チャリ通
高校の放課後。
幼馴染の谷本と一緒に自転車通学をしている前田は、その日も彼女と帰ろうとしていた。
口数の少ない二人。それでも仲のよさは雰囲気でわかる。
二人は無言で自転車置き場へ歩いていた。
谷本はたまに、ちらりと前田の横顔を見ては、目をそらしている。
「おっ今日も彼女と仲良く下校ですかぁ? いいなー俺も彼女ほしい」
同じく自転車通学でクラスメイトの堀が前田を茶化す。
「彼女じゃねぇつってんだろバーカ」
前田は慣れた様子で軽くあしらう。隣で赤くなっている谷本には気がつかない。
今度は谷本に向かって、
「こんなこと言ってっけど? 君の彼氏さんは」
堀は言った。
「え? っと。ま、まだ付き合ってないし……」
うつむく谷本は、そわそわしている。
その様子を見た堀は、にんまり笑って、
「あ、そう! んじゃ、がんばってねー」
と言って一人で帰っていった。
「ったく。何なんだよあいつは」
前田はあきれたようにため息をつく。
二人は自転車に跨り、走り出す。
学校を出るとすぐに大通りに入る。
前田は谷本より先を走る。
「ちょっ、速いよ!」
谷本が前田に言った。必死にペダルをこいでついていく。
「そうか?」
前田は自転車の速度を少し落とした。
縦に並ぶ自転車の距離が縮まる。
「あ、あのさ……話があるんだけど」
谷本の声は車の行き交う音でかき消される。
「何? 聞こえねぇ!」
「あのさ! 好きだよっ! 私、あんたが好きっ!」
谷本は叫んだ。
前田は急に自転車を止めた。
自転車同士がぶつかる寸前、谷本もブレーキを握った。
後ろに振り返る前田。彼女の様子を見て本気であることがわかった。
谷本は顔を真っ赤にして、それでも前田から目を離さなかった。
「……」
二人が黙って見つめ合ったあと、前田はいきなり自転車を走らせた。
「えっ? 何で! 何で先に行っちゃうの!」
一瞬何が起きたかわからなかった、谷本は遅れて走り出す。
逃げる前田。
追う谷本。
逃げ切れそうで、逃げられない。
追いつけそうで、届かない。
二台の自転車は、大通りを抜けて、河川敷に出た。風の音が大きくなる。
二人にとって、ずいぶん遠回りしてきたようだった。
前田は息を大きく吸い込んで、
「俺も! お前のことが、大好きだぁぁぁぁぁぁっ!」
全力で叫んだ。
自転車を立ちこぎして、思い切って、はっきりと。
谷本は最後の力を振り絞る。
「あーりーがーとーっ!」
やっと追いついた。
自転車二台が横に並ぶ。
風が二人の頬を優しく撫でた。
どうも、田崎史乃です。
またまた自己満足の塊です。
が、読んでくださって、ありがとうございます。
え? 読んでない?
うそん。