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スラスト→トラスト ~最強騎士と半透明ヒロイン、嘘にまみれた世界をぶっ壊す旅に出る~  作者: 羽久間アラタ
第1章 落ちぶれ精霊騎士、旅に出る
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第2話 はじめての『パーティー(戦闘)』

「ええっ!? もう終わったんですか!? ら、ランク5ですよ!?」

挿絵(By みてみん)

「いやー、自分でもびっくりしましたよー。たまたま投げた石の当たりどころが良かったみたいでー」


 大げさに驚く受付の女性に対し、丁寧に嘘を塗りこみつつあくまでもマグレだということを強調する俺。

 まあ、ギルド内は多くの人で賑わっているからこの会話なんて誰も聞いてはいないと思うけど。一応な。


「これが討伐証明です」

「てっきり今日は偵察までかと……。あ、すみません! 少々お待ちくださいね」


 受付の女性は手袋をはめてポイズンファウントの花弁と触手を丁寧に油紙で包むと、奥に引っ込んでいった。


 手持無沙汰になった俺はカウンターに背を預け、ホールの方に視線を向ける。

 旅の途中で立ち寄った町サンテグラ。

 大きくも小さくもない中規模都市ではあるが、街道沿いなだけあって人と物の往来も活発で、町全体から活気漂う、そんな場所。

 この冒険者ギルドも例に漏れず、大変な活況だった。


 受領したクエストの攻略について熱っぽく語る剣士。メンバー強化の方向性について喧々諤々の論を交わす魔術師とクレリック。初々しく挨拶する新人を暖かく迎えるベテランパーティーの面々。


 そして――退屈そうにこちらをじっと見ている半透明の銀髪女性、ダリアさん。


(…………)


 銀色に輝く長髪、揃った前髪。切れ長の目、その中で輝く赤い瞳。

 組んだ足に肘をつき、手のひらに顎を乗せ、ぶすっとした表情。

 ミステリアスな彼女に良く似合った黒のナイトドレスには両サイドに大胆なスリットが走っており、正直目のやり場に困ってしまう。

 まあ、俺の視線なんて気にならないらしく、ダリア曰く(獣どもに見られて恥ずかしいと思う阿呆なぞおらんじゃろ)とのことだが。


「――ほら、いつまでも休んでると置いていくよ!」

「ちょ、待ってくださいよリーダー!」


 目の前をハンター風の若者がどたどたとブーツを鳴らして通り過ぎていく。彼は進路上にいたダリアを避けようとせず、そして一切気づくことも無く、彼女の体を文字通り"すり抜け"て行ってしまった。


(……何か言いたいことでもあるのかの。儂に『ここでは黙ってろ』などと言うたのはお主じゃぞ)


 俺は肩をすくめ、首を傾けて(なんでもねーよ)と返してやる。

 それを見たダリアはふん、と小さく鼻を鳴らして、元の仏頂面へと戻ってしまった。


 まあ、ほら。

 色々俺って面倒な立場だし。

 こんな人目の多い場所で話しかけられて、うっかり普通に会話などしてしまい、『見えない何かと話している』危ない人――と噂になりでもしたら余計なトラブルが起こりかねない。

 俺しか話し相手のいないダリアにとっては酷かもしれないが、少しは我慢してもらわないとなあ。


「お待たせしました」


 背後からの声に振り返ると、さっきの受付係が戻ってきていた。


「確かに、お納め頂いた花弁と触手は依頼したポイズンファウントのものですね」

「はい」

「ただ、受領の際にもお話ししましたが、公設クエストは討伐確認の必要がありまして……。報酬のお渡しは明日の午後になるかと思います」


 民間のクエストなら、依頼主から完了の証をもらえばその場で報酬が出る。

 けど、国やギルドが出してる『公設クエスト』はそうはいかない。報告した後、第三者が現地まで調査に行く決まりだから、どうしても報酬の支払いには時間がかかってしまう。

 手間の割に報酬も高くないし、日銭を稼ぎたい冒険者にとっては正直ありがたくない仕組みだ。

 案の定、受付横の掲示板に残ってたのは公設クエストばっかりだった。

 ……まあ、そのおかげで俺みたいな臨時雇いでも地元の連中とバッティングせずに仕事が取れるんだけど。


「明日の昼、ですね。わかりました。じゃあ、先にこれは返しておきます」


 俺は素直にうなずくと、懐から四つ折りにした手のひらサイズの紙を取り出し、それをカウンターの上に置いた。


「え? 短期登録証!?」


 取り上げて内容を確認した受付係の顔がみるみるうちに曇っていく。


「ええ、もうそろそろ旅に戻ろうかと」

「で、でもまだ三十日以上期限が残ってますよっ!?」

「な、何か問題でも……」


 これだけ多忙なギルドだけに、冒険者なんて一期一会。流れ者の独り身とあってはなおさらだろう。だから、もっと事務的にサラーっと流されるのかと思っていたのだが……。


「有りますよぅ。大有りですぅ」



(お主は本当に単純じゃのう)

「うるせえ、こんなこったろうと思ったぜ、チキショー」


 翌日。俺は先日の湿地帯とは真逆の方角にある森の中でクモ型――といってもサイズは人間の下半身くらいある魔物、アシッドスピナーの群れ相手にひたすら短剣を振り続けていた。


「えー? ジール君、何か言ったかーい?」

「いえ、なんでも」

「ちきしょー。って言ってた」


 そんな俺の周囲には珍しく、二人の人影があった。

 "公設クエストお掃除大作戦"(命名:受付嬢)発令時にたまたまギルド内で暇そうにフラフラしていたがために巻き込まれてしまった運のない二人である。


「ああ、うん、だよねえ」

挿絵(By みてみん)


 無精ひげを生やし、ボサボサの黒髪を後頭部で結んだ盗賊風の男――自称スカウトのトラックスは曲刀を自在に振るいながら、のんびりとした口調で俺の愚痴に同調する。

 そして、そのラフ……というか正直小汚いビジュアルとは異なり、絶妙な間合いの押し引きと流麗な剣捌きは確かな実力を思わせるものだった。


「公設クエスト。溜まりすぎてた」

挿絵(By みてみん)


 もう一人の被害者、メイジのプリムは白銀のロッドから白色の魔法弾をポンポンと打ち出して次々と魔物を倒していく。

 足首までの野暮ったい深緑のローブと眠たげな垂れ糸目。茶髪を肩まで伸ばした少女らしい髪型や呟くような話し方の割によく通る声。

 全体的にアンバランス――というか掴みどころのない、そんな印象。


「だからって全部俺らに押し付けるなんてひどすぎないですか!?」

「まあほら、そこは持ちつ持たれつ、だから。みんなが美味しいのばかり選んでたらギルドに誰も依頼しなくなっちゃうしさ」

「まあ……そうなんですけど」


 そして、俺。

 厳しすぎる数々の試練を乗り越えて、"中央"の精霊騎士にまで上り詰めたはずの男。

 ……が、今では見ての通り、日銭を求めて『外環』を駆けずり回る、しがない"冒険者"の一人である。


 ――それでも、以前よりも今の方が"生きている"気がする。

 まあ、落ちぶれてしまった俺の、ただの強がりなだけかもしれないけど。


「さーて、もう依頼の分は超えたと思うけど。お二人さん、どう?」

「ああ、何体だっけ」

「百。現在、百九十七」


 依頼分どころか、倍近くじゃないか。

 俺が八十四だから、二人とも五十以上ずつ倒したって計算だ。

 その数を物語るように、周囲は巨大なクモ型魔物の死骸と紫の体液で凄いことになっていた。

 なかなかやるなあ、と思って見てたけど、まさかここまでとは。どうやら俺は、冒険者たちをだいぶ過小評価していたようだ。


「キリが悪いな。放っておいた間にだいぶ増えたみたいだし」

「これ、お掃除大作戦の一環だもんね。せっかくだし、奴らの巣までやっちゃおうか」

「うん、賛成」


 冒険者は必要最低限の仕事しかしないもの、というのも俺の思い込みだった模様。やはり、先入観での決めつけは危険ということか。

 しかし、そう考えると俺のしてきた冒険者ムーブは少し過剰だったかもしれないな。是非、次からの参考にさせてもらうことにしよう。


(ふーむ。こういう戦いも良いものじゃなあ。目まぐるしくてどこを見たらいいのか分からなくなるのが玉に瑕、じゃが)


 今回はさすがに地面を吹っ飛ばしたり指で魔物をバラバラにするわけにもいかないので、あくまで『中級冒険者らしく』を意識して戦っていたのだが――これはこれで、ダリアも満足したようだ。


 そんな彼女の様子を眺めていると、ポイズンファウント討伐の後に交わした、あるやり取りが脳裏をよぎった――



(………………なあ、お主よ)

「なんだよ、やっぱりアレはお前の親戚だったか?」

(違うわ! ……そうではなくてだな――ここしばらくの路銀稼ぎじゃが……これでひと段落なんじゃろ?)

「ああ、まあな。ひとまず銀貨二十枚あればディルベスタまで冒険者稼業はしなくても行けると思うぞ」

(そうか……。その、では、今日くらいは美味いものでも食して滋養を蓄えるというのはどうじゃ?)


 なるほど、そう来たか。こいつは半透明でよく分からん存在ではあるが、目で見て耳で聞き、口で話すことまではできる。しかし、モノに触れることだけはできない。

 つまり、飲み食いもできないということもなるのだが、受容する感覚の一部は俺と共有しているらしく、嗅覚と味覚は俺を通じて感じることができる、そうだ。

 要するに、どうしてダリアがこんなことを言いだしたかというと――


「――何が望みだ」

(甘味! 儂は甘味を希望するっ!)


 ああ、釣り糸を垂らした瞬間に釣れちゃった。

 そう、いかにも俺を気遣ったようなことを話していたダリアだが、要は自分が美味を感じたいだけなのだ。


「却下。色々買い物もしなくちゃならないのに、そんな贅沢してられるかよ」

(お、お、お主ぃ~。そう固いことを言わんでもええじゃろぉ? 何も乳と卵の菓子を食せとは言わん、せめて焼き菓子だけでも)

「だめ。あれ1枚で黒パンがいくつ買えると思ってんだ」

(あんなマズいものと一緒にするでない!)

「マズくても良いんだよ。日持ちするし。旅の食糧にはピッタリだ」


 ここまでの俺とのやり取りで、単純な説得(と、いうよりただのワガママ)は効果がないことがようやく分かってきたらしく、最近では交換条件を持ち出すことも増えてきた。

 で、今回はというと――


(――ま、待て、分かった! も、もし言う通りにしてくれたら……)

「してくれたら?」

(わ、儂が、ひ、膝枕をしてやろう)

「……聞いて損した」


 すり抜けて頭を打つわ。自分の透け具合を見てから言えってんだよ。

 タイプど真ん中の女に触れることができないってことが男にとってどんだけ地獄か分かってんのかコンチキショー。



 ――とまあ、そんなことがあってしばらくは仏頂面だったダリアも、この戦いを見て無事元通りになってくれたみたいだ。

 そう考えると、"お掃除大作戦"も悪いことばかりじゃないのかもな。


「ジール君? どうしたのー? 行かないのー?」

「疲れた? 残る?」


 おっと、つい思い出に入り込み過ぎて足を止めていたようだ。かなり数を減らしたとはいえ、ここはまだ敵地だというのに。なんという怠慢。


「あ、ああ。ごめんごめん。じゃ、行くか」

(ボケーっとしおって。一体何を考えておった)

「な、何でもねーよ」


 そう吐き捨てて、トラックスたちの後に続く。

 いくら低級の魔物とはいえ、攻撃されればそれなりに痛いし、装備品にも傷がつく。戦場でボンヤリしていて良いことなんて一つもないのだ。

 もしかしてダリアは、俺の未熟な精神を鍛えるために神様的な存在が俺に遣わした天使なのではないだろうか。

 ――いや天使、って感じではないな。どっちかって言うと悪魔だろアレは。なんか黒いし。


(む。お主、何か無礼なことを考えておらんじゃろうな)


 いつもの定位置から声が聞こえる。

 だが、これ以上悪魔のささやきには耳を貸さないぞ、と誓った俺は短剣を握りしめ、暗い森の奥の方へと進んでいくのだった――

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

もし気が向いたら作者のモチベーションになりますので評価、ブクマいただけますと飛び上がって喜びます。

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