第十四話 死刑執行《スロウター》
また哀が黒サイドに……。
そして表現が下品。
すみません、気分悪くしたらこちらの責任です。
「ちッ!!」
いつの間にか、フィーアはまたも、俺から少し離れている。
少し覚悟している間にバックステップで何かを避けたように見えた。
実際に、フィーアは避けていた。
俺と同じように、触れるだけで攻撃となりえて、
それでいて俺とは違って、どんな強者でも防ぎようのない攻撃。
その攻撃を、フィーアにしようとした当の本人は、その黒い長髪をたなびかせ、
端正な顔をそのまま、無表情に押しとどめていた。
凛とした冷静な紅い目は、一種の懐かしさを俺に感じさせてくれた。
また、見えた。昔の光景。
蔑んだ目で見られても、その中から一人だけ、たった一人だけ救いの眼差しを向けてくれる、紅い目。
「アイ…………こんなところで、何をしてるのかしら?」
「何って……お遊戯?」
瞬間、頭に衝撃。
「いたッッ!? ってーなァ!! 何すんだよ!
ゆ……」
久しぶりに言うな。この名前、懐かしすぎる。
目の奥が熱くなるのを感じて、それを押しとどめようと我慢する。
「ただいま、紫」
「……おかえり、アイ」
しかし、やはり時と場所を考えましょう警報が発令されました。
「あーーあーーーー、現『HEAVEN』総隊長代理、それで特務隊隊長を兼任してる佐屋 紫。
それで一番謎な、死んだって記録のワイルドカード、私もよくしらねーんだよコイツらさ!!」
『そう言うな。それより、まさかこの通信聞かれてないだろうな?』
……フィーアはうんざりとした顔で、いつの間にか持っていた通信機と話している。
相手は……あの声、よく聞き取れない。
だが、俺、紫と、フィーアとの相性は互いに最悪だ。
それぞれが触れられた時点で必殺確定。だけど不意打ちなんてできる状況でもない。
「え? ああ、聞かれてねーよ。もう戻って良い? コイツらと戦りたくねーよ。
私だって相討ち死とか勘弁だよ、ったくさぁ」
どうやら、能力の相性が悪いことも流石に考えるか。
だが、此処で逃がしたら――――もうチャンスが無くなるかもしれない!!!!!!!
「逃がすかぁああああああああ!!!!!!!!!!」
「えっ! アイ!?」
紫に見られているのも構わず、構成する。
こちらの世界には存在しないはずの、『闇』を。
体の一部分が黒く染まって……侵食されていく。
そして一瞬で体の大部分を黒く染めた、右腕が機械でできた歪な悪魔が出来上がった。
躊躇いなく、右腕で機関銃を撃つ。
弾はフィーアの足元に当たる。当然、アイツはバックステップをする。
だが甘い。
黒い粘液が、弾けた。
次の瞬間には、もう既に俺はフィーアを地面に叩きつけた!!!!
常人から見れば、まばたきする速さだったであろう。
「ぐぅッ!!!!! こ、このクソヤロウがあああ!!!!!」
能力を使っているが、所詮それもただの『能力』。
皮膚表面を覆う黒い膜のいくつかが破裂しただけで、本質には届かない。
「弱いな。弱すぎる。だがそれで良い。
俺が、俺が、俺が俺が俺が俺が俺がおれがおれがおれがオレガオレガオレガ!!
お前ら『HC-R』を、駆逐して、淘汰して、虐殺してやるよ!!!!!!」
もう、力の加減も飽きた。
ふと、おもむろに空を見上げた。曇っている。
「ダメっ!!! やっちゃ駄目よ、アイ!!!!!!」
紫の声も聞こえる。
もっと話してからにした方が、良かったかな?
でも良いや。とりあえず、俺の目標の第一歩。
フィーアの抹殺。
また生き返るんだろうけど、どうでも良い。何度でも殺すまで。
「じゃあな。お前との殺し合い、楽しかったよ?」
「ぐ、ぐ……が…………ぁ、ぁああ……………………」
そして声も出さずに、フィーアの頭と胴は、さよならしたようだった。
直前まで首を絞め、窒息していたので、
噂どおりの酷い死に方だった。
死体の力が緩み、体中から汚いものを出し続ける。
目は瞳孔が完全にタガがはずれたように開いて、半分白目を剥いている。
力を入れすぎちゃって、首が離れても涎って出るもんなのな。
だがそれ以上に、血の絨毯が辺りの瓦礫で出来た地面を這っていた。
ヤバイ。変な趣味に堕ちるかもな……。
「あ、あ、あ、アイ……貴方、なんてことを…………」
何で? 何でそんな悲しそうな顔をするのさ。
弱い者は駆逐されて、虐殺されなきゃ駄目だし、そうじゃなきゃ俺の気がすまない。
皆を苦しめたコイツらを。