エピローグ
「クウロは…自分がすぐに消えてしまう事…知っていたの?」
姫は大きな聖樹の幹に立っている小紅を見た。
「はい。そうだと、愛媛は言っておりました」
姫は唇をかみ締めた。それから顔をあげた。その表情は静観で本当に歴代の天照に引けを取らないほどに美しかった。
それでも小紅はただ黙って主の次の言葉を待った。
「…小紅…天照として、私はこの命を終えます」
「姫!それは、心を捨てるとおっしゃっているのですか?」
小紅の問いに姫は答えなかった。だがそれを次の行動で示した。
「火神よ。我はこれより、太陽神天照大神として、この心を捧げることを誓います。わが名は――嵐。この世界の光を統べる者なり」
神は最後の最後以外は自分の意思でその未来を決めることが出来る。そのために彼の神は自らの名を隠すのだ。彼らの名は己の象徴。
それを曝すことは神として降臨するという意味になる。
小紅は火神だ。
天照の力に最も近い力の神子だ。一度名を聞いたら神子は契約の言葉を口にせざる終えない。
「天照よ。我の源となるべく世界の陽の気を司りたまえ……」
小紅と姫を赤い光が包んで消えた。
「姫様…よろしいのですか?」
「私は混血とはいえ神の血を引いて生まれた者です。定めから逃げる事はこの世界から逃げる事だと、いまさらながら気付いたのです」
嵐は世界の光になった。
それは弱かった自分に別れを告げるため。
どこかの世界で生きる愛する人のため。
これから出会う者のため。
明日生まれてくる者のため。
そして何より自分自身の為に。