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スラスト→トラスト ~最強騎士と半透明ヒロイン、嘘にまみれた世界をぶっ壊す旅に出る~  作者: 羽久間アラタ
第1章 落ちぶれ精霊騎士、旅に出る
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第4話 『敵』の姿

「くそ、なんて逃げ足の速い」

「しかも隠れるのもお上手だね。厄介な相手だなあ」

「"検知"使う。待ってて」

(ほう、また新しい"魔法"じゃな? 今回は何がどうなるのかのう)


 今日でパーティー結成から10日目。

 達成した依頼は27個のうち、24個。

 時間のかからなそうな依頼から優先して片付けていったため、残ったのは少し面倒な依頼ばかりで、完了ペースも一日一件まで落ちてしまっている。

 しかし、それでもペースとしては順調過ぎるほどで、ギルドの受付嬢を驚かせるのが最近の日課になってしまっていたくらいだった。


「いた。あそこ」


 プリムが詠唱を終えると、標的が擬態した位置に光の柱が出現した。

 "隠密"の悪用により悪化した治安に対抗するために開発された魔法、"検知"の効果により、常時隠密状態の魔物――シャドウリーヴの位置に光の柱が出現する。


(おおっ、便利な魔法じゃな! この脳筋たちでは三日かけても見つからんじゃろうに!)

「やっぱりメイジがいると楽だなあ、トラックス」

「……え? あ、まあ、そうね。俺らは……そう、筋肉しか取り柄がないしね」


 軽口をたたきながら、脳筋組の二人は今回の標的の位置を示した光の柱の元へ一足で飛ぶ。

 先に到着した俺は、呼吸を置かずに擬態した影に向かって短剣を振り下ろした。

 ――しかし、手応えはない。


(戯け! 何をノロノロやっておるか!)


 ヤツはギリギリのところで擬態を解き、短剣から逃れたのだ。そしてすかさずペラペラの体で地面を這い、近くの影へ逃げようと――


「よっと!」

「ヒギィッ!」


 ――したところで、シャドウリーヴの逃げ込む位置を予測して待ち構えていたトラックスの一撃によって両断されてしまったのだった。


(おおぅ。……うむ……、見事じゃ!)

「ナイス! トラックス!」

「いやー、おいしいところ持ってっちゃってゴメンね」

「わたしも。頑張った」


 頭をガリガリと掻いて照れくさそうに笑うトラックスに、段々と遠慮が無くなってきたプリム。

 今では各々のコンビネーションも洗練されてきて、今のような連携もスムーズになってきていた。


「これで……あと2つ、か」


 始めたときは途方もない数字に感じた公設クエストも、あとわずかとなってしまった。

 彼らのおかげか、最近はダリアのワガママもすっかり影をひそめ、下らない子供のような口喧嘩もだいぶ回数が減ってきている。


(のう、お主)


 俺は(なんだよ)と目と瞬き、わずかな腕の動きで聞き返す。夜な夜な練習しただけあってこの方法もだいぶ身についてきた。


(やはり、こやつらとは一緒に行かんのか?)


 ……またそれか。

 えーと、(俺一人で行く)っと。

 名詞まではフォローできないので、何となくの語彙で伝わるようにして返答する。


(……じゃが、ヒトというものはヒト同士で協力し合う姿が自然なんじゃろう?)


 ダリアの声色には、ほんの少しだけ諦めも滲んでいた。

 彼女としても『そう出来たら』程度のもので、本気で言っていった訳じゃないことは俺にも分かっていた。


 なぜなら、俺は"爆裂"魔法を限界まで詰め込んだ魔石のような存在だから。

 下手を打つどころか、パーティーに加入した瞬間に大爆発を起こして多くの人を巻き込みかねない、超の付くほどの危険人物。

 そんな奴が、日々を懸命に生きる真っ当な人たちに近づいて良いはずがない。


 *


「ええええぇっ! もう終わったんですか!?」


 もはやわざとやっているのではないかと思わせるくらい、今回も驚く受付担当。


「はい。これが討伐証明です」

「う……。いつも通りの塩対応……」

「何か?」

「あ、いえいえ。では、確認してまいりますので少々お待ちください」


 そう言って受付嬢はバックヤードへと下がっていく。


「あと2つってどんな依頼なんだっけ」


 最初の頃に見たきりだったが、何かとても面倒そうなことが書いてあった記憶がある。

 それもあって、最後の方に回したはずだが、後半の方はプリムに任せっきりだったから正直よく覚えてない。


「……イモータリティコング。こっちが先」


 プリムが残った依頼書の片方を取り出し、カウンターの上に広げた。


「出現位置はサンテグラ周辺全域、みたいだねぇ」

「あと、期限。無し」

「へえ……」


 とりあえず相槌を打ってはおいたけど――なんだか妙な依頼だった。

 魔物の名前には聞き覚えが無かったし、出現位置もアバウトすぎる。何より、期限が無いというのがよく分からない。

 何か被害が出ているから依頼が出るのであって、程度の差こそあれ基本はできる限り急いで対応してほしい、というのが普通の感覚だろう。


「お待たせしました。今回もバッチリでしたよ!」

「あ、ああ。どうも」

「どうしたんですか、浮かない顔して! あれだけあった公設クエストがあと2つまで減ったんですよ!?」


 さすがにこれだけ頻繁に会っているといわゆる"顔なじみ"のようになるのか、受付嬢もだいぶ慣れ慣れ――いや、打ち解けた様子を見せるようになっていた。

 まあ、こちらはそのテンションに付いていくのがなかなか難しいのだが。


「――って、ああ。イモータリティコング、ですか」

「ええ。どこにいるかも分からないんじゃどうしたものかと」

「……ふっふっふ。ジールさん、冒険者ギルド・サンダリア支部の情報収集力を侮ってはいけませんよお?」


 受付嬢は突然にやりと笑って、そんなことを言いながら掛けていた丸メガネをくいっと持ち上げた。


「何かご存じなんですか!」

「これだけ公設クエストを解決してくれたジールさんたちだからこその特別ですよ?」


 いちいち溜めるなあ。

 彼女は彼女で、ひたすら忙しく事務作業をこなす過ごす毎日にストレスがたまっているのだろうか。


「なーんと、つい先ほど! イモータリティコングの目撃情報が寄せられたのです!」

「ど、どこで!」

「それがですねー。……なんと、サンダール峡谷なんです!」

「え、すぐ近くじゃないですか!」

「そうなんですよー。どうですかー? ウチって凄いですよねー? だから是非、このままここで――」

「行くぞ、二人とも!」


 次の瞬間には俺の足はギルドの出口に向かって歩き出していた。

 受付嬢は何か言っていたようだが、俺の耳には入らない。後ろから「待ってー」とか

聞こえる気がするが、気のせいだろう。


(お主、少し落ち着かんか)


 これが落ち着いていられるか。広範囲にわたって神出鬼没の魔物が都合よく見つかったんだ。このチャンスを逃したら次にいつ情報が入ってくるか分からない。


 ――もちろん、依頼の魔物を倒してしまえばそれだけ二人との……このパーティーとの別れが近づくのは分かってる。

 でも、私情に流されて依頼を放置することはできない。もし、それをしてしまえば今後も自分に言い訳をする人間に成り下がってしまうことだろう。

 だから、ディルベスタに行くにしろ、このままここで冒険者として生きるにしろ、自分の生きざまだけは貫く。それが、俺だ――



 サンダール峡谷。

 サンテグラより南へ5リークほど進んだところにある峡谷地帯。大昔には川が流れていたらしい。

 だが、今ではすっかり干上がってしまい、赤茶けた砂と土と岩、そして切り立った崖に囲まれた殺風景な場所となっている。


「奴はどこだ?」


 ギルドを出てから数ミットで到着した俺は、崖の上に立ち、辺りを見渡す。

 手配書には外見の特徴なども記載されていなかったが、隠れる場所もろくにない地形だ。

 恐らく見ればすぐに分かるだろう。


「おいおい、ジールくーん。速いって」


 俺から少し遅れてトラックスも現着した。

 しっかり付いて来ていたと思っていたのだが、どうやら少し気が急き過ぎていたかもしれない。

 すっかり息を切らせたトラックスに対し、背中越しで詫びる。


「悪い。でもこのチャンスを逃したくなくて」

「そうね。確かに、すごいチャンスだ」


 ――瞬間。背中に冷たいものが走った。


(お主! 後ろじゃ!)


 ダリアの声を聞く前に、俺の体は反射的に避けていた――背後から迫った、"曲刀"を。

 半身になって腹部を狙った刺突を躱し、更に切り立った崖に沿うようにしてバックステップ。"敵"との距離を取り、体勢を立て直す。


「おや。殺ったと思ったのに」

「お前……何者だ」


 躱しきれなかった脇腹部分のシャツが切れ、中から血が滲む。

 右手には崖。落差は数十……いや、100トール以上ありそうだ。ここから落ちて助かる奴がいたとしたら、そいつは不死身か何かだろう。


「またまた。もう分かってるくせに。俺が、手配書のイモータリティコングだよ」

「そんな……どうして」

「うーん。ジール君さ。分かってる? 今の俺、敵なんだぜ?」

挿絵(By みてみん)


 味方だったのに。何かの間違いじゃ。そんな、青くて甘い俺の思い込みを断ち切るようにトラックスが剣を振る。間合いの遥か向こうから――!


(来るぞっ!)

「くそおっ!」


======第3話 了

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