変えられないプレゼント
前原悠斗は都会の小さなカフェにいた。
恋人同士の賑やかな声が響く中、悠斗は一人だ。覚めた目で辺りをみてため息を吐いた。それでもその手に小さな小包みを持っている。
ピンクの包みを大事そうに眺めた。その表情だけは優しかった。
午前九時…携帯電話のアラームがなる。
それと同時に悠斗は席をたった。
自分というちっぽけな存在が嫌いだった。
小学校一年生の時に離婚した両親。悠斗は父親に妹の嵐は母親に引き取られてしまった。
仲が良かった二人は親の身勝手な理由によって離されてしまった。
あれからもう、十年になるのだ…。
執拗に嵐に構い、悠斗を見ない母親と子供に無関心な父親。
そんな二人の間に生まれてしまった二人が幸せに慣れるはずなんてなかった。
でも、年に一度だけ嵐に逢える日がある。
今日はちょうどその日だ。
嵐と悠斗は母の許可の出るこの日しか会えないのだ。
二卵性双生児である二人の誕生したこの日にしか…。
「悠斗兄!誕生日おめでとう。はい。プレゼント!」
嵐は去年と変わらない笑顔でにっこりと微笑んだ。
「ありがとう・・・。悪いな。毎年来させちゃって」
悠斗が申し訳なさそうにいうと、嵐は少し驚いたような顔をした。
「何言ってんの!あたしが悠斗兄に会いたいから会いに来ているの!悠斗兄は気にしなくてもいいの」
嵐が住んでいる場所はここから沢山のバスを乗り継いで三時間も架かる田舎だ。
父親と都会の地に暮らす悠斗はもう十年も自分の母親の顔を見ていない。嵐が元気でいるのならその必要性を感じないのだが…。
嵐は強い。いつも悠斗に傷を隠してこの日には必ず会いに来て笑ってくれる。
本当は悠斗が顔をだすと母が嵐を攻める。だから嵐が来ざる終えない。
母にとっては嵐以外はみな他人なのだ。
「…ありがとう。俺からはこれ…」
悠斗はそういってピンクの包装紙を手渡した。中身はアンクレット。嵐は指輪やネックレスをつけることが出来ない。
それでも悠斗はアクセサリーを毎年贈る。
他に送るのモノが考え付かないのだ。悠斗は…昔の記憶からか、嵐以外の女を恐怖の対象として見る。だから女の子がもらって喜ぶものを知らない。
嵐が指輪やネックレスをつけられない理由、それはまだ二人が一緒に暮らしていた頃に悠斗は嵐に指輪をあげた事があった。
お祭りに売っているような、本当に些細な玩具の指輪。だがそれをみた母親は幼い二人に言ったのだ。
――私の可愛い子に変なモノつけさせないでよ!!嵐っそんなもの捨てなさい!!
あの日の母親のセリフは今も二人の脳裏に焼きついて消えない。
悠斗が渡した包みを開けると嵐は悲しそうに俯いてしまった。
アンクレットを見て悠斗と同じ事を考えているのだろう。
「いつも…ごめんなさい。でも…ありがとう。嬉しい…ねぇ、悠斗兄…私達、幸せになれるのかな?」
嵐のその問いは悠斗の中にもずっとずっとあるものだった。
「そう、なれるといいな」
「…うん」