紅の衣を身にまとう
確か本を読んでいたはずだ。
今日は悠斗と嵐の十七歳の誕生日で、嵐からもらった「神の砦」と言う本を貰い家に帰った。その後は…あらすじを読んで本を開いた。
これ以降の記憶がない。
何がどうなれば、こんな状況に陥ってしまうのか、悠斗には理解できなかった。
それにしても――悠斗が今いるのは見た事もないような草原だ。ハルカ向こうに大きな木が見える。木はなぜか光り輝くような明るい金色の光に包まれていて眩しい。
こんな場所は知らない。
それなのになぜこんなにもあの本―神の砦の表紙絵にこうも似ているのだろう。それに…さっきまで読んでいたあらすじに状況が似ている。
悠斗は記憶の片隅に眠っていたあらすじを思い返した。
――少年は気が付くと草原にいた。見た和す限りの草原の視界の中、一つだけ光り輝く木が映った。少年はその木を目指した。そこであったのは一人の少女。少女は悲しそうに少年を見た。そしていうのだ。「すみません」と…。
「…あの木の所に行けばいいのか?」
悠斗は一歩一歩足を踏み出した。
草原なので歩くのに苦労はない。しかし一人で草原を歩くのは心細かった。
でも自然と疲れは感じない。
悠斗は自分の事が嫌いだった。
母親に疎まれる自分。
嵐を守ってあげられなかった自分。
人を脅えさせるこの青い目を持つ自分。
全てが嫌いで仕方なかった。
だからココに来て、死んでいくのも悪くない。
そう思った。
「ついた……あ…」
悠斗は視界に悲しそうに俯く少女を捕えた。
少女の纏っているのは真っ赤な紅の衣。
飾り気の少ない質素な服だが、少女の美しい真紅の髪のおかげで貧相には見えない。
「すみません。お力を貸してください。姫様をお救いするために…」
「あなたは…」
誰ですか、と聞こうとした悠斗の言葉を遮って少女が言葉を口にする。
「私は…小紅と、申します」