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十九話 お嬢様の正しい言い分

 一本一本は決して強くない松明の灯りに照らされ、暗闇からぼんやりと浮かぶいくつもの顔。

 町の人間。ギルド所属の冒険者たち。


 突然現れた連中に、俺はあわてて背後のスラ子とシィの様子を盗み見た。


 シィが落ち着いてうなずきを返してくる。

 二人の姿がしっかり消えていることを確認してから周囲に視線を戻す。そこからの視線は全て倒れたタイリンに集中していた。


「……ルクレティア」

「聞こえませんでしたか? その賊をお渡しなさい」


 権高な物言いが告げた。

 ぴくりと隣のスラ子が腰を持ち上げかけるのを手で抑える。


 ――タイリンについて、俺たちが行動をとること、それらに気をかける必要がないということは、前もってルクレティアに伝えてあった。


 だから、ルクレティアは呪印の縛りに関わりなく行動できる。

 なにかやってくるかもしれないとは思っていた。けれど、それにこの時を選んだルクレティアの動機がわからない。


 一人なら話の聞きようもある。しかし、周りに他の目があればそうはいかない。町の人間には、俺やカーラはルクレティアの手下という立場になっている。

 ルクレティアがそういうタイミングを狙い、今この行動をとっていることも間違いないだろう。


「……マスター。“今の私”なら、問題なくこの場の全員を昏倒させられると思います」


 耳元でスラ子がささやいた。

 一瞬、それもやむなしと思いかけて。近くの灯りを反射されたルクレティアの瞳が一瞬、炎にまたたいたように見えた。


 毅然として見おろす眼差しを凝視しても、そこからなにかの感情は読み取れない。

 俺は内心を微塵も外に漏らさない表情を見上げてから、


「……わかった」

「けっこう」


 ルクレティアがうなずくと、町の人間が気絶しているタイリンの腕をつかんで強引に引き上げる。雑多な荷物を扱うような乱暴な手つきに抗議の声をあげるよりはやく、スケルがその男の腕にすっと手を添えて、薄く微笑んだ。


「もうちょっと、優しく扱ってあげてくださいな」

「っ……うるせえ。邪魔すんな」


 鼻白んだ男が荒々しく腕を振り、数人でタイリンを引きずって行く。

 それを渋面で見送り、俺は町人とその場を去ろうとする後ろ姿にあらためて声をかけた。


「ルクレティア――」

「今日は疲れているでしょう。私も休みます、話があれば明日にどうぞ」


 ルクレティアはこちらを振り返りもしなかった。


 松明の群れが遠ざかり、沈んだ暗闇があたりに戻る。

 視線を感じてそちらを振り向くと、眉をひそめたカーラが俺のことを見上げていた。


「マスター――」


 その先の言葉を続けられずにいる少女にうなずいて――わかってる。


 ……わかってる?

 いったいなにがわかってるんだ、俺は?


 だが、少なくとも今やらなければならないことは、わかっていた。

 背中の羽を淡く輝かせる小さな妖精を見て、


「シィ」

「はい」

「頼めるか。ルクレティアのところにいってきてほしい」


 話は明日にしろ。とルクレティアはいった。


 だが、それをいわれたとおり待っている理由はない。

 そんな程度のことはルクレティアもわかっているはずで、そのうえであの発言というのはつまり、


「俺やカーラは動けない。釘をさされて、それを周りにだって聞かれてる。人目につかないようにしなきゃならない。来るならそうやって来いって、ルクレティアはいってるんだと思う」


 姿を消せるシィにならそれができる。

 俺の頼みを聞いて、感情の乏しい顔でゆっくりとまばたきをしてから、


「……はい」


 こくりとうなずく隣から口を挟んできたのはスラ子だった。


「マスター。私がいきます」


 それを半ば予想していたから、首を振る。


「駄目だ」

「タイリンさんの身柄をどう処理するかですよね? だったら、私がいったほうがいいと思います。私なら実際どうやるつもりか詳しく説明できますし、やってみせることだって出来ます」

「そりゃそうだが」


 町の人間が求めているのは、犯人だ。

 自分たちの育てた麦を痛めつけた相手。“わかりやすい”自分たちの感情、その憤りのぶつけ先。


 つまり、敵。


 そしてルクレティアもそれを求めている。

 町という集団を統制するために、わかりやすい“敵”が必要だからだ。


 分散するバラバラの意識を集中するための目標。あるいはそれはギルドや、カーラについても同じことがいえるだろう。

 だからこそ。そんなスケープゴートに、タイリンを差し出すわけにはいかなかった。


 今回の騒動に結末を迎えるために、なにかが必要というのはわかる。 

 そのうえでタイリンの身の安全も図りたい。そんな都合のよい展開について俺はひとつだけ考えがあって、それにはスラ子の助けが必要だった。


 その説明にスラ子自身がいくというのも、たしかに理にはかなっている。


 けれど、


「スラ子。お前、体調はいいのか」


 さきほどタイリンの攻撃に苦悶していたスラ子はもう普通にしていて、それがかえって俺には不安だった。


「ぜんぜん平気です」

「……あんなに苦しそうだったのにか?」

「はい。さっきのは、もうわかりましたから」


 にこりと微笑んでくる。

 その様子はやせ我慢のようには見えず、俺はこちらに笑いかける相手に不審な点はないか探りをいれるが、なにも変わった様子は見当たらない。


 タイリンから受けたダメージは本当にないのだろうか?

 精神的な作用に限定された魔法なら、術者が集中を失うことやその魔法への抵抗に成功した時点で影響から解放されるということはある。


 さっきのもそれだったのかもしれないが、そもそも闇属についての知識がまるでないのだから判断のしようもないことだ。

 大丈夫というなら、その言葉を信用するほかないが、


「……俺は、話をつけてきてほしいだけだ。争ってほしいわけじゃない。わかるよな」

「はい。わかっています」


 スラ子は笑顔のまま、けれど、と続けてきた。


「もしあちらから仕掛けてきたなら、お仕置きをしてしまうのはかまいませんよね?」


 俺は渋面になる。


「ルクレティアがか?」

「ルクレティアさんが受けた命令のファジーな部分については、本人の解釈次第です。その解釈が屁理屈だと自分で思ってしまえば、その時点で制御はかかるでしょうが――」


 意味深な笑みを浮かべる。 


「少なくとも。ルクレティアさんに、私に反対してはいけない。なんていう縛りはかかっていません」


 スラ子は、まるでそうなることを期待している口振りだった。


 そんなことをいわれてしまえばますます不安になるが、もしルクレティアがそうしたなにかしらの行動に出るなら、シィがいったところで同じだ。

 なら、いざという時に備えて、能力の幅が広いスラ子がいったほうがよいという話になってしまう。


 ――困った。反対する理由が見つからない。

 それでも迷い、さんざん悩みに悩んでから、俺は決断した。


「……わかった。話がこじれたら、無理しないで戻ってくるんだぞ。起きて待ってるから」

「了解ですっ」


 元気いっぱいの返事を残し、地面に溶けるように姿を隠す。



 朝になっても、スラ子は戻らなかった。



「ルクレティア!」


 町長宅に乗り込んだ俺は、うんざりするほどの待ち時間を控えの部屋で過ごしてからようやく通された室内に乗り込むや否や、怒鳴り声をあげた。


「お静かに。廊下に響きます」


 人のことをさんざん待たせておいて、そ知らぬ顔で眉をひそめてくる。

 かっと頭に血がのぼりかけて、なんとか暴発しそうな勢いを飲み込む。何事かと家の人間にやって来られたら面倒だ。


「スラ子はどこだ」

「まず口にするのはそれですか。貴方様らしいですけれど」

「質問に答えろ!」

「お静かに、といっています。家の外にも、誰に聞かれるか知れたものではありません」


 どこまでも冷静な言い様が腹立たしい。

 口のなかで苦いものを噛み潰しながら、俺は抑えた声をつくった。


「……スラ子が来たはずだな」

「いらっしゃいましたわ」

「タイリンのことで、話があったろう」

「ええ、ありました」

「なら。提案への回答を聞かせてもらえるか。スラ子がどこにいるかもだ」


 うなるようにいうと、ルクレティアはにこりともしない。


「件の相手に対しては、私のやりたいようにしてかまわない。そういうお話だったかと思いますが」

「つまり、反対か」

「見通しが甘すぎます」


 冷ややかな一瞥がこちらをみすえる。


「スラ子さんの自由に姿を変えられる能力で、あの暗殺者に成りすます。そうして、町からの制裁――町の多くの麦を駄目にした罪が、指か、それとも腕一本になるかはわかりませんが。それを代わりに受ける、ですか」

「そうだ。スラ子ならそれも難しくない」

「確かにあの方でしたら、指だろうが腕だろうが、いくら切り落とされたところでなんら問題ありませんわね。痛がる演技もさぞお上手にやってのけるでしょうけれど」


 唇の端が小馬鹿にするように持ち上がった。


「それで、無事な暗殺者の処遇はどうなされます? あの者は今、家の地下に繋いでおります。目が醒めても逃げられないよう魔封じもしておりますが、このまま一生、地下で飼い殺せとおっしゃいますか」

「……逃がしてやればいいさ。元々、麦を駄目にした原因は俺たちだ。責任の一端が襲ったタイリンにあるったって、それを全部押しつけるのが正しいなんて思わない」

「さすが、お優しいご主人様ですこと。その底なしの甘さ加減には吐き気をもよおすほどですけれど、――逃がす? あの暗殺者がなにを目的としているか、まさかお忘れではありませんわね」

「それは、……話す。ちゃんと話すさ。わかってくれるまで」


 いざとなれば、スラ子が俺の姿に化けてタイリンに殺されてみせることだってできる。

 それを聞いたルクレティアは吐き捨てるように息を吹いて、


「馬鹿げています。相手が素直に騙され、二度とこの町にやってこないなどということが何故わかります。ただでさえ不確定要素の多い相手に、さらに不確定要素を重ねたうえで自由の身にするなど、正気の沙汰と思えません」


 うっとうしげに黄金色の髪を振り、ルクレティアが冷ややかに笑う。


「私は、貴方の命を護らなければなりません。大切なご主人様が危険になることがわかっていながら、そのような愚策にはうなずけませんわ」


 挑発するような物言い。


 いや、実際にルクレティアはこちらを挑発しているのだ。

 自分が反対するのは、俺の身を案じているからだと。その呪いをかけているのは俺なのだから、これは確かにいい皮肉だった。


 売り言葉に買い言葉で、ならそんな呪いなんて解いてやる――などという展開をまさか期待しているわけではないだろうが、少なくともルクレティアがいっていることには筋がとおっている。


 わかってる。

 これははじめから、俺のわがままだった。


 理屈ではなく感情の問題。

 不確定要素のある相手なら、説得や解放などせずにこの場で処理してしまえばいい。


 それが一番、後腐れがない。


 友達だとか、ぼっち同士の共感なんてものには、感傷以上のなんの価値もありはしない。

 ただの自己満足だ。


 わかっている。

 相手のほうが正しいとわかったうえで、それでも自分の無理を押し通したいというのなら――あとはもう傲慢に、尊大になるしかない。


 ひたすら高圧的に、俺の希望がこうなのだからこうしろと。

 俺の意見が絶対なのだから、お前はそのために身を粉にしろと。


 結果のために最善の手をとるのではなくて、思うがままの行為から最善の結果を導き出せるように努力しろと、上の立場から押し付ける行為。


 ルクレティアは、まさに俺に対してそうしろといってきているのだった。

 自分にいうことを聞かせたいならそうなれと。そう呪印に、命令してみろと挑発してきていた。


 それは、このあいだ愚痴っぽく俺にぶつけてきた、あまりに情けなすぎる憎まれ役への叱咤なのか、それとも愚弄なのか。

 とりあえず確かなのは、俺が憎まれるべき相手からも満足に憎まれてやれないということで。


 けれど。

 どうあったって俺にはそんなふうにはなれそうになかったから、


「――頼む」


 俺は目の前の相手に頭をさげた。


「ルクレティア。それでも、助けたいんだ」


 しばらく沈黙が続いた。


 ルクレティアがなにもいわない。

 ため息も、息使いさえ聞こえなかった。


 色まで白けたような静けさのあとに、ぎりっと聞いたことのない音が室内に鳴り響く。

 顔をあげると、表情を強張らせたルクレティアがものすごい形相でこちらを睨みつけている。


「貴方という人は……」


 底冷えのする声が地を這って足元から絡みつき、


「誇りはないのですかっ。下僕を相手に頭をさげる主がどこにいます!」


 鞭のような叱責に、俺は渋面になるしかない。


「ここにいるらしいぞ」

「そうではありません! 悔しくは、腹は立たないのですかっ」

「……お前は間違ってない。俺が怒る理由なんてない」


 もう一度頭をさげて、


「頼む」


 沈黙。

 重苦しい時間の流れが存分に降り積もってから、


「ルクレティア。もういいよ」


 響いた声は、俺の隣からのものだった。

 頭をさげた視界の端に、それまで消えていた二人分の脚が浮かび上がる。しなやかに鍛え上げられた脚と、ほとんど子どものように細っこい脚。


「カーラ。いたのですね」

「ついてきたのは、ボクが無理いって、マスターとシィちゃんにお願いしたことだから。マスターは関係ないよ」


 ルクレティアの冷笑。


「別にかまいません。人目を忍んでくれただけでけっこうなことです。それで、なにがもうよろしいのかしら」

「マスターは、マスターだもの。それを無理して試すようなことしないでいい」

「試す? なんのことですか」

「……スラ子さんとどんな話があったのかはわからないけど。でも、そういわれたんじゃないの?」


 相手からの答えがないことに、俺は頭をあげた。


 金髪の令嬢がカーラを見返している。

 その表情は静かなまま、少しだけ顔をしかめているように見えた。


 スラ子?

 ルクレティアとスラ子がなにを話したって?


 俺の隣に立つカーラはまっすぐにルクレティアを見据えていて、その視線を受けたルクレティアは唇を結んだままだんまりを続けてる。


「もうわかったんでしょう。ううん、前からわかってたんだ。だったら、認めようよ」

「なにを認めろというのです」


 不機嫌そうに返すルクレティアに、カーラは臆する様子を見せず、


「ルクレティアが変わることを、だよ」


 いいきった。


「意味がわかりませんわ」

「逃げないで」

「逃げてなどいません」

「逃げてるよ。だって、自分が変わらないで相手に変わってほしいって、そういうことだよ」


 にらみ合う。

 たちまち険悪な雰囲気がたちこめるなか、俺は二人の会話についていけずに取り残された気分だった。


「ボクは、逃げないよ。自分の気持ちにも。生まれにも。もう逃げない。ちゃんと胸をはって、好きな人のそばにいたいから」

「……くだりませんわ」


 ルクレティアが吐き捨てた。


「好きだの、嫌いだの。そんな一時の感情などどうとでもなります。必要ならどんな下種な相手でも愛してみせますわ。愛情などというものと自分の在り方にはなんの関係性もありません。――誰も彼もが、貴女のようにはなれません」

「そんなことない!」


 うんざりと頭を振る。


「こんな話をいくらしたところで不毛でしょう。それに、私と貴女はそういうことを話すような間柄でもありません。まさか勝手に勘違いなどされているのではないでしょう」

「……それは。わかってる」

「なら、もうやめてください。貴女のいいたいことはわかりましたから」


 強引に話を断ち切ったルクレティアが俺のほうへ視線を向けた。


「ご主人様」

「お、おお?」


 二人の会話の意味がいまいち掴み消れず、居心地の悪さだけをおぼえてどもってしまう。


「貴方様のいっていることは、わがままです。ただの自己満足に過ぎません。それはおわかりですか」

「……ああ。そうだな」

「ほんの気まぐれで小娘一人を助ける。それでなんになります? この時世、生きるために手を汚さなければならない、そんな似たような境遇の者などいくらでもおります。貴方はそれを全てお救いになるつもりですか。そんな器量がご自分にあるとでも?」

「そんなもん。――ないってこともわかってるさ。けど」

「けれど?」

「それでも目の前にいるなら、助けたい」


 一人がせいいっぱいの器量なら、その一人だけでも。


 前に、スラ子が変わっていくことが怖いといった俺に、なにごとも変わっていくのだとルクレティアは諭した。


 きっと、それはスラ子だけのことではなく。

 カーラが町の人間から逃げることをやめたように。それ以外だって全部、ことごとく変わっていく。


 それに自分だけ、一人で置いていかれるのは嫌だった。

 変わらないためにも変わらなければいけない。――そう俺にいったのは、ルクレティアだ。


「――それが、本音ですか」


 ため息。


「結局、貴方にとってあの哀れな暗殺者などどうでもいいのです。自分がそう在りたいという願望の充足を満たすのに、ちょうどよい相手が目の前に現れたというだけ。自分を愛したいという自慰のために哀れんで、手を差し伸べようというのですわ」


 それだけじゃない、はずだった。

 だけど、それを否定して相手を説得できる自信がなかったから、黙って相手の言葉を待つ。


「けれど、その独善さは悪いことではありませんが。……地下での一件から二月近く。ようやくですか」


 吐き捨てるように言葉が続く。


「自分のわがままに周囲を巻き込んでおいて、まさか後からまた、うじうじと後悔などするおつもりではないでしょうね」

「……多分な」

「そこは絶対とおっしゃってくださいませんか。馬鹿馬鹿しい」


 微妙に相手の口調が変わって、


「まったく。そんなようだから――」


 不愉快そうにつぶやかれた後半部分は聞き取れなかった。

 眉をひそめる俺に、ルクレティアは小さく鼻を鳴らして豪奢な金髪を振る。


「なんでもありません。もういいですわ」

「それじゃあ。タイリンを助けてくれるんだな?」


 ほっと安堵の息を吐くと、極寒の冷笑がかえってきた。


「どうしてこの私がそんなことをしなければならないのです」


 あれ?


「ですが、ご主人様方がなさろうというのなら邪魔はいたしません。どうぞご勝手に。助けたいのなら、そうなさればよろしいでしょう」


 ただし、と付け加えられる。


「あのタイリンという者を町の外に放逐することは別です。これだけは貴方様の命を護ることを課せられた私には絶対に認められません。なんの強制もなしに安っぽい頭だけ下げて我を通したいというのなら、せめてそこだけは納得させてもらわなければ困ります」

「……スラ子を身代わりに、本人は逃がす。それ以外の方法を考えろってことか?」

「どのような形であれ、相手がこの町にとどまってくれるのであれば問題ありません。もちろん、ご主人様からの承諾さえいただければ、あの奇天烈な暗殺者の残り一生を地下に幽閉しておくのでもかまいませんが」


 こちらが承知するわけがないことをいってくる。

 ようするに、これも挑発。いや、カーラの言葉でいうなら、試しているのか。


「――わかった」


 俺はうなずいた。

 代案なんてまるで頭に浮かびそうにないが、ここはそういう場面だろう。


「けっこう。今日の昼間には、町の人間を広場に集めて罪人の咎を問うための集会が開かれます。本人もその場にひったてられますので、妙案があればその場で披露なさればよろしいでしょう」


 しれっと続けられた台詞にぎょっとした。


「昼間って。……もう昼じゃねえか!」

「そうですわね。そろそろ広場には人が集まり始めている頃です。なにか問題がございますか?」

「大有りだ!」


 非難の咆哮をルクレティアは涼しい顔で受け流して、


「叫んでいる暇があれば、頭を働かせたほうがよろしいのではありませんか。私もそろそろ外に向かいますが、貴方様はどういたしますか?」


 表情は、俺の慌てふためく様子を楽しむように意地が悪かった。



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