第一話 非異世界《リターンザワールド》
覚えているだろうか。
俺が持っている力、『祖体制御』。通称・マテリアルコントロール。
万物を操る能力。
これは人殺しの能力だ。
人に触れれば血が飛び、骨が折れ、肉が弾ける。
でも、ここに来れれば良いと思っていた。例え、俺がどんなに罪を犯そうとも、
最愛の人……紫、その人なら、笑顔で迎えてくれると思ったのに。
なのに、何でここに、皆は居ない?
何で紫が居ないんだ!?
瓦礫の上に座って、そんなことを考えていたらとっくに夜になっていた。
明かりは無い。
しかし、見える。遥か地平線、何10キロも先。
「此処が、俺が死んだ場所だったなら……もう既に、『HEAVEN』は無くなってたのか?」
様々な疑問と憶測が頭を駆け巡る。だが今は、
「人に会って、話でも聞くか。時の進みに問題は無いよな」
誰も居ないのでさっさと黒い迷彩服。もとい『UnInstall』の制服に着替え、歩いた。
別に能力を使って飛んでも良いのだが、しばらくここらへんを歩いてみたかった。
広大な敷地である『HEAVEN』も、あちらの世界で歩くのに慣れたので、少しも疲れを感じなかった。
ふと、思い出して話しかける。
「そういえばお前、居たんだっけ?」
『いるわ!! 何ほっといて話し進めてんだよ!!』
あ、居たね。別にドーデも言いけど。
「……そろそろ街か。って、え?」
俺が見ていて、目指していた光の束は、街のものではなかった。
そう。キャンプの集団だった。しかも形状と規模からして軍隊の。
そして、そこから出てきた人……つまりは軍服を着ている奴に、見られた。
ここからでも、ソイツが驚き、大声を出して騒ぎ立てているのが見える。
なんだかとても危ない気がしてきた。
もしかしたら皆は絶対居ないよな。
いや、もしかしなくとも居ないな。
だってさ、
「何でアサルトライフル持って出てくんだよ!!」
結論。
ここは、能力者がいてはいけない場所のようです。
「……投降する。撃たないでくれ」
ならばと、能力者では無いフリ。
すると、アサルトライフル持った兵達に囲まれた。その数多分二十人くらい。
今ここで能力を使うのは得策では無い。
相手の事情や、現在の勢力状況を聞きだし、判断するしかない。
一つの、多分幹部級がいるであろうテントから、一人の男が出てくる。
「……投降したのは貴様か?」
「ここは何処ですか? 俺はなんで囲まれて……??」
とりあえず演技をして誤魔化すしかない、か。
「なるほど。訳有りのようだな。ゆっくりと話でもどうかな?」
すると、やけにあっさりと、拘束を解いてくれた。
お偉いさんは俺に手招きし、ついてこいと言う。
そして、テントの一つに入ると、そこには机が一つだけ。ポツンと置いてあった。
「さて、話に入ろう。貴様は能力者か?」
「いいえ。それより「今は質問にのみ答えてくれ」」
ま、そうだろうな。見ず知らずの一般人にすき放題情報与えるほど、間抜けでも無いか。
「ならば何故、ここに居た? 見たところ北から来たようだが?」
「北……というのは俺がいた方ですか?
すみません。ここが何処だか知らないのですが……」
「何ッ!!!???」
凄い剣幕で立ち上がり、こちらを睨むおっさん。
あれ? もしかして誤爆?と思ったが、再び座る。
「此処が何処だか知らない。なるほど。……記憶障害の類か? いやしかし……」
やはり反応からして、ここは『HEAVEN』。しかも、コイツらは能力者じゃ、無い。
もしかしたら、と、ふと頭の隅を過ぎる考え。
だが俺は、それを振り払う。認めたくなかったのだ。俺が、俺が向こう側に居る間に、
「曹長!! 敵襲です!!!!!!!」
突然テントに入ってきた兵が言った言葉も、聞こえなかった。
認めたくなかったのだ。
『HEAVEN』の能力者が―――――人類と戦争しているなどという、馬鹿げた考えは。
火が降り注ぐ。
水が流れる。
雷が迸る。
風が舞う。
雪が吹雪く。
地面が割れる。
それが、外に出て真っ先に思った事だった。
間違いなく、能力者のもの。
「……皆が、居るのか…………??」
その阿鼻叫喚、だけれどもただ一人の人さえ死んでいない矛盾。
これは殲滅戦では無い。まるで、捕虜を獲得するための戦闘。……いや、もっと単純に、
「相手を傷つけずに戦ってる?」
そう見えた。
「……紫…………聊爾、琴雪、不知火、明、皆が居る!!」
瞬間、俺は走り出した。
後ろから兵の制止の声が響くが、構うものか。
もう情報を集めずとも良い。後は…………
「俺が自分でやるさ!!!!!!!」
能力発動。
『祖体制御』。
いつも通りの翼をイメージ。
その想像が、現実にカタチとなり作られる。
材料は一種類。それは大気。
正確には何種類かあるのだが……その説明は省く。
ダンッ!
足元に転がっていた瓦礫を勢いよく蹴り上げ、そして―――
飛び上がった。
いつも通り、前書きにもあとがきにも書くこと無い……。
どうすれば良いんだろう……。
「寝れば?」
あ、そうしよ。
……誰?