二話 おおかみの血統
準備をしてくるから少し待って欲しいと冒険者の少女に告げて、一旦部屋をでる。
俺から先ほどの会話の意図を聞かれて、
「これはチャンスです」
とスラ子はいった。
「せっかくあのルーキーさんが都合の悪いことを覚えてないんですから、町とのパイプをつくるきっかけに使わせてもらいましょう。マスターのいったとおり、『どうせやる』のなら相手を選びたいところですし」
内通者、情報提供者。
それをつくる前段階としての敵情視察。
町の連中が俺たちを「行き倒れのルーキーを救ってくれた恩人」として迎えてくれるなら、たしかにこれからなにかと動きやすくはなるかもしれない。
問題は、たとえルーキー一人の恩人だからといって、素性のしれない相手をそう簡単に町の人間が受け入れてくれるかどうかだ。はっきりいって、可能性は低いと思う。
街に出向くのにもスライムのスラ子や妖精のシィがいくわけにはいかない。となれば当然、
「俺しかいないじゃないか」
「マスターしかいませんね」
「無理だ」
即答した。
「営業トークとか、愛想笑いとか。無理だ。無理無理。そんなんできたらこんな洞窟で今までひきこもってるか」
他人から信用を得るためにもそれなりのスキルが必要とされる。
アカデミー時代、ぼっちを貫きとおした俺の対人折衝能力はマイナス方向に針がふりきっていた。
「ですから、それを脱却するためのチャンスでもあるんですよっ」
ぐっとスラ子が拳をにぎって、
「リハビリです。社会復帰です!」
自分がつくった相手にここまで心配されると、嬉しさをとおりこして涙が出てくる。
「魔物なんざ社会にそむいてなんぼだろうが。お前は魔物ごころってもんがわかってない」
「でも、魔物社会でもつまはじきだからアカデミーに残れなかったのでは?」
あ、こいついいやがった!
絶対に触れちゃいけない繊細なとこにずばっと触れやがった!
「く……。クっ――」
「く?」
「クケー!」
「変な声で誤魔化そうとしないでください」
今まで何度も町を訪れたことはある。顔見知り程度の相手なら、道具屋のあのがめつい婆さんをはじめ何人かはいる。
だが、それだけだ。決してその連中と交流があるわけじゃない。
もう何年もこの洞窟に住んでいて、俺は町というコミュニティーから完全に隔離された状況でいる。
それは、もちろん俺が「人間」でありながら「魔物」という生き方を選んでいるからではあるが、自分のせいでそういうふうにしか生きられないということでもあった。
魔物でも、なかには人間と交流をもちながら過ごしている連中だっている。魔物という理由で全てをすませるのは、言い訳だ。
「……自信がない」
俺はいった。
つまりそういうことだ。人づき合いは苦手だった。
「マスター」
そっとスラ子の手が俺の肩におかれる。
なんだかんだいって優しいスライムだ。情けなさをこらえ、俺はスラ子を見て、
「しゃーこらー!」
おもいっきり殴られた。
スナップの効いた実にいい平手を受けて、ぐらりと身体が揺れる。それをなんとか踏みとどまって、
「なんでだよ! どう考えてもあったかくなぐさめる流れだろ、今のは!」
「いえ、むしろこういう流れです!」
スラ子はきっぱりといい放った。
「私とシィのマスターが、そんなふうでは困りますっ。いいからいってきてください! じゃないと今晩のご飯抜きですよ!」
「なんでお前のほうが立場が上なんだよ!? シィ、お前からもなにかいってやれ! このスライムの横暴を許すな!」
寡黙で従順な妖精に助けを求めると、それまで無言でやりとりを見守っていたシィがちょっと困ったように眉を寄せて。
熟考の末にスラ子の手をにぎった。
「卑怯者! 裏切り者! 長いものには巻かれよう、寄らば大樹の陰妖精!」
「はいはい。いつまでもルーキーさんを待たせるのもあれなので、お出かけの準備してくださいね」
「……いってらっしゃい」
俺の必死な反論はまったく受け入れられることはなく。
そんなわけで、俺は冒険者の少女と町へいくことになったのだった。
◇
昨日の今日だ。調査隊も組む前に別の冒険者がやって来ることはないだろうと思ったが、一応注意しながら隠し扉をでる。
途中で通った広間の、まだひんやりと冷気がのこっている寒さに腕を抱くようにして、冒険者の少女がいった。
「これ、ほんとに。ボクが……?」
広間はいたるところが攻撃魔法の破壊痕がのこり、なかなかひどいありさまになっていた。
「全部じゃない。こっちで止めるためにやったのもある。悪いが、必死だった」
というか、主にそれをやったのは彼女ではなく暴走したスラ子だったのだが、それはいわないでおいたほうがいいだろう。
少女はところところがボロボロになった自分の軽装を見おろして、首を振った。
「全然へいきです。ありがとうございました。他の人に怪我がなくて、よかった」
素直な相手をだますのをちょっと申し訳なく思えて話題を変える。
「君は、」
「カーラです。カーラ・カッシリ」
「カーラは。なんで冒険者になったんだ?」
「うち、貧乏だから」
少女は恥ずかしそうに笑った。
「弟たちはまだ小さいし、誰かが稼がないと。よくある話ですよね」
たしかによくある話だ。
だがそれがよくある話だろうがなんだろうが、そういうのにはうるっとくる。
「そうか」
うまいこともいえず、相槌をかえすことしかできなかった。
「どうして皆さんはこんなところに? 一緒にいたあの人、水の精霊――ですよね」
「まあ、そんなようなもんかな」
町につくまでにそのことを話しておかないといけない。
「洞窟前の湖。そこの管理をしててな。理由あって一緒にいる」
「精霊に見初められたってことですか? すごい」
「……そんないいもんじゃないさ」
むしろ、本当はその精霊を捕食してしまった色々と規格外のスライムだったりするのだから。
「ああ。それで、ちょっとお願いがあるんだが」
「はい。なんでしょうか」
「俺たちのことは、できればあんまり口外しないで欲しいんだ。君のことも、通りがかりで拾った程度にしておいてくれると助かる」
「え? どうしてですか?」
疑うのではなく、ただ不思議そうにまばたきする大きな瞳に、
「なんていうか。俺も、スラ――彼女も。あんまり人と関わるのが好きじゃないんだ。できればそっとしておいてくれると嬉しい」
言い訳としてはちょっと厳しいかなと思ったが、相手は素直に瞳を輝かせて、
「なんだか世捨て人みたいで格好いいですねっ」
世捨て人を格好いいというセンスはちょっとどうかと思うが。
人と関わりを持ちたくない。精霊。それだけで魔物という連想にだっていきつくはずだが、それであんまり悪い印象を持ったようにも思えないのは単純に人が好いからか、それとも自分にも魔物と呼ばれる血が流れているからだろうか。
「とにかく、そういうことで頼むよ」
「わかりました。でも――」
「でも?」
訊ねると、カーラという名前の新米冒険者が笑う。スラ子の妖艶だったり無垢だったりする笑みとも、シィの控えめな微笑ともちがう、爽やかな笑顔だった。
「ありがとう。それなのに、ボクのこと助けてくれて。おかげで仲間たちに怪我をさせることもなかったみたいだし。ほんとに、感謝してもしきれません」
ひたむきでまっすぐな目に、俺は顔をそらした。
苦手だ。こんなふうにまっすぐな相手、俺みたいなモグラには目の毒だ。
まあ、とにかく。いかにも人が良さそうな相手だから、約束したことは守ってくれるだろう。
洞窟の外はからっとしてよく晴れていた。
カーラとなんでもない話をしながら、森の道を抜けて町へ。
人と会話をすることが苦手な俺が道中そんなことを思いつくことがないくらい、カーラとの会話は楽しかった。
なんとなくアカデミーを思い出した。
カーラみたいな友人が一人でもいたら楽しかっただろうなーと、そんなことをぼんやり考える。カーラは男女どちらからも好かれ、身近でいて人気のありそうな娘だった。
そのカーラが、町に近づくにつれて少しずつ暗い表情になっていくことに俺は気づいたが、
「どうかしたのか?」
「……いえ、なんでも。さあ、いきましょうっ」
あきらかに無理に浮かべた笑顔でカーラはいった。
カーラの表情の理由はすぐにわかった。
町にはいってすぐ。こちらを見る周りからの視線に気づいたからだ。
はじめは俺に対するものかと思ったが、そうではない。町の住人からの視線は、俺の隣を歩くカーラにむけられていた。
もちろんいい意味でのものではない。ほとんどやっかい者を見る視線が、ぶしつけにカーラには浴びせられていた。
「……カーラ」
「ごめんなさい。町長のとこ、いきますね」
俺の質問を振り切るように足を早める。
洞窟から一番近くにあるこの町、メジハは小さな町だ。
このくらいの大きさの町なら、冒険者ギルドはほとんど自警団の意味もあるので、その長も町長だったりが兼任していることが多い。
案内された町長の家で部屋に案内された俺たちを待っていたのは、いかにも強つくばりな性格がうかがえる爺さんだった。道具屋の婆さんといい、この町はこんなのばっかりか。
「帰ったか、カーラ」
じろりとした目つきで、それから俺の方をうさんくさそうに、
「そちらは」
「はい。ボクのことを助けてくれた人です。……すみません、実は――」
「話は聞いておる」
吐き捨てるようにその爺はいった。
「また暴れたらしいな」
「……はい」
「お前が我をうしなったせいで、クエストどころか、他の三人まで危険な目に遭うところだったそうだな」
俺は、ん?と思った。
カーラが暴走したのはたしかにそうだが、一緒にいたパーティメンバーが助かったのはむしろ彼女のおかげのはずだ。
スライムに取り囲まれて、パニックになったのは他の三人も同じなはず。それを仕掛けた当の本人がいうのだから間違いない。
それなのに、
「他の三人は、もうお前とは組みたくないらしい。なにか申し開きはあるか」
それを聞いて、俺はそういうことかと理解した。
ようするに他の三人は、クエスト失敗の責任をカーラ一人に押しつけたのだ。
誰でもクリアできるような簡単な内容。これから冒険者としてやっていくために、最初のクエストを失敗してしまうのは今後のことを考えればひどく外聞がわるい。
だから、連中はその責任をカーラの暴走のせいにした。もしかしたらカーラはもう戻ってこないかもしれないという、そんな打算も働いたのかもしれない。
どちらにせよ、最低な連中だ。しかも頭が悪い。そんなものはカーラがそうではないと説明すればすぐにばれることなのだから。
だが、
「……いいえ。ありません」
カーラは一言も弁解しなかった。
「おい、カーラ」
思わず声をあげかける俺をちらりと見て、カーラは目線でなにかをうったえかけるようにしてから、
「ボクのせいで、他のみんなを危ない目に遭わせてしまいました。本当に、すみませんでした」
深々と頭をさげた。
「ふん。他の三人にも怪我がなかったことだ、今回の件は不問にする。だが、しばらくはクエストは任せられんぞ。お前とパーティを組んでもいいという物好きな輩が出てくれば別だが」
「……はい。ありがとうございます」
カーラがもう一度頭をさげて、二人のやりとりは終わった。
納得がいかないのは俺の方だ。
「爺さん、その三人が嘘をついてるって思わないのか?」
「なんだと?」
「なんでカーラ一人が悪いことになってんだよ。仲間を見捨てて逃げるような連中の言い分、まともに信じてどうすんだ。ちゃんと互いの言い分も聞いてみろよ」
「素性もしれんようなやつが、偉そうになにをぬかすか。どこの馬の骨だ、若造が」
「知るか。阿呆に阿呆っていってなにが悪い」
カーラを助けたということをきっかけに、町とのパイプをつくる。そんな当初の目的なんてすっかり頭から抜け落ちてしまい、俺は一気にまくしたてた。腹が立っていた。
「ちょっとは頭つかってみろよ。連中からいったいどんな報告受けてるんだか知らないけどな、まずはカーラからも聞いてみるべきだろ。それでもしお互いの言い分が違ってたらどうする。どっちが本当かなんてわからないだろうが。そのくらいやるのが当たり前なんじゃないか?」
横から袖をひっぱられる。カーラが思いつめた表情で、それ以上俺がなにかいうのを止めていた。
「カーラ。洞窟でなにかあったのか」
もう俺の方を見もしなくなった老人の質問に、カーラが答える。
「スライムが。たくさん発生していました。それで、ボクたちはパニックになってしまって。それで」
「……なるほど。よくわかった」
爺が重いため息をつく。
「さがれ。そっちの男も、つまみだせ」
冗談じゃない。こっちはまだまだいい足りないんだ――口を開きかけたところを、カーラから強引に腕を引っ張られて、部屋をでる。
「なんで黙ってようとしたんだ」
町長の家を追い出されて、俺は先を歩くカーラに問い詰めた。
振り返ったカーラが困ったように眉をよせて笑う。
「ごめんなさい。でも、いいんです」
「なにがだ。自分ひとりが悪者にされていいのか?」
「ボク、厄介者だから」
カーラがいった。
「昔から、暴れちゃうこととかよくあって。最近は抑えられるようになってきてるんだけど、でもやっぱりダメで。だから冒険者くらいしかなれる職もなくて。町長さんには、傭兵にでもなれっていわれてるんですけど」
ウェアウルフ。
凶戦士とよばれる魔物の一族は、たしかに疎まれることも多い。
町の人たちがカーラを見る目が冷たいのもそれが原因だろう。
厄介者。嫌われ者。
――むかっとした。
「でも、ありがとうございました。嬉しかったです」
カーラはにこっと笑って、
「あんなふうに怒ってもらえたのってはじめてで。優しいんですね」
冗談じゃない。
誰が優しくなんかあるもんか。
俺が腹を立てたのは、あの爺とおなじくらい、目の前にいるカーラに対してもおんなじだった。
「これから、どうするんだ」
「どうしようっかなあ。て感じです。またクエストいかせてくれるかどうかもわかんないし……そのときは、本当に傭兵にでもなるしかないですね。お金、稼がないと」
まがりなりにもギルドなんてものが後ろに控えてくれる冒険者と違って、傭兵なんていうのはもっと過酷な職業だ。
まだぺーぺーの、しかも女の子がそんなものやっていけるか? できるわけがない。
もちろん、この他人を疑うことを知らない田舎娘がどんなことになろうが、そんなものは俺のしったことではない。のだが。
「……こい」
気づけば、俺はカーラの手をとっていた。
「え? あの、どこに――」
質問を無視して歩き出す。行く先は、帰る道に決まっていた。
洞窟の隠し部屋に戻り、羊皮紙に筆をとる。
さらさらと文章をかきつけて、乱暴に乾かして丸めたそれをカーラに突き出した。
「これは?」
「魔物アカデミーの推薦状だ。俺が世話になった人宛の」
「魔物アカデミーって……。まさか――魔物、だったんですかっ?」
今さらか。
相手の鈍感さに呆れながら、説明を続ける。
「アカデミーってのは、人から外れた連中のいくところだ。特殊な能力、魔法。おかしな野望。変なやつばっかりだが、だからこそそういうやつらが偏見なしに生きていける。その紹介状の人はそのなかでもめっちゃくちゃ変な人でな、無茶な研究ばかりしてるからいつも助手が逃げ出して万年募集中のマッドだ。だが、そこでならとりあえず食いっぱぐれるようなことはない」
「……そこに、ボクにいけっていってるんですか?」
「新米のくせに、傭兵なんかするよりはましだ。そこで自分の血をおさえる修行をするなり、腕を磨くなり。それから傭兵でも冒険者でもなればいい」
困惑した様子のカーラに、ついでに近くのテーブルにあった金貨袋を押しつける。
「アカデミーまでは遠いから、当面の生活費にでもしろ。弟たちが気になるなら送ってやれ。アカデミーのバイトなら、頑張れば仕送りくらいできるかもしらん。あとはお前のやる気次第だろう」
紹介状と金貨袋を受け取って、カーラはどうすればいいのかわからずに立ち尽くしている様子だった。
「なんで。こんな……」
知るか。そんなもんこっちが知りたい。
「お前みたいなのを見てると腹がたつんだ。もういいからさっさといけよ」
それで話は終わりだと、背中をむけた。
どのくらいたっただろう。
「――ありがとう、ございます」
少し涙にかすれたような声が聞こえて、それから扉を開ける音がした。ぱたん、と軽く閉じる。
俺は息をはいた。
なにやってんだ、と今さらながらに後悔する。紹介状はともかく、金まで渡して。なんの自己満足だ、と頭を抱えていたところに、扉が開いた。
それまでどこにいたのか、スラ子とシィが部屋にはいってきて、
「マスター」
なぜかにこにこと上機嫌に笑っている。
「……なんだ。どこいってたんだ」
「ずっと側にいましたよ? シィが新しくおぼえた魔法で、こっそり護衛してたんですから!」
「……そうなのか?」
ぜんぜん気づかなかった。
「はい。だから、マスターの格好いいところもぜんっぶ、聞いちゃってましたっ」
げ。
「いや待て。あれはそういうのじゃなくてだな」
「町で不遇な目にあっている美少女に、優しく手を差し伸べる! 素敵ですっ」
「だから、ちがうと――」
「昔の自分を、思い出しちゃったんです?」
笑顔のままいわれて、俺は渋面になった。
「別にそんなんじゃない」
「ほー。ほー」
「なんだその顔。……本当だ。だって、見ただろ。すごくいい子じゃないか」
「いい子でしたねえ」
「俺なんかとは違う。周りが認めてくれたら、すぐ人気者になれるだろうよ。可愛いしな。け、せいぜいアカデミーで周りからちやほやされればいいんだ。呪われろ」
「ひねくれてますねえ」
苦笑したスラ子が、寄り添ってくる。
「……なんだよ」
「いーえ。ちょっとこうしたかっただけです」
そのまま耳元にささやくように続ける。
「マスター。ちょっとお聞きしたいんですが」
「なんだ」
「渡したお金、どのくらいだかわかってます?」
声は、やわらかいまま、ひどく冷たかった。
「……どうだろう」
とりあえず、すっとぼけてみようとするが、
「マスター、しばらくお小遣い抜きです」
「げ」
その瞬間、俺は自分が小遣い制になっていることに気づき、同時に家計のすべてをスラ子が握っているという事実を認識させられて。
その日は夜遅くまで、こっぴどくスラ子に叱られることになったのだった。
◇
ちなみに。
その翌日、お金はカーラとともに戻ってきた。
「よく考えたんですけど」
と彼女は照れくさそうに笑いながら、
「もう少し、こっちで頑張ってみようと思って」
「……そうか」
今さら、手元にお金が戻ってきたことが内心ですごく嬉しいなんてことはいえないので、俺はしかめっ面で答えた。
「冒険者を目指すのか? どうせろくな扱いはされないだろ」
どうせなら、どこか別の場所で登録すればいい。
こんな田舎ではなくて大きな場所なら、カーラの能力を買ってくれるパーティだってあるかもしれない。なにしろ、暴走とはいえその戦闘能力は、彼女のそれはすでにルーキーどころのものではない。
俺がそのことをいうと、カーラは照れくさそうな表情のまま、
「――あなたのそばに、いたいから」
そういった。
突然の台詞に言葉につまる俺の背後で、声もなくスラ子の威圧感が増した。