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九話 事態解明、ならず

「コーズウェル様。気になることがあるのですけれど、お聞きしてもよろしいでしょうか」


 その日の夜、広間での夕食が半ばを過ぎたころにルクレティアが話を切り出した。

 半ばといっても、食が進んでいるのはコーズウェルだけ。同席している俺たちはほとんど手をつけていない。


 料理の盛られた皿どころか、水にさえ手を伸ばさない俺たちの様子をちらと確認したコーズウェルが、


「どうぞ、自分に答えられるものであればいいですが」

「こちらの村で竜の呪いといって囁かれ始めたのは、この一月ほどのこととお聞きしました。それは一体どういった形で広がり始めたのでしょう」

「ミス・イミテーゼルは呪いに興味がおありですか」

「興味というよりは、不安です。竜殺しがあったのはメジハからほど近くです。竜の呪いというなら、メジハにもそれが訪れる可能性がありますもの」


 もちろん、ルクレティアは呪いを信じているわけじゃない。それでもこういうふうに聞かれてしまえば、コーズウェルには答えるしかないだろう。


「なるほど」


 コーズウェルが、ワインを口に運んで一拍をおく。


「……始めというほど、はっきりとしたものはなかったのですよ。村にお寄りになったノイエン様方がこの村を発たれてから、ちらほらと体調不良を訴える者がでてきました。自分達がどうも様子がおかしいと感じたのは、ここ一週間ほどのことです」


 タイミング的には、いかにも竜殺しの面々が影響していそうな流れではある。

 もちろん、そう取られるようにコーズウェルが辻褄をあわせてるだけかもしれない。実際にいつから異変が起こったかは話を聞くだけでは確かめられない。


「体調不良とは、どのような?」

「倦怠感や食欲の不振。そうしたものです。熱などはなく、ただちに死に至る類のものではないようですが、いかんせん原因がわからない。そうこうしているうちに不調を訴える者が増え、次第にこれは竜の呪いなのではないかという話があがるようになりました」


 コーズウェルが心配するように俺たちを見た。


「そちらのお連れにも、体調を崩されている方がいらっしゃる。他の皆様も食欲がないようだ。それが呪いの一端でなければよいのですが……やはり、無理をしてでも今日のうちにここをでたほうがよかったかもしれません」


 こちらの身を案じながら、その言葉にはもうひとつの意味がかかっているように思えた。


 ――お前たちも呪われたくないなら、さっさとでていけ?


 相手の発言に悪意を感じるのは、俺がコーズウェルという人物をうたがっているからだろう。

 それはそうだ。


 昨夜の村人の様子と、便の悪い山中につくられた畑。

 この集落の異常に、責任者であるコーズウェルは間違いなく関わっているはずだった。


 ただし、その目的や背景がわからないから、それを明らかにするためにルクレティアが問いかける。


「こちらに医者はいないとのことでしたが、ギーツからお呼びにはなりませんでしたの?」

「いよいよおかしいとわかり始めたのが、ここ数日でした。ギーツに医者を求める旨は手紙にして送っておりますが、やってくるのにはまだかかってしまうでしょう」

「ギーツへお戻りになるジクバール様に、伝言をお頼みになればよろしかったかもしれませんわね」


 コーズウェルが苦笑じみた笑みをうかべる。


「その時点でおかしなことが起こっていれば、そうしたでしょう」

「そうでした。失礼いたしました」


 ルクレティアのかまかけにはひっかからない。

 苦笑のまま、壮年の男はゆっくりと頭を振った。


「ミス。私は傭兵上がりで、こういったやりとりにあまり慣れていません。お聞きになりたいことがあるのであれば、率直にお願いしたい」


 ルクレティアがこちらを見る。

 交渉事には俺だって慣れてない。相手にまかせるつもりで、小さくうなずいた。


「……では申し上げます。この集落に起こっている呪いの正体について、心当たりがあるのです」

「ほう、それは?」

「瘴気と呼ばれるものがあります。生き物に被害を及ぼす、汚れたマナの吹き溜まりのことです。このあたりには、決して濃くはありませんが、その影響がでているようです」


 ルクレティアの発言に、少なくとも俺からわかる限り、コーズウェルに動揺はみられなかった。

 薄く髭の伸びたあごを撫でながら、


「瘴気というものについて、自分も多少なら存じています。北の地を今なお枯らし続ける、濁った黒い澱み。しかし、目に見える形でそういったものは、このあたりには見かけられないように思いますが?」

「ですから、比較的に軽い症状で収まっているのでしょう。濃い瘴気のなかでは、人間はとても生きてはいられません」

「さすがに王都で学ばれていたというだけあって、お詳しい」

「実際に身近に知っている経験があるというだけですわ。先日の竜騒動、生きた屍と化した竜が周囲に撒き散らしていたのが、その瘴気でした」


 ふむとコーズウェルが息をつく。


「しかし、どうなのでしょう。目に見える形ではっきりとしているならともかく、目に見えないものをそれだと断定することは、難しいように思えますが」

「確かに、濃度の低い瘴気には我々は気づけないでしょう。しかし、それを知る方法はあります」

「証明する手段があると?」

「我々より魔力の在り方に敏感な生き物であれば、些細な瘴気にも気づきます。それで今日、川までスライムを探しにいっていました」


 コーズウェルが驚いたように目を瞬かせ、それから可笑しそうに笑った。


「それは――なんともユニークな。面白い手段を思いつかれるものだ」

「私の発案ではありません。必要とあれば、明日にでもお試しになってみればよろしいかと」

「そうさせていただきましょう。しかし……では、この村に起きている呪いとはやはり、竜が関わっているのですな」

「それはどうでしょうか」


 ルクレティアは冷ややかに笑った。


「瘴気とは、故なく生まれるものではありません。問題はそこです。いったいなにがこの地に瘴気をもたらしたのか」

「メジハで湧いた瘴気が、それではないと?」

「私どもの近くの森に起こった瘴気は、今もその場所で一定の濃さを保ち続けています。それが大気にまじり、木や土に溶けて浄化されるのには長い時間が必要になるでしょう。もし、ここで生じた瘴気がメジハ由来だというのなら、そこにはメジハの近くのなにかがあるはずです」

「なるほど。それこそ竜の死体や――瘴気に汚れた土。そうしたものが持ち運ばれているべきということですか」

「はい。そして、そのような事態はありえないと、ギルドを祖父から預かる者として断言いたします。先日の騒動以来、森への侵入者については厳しく目を光らせていました。広い範囲に影響を及ぼすような多量の土が持ち運ばれることがあれば、見逃すはずがありません」

「……確かに。その通りですな」


 感心したようにコーズウェルがうなずいた。


「理のある説明だ。では、この地にある呪いとはつまり、瘴気を生み出すことそのものということですか」 

「いいえ、それも違います」


 ルクレティアは首を振って、


「先ほども申し上げたとおり、瘴気とは原因があって起こるものです。呪いがその理由になるかどうかはともかく、確かにこの集落にはそれがありました」


 催促する眼差しをこちらに送った。


 ……せっかくの切り札を、こんな段階で使っていいのか?


 そう思ったが、こういうやりとりはルクレティアのほうが数段上であることはさんざん思い知っている。俺は黙ってその場に持ってきていた包みをテーブルの上にひろげた。


 そして目撃した。

 それを見たコーズウェルの表情がたしかに一瞬、曇ったのを。


「コーズウェル様、この植物をご存知ですか」


 男は答えない。


「私は、恥ずかしながら存じませんでした。しかし――先ほどのスライムの件もですけれど、連れにこういったおかしなことにばかり学の深い変わり者がおりまして」


 また視線。

 おかしなことは余計だ、と思いながら、俺は口をひらく。


「……これは、ハシーナ。魔力の影響を受けながら生息する植物を魔性植物っていうが、これはそのなかでもさらに特殊なやつだ。瘴気のなかでの自生が確認されている希少種。瘴気性植物だ」


 コーズウェルの鋭い眼差しがこちらを射抜いた。

 それに内心でびびりながら、


「北には、魔王竜グゥイリエンの傷痕が深く残ってる。そこからはほとんどの生命が失われたっていわれてるが、そのなかで生態系に適応した生き物もわずかにいる。それがこれだ。これは、瘴気のなかで、瘴気を糧にして生きる。それだけならやっかいな瘴気問題に上手く使えそうだがそうはいかない」


 見た目はそこらに生えている雑草にありそうな、ぎざぎざした葉っぱをつついて、


「瘴気環境下で生きられるようになったこの植物は、世代を繰り返すうちに、瘴気がなければ生きられないようになっていた。そしてさらに、こうなった。自分たちに必要になった瘴気を、自分たちでうみだすように」


 生物の適応能力ってのは本当に底が知れない。

 生き物を寄せつけない瘴気を利用するだけでなく、瘴気を生みだすようにまでなるっていうんだから。


「この集落の土を汚してるのは、呪いなんかじゃない。この植物だ」

「そしてもちろん、この植物は理由なく自生するようなものではありません。コーズウェル様、私どもはこれを、山のなかで見つけました。隠すようにひっそりと耕された畑のなかにです。ご存知でないわけがありませんわ」


 指摘を受けたコーズウェルは沈黙を続けている。


「この植物は、食用の実を成らすわけでもないそうです。そんな代物を、いったいどうして栽培などされているのか。もちろん、理由があるはずでしょう。マギさん、そちらについては?」

「ハシーナは、特級の魔性植物として使われてた。強い魔力があるからな。元々、瘴気のなかに生えてたものを無瘴気の下に持ち出したのだってそれが理由だ。瘴気環境から外に持ち出された結果、さらに環境適応して自分で瘴気を生み出すようになったってのは皮肉だが、それでも有用だった。ハシーナそのものにも、粉末状にして飲めば魔力を増す力があるらしい。だが同時に、ハシーナの実には、ある毒性が認められてもいた。瘴気を糧にするような植物だ、ないわけがない」

「具体的にはどのようなことでしょう」

「強い中毒性、依存性。それだけじゃない。服用を続けるうちに、身体が徐々に瘴気に蝕まれていくんだ。だから、ハシーナの粉はこんなふうにいわれてる。“魔薬”ってな」


 ルクレティアが、厳しい眼差しをコーズウェルにむけた。


「どうしてそのようなものをお育てになっているのか。是非その理由をお聞きしたいものですわ」


 沈黙。

 俺とルクレティアの言葉を黙って聞き入っていたコーズウェルが、重い息を吐いた。


「……驚きました。たった一日で、そこまで探られてしまうとは。山の畑にまで――村からの道をいくならともかく、そこ以外から山に入って、易々と辿り着けるような場所ではなかったはずですが。ミス・イミテーゼルにはよほど、山歩きに強いお連れもいらっしゃるようだ」

「女ばかりと冴えない男の一行で、油断でもされましたか?」


 否定をする気はないが、果たしてそこで俺のことを悪くいう必要はあるのだろうか。


「どうでしょうな。確かに、こうなれば無理をしてでも見張りをつけておくべきだったか――いや、やはりその必要はない」


 男は首を振り、


「――それで、そのことのいったいなにが問題なのでしょう」


 平然と言った。


 開き直った男の態度に、ルクレティアが眉をひそめる。


「……お話を聞いていただけていたのでしょうか。毒性があり、瘴気まで生み出す。そんな恐ろしい作物を育てることが、」

「ですから、それを非難されるいわれがあるのでしょうかと申し上げているのですよ」


 男はまったく悪びれない態度だった。


 ――確かに、コーズウェルのいうとおり。

 ハシーナは、その栽培を禁止されたりなんかしてしない。


 俺がハシーナを知った魔物アカデミーでは、さっき挙げたような理由から、今では利用を禁止されている。


 だが、それはあくまでアカデミーに限った話だ。

 人間の法とはまったく関係がない。

 そもそも、ハシーナの存在を知っている人間だってほとんどいないだろう。


「見識を疑いますわ。コーズウェル様。貴方のなさっていることが、許されると思っていらっしゃるのですか」


 怒りを隠せないといったルクレティアに、コーズウェルは余裕のある態度で微笑んで、


「いったい誰に許される必要があるでしょう」

「決まっています。ギーツの領主様ですわ。こんなことが行われていることを知れば、貴方は必ず罪を問われることになるでしょう」


 コーズウェルが笑った。


「ああ、そこに考えが至らないとは、やはりまだまだお若いようだ。ミス・イミテーゼル」

「なんのお話でしょう」

「私は領主様からこちらを預かっています。そこで行われていることに、いったいどうしてあちらの意向が関わっていないとお考えになるのか――」

「な、」 


 ルクレティアの視線が動揺したように揺れて、こちらを見て。

 一瞬、強い光に固定する。


 ――引き出しましたわ、とその目がいっていた。


 ……たいした演技力だ。

 皮肉ではなく、本当にそう思った。


 俺とルクレティアが知りたかった、今回の件の背景。

 それはつまり、コーズウェルのやっていることが個人としてなのか、領主が関わっているかどうかだ。


 元々、俺たちはコーズウェルの行為を追求する立場にない。

 瘴気問題は周辺地域に生きる全員に関わることだが、だからといってそのことでコーズウェルを裁く立場や法的な根拠があるわけではないのだ。


 ルクレティアは将来、メジハの長を継ぐことになるだろうが、今の段階ではただの長の身内。そして俺たちはその連れだ。

 一方のコーズウェルは、ギーツの領主からこの開拓村を預かっている身分になる。


 そして、その肝心の領主の意向が、コーズウェルと繋がっているのなら――それによって、俺たちがとる行動だって考えなければならない。


 もちろん、集落単位で事がおこなわれている以上、領主が関わっていない可能性のほうが低いのだが、それを本人から聞きだせたことに意味がある。


 あとは、これからの始末をどうつけるか。


「では、この件は直接、領主様にお話しすることにいたします。近くに住む者として、このような事態は放っておけません」

「ああ、それも少し困りますな」


 ――困る?


「領主様は貴女のことをいたく気にかけておいでです。その貴女様に悪い印象を与えたまま、ギーツにいかれてしまっては、少しばかり面倒になりかねない」


 俺とおなじように眉をひそめたルクレティアが、探るような視線をコーズウェルにむける。


「……私がギーツに向かうことは、つきあいのある商会を通して、すでにギーツにも届いているはずです。領主様が私の祖父を気にするというのなら、下手なことはお考えにならないほうがよろしいですわ」

「必ずしも無事に辿り着かないのが旅というものでしょう。しばらくの予定の遅れ、あるいは途中での行方知れずなどというのは日常茶飯事です。領主様や貴女のお爺様も納得されるでしょう」

「脅迫でしょうか」

「とんでもない。少しばかり、話をする機会を続けたいということです。それに、貴女がたにはこちらからお聞きしたいこともあります」

「答えられることであればよいのですけれど」 

「そう願いたいですな。……貴女がたはこの村にきて、いったいなにをしでかしてくれたのですか?」


 コーズウェルの質問に、俺ばかりでなく全員が眉をひそめた。


 俺たちがしでかした?

 いったいなんのことだ、それは。


「質問の意味がわかりかねますわ」

「はぐらかされるおつもりなら、けっこう。しかし、それについて教えていただくまでは、ギーツに向かっていただくわけにはいきませんぞ」

「ですから、なんのことだと――」


 演技ではなく戸惑ったルクレティアの問いかけをさえぎるように、泣き声が響きわたった。


「わっ。ごめんなさいっ」


 俺たちのやりとりを黙って聞いていたルヴェが、あわててあやしにかかる。


 なんとなく気まずい雰囲気になりかける。

 それが払拭されないうちに、今度は広間の扉を叩く音が鳴り響いた。


「何事だ」


 扉を開けた兵士風の男が、コーズウェルになにごとかを耳打ちする。


「――失礼、話はまた後にしましょう」


 立ち上がりかけたコーズウェルに、ルクレティアが声をかけた。


「お待ちください。コーズウェル様、いったい何があったのですか」

「……本当に、お知りにならないと?」


 男は疑いをもった眼差しだった。


「ですから。先ほどから、なんのことかとお聞きしています」

「村の人間が暴れています。昨夜、なにごとか騒がれていたようなので、てっきりご存知かと思っておりましたが」


 なにをいってるんだ、というような男に、そう言い返したいのはこっちのほうだった。


「それがあの植物の影響なのではありませんか。瘴気が村の方々を狂わせ、徘徊させている――」


 今度こそ眉をしかめたコーズウェルが、


「村人の体調不良や人死にまででていることはお話しましたが、私が一度でも、村人が夜に徘徊するなどと? そんなことはこれまでなかった。それが起こるようになったのは、昨晩から。つまり貴女方がここを訪れてからです、ミス・イミテーゼル」

「それは――まさか、そんなことが」


 答えを失うルクレティアをみて、コーズウェルもおおいに戸惑った様子だった。

 やがて、細いため息をついて、


「……失礼。どうやらこちらにも思い違いがあったようだ。しかし、いずれにしても続きは後にしていただきたい。皆様はどうぞこちらでお待ちを。決して外にはでられないよう」


 口早にいい、男は部屋から去っていった。


 残された俺たちは、混乱しきってお互いの顔をみあわせた。


 ……どういうことだ?

 昨日のあれは、コーズウェルとは関係ないということか。


 いや、瘴気とそれを生み出すハシーナの存在は間違いない。

 つまり問題は、それだけではないということ――


「……タイリン? どうした」


 へんてこな髪型の少女の顔色が悪いことに気づいて、俺は声をかけた。

 そして気づく。


 気分が悪そうにしているのはタイリンだけじゃなかった。

 カーラやスケル、それにルクレティアもいつも以上に顔の色が白すぎる。


「なんでしょう。少し、気分が……」

「おい――、ッ」


 口を開きかけて、頭にずきんと痛みが走った。


 ――まずい。

 山のなかにあるハシーナに気づいてから、ここの食べ物や飲み物はとらないように気をつけていたが、昨日の分はもう手遅れだった。


 瘴気がいくらか体内にはいってしまったのかもしれない。

 けど、それにしたって少量のはずだ。


 こんな、体調を一気に悪化させるような影響なんて――


 がちゃりと扉がひらく。

 姿をあらわしたのはスラ子だった。

 人の目を避けるためのフードをかぶり、けれどそのなかの肌は半透明なまま、苦しげに顔を歪めている。


「――スラ子。大丈夫なのか、お前」

「……マスター、危険です。離れてください」


 辛そうな表情でスラ子がいう。


「村の連中が、来る――か? でも、だったらなおさら、外にはでないほうが、」


 今日は、朝になったら村の連中はいなくなっていた。

 村をでるなら、それを待つべきだろうと思ったが、しかしコーズウェルが俺たちをここに留めておくつもりなら、混乱に乗じたほうがいいのかもしれない。


 だが、俺も含めて全員、こんな体調じゃあ――


「違います……」


 しかし、スラ子は大きく頭を振って、切羽つまった声で告げた。


「離れてください。――その子から」


 危機感に満ちた眼差しは、今も抱かれながら泣く赤ん坊にむけられていた。



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