真実を知る者は
さっきまで目の前に居た姫の姿はどこにもなく、代わりに一人の少女が立っている。
ここは暗い。
どこまでも暗く果てのない空間。
ここが人為的に創られた空間であるとすぐに察しがついた。
目に前の少女のその面差しは自分のものと酷似していた。それだけで彼女が誰なのか、クウロは容易く解ってしまった。
「ご自分の事…ご存知だったのですか?……兄さん」
クウロは優しく微笑んだ。
「愛媛…ありがとう。短い時間でもあの人に会えて、もう一度…好きになることが出来て…本当に嬉しかった」
少女は悲しそうに俯いた。
「これがあなたの遺言ですから」
クウロは死ぬ寸前、同じ神子であり、妹である愛媛に遺言を残した。
姫の心が壊れてしまいそうになったら俺を呼べ…一度だけなら、帰ることが出来るから…
「でも、兄さんは…後悔はしないのですか?」
「しないよ」
姫が……嵐が悠斗に言ったから。
幸せになりたいと。
ユグドラシルに取り込まれた嵐はあの木の中に存在する時空に歪みに取り込まれ、悠斗の双子の妹として生活していた。
それを知っているのはクウロと愛媛の二人だけだ。
「もっとも共に過ごした時間は短いがな……俺は悠斗としてもう一度死ぬよ。こっちの事は任せたぞ」
「えぇ。兄さん…」
「なんだ?」
「幸せになってください」
「それは…どうかな」
その言葉と同時にクウロの姿は空間の闇に溶ける様に消えた。
今度は生きるよ。
身分や宿命に縛られる事の無い世界で、
もう会う事すら叶わないあの人を思いながら
残りの命を……