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スラスト→トラスト ~最強騎士と半透明ヒロイン、嘘にまみれた世界をぶっ壊す旅に出る~  作者: 羽久間アラタ
第1章 落ちぶれ精霊騎士、旅に出る
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第8話 試されしもの

「くっ、この、何なんだこいつ!」


 俺が訓練所にいた十年間、ほんの少しの時期を除いて常にトップに立ち続けた男、ブラーク。

 魔法も体術も剣も槍も盾すら自在に操るスーパーマン。

 プリムが作り出したそいつを模した存在は、愛用のサーベルを構え、俺に襲い掛かってきた。

 スライムのような素体だったくせに、短剣を合わせるとなぜか金属同士がぶつかるような音がする。いったい、どういう原理なんだ。


「その顔やめろ! 腹立つ!」


 連続攻撃の終わりに、なぜか歯をキラッとさせて余裕の笑みを浮かべる(偽)ブラーク。


「おいプリム! お前のイメージ、色々間違ってんぞ!」


 俺の抗議に、当のプリムは「えー」という顔をしている。

 きっと、彼女の目にあいつはこんな感じで見えていたのだろう。


(何じゃ、こやつはお主の知り合いか?)

「まあ、そんなとこだよっ!」


 今度はこっちから攻撃――と、腹部めがけて突きを放つも、偽ブラークは体をぐにゃりと変形させ、回避した。


「なんでそこだけはスライムなんだよ!」

(なんと面妖な! これは妙な相手じゃのう!)

「っていうかプリム! お前の"上"ってブラークだろ!」


 「え、どうして分かったの」という顔で驚くプリム。

 いやこれで分からなかったらどうかしてるだろ。常に中立を義務付けられる精霊騎士なんて、普通は傍に寄れるような存在じゃないし。


 あ、そうか――。

 俺にも以前、打診だけはあったけど……。あいつは作ったんだな。『自分用の軍団』を。

 でもまあ、どうせあの性格だ。部下を自分に近づけることも、自分から歩み寄ることもなかったろうけど。


 だからコレは、プリムが遠巻きに見たブラークのイメージ。

 おそらく魔物退治に同行したときにでもたまたま目にしたのだろう。

 部下を引き連れた行ったくせに、どうせあいつ一人で全部片づけて、それで「他愛もない」みたいな余裕アピールでもかましたんじゃないかと思う。

 それがきっと、あの"キラッ"に繋がってるのだろう。いや、そこはどうでもいいんだけど。


(おいお主、押されておるぞ。大丈夫なのじゃろうな)

「くそ、感覚がズレるっ!」


 姿は似てる。似てるけど何か色々違う。

 色々違うのだけど、姿は似てる。

 そのズレのせいで、俺の対応は誤作動を起こしっぱなし。

 スキができても打ち込めない。普通の攻撃なのに過剰反応してしまう。


「ああ、やりにくい、これ!」

(むう。やつが特別ということではなく、お主の動きが悪いということかのう)


 そう。やつと十年間も切磋琢磨した俺だからこそ、こんな子供だましが効いてしまう。


 こんなとき、おとぎ話に出てくる"剣の達人"とやらなら「目を閉じて心の目で見るのだ!」とかやる場面なのだろう。

 だが、視覚は重要な情報収集手段。もし目を閉じたら何も見えなくなって俺の腹に風穴が空くだけなので、真似してはいけない。


「ていうか、こいついつになったら消えるんだ!」

(確かに、さっきまでのはすぐに消えておったな)

「え? ブラーク様は、消えないよ?」


 気が付いたらいつの間にか"鑑定眼"を終了して元の糸目に戻っていたプリムが、「当然ですよね?」くらいの平然としたテンションで妙なことを言っていた。



「何だよ消えないって!」

「そのブラーク様、魔法粘土製。なので」


 えっへん、と得意げに胸を張るプリム。おお、確かに着やせするんだな……じゃなくて、なんだその魔法粘土って。

 追加の解説を期待してプリムの方をチラ見――ってあいつ、お菓子食ってやがる! ダリアも(うまそうじゃのう)とか言ってる場合か! 俺、死んじゃうぞ!


「粘土って!?」


 一向に再開しない解説の続きを催促すると、プリムは「?」と首をかしげた。


 ――ああ、くそ、どいつもこいつも無知か勉強不足か口下手で全然話が進まねえ! なんだよこのコミュニケーション不全集団は!


「この、いい加減に!」


 かろうじて本物ブラークの面影を感じる攻撃と、粘土(?)らしく人体の構造など無視した攻撃のコンビネーションに俺は防戦一方。

 くそ、これが終わったらプリムに絶対に色々聞きだしてやる。首根っこつかんでガクガクしてやるからな。


 ――だから、この戦いの結末をトラックスと同じようにはしてやんねえ。絶対に、だ。


* 


 俺のいた精霊騎士選抜訓練所、通称訓練所(地獄)では、たまたま目についた訓練生を見かけると愛称というか通称というか、妙な二つ名を付けてくる(とてもちんちくりんな)所長がいた。


 俺も確か8回生くらいの時に「きみっていつでも大逆転だよねっ! あっ! そうだっ! 君のあだ名は『恐怖のリベンジムッツリ、ジルバ』にしようっ! うん、決まりっ!」と、いきなり恥ずかしい二つ名を押し付けられたことがある。

 以降はリベンジルバ、ムッツル、むっくん、最終的には"むっつん"となり、元の名前が跡形もなくなってしまっていた。(リベンジルバのあとに何があったんだ)


 で、アイツは"ましゅーっち"。元は『刹那のラッシュマッシュ、ブラーク』だった。

 一番嫌がっていた"マッシュ"の部分を絶妙に残したあたりに悪意のようなものを感じなくもないが、大事なのは"ラッシュ"の部分。

 あいつのスタイルは俺とは真逆で、最初からありとあらゆる攻撃を全力で全方位から叩き込むというもので、出し惜しみなしの超・超短期戦だった。

 「相手が温まりきる前に勝負を決めたほうが効率的だろう」とかなんとか、天才にしか分からない理論らしい。


 ああ、そういえば、プリムも似たようなことを言っていた気がするな。

 その辺にも影響が出ていたということか。



「そうか。見えたぜ。勝ち筋が」

(おおっ、ついに来たのか! ……えーと、せんじょう……?)

「"戦術眼"んんんん! いや来てないけど!」

(なぬ。それで本当に勝てるというのか)

「ああ」


 ここは『恐怖のリベンジXXXX、ジルバ』らしく逆転して考えてみよう。


 あんな感じでのんびり余裕な空気を醸し出しているプリムだけど、『一瞬で消える魔力の絵』ならともかく、あれだけ高性能な『粘土細工』を生成したのに大した負担もない、なんてことがあり得るだろうか。


 そんなことはないはずだ。

 "鑑定眼"を停止したのも、勝利に近づいたからではなくもう維持ができないのだとしたら。


 戦いを偽ブラーク任せにして自分は攻撃に加わらないのはなぜか。

 そっちの方が更に勝率を高められるはずなのに。


 それは、もうあの妙な魔法を打つだけの魔力も残されていないから――そう考えるのが自然だろう。

 と、いうことは――


「こいつさえ何とかできれば俺たちの勝ちだっ」

(じゃが、どうするんじゃ)

「まあ、見てろって」


 そう言いながら、この戦いで初めて前髪を掻き上げ、"固着"させる。

 その隙を狙い、更に密度を増す偽ブラークの攻撃。もはや関節の概念もどこかに行ってしまったようで、明らかに人間の届かない間合いから触手となった腕が空気を切り裂いて飛んでくる。


「――いつまでも、ニヤついてんじゃ、ねぇええええええっ!」


 ここで俺は、賭けに出た。

 横薙ぎをしゃがんで躱した、その確信に近いタイミングで前方へ向けて飛び上がる。


 偽ブラークは、確かに『あまり』似てはいない。だけど、『全部』が違うわけじゃない。

 トラウマになるほどの強烈な失敗体験により染みついてしまった動きの癖。

 ほんの少しの時間見ただけでも違和感で忘れられなくなる、そんな動作。


 『死んだふり作戦』に引っかかり、最後の最後に訓練所初にして唯一の敗北を喫したブラークが、克服しきれなかった癖、それは――


 低空からの攻撃に対して、飛び上がって避けようとするその動き、だ――!


(阿呆っ! 行き過ぎじゃっ!)


 俺の体は、勢いのつけすぎか? それとも、偽ブラークの再現イメージが甘かったのか? ヤツを通り過ぎるようにすれ違ってしまった。


 いや、違う――


「おっらああああああ!」


 ――全部、想定通りだ!


「空振り……? 違う。髪を……?」

(か、髪なんぞ切ってどうするのじゃ!)


 高速で交差する中で、俺は短剣を振り上げ、ヤツの髪をサイドから後頭部にかけてバッサリと切ってやった。


 プリムの困惑、ダリアの嘆き。

 偽プラークはどういう原理かは分からないが、有利を悟ったか大チャンスを逃した俺を嘲笑うかのような表情を浮かべた。このクオリティだけは完璧だな。


「だが……っ! もうこれでお前はブラークじゃねえ!」

「何。言ってるの」(何を言っておるか!)


 呆れと罵倒が当時に飛んできた。

 いや、ほら、よく見てみろよ。アイツの、あの髪型を!


 "キノコヘアー"じゃなくなってるだろ!


「いくぜー、誰だか知らないイヤミ野郎っ!」


 十年間、俺たちは寝食を共にして、子供から少年、そして青年へと変わっていった。身長は伸びて体重も増え、声が変わったり、あちこちが出っ張ったりへこんだり。

 そんな変化とともに生きてきた俺たちの中で、一度も変わらなかったものがあった。


「キノコじゃないブラークなんて、偽物だぁぁぁぁっ!」


 それは、ブラークの髪型である。

 俺は、出会った最初の日からずっと思っていたんだ――「こいつの頭、キノコみてえ」、と!

挿絵(By みてみん)


「オラオラ! オラオラオラぁっ!」

(ななな、なんじゃお主っ! 何があったのじゃ!)


 さっきまでヤツが圧倒していた戦況は完全にひっくり返った。――というより、あるべき状態に戻った、といった方が正しいか。

 所詮相手は粘土でできたまがい物。こっちの思い込みと思い出補正で精神を惑わすだけの人形にすぎない。

 そして、その呪縛が解けてしまえば――


「――いっちょ上がりだぜ」

「う、うそ。でしょ」


 偽ブラークだったものは、俺に細切れにされ、元の"魔法粘土"へと戻っていく。

 それは、この――シュールと混沌とボケとツッコミに支配された謎の戦いが、やっと終わってくれたことを意味していた……。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になる!…かもしれません。

軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。

どうかよろしくお願いします!!

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