迫した状態だからこそ、俺たちには連中の横合いから奇襲をかけるという演出が可能になっていた。


 目の前ではスラ子が俺の指示を待っている。

 スラ子はこの状況のどこからどこまでを想定していたのか。そんなことを半ば恐ろしく考えながら、告げる。


「カーラは俺たちの、――仲間だ。……助けるぞ」

「はい。マスター」


 うやうやしく返事をしたスラ子が手に持った石に魔力を込める。

 手のなかの反応石はスラ子の魔力を受け、遠く離れた場所に合図を伝える。


 前もって用意していた仕掛けがそれに反応して、箍をはずし。


「っ。これ、は――?」


 広間のルクレティアが異常に気づいたらしく、顔をあげた。


 はじめは感じ取れないほどの振動が徐々に音をもって明確になり。

 不吉な轟音が、やがて一帯に響きはじめた。 



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