番外編 闇に残された記憶
「そらいろ」は本編は完結していますがこちらは番外と言うことで。この話を先に読んでしまうと少しわかりにくいかも知れないのでまだの人は先に本編の方をどうぞ。。この話は四神が眠っていた闇の空間を作り出していた闇を司る神子、美夜の物語です。
嵐は神子全員にその名を明かした。そして聖樹から片時も離れずに世界の秩序を願い続けた。
「嵐様…本当に、これで良かったのですか?」
闇を司る神子である美夜は嵐に訪ねた。
「なにが?」
「天照…神として生涯を生きると誓ったこと」
盲目である美夜は手探りで嵐の手をとった。美夜の手は冷たく小さい。
それは忌み嫌われる属性を持って生まれてしまった刻印なのだと以前美夜がいっていた。
「後悔は…しないわ。…でも、でもね、わがままを言わせて貰うと…クウロが幸せでいるのか見られない事が…つらいわ」
嵐は美しく輝く聖樹を見上げた。
まるでそこにいまでもなにかがあるように、懐かしむように…。
「遠い昔…約束をしたのよ。ずっと一緒にいて、この木を守っていこうと…」
嵐はそれが誰との約束かは言わなかったが美夜には理解できた。
「そう…ですか…」
美夜は俯いた。悲しそうな声が聞こえるのに、美夜には嵐の表情を確認する術を持たない。
「あの嵐様…私は…私は…」
「美夜!おやめなさい。無くなった者は…もう戻らないのよ」
美夜は振り向かなかった。例え振り向いたとしても美夜にとっては意味のない事だからだ。
だが見えない分美夜はその者の声だけでそれが誰なのか識別する事が出来る。
「愛媛様…あなたが、そういうのなら私はそれに従うまでです。もともと私一人では何も出来ませんし…」
美夜はそれでも何かモノ言いたげな顔をしていた。
「でも…嵐様が望むのなら…私はその願いを叶えて差しあげたいのです」「…我らは…嵐様が望むのならば、クウロの姿をお見せする事が出来ますわ」さっきとは異なった言葉を愛媛が言った。美夜は顔を上げた。嵐は少し考えるように目を細めて、しばらくしてから首を大きく横に振った。
「いいわ。だってクウロが言ってたもの。一度失ったモノは決して還らないと…」
そして嵐は目の前の二人に向き直った。
「私にはあなたたちが傍にいてくれるから、大丈夫よ」
美夜は人に取ってはとても長い時間に想い馳せた。今の天照に…嵐と初めて会ってから人の世では千年という長い時がたった。その中にはイロイロな事が起こった。美夜は闇を司る神。沢山のモノに忌み嫌われていたから、天照の傍に寄らなかった。
剃れば美夜が主に嫌われるのがとても辛い事を知っていたからだ。――先代の天照がそうだった様にもう拒絶されたくはなかった。それなのに、嵐はこんな忌み嫌われていた自分に手を差し述べ、そして名前まで与えてくれた。「あなたは知らないかも知れないけれど…空に溶けた闇はとても優しくて美しいから…私は大好きなのよ?あなたはその空の様…美夜なんてどうかしら?」
記憶の中の主は微笑んで言う。「美…夜…」
「そう。綺麗でしょう?」
そう言って美夜の手を掴んだ嵐の優しさを今も忘れた事は無い。
そして、これから先に嵐が傷付く事があるのならどんなに小さい事でもこの方の幸福だけを願うとあの時決めていた。手を差し述べてくれた瞬間に。
名前をくれたあの時から。
これからもずっと……。
本編に出てこなかった神子はこのような番外を書いて行きたいと思っています。気長に待っていて下さい。