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第十六話 帰還命令《クライ》

 「まず、貴方は誰?」


不思議な質問に対して、内心とまどいながらも答える。


「勿論、御神哀。それ以外の何でもないさ」


「いいえ。それはありえない。史実、御神哀という能力者は灰になって消えたはずよ」


アイだって、そんな事言いたくないだろうに、

こうでもしなければ、他の奴らに訳が立たないのだろう。


考えてみてくもくれ。

実質、『UnInstall』内でも、『HUMAN』を知っていても、

その内部にある、『HC-R』について知らない人間は多い。はっきり言って、知っている方が少数派だ。


そして、そのような奴らが大部分をしめているこの世界で、伝えられている事は一つ。


『総隊長・無骸零が全ての元凶であり、もし奴が存在しなかったら、

世界はここまで対立することはなかった』


だ。


そして更に多くの人間に知れ渡っている能力者。それが俺だ。

俺も総隊長も死んだこととなっている。

なのに、『UnInstall』でトップクラスの能力者が、実は生きていましたなんて言えるはずもない。


戦争のきっかけとなった、反人間派の能力者達にとっては、良い火種。

人間との共存を思う能力者達にとっては、迷惑極まりない『悪』。



それなら仕方無い……か。


ため息を一つついた後、再び顔を上げ、前を見据える。


微々たる光が隙間からもれている無機質な扉の前で、

直立不動でこちらを見てくる紫。改めて見れば、少し大人っぽい容姿になって、

長い髪も少しばかり更に長くなっていたよう。


「その通り。紫達の知ってる『御神哀』は消えたよ」


「なら、……貴方は誰? 同じ答えは許さないわよ」


全く、流石紫だよ。久しぶりにあった身内コイビトにも

私情を挟まずに任務遂行する。

俺達仲間の中じゃ、コイツぐらいしかできない芸当だな。


「そうだな。…………強いていうなら、悪魔で良いよ。

この戦いを終わらせに来――――


「ふざけないで!!!」


「…………」


牢の冷たい壁に、声が反射する。ほぼ締め切られた部屋に、

紫の声がいつまでも響いて、頭に再生される。



「わ、私達は、ずっと、信じてたのよ!!

アイが、アイがきっと生きてるだろうって!!!」


「……」


「あの時、傍から見れば死んでたように見えたのかもしれない!!

だけどね、私達だけ見たのよ!! あの光を!!!!

だから信じてたのよ!! なのにどうしてアイ! 貴方は……!!」


ぽたりぽたり

と、床に雫が落ちる。雨漏りでも、ただの水でもない。

どこか温かみを感じることができる、涙が流れていた。


紫は、膝を床につけて、髪で隠れた目から、涙を流していた。


それは、俺に対する言葉を紡ぎながらも、ずっと流していた。


頬を流れ落ちる涙を拭きながら、紫は立ち上がった。


いつもの、優しい紅い目で俺を見つめてくれながら、言う。


「いつもの、昔の貴方なら……もっと強引にでも、気付かせてくれたはずよ?

アイ、良いのよ。無理をして、私を……!!」



チクショウ。何てこったよ。

今にも涙が零れ落ちそうな目で、紫を見つめ返す。



「俺は、…………御神。御神哀だ!!!!


やっと、やっとだ!! やっとお前に会うため、帰ったぞ」




『紫』。



まだ泣かない。

俺は、目の前で泣いてるコイツを、慰めてあげなきゃ、な。

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