四話 スラ子の不安をつくるもの
アカデミーの内部はざっくりと二つに分かれる。
生活棟と研究棟。それはもともとアカデミーが「魔物の集団行動による社会性の獲得」をお題目としていたからで、ようするに住む場所とやるべきことをつくることでうまく社会を循環させてみようというわけだった。
もともと、魔物には労働という概念がうすい。
種族ごとにみてみればそれなりの社会性をもつ集団はけっこういても、それぞれの生態がひどく個性的なせいで他種族には理解できない、あるいは真似できない習慣が多い。
そんな多種多様な連中にむけて、極力どんな種族にも理解できるようなルール作りを模索する――アカデミーの意義と苦労は結論するとそこに集約される。昔から人間社会のやりかたをまねたり、色々と試行錯誤してきているのはそのためだ。
いってしまえば、アカデミーというのは大勢の魔物連中をつかった大規模な臨床実験に他ならない。
日々を騒動と騒動と騒動にあけくれながら、問題のたびに解決策をさがしてそれを実行する。最先端のフィールドワークといえなくもない、果てのない実地研究がそこではおこなわれていた。
そんなアカデミーは、なにか研究したいことがある相手には相応に魅力的な場所には違いなく、いろんな人材が集まってくる。
一生をこれに捧ぐと誓った研究熱心な変わり者から、とりあえずここにいれば食いっぱぐれることはないだろうと打算するものぐさな変わり者。禁忌と呼ばれるやっかいな研究に手を出して住処を追われた変わり者も。
基本、変わり者だらけになるわけだが、俺がアカデミーで世話になっていたのもやっぱり例にもれず、けっこうな変わり者の一人だった。
ずいぶんと景色のかわってしまった敷地内を、記憶をたどって歩く。
しばらくして、ようやく見覚えのある建物にたどりついたときには、思わずほっとため息をついてしまった。
「……すごい、ですね」
一緒についてきてくれたカーラが、目の前を見上げてつぶやいた。
その感想は俺に気をつかってくれたからだろう。
アカデミーの広大な敷地で、他から隔離されたような場所にたつボロボロの一軒家。ほとんどお化け屋敷といってもいいような不気味な佇まいで、それは俺たちの前に姿をみせていた。
まわりにはなにもない。
昔は他にも似たような建物が並んでいたのだが、何度も爆発で吹き飛ぶようなことがあって少しずつ距離をはなして建物がたてられるようになっていったのだった。
カーラが瞳をまばたかせる。
「爆発ですか?」
「ああ。ちょっと危険なやつがいたんだ。とりあえずなんかあったら爆発しとけっていう」
いわく、アカデミー一危険な人間と噂されたその人物のせいで、この建物の周囲は騒々しいアカデミーのなかでもとくに段をこえて騒がしかった。
その人物も俺とおなじ時期にアカデミーをでて、それ以降すこしはこのあたりも静かになったはずなのだが――閑散とした状況はかわらないらしい。
だが、そのおかげというべきか、俺が知っているものとあまり変わらない景色がそこにはまだ残っていた。
「まあ、崩れることはない。と思う。昔は大丈夫だった」
それから五年たってるからちょっと不安ではあった。
とりあえず範をしめすために、みずからドアノブをつかむ。おそるおそる扉をあけた。
――埃っぽい空気とともに、なつかしい気配が俺の全身をつつみこんだ。
嗅覚が一次刺激となって他を触発する。最近では思い出すこともなくなっていた過去の思い出が胸をついて、思わず足をとめた。
「マスター?」
「……ああ、いや。なんでもない」
後ろから、カーラや二人のエルフが怪訝そうにみつめてくる。
たった二十年くらい生きたくらいでもう昔をなつかしむなんて、カーラはともかく、長命なエルフには笑われてしまいそうだ。
苦笑しながら、近くの階段の手すりにふれる。埃がたまっていた。
「……こんなとこに誰か住んでやがんのかよ? ほとんど廃墟じゃねえか」
ツェツィーリャの疑問はもっともだった。
建物には人の気配もなく、それどころか誰かが生活している痕跡さえない。いたるところに蜘蛛の巣がはっているのをみれば、誰だってそう思うだろう。
とりあえず、近くの蜘蛛の巣にさわってみる。
相手にはもうこちらの訪問はつたわっているはずだが――少しのあいだ待ってみても、なんの応答もなかった。
俺はため息をついた。
「仕方ない。勝手にはいろう。多分、いつもの場所にこもってるんだ」
人気のない廊下をあるく。
ぎしぎしと軋む床板は今にも抜け落ちてしまいそうで、閉じた空気には呼吸のたびに微妙な重苦しさがまとわりついてくる。
なんとなく息をひそめながら、頭のなかの記憶にしたがって足をすすめ、奥の部屋の前にたどりついた。
そっと扉をあける。
たくさんの本が積み上げられた部屋だった。
そのうえに、まるで張り巡らされたような蜘蛛の糸。けれどこの場合、それは部屋が使われていないことの証ではなく、その逆だ。
「……先生。アラーネ先生、いますか」
「――おや? 随分と懐かしい声だ」
気だるげな声は天井からふってきた。
見上げると、奥の暗がりからやってくる影がひとつ。
図形状に張り巡らされた蜘蛛の糸をゆらしながらやってきた蜘蛛人族の女性が、さかさまになった姿から眠たげな眼差しをこちらにむけてきていた。
アカデミーで教授をやっているアラーネ先生は見てわかる通り、人と蜘蛛の身体をあわせもつアラクイネだ。
人喰い蜘蛛と異名をとるその魔物は、別に人にかぎったわけではなく他の魔物だってたいていのものは食わず嫌いしないでいただいてしまう。
主食は体液。つまりは獲物の血とか、あれとか。そういうやつだ。
一見すると目の覚めるような美人だが、いつも眠そうにしているのと、仕草も格好もだらしないのが魅力を大幅に減少させている。研究職の手合いにはよくいることだが、いわゆる残念系というやつだろう。
「ああ。やっぱり……マギくんじゃないか。久しぶりだねぇ」
「お久しぶりです、先生」
「どのくらい振りかな。……二年、三年。そのあたり?」
「五年です」
おー、と気のない声で先生はうなずいた。
「もうそんなに経っちゃうのか。家にこもってると、時間の間隔ってなくなっちゃってさ」
「相変わらずですね」
まるで変わっていない様子に、思わず苦笑してしまう。
「マギくんこそ……んー。変わってないこともない? 女の子を三人も連れてきてる。お土産ってわけじゃ、ないよねぇ」
「違います。食べないでください、お腹すいてるんですか?」
「どうかなぁ。最後に食べたのいつだったかな。でも大丈夫よ、ちゃんと我慢するから」
別に冗談をいっているつもりでもないのだろう。
眠たげな真顔のまま、先生は天井から部屋のなかをぐるりと見回して、
「えっと。とりあえず、……適当に座って?」
指さした丸テーブルとイスは、見事に埃をかぶってしまっていた。
「今でも掃除、苦手なんですね」
「だってさー。マギくんとルヴェくんがいなくなっちゃったからねぇ」
「新しい助手とか、雇ってないんですか?」
「何人かは雇ったりもしたんだけどね。みーんな、やめてっちゃった」
なんでだろ、と不思議そうに首をかしげる蜘蛛美人に、思いあたる理由はそれこそ両手にあまるほどあったが、今さらそれをいう気にもなれなかった。
「とりあえず、掃除くらいはしてください。掃除人だけでも雇うとか」
「いいんだよ。埃がたまるってことは使ってないってことだもの。使わないものをわざわざ綺麗にしたところで、そんなのただの見栄じゃない。時間の無駄よ」
さばさばしているというか、ずれているというか。
仕方なく、埃まみれの机と椅子をはたいてそこに座る。カーラはテーブルに積み上げられた本を崩さないように慎重に、ヴァルトルーテは笑顔のまま、ツェツィーリャは嫌そうに顔をしかめてそれに続いた。
「えっと、ちょっと待ってて。やあ、お茶ってどこだったかなー」
「先生、いいですよ。気にしないでください」
歓迎しようとしてくれているのは嬉しいが、お茶道具を発掘するだけで半日かかってしまいそうだ。
「そ? じゃあ、まいっか」
するすると張り巡らされた蜘蛛の糸をたどって地上におりてくる。
蜘蛛用の椅子はないから、先生は自分の糸でつくりあげた蜘蛛糸のクッションにぽすんと背中をあずけて、
「それで、今日はいったいどうしたんだい」
不思議そうにみてくる相手に、俺はおもいっきりため息をついた。
「……先生、俺がけっこう前にだした手紙、読んでくれてますか?」
「手紙?」
きょとんと先生はまつげをまばたかせて、
「あーあー。うん、読んだ読んだ。いい詩だったよ、すごく感動した」
「絶対に読んでないじゃないですか。なんですか詩って。どうしてそんな嘘つくんですか」
「えー。だってさぁ」
そっぽを向いて子どもみたいに口をとがらせた。
「手紙って嫌いなんだよ。借金の督促とかさ。誰かの不幸とか、やってくるのはそんなのばっかりじゃないか」
「大切な用事ってこともあるでしょう」
「そんなの、必要な連絡ならアカデミーを通して来るだろう」
「そりゃまあ、そうですけど」
本当に社交能力のない人だ。
さすが俺の先生。
ふふん、と勝ち誇った顔になった先生が、
「で? つまり、これからするのはアカデミーに通されたくない話ってわけだ。面白そうじゃないか」
眠たげな瞳の色をすっとかえた。
「聞かせてよ。最近、面白いことがなくって退屈してたところなの」
――変わった先生だが、怖い先生でもある。
俺は気を引き締めて、あらためてここを訪れた目的、つまりはスラ子のことについて語り始めた。
「ふむ。なるほど」
俺の話を聞き終えた先生がうなずいた。
「スライムを核とした魔法生体。そういえば君、うちにいたころはずっと閉じこもってスライムの世話ばっかりしてたっけ。なんだい。ここを出てからもずっとそれか。成長のない男だなあ」
「ほっといてください。それより、どう思いますか」
「ふむ……」
蜘蛛脚をこするようにしてから、
「私は魔法生体については専門じゃないんだけどね。だから、専門的にどうかって話をできるわけじゃないけど、色々と思うところはあるなぁ」
「はい。正直、自分でも戸惑ってる部分があって。その相談を先生にしたくて、ここまで来たんです」
「そういう風に頼ってもらえるのは素直に嬉しいね」
頬をほころばせてから、ちらりと俺以外の三人に視線をむけて、
「で。話っていうのは、この人達の前でやっちゃっていいの? どうも、えらい剣幕でこっちを睨んでるコもいるんだけど」
「はい。彼女らは、仲間と、……仲間ってわけじゃない相手もいますけど。信用はできます」
「どうだろうね」
先生が肩をすくめた。
「マギくんは人がいいからなあ。そんなんだから、昔から私やルヴェくんにいいように使われてきたんじゃないか。研究者で人がいいってのは一番の短所だよ。君がアカデミーに残れなかったのも、つまりはそういうことだろう」
「この年になって性格なんて変えられませんよ。残れなかったのは、俺に才能がなかったからです」
「その顕示欲のなさも致命的だね。まあいいや。それで、話についてだが――基本のところからいこうか。詳しくないコだっているかもしれないしね」
講義をする口調で、先生は話し始めた。
「魔法生体。マナを利用した疑似生命体っていうのはよく知られてるし、歴史も深い。細かい仕組みはおいとくとして、だいたいどれにも共通しているのはなにか触媒を探して、それにマナを込め、循環させることで活動させるってことだ」
「ゴーレムとか。スケルトンとか、ですね」
「うん。代表的なのはそのあたりだろう。まあ、歴史が深いってことは大抵のことはやられてるし、開拓の余地もない。私なんかにはまるで食指の伸びない題材だが、そんな長い歴史でもスライム製の魔法生体なんてのは聞いたことがない。マギくん、その理由は?」
「……スライムが、不定形性状と呼ばれる生命体だからです。確たる形を持たない。つまり、触媒としてマナを定着させるのに、安定させることができない」
「うん、そうだ。魔法生体には核が必要だ。札とか、紋様とか。岩とか骨。なにかしら変わらないものが必要とされる。だが、スライムはそれ自体が流動的だ。札を核として、その周囲をスライムで包むような代物ならともかく、核から全てスライムの魔法生体なんて前代未聞だろう。それがまがりなりにも安定して存在できるだなんてね」
鋭い視線がこちらをみすえる。
「正直、驚くよ。そんな芸当をいったいどんな手管でやったんだい?」
「……すみません。それについては、ちょっと」
申し訳なく思いながら、俺はいった。
片方の眉をもちあげたアラーネ先生が小さく微笑んで、
「ああ、自分の研究の根幹なんて、そうそう他人に洩らせないか。悪かった。無礼はこちらだったよ」
「いえ……」
「さて。それで君のつくったという――スラ子ちゃんか。内面と外面、どちらにも問題はあるようだ。精霊を喰ったか。確かにそいつは只事じゃないな」
台詞とは裏腹に、先生は楽しげな口調だった。
エルフの二人が表情を険しくするが、それをまるで気にもしないふうに続ける。
「精霊を取り込むというのは、マナを取り込むことと同義だ。取り込む。我々のように、マナを使うというのとは根本的に違う。……そのスラ子ちゃんは、取り込んだ精霊の力を使えるようになった節があるんだろう?」
「……はい。一度、それで暴走しかけて。取り込んだウンディーネの姿になりかけたときがありました。それで、そのあとに全体が崩れかけて――俺たちの仲間の、シィって妖精の子が、自分の羽をスラ子に与えてくれて。それで、なんとか容体は落ち着きましたけど」
「妖精の羽か」
ふうと息をはいた。
「なるほど。スライムの魔法生体を安定させた技はともかく、精霊なんてモノを取り込んで辛うじてにでも安定できたのは、その羽のおかげなんだろう。妖精も精霊に近い生物だからね。触媒、というよりは潤滑剤の役割を果たしたわけだ。その妖精も、今の結果をわかったうえでの行為でもないだろう。君一人の成果というより、偶然の出来事が重なった奇跡の産物だな」
「はい。本当に、そうだと思います」
「結果、そのスラ子ちゃんは精霊としての力を使う、精霊ではない存在になったと。姿かたちを自在に変え、その能力の果ては見えず――ふふ、いいね。実にそそるじゃないか。是非とも会ってみたい」
表情に、マッドな片鱗をちらりとうかがわせる。
スラ子をこの場に連れてこなくてよかったと、心から思った。
「それで、マギくんはそのスラ子ちゃんの果てのなさに不安を覚えているわけだ。どうやら、そっちのエルフの子たちもおなじらしい」
エルフの二人は黙ったまま。
俺はうなずいて、
「それもですけど。スラ子自体も、なんというか――なんていったらいいのかわからないんですけど。……情緒不安定なところがあって。生まれてまだ数か月なんで、そのせいもあるんだと思うんですが」
「ふむ。子育てについては、ちょっと私も経験がないからなぁ。ますます一般論でしか答えられないが――」
先生が難しく考えるように腕をくんだ。
「愛着、という概念を聞いたことがあるな」
「愛着?」
「ああ。生まれて間もない子どもが、自分の周囲に抱く原初の感情、とかだったかな? まあ大体の場合は母親を相手にということになるんだろう。いうまでもなく、母親とは子どもにとってまず己自身であり、やがてはじめて接する他者でもある。社会のはじまり。自己を知るための一枚目の鏡だ」
「……それが、スラ子に欠けてるってことですか?」
「そうじゃなくてね。そのスラ子ちゃんが愛着を感じるとしたら、やっぱりその相手は君だろう? つまり、彼女が自分自身の存在を認めてもらえるための、絶対的な対象。それがマギくん、君だよ」
「それは。――わかります」
俺はスラ子の親だ。
だから、俺がしっかりしないといけない。俺がしっかりしないと、スラ子が――
「ふむ。どうだろうね。その心構えは立派だが、しっかりしていない親なんていくらでもいると思うけどね」
おかしそうに先生は笑って、
「もちろん、立派であることに損はないさ。けれど、スラ子ちゃんの場合はまた少し違いそうな気がするよ」
「どういうことですか?」
「さっきの愛着っていうのは、生まれたての幼児の話だ。確かな自我もなく、ただ庇護を受け入れることで生かされている状態。一人じゃ生きていけないけど、自分は生きていいんだと――幼児というのは、その愛着を通して、この世界に対する無条件の安心感を得るんだと思うよ。いずれ自分が成長してからもずっと意識の底にたゆたう、根本的で絶対な安心をね」
「……はい」
「ひるがえって、スラ子ちゃんだ。確かに彼女は君に愛着としての安心感を求めているんだろう。しかし、彼女は生まれながらにして既に知恵がある。能力もある。彼女は幼児ではないんだよ。他の誰かを信用することでしか生きられないわけじゃあないんだ」
それは、つまり――
「スラ子は、愛着っていう生きていくために大切なものを、無条件に信じることができない。ってことですか」
「彼女は大人すぎるんだ。まだ0歳なのにね」
先生はいった。
「知恵もある。知識もある。魔法生体の知育についてはいくつか面白い論文もでていたと思うが、こういう症例は見たことがないな。生まれながらの大人というなら、他の魔法生体でもありえることだ。スケルトンやゴーレム、もっと高度なヤツでならね。そういうものとスラ子ちゃんの違いは――やっぱり、在り方にあるのかもしれない」
「――不定形」
「そのとおり」
うなずく。
「魔法生体なら、自分自身を知るために使われた触媒というものがある。スケルトンなら骨。ゴーレムなら岩。あるいは札。スケルトンには、生前の記憶が残っているかどうかというような話もあったな。それはともかく、なにかしら確たるものが彼らにはある。そう、“無条件の安心”だよ。だが、そのスラ子ちゃんとやらはスライムだ。不定形な核しか持たない。定まるものがない」
自分自身を信じられない。
かといって、無条件に誰かにすがれるほど幼くもない。
外にも内にも。
スラ子は不安を抱えてしまっている――
「じゃあ。スラ子は、これからもずっと。不安を抱えて生きていくしかないんでしょうか。俺じゃあ、あいつの力にはなれませんか」
「……彼女はきっと、君に依存してしまっているんだろうと思うよ。無条件に誰かを信じられないけど、だからこそ誰かを信じたいと強くすがっている。君を信用し、信頼することが悪いわけじゃない。だが、いつまでも親にすがっていては子は成長しない。大抵の場合、親は子より早く死ぬものだしね」
「――はい。俺は。俺がいなくなったあとも、あいつに生きていってほしいんです」
「いい親じゃない」
くすりと微笑んだ先生が、
「だとしたら、解決策はあるんじゃないかな」
「なんでしょう」
「別に難しい話じゃないさ。君がいなくなったあとも、彼女と共にいてくれる誰かがいればいい。君以外にもすがれる何者かがあればいい」
そこで言葉をきり、肩をすくめて先生はいった。
「“つがい”をつくってやればいいんだ。兄弟や姉妹。彼女が自分自身を信じられるための、自分とおなじ存在をね」