第十八話 総隊長理《ビリーヴ》
遅れてすみませんでした。
あ…ありのまま 今(週)起こった事を話すぜ!
『おれは小説を書いていたと思ったら いつのまにか消されていた』
な…何を言ってるのかわからねーと思うが
おれも 何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
削除だとかボッシュートだとか そんなチャチなもんじゃあ
断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
SIDE 『HEAVEN』
バンッ!!!!!!!!!
その一室を揺るがすことができると思えるほどの音が、部屋に響いた。
途端、その部屋にいた人間は静まり返る。
音源は、机。
所謂、巷で言うところの美少女が、その美しい顔に怒りの表情を浮かべて、
手が赤くなるほどの強さで机を叩いたのだ。
部屋内が静まり返ったのも、その音以外にも原因がある。
元々彼女は、とてもおとなしい性格で、自ら強気に出ることは、その自らが愛して止まない男の事情以外にはありえないからである。
だが、部屋内に居る人間は、彼女が怒っている理由を知らなかった。
勿論、先ほど言った特徴が嘘……というわけでもない。
ただ、彼女は怒った。どうしてと言いたそうな表情も同時に浮かべ、
叩いた机の正面に座って、山のような書類を片っ端から無表情で片付けている美少女を睨む。
「どうして…………ですか?」
机を叩いた彼女――――『UnInstall』の実働部隊で、若く優秀な芽を集めた『特殊部隊』の隊員である涼風琴雪は、
同時にその『特殊部隊』の隊長であり、尚且つ、この『UnInstall』の総隊長の代わりをしている少女に尋ねる。
だが、その質問にも答えず、総隊長代理の佐屋紫は、黙々と仕事をこなしていく。
周りの人間は、黙って成り行きを見届けることにする。
どうやら、彼らも、おとなしい少女が怒っている理由を察したらしい。
「どうしてって聞いているんです!! 答えてよ総隊長代理!!!!!」
名前で呼ばず、役職名で呼ぶ。彼女自身、きっと分かっているのだろう。
彼女が怒っている理由を起こしたのは、きっと総隊長という地位に縛られた結果なのだと。
だが、彼女は今更、怒りの矛先を変えることはできなかった。
「答えろ!!!!!!!!!!!!!!!」
再び、部屋が揺れそうなほどの音が起きる。
だが、今回は声だ。怒号。
そして、それと同時に、
空気が軋んだ。
キィ、キィ、と、なんとも言えない不快な音……そう。
まるでキッチンのシンクの上に、ドライアイスを載せたような音が、
この部屋内にも聞こえる。
その音は不快で、不愉快で、何よりも特徴的だった。
だからこそ、その音にいち早く対処できたのだろう。
気付けば、彼女は視界が縦に180度回転していた。
そして、その事実に気付いた瞬間、彼女は冷たい、表面に薄く氷の張っている床に横になって落ちる。
「ぐっ!!?」
彼女は起き上がろうとしたが、どうやら頭を打ったようだ。
中々起き上がれない。
そして、その原因を作った張本人が、横になっている彼女の前に立つ。
「な……にを……するん、ですか」
「涼風、俺達は仲間だ。なら、いくら事情があったって、
俺の目の前で、俺の仲間が別の仲間に能力を使おうとすんのを、俺は見過ごせない」
その部屋にいた人間……男、荒祇聊爾は、自身の能力である『空間歪曲』を使い、
彼女を一瞬にして床に伏せさせたのだ。
だが、そこに一声かけたのは、他ならぬ当事者。
「聊爾。良いのよ」
「……分かった、了解した。…………すまないな、涼風」
床に未だ伏せている彼女に一声かけた後、部屋の隅に彼は戻り、壁に背を着く。
すると、隣から声がかけられる。
「聊爾…………」
「ん? ああ、分かってる不知火。分かってるから。それに俺は元々、人の心情には深入りしないね」
この、建物の中では無力である能力を持つ彼女、不知火奏華は、自らに何もできないことを悔いて、歯軋りをした。
「私だって……嫌だったわよ。アイを―――
「ならどうして!!!!! 哀くんは、私達の為に戦ってくれたんだよ!?
なのに、なのに追放なんて、酷すぎるよお……」
既に立ち上がった彼女は、まだ諦めないとばかりに、机に座る彼女に問う。
それはまるで、問いていた。
総隊長の座を、何千何万の能力者を無視してまで、
たった一人の自分にとっての大切な人を、抱きしめることができるのかどうか。
新手のスタンド?