第1節 その2
…人間界へGO!
人間界―。
地球という惑星に―…めんどいので省略。
その地球の、日本という国。さらにその中の兵庫県三木市。
金物が有名な、普通の田舎だ。
「ふいぃぃぃぃぃっ…やっと終わったよ学校~」
独り言を言っているのは、高校2年生の女子。背はそんなに高くない。黒色の髪を後ろでポニーテールにしている。部活は吹奏楽部。
それとさらに水泳を習っている、いたって普通の高校生、猫宮あかりだ。
「たっだいまー。」
ドアを開けて漂ってくる、夕飯の焼魚のにおい。それととんでくる母の声
。
「おかえりー。なんか、あんたの部屋からすごい音したけど一応気をつけてね。」
「はいはーい。」
どうせ家で飼っている猫が暴れているんだろうと思い、階段を上っていく。しかし、階段で猫2匹とすれ違った。
(…?いったい誰だろう?)
扉の前に来ると、確かに変な音がしているのがわかる。
「ぐおお」とも、「がおお」ともつかない音。いびきに近い音だ。
「開けちゃえ♪」
そして何の躊躇もなくドアを開ける。部屋には何もいない。
…かと思えば、ベッドの上に何か黒い物体。もぞもぞと動いている。
「何あれ…?」
ソレには、角があった。
ソレには、牙があった。まぁ、普通よりちょっと長い八重歯だけど。
ソレには…ソレは、男だった。
「あぁ?」
あかりの気配に気付き、ソレは真っ赤な目を開けた。
「キ…キャアァ………むぐぐ…」
「ば、ばか!ばれたらどうする気だ!」
その黒い人(?)はマントだと思っていたものを伸ばし、あかりの口をふさぐ。はたから見ればもう犯罪行為である。
「べ、別にお前をどうこうするつもりはない。ただ、昼寝から目覚めたらこの部屋にい ただけだ。」
その人(?)の目を見る限り、嘘ではないようだ。あり得ない話だが。
「…もう、叫んだりしないか?この姿には慣れたか?」
あかりはコクコクと頷く。
まだ姿には慣れていないが、よく見るとなんとなく人間っぽい(?)。
マントのようなものが口から離れ、自由になる。
「いろいろとつっこみたいんだけど、あなたは誰?人間じゃないみたいだけど?」
「私か?私はサタン様だ。一応ナラクの支配者でもあるのだ。」えへん
「ふうん。ま、それは置いといて…。サタンは何か心当たりないの?
なんで人間界なんかにきたのか。」
「それが全くなんだよな。なんか寝てたみたいでなぁ…」
「ただのバカじゃん。」
わかったことは、サタンが旅行に行こうとしたら誰かが何らかの理由で邪魔をして、この世界にサタンをお送りこんだ。ということ。
「それはそうと、その服と角、どうすんの?」
「あ。どーしよ。角はしまえるけどな。」
さすがに女服は無理がある。身長差もあるし。
その時、母の声がした。
「あかりー?ごはんよー?猫ちゃんたち連れて下りてきなさい。」
「…どうすればいい?」
「どうしよ?お母さんにばらす?おなかも減ってるでしょ?」
「うむ。別にいい。」
意外な答えだった。…この姿ってあまりバラしちゃいけない気もするが…?
「さあてと、久々のちゃんとした食事だぞ~」
ルンルンとスキップしながら部屋を出ていく。が、すぐに止まる。―視線の先には2匹の猫。
「あ、その黒い子はクロで、白い子はシロ。かわいいでしょ?」
「……………………………………か……………。」
「か?」
サタンはわなわなとふるえ、猫を抱き上げる。そして、叫ぶ。
「可愛いいいいいいいいいいっ!」
興奮した様子でサタンは続ける。
「なんだこの猫という生き物はっ!可愛すぎるだろ!」
「ね、猫なんてその辺にごろごろいるよ?ナラクってところにはいないの?」
「ナラクにいるのは、変なブタ人間とかトリ人間とか。グロイのし かいない。」
猫を2匹抱きかかえながら階段を下りていく。
猫は何が何だかわかっていないままサタンに抱きしめられながら。
(へぇ…ナラクかぁ…楽しそうだけどなぁ…)
「あかりーまだなの?…って、誰その怪しさ百五十パーセントの人は?」
母はサタンの姿を見ると、なぜか少しにやりとした。
「あ、その人はサタンっていうの。別世界からきたみたい。」
「あらーそうなのー。ふつつかな娘ですが…」
「「何でそうなるっっ?」」
二人のツッコミがきれいに重なる。母は笑いながらリビングへと歩いていく。
もう少し驚いてもいいんじゃないかと思う。
「あ、サタンさんのごはん、カップヌードルでいいかしら?突然だったから…」
「美味いなら何でもいい。」
母はカップヌードル(しょうゆ味)に、いつの間に沸かしたのかわからないお湯を注ぐ。
「3分待ったらできるわよ~。」
「3分だな?わかった。」
そう言ってサタンは手をカップヌードルへと向ける。
「何するの?」
「話しかけるな。集中できん。」
パリパリ…と、空気が帯電しているような感覚を覚える。信じられない光景だ。
サタンの手のひらから紫色の何かが出ているのだ。言うならば、紫色の炎。
「時間短縮【フェルマータ】!」
そう言うと、カップラーメンの周りの空間が、ぐにゃり、と歪んだ。
「フェルマータって、音楽記号でちょうどいい長さでって意味だよね?」
「うむ。そうらしいな。なんせ爺様がつけた名前らしいしな。そこはよくわからん。」
「へえ。で、カップヌードルはどうなったの?」
サタンはまだ一分ぐらいしか経っていないはずのカップヌードルのふたを開ける。
中身はカチコチの麺…ではなく、ちょうどいい感じになっている麺の姿があったではないか。
「す、すごい…どうでもいいところでだけど…!」
「ま、サタン様にとってはこんなもの朝飯前の寝起き前だ。」
若干どや顔になるサタン。
「じゃ、いただくとしよう」
箸使いもなかなか上手い。てっきりナイフとフォークしか使えないのかと思っていた。
ヌードルを口にしたと思うと、今度はわなわなと震えだす。忙しい人だ。
「どしたの?」
「う、うまい…!かっぷぬうどるというこの食べ物…只物じゃないな!
ぜひお土産に持って帰りたいぞ!」
「よかったわぁ。お口に合って。」
サタンは目を輝かせながらすすっていく。それほど美味しかったのだろう。
「こっちの世界には、おもしろいものがいっぱいなのだなぁ。」
「そう?私はナラクのほうが楽しそうだけどな。」
「…あ。そうだ。」
サタンは「うう~む…」と考え出した。
「どうやってナラクに帰ろうか?この世界には、【魔力】はないんだよな?」
「【魔力】かぁ…。あったら便利でしょうね。」
「だよなぁ…」
二人が呻っていると、母がTVのチャンネルをまわす。そのチャンネルは…
『今注目のパワースポット』
「んん?パワースポット?」
「恋愛とか、金運とかいろいろ効果があるって場所だよ。」
「…?まぁとにかく、不思議な力が宿っているって場所か?」
「あってるっちゃあってるけどね。」
サタンはそう聞いて、興味津々で番組を見ている。
(ネザーにも、TVってあるのかな?TV見て驚かなかったし。)
「それにしてもこの箱はなんだ?中で人がしゃべってるのか?」
サタンのつぶやきは聞かなかったことにしよう。
「…でだ。とりあえずメモっといた。」
そう言ってサタンは一枚のメモを見せる。
「ぺトラ遺跡、ストーンヘンジ、パルテノン神殿、出雲大社、御猫寺院。」
「ほとんど外国だね。で、だいたい予想はついちゃってるけど、どうするの?」
「もちろん行くにきまってるだろ。行って損はない……はずだ。」
そう言うサタンは少し小さくなった。自身がないのだろう。
「行きたいのはやまやまだけどさぁ…。
私、学校とかもあるしなにより金銭的な問題があるんだよねぇ~…」
あかりは気まずそうに言う。もちろん明日も明後日も学校はある。
「別に、金は要らない。」
あかりは「え?」と素っ頓狂な声を上げる。
自転車で行くわけでもないのに、どうやって外国に行こうというのだろうか?
サタンはマントっぽい羽根を示す。
「とんでいける!」
「…見つかったらやばいんじゃないのそれ?
……で、もう一つ質問。私のいない間はどうするの?」
サタンはキョトンとして、当たり前のように言った。
「何言ってんだ?もちろんお前について行って勉強とやらを体験する。
この機会にニンゲンのことを勉強するのも悪くないからな。」
「はぁ?どうやって入るのよ。
入学手続きの時点でアウトだと思うけどね。」
「言ったな?もし入れたらちょこれーとぱふぇとやらをおごってもらうぞ?」
「どこでそんなチョコレートパフェなんか覚えたの?」
「お前の部屋の雑誌。」
にこやかに答えたサタンの頬に、手加減なしのグのでパンチがめりこむ。
「ぶへっ」と変な声を上げて椅子から転がり落ちる。
「じゅ、純情なオトメの部屋をあさるんじゃないわよっっ!!この変態!」
――――(・w・)――――
「よし、お風呂も入ったし宿題も終わったしねようかなぁ~」
「え~。UNOやろうぜUNO!!
まだ十時だしさぁ」
サタンはどこから取り出したのかUNOを手に取り抗議する。
服はお父さんのパジャマを借りている。
とても魔王には見えない。いろんな意味で。
「いいの。早く寝ないと遅刻しちゃうもん。」
そう言ってベッドに入り、寝息を立てようとすると―
いそいそとサタンがベッドに侵入してきた。
慌ててキックで突き返して上半身を起こす。
「へ、編隊っ!!」
「だって…寒いし。」
「そのマントにくるまってればいいじゃんか・・」
サタンは寂しそうに部屋の隅に行き、羽を広げ、それにくるまる。
さすがにかわいそうだと思い、サタンが寝息を立てると毛布をかぶせてあげた。
「お休み…サタン。」
ちょっと変わっていた今日の夜も終わる。
いまだに現実だとは思えない。魔界の王様が私の家にいる。それも、かなりイメージとは違うちょっと変態な魔王様。
なんだかんだ言っても、やっぱりドキドキしている。
明日は、どんな日になるのだろうか……?きっと、素晴らしい日になるだろう。
明日だけじゃなく、これからもずっと…