プロローグ
…クウロを抹殺します
トウカのあの言葉を聞いたのは十六年前の事だ。
クウロとは我ら神子のを統べる者であり、姫の側近である四神の主でもある。
――あの時、私はなにも出来なかった。クウロ様をお守りすることも、四神の手助けをする事も…。
小紅は目の前の氷にそっと手を触れた。
冷たい…氷の感触しかしない。
この氷は人ならざる神子が…トウカが作り出した氷。
トウカは冷血な…冬を司る冬神だった。
例え火神と呼ばれていても小紅ではトウカの力に及ばない……。
その氷の中には…十六年前のあの日から、四神たちが眠っている。
主であるクウロを逃がすためにトウカの力で凍らされた四人の神。
小紅などよりも強い力を持つ火神、朱雀はなぜこの氷を溶かさないのだろう。それは小紅の中にある不変の疑問だった。
クウロは姫を守る立場にいながらも、それ以外の感情を持っていた。だからトウカは先手を打った。
クウロを姫から引き離すという――。
「クウロ様……」
神子同士の争いなど…そんな悲しいことはないのに。
裏切り者と呼ばれていたクウロとその仲間…現在クウロはこの世界にいない。クウロの妹である神子、時神である愛媛が他の時代へと転移させたからだ。
「小紅……」
一人氷付けとなっている部屋にいた小紅の後ろにクウロを転移させた愛媛が辛そうに俯いている。
その顔は何かを決意した時の顔だ。この十六年間で小紅はそれを悟った。
「愛媛…どうしたの」
「兄を…クウロをこの世界に……呼び戻します」
愛媛の声は震えていた。
クウロがこの世界に戻るということは危険だ。
また、トウカがクウロを殺そうとするかもしれない。
神子は天つ神によって創られた存在だ。
親や兄弟など人に当たり前にあるモノが神子にはない。
そのなかでもなぜかクウロと愛媛は兄妹だった。
つまり愛媛は神子のなかでも唯一血の繋がりを持っているということだ。
そんなたった一人の兄が命を狙われる。
それはきっと辛いことだろう。
「力を貸すわ。クウロ様は…私たちを唯一認めて下さった方ですし」
「ありがとう…小紅」