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スラスト→トラスト ~最強騎士と半透明ヒロイン、嘘にまみれた世界をぶっ壊す旅に出る~  作者: 羽久間アラタ
第1章 落ちぶれ精霊騎士、旅に出る
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第20話 白狼無力化大作戦

「トラックス、しっかりしろ! 今手当を……って、何で真っ暗なんだ」

「リーダー。こっち」


 すぐに怪我の具合を確認したかったのだけど、建物の中は真っ暗になっていた。

 だが、事態は一刻を争う。全ての疑問は後回しにして、プリムの誘導に従いトラックスを肩に担いだまま彼女の後を尾けていく。


「入って。皆もいる」

「ここは……」


 見覚えがある。この部屋は、確か……。


「わたしを、襲おうとした。調理場」

「ひ、人聞きの悪いことを言うんじゃないプリム。あれはだな――」

「――と、トラックスさん、どうしたんですか!?」


 プリムがドアを開けると、すぐ傍で待ち構えていたらしいアイリスが立っていた。

 ボロボロになった俺達を見て、目をまん丸にして驚いている。


「アイリス。悪い、やられちまったわ」

「じ、ジールさんっ! 手が血まみれになってますよ!?」

「いや、俺よりもトラックスだよ! 大怪我してる!」


 俺はアイリスを退かすと、調理場の真ん中にトラックスをゆっくりと下ろした。

 隅の方にハインツとベルガーの姿も見えたような気がしたが、今は彼らに用はない。急いでトラックスの容態を確認しないと。


 仰向けになったところをあのナイフのような爪でやられたんだ、恐らくは血まみれ、下手すれば内臓がはみ出してるレベルの相当な深手の……はず……って、あれ?


「大怪我。どのへん?」

「もしかして、この四本の細い線のことでしょうか……」


 伸縮する素材で出来た下履き一丁のみという"筋力肥大"用の姿となっていたトラックスの胸部には、木の枝で引っかかれたような傷が残っているだけだった。


「いやいや、そんな訳無いって! だってあのサーベルみたいな爪でザク―ッってやられてたんだぞ!」

(儂も確かに見たぞ!)

「……サーベルは盛り過ぎじゃないのー?」

「いや、アレだ、シェリー教官のハルバードくらいの鋭さだったぞ!」


 そうだ、ヤツの一撃はそれくらいのインパクトがあった!

 盾で防いだはずなのに闘技場の端から端までふっ飛ばされるくらいの!

 それほどデタラメな――


「――そんなモノ食らったら俺、上半身消し飛んでたと思うよー?」

「って、トラックス!」


 瀕死の重傷を負ったかと思っていた俺の先輩は――にやりと笑うと、何事もなかったかのようにむくりと起き上がり、いつもの調子でしゃべり出した。


「いやー、お互いにとんでもない目に遭っちゃったねえ」

「……さすがはあの『ちんまい人』に不死身って言われるだけあるわ、先輩」

「まあ、これだけが取り柄みたいなもんだから」

(儂も化け物じみた男は見慣れておるつもりじゃったが……)


 それにしたって規格外すぎるだろ、この人。

 トラックスならヤツに頭を齧られても「いてー」とか言いながらヘラヘラ笑ってたんじゃないだろうか。

 あと、その見慣れた化け物ってセリフ、お前にそっくりそのまま返してやるからな。


「よし、次あいつが来たらトラックスを盾にして皆で逃げよう」

「ちょっとー。勘弁してよー」


 はっはっは、と笑う俺達。

 しかし、どうやらこのジョークを理解できるのは少数派だったようで――


「――ジールさんっ! 笑ってる場合ですか! 手っ! 早く手当しないと!」


 アイリスにすごい剣幕で怒られてしまったのだった。


 確かに少し痛むような気もするので、改めて手のひらを見てみると、手のひらと指をそれぞれ横断するような深めの傷が付いていた。

 うわー。まあ、ヤツの牙は短剣みたいに鋭かったもんなあ。あれを思いっきり握れば傷にもなるか。


「大丈夫大丈夫、こんなの唾つけときゃ治るって」

「ばっ、馬鹿なことを言わないでください!」


 俺が自分の常識に基づいて出した雑な回答は、六つも年下の少女にぴしゃりと両断されてしまった。


「……え、アイリス、どうかした……?」

「いいから、手、見せてください!」

「あ、はい」


 アイリスの迫力に押され、俺は素直に手のひらを差し出す。

 まだ薬草が残っていてよかったです、なんてことを言いながら俺の手当を始めるアイリス。

 よく見るといつもと格好が全然違う。森の少女はいつの間にか『街の少女』的な感じ変わっていた。


「あ、着替えてたんだ」


 俺としては単純な事実を口にしただけの、何気ない一言のつもりだったのだが――これが女性陣には大変不評だったらしい。


(お主……一体どれだけ朴念仁を極めれば気が済むのじゃ……)

「リーダー。それ、ひどい」

「……まあ、今はそれどころじゃありませんし。どうせわたしは子供ですから」

「いやいや、気にすんなって! 確かにまだこど――痛ぇっ!」

「――はい! 終わりです!」


 アイリスに軟膏を塗ったばかりの手をぺしっと叩かれ、俺は返事を最後まで発することは出来なかった。


「はあ……。シリアスな空気、台無し」


 俺たちのいつも通りなドタバタなノリが始まってしまったことで、なぜかプリムは頭を抱えこんでしまった。

 まあ俺も『シリアスな雰囲気を壊すような軽薄な行為などは許すことの出来ないクールな男』ではあるけれど、彼女たちがやたらピリついている理由がよく分からない。

 一体、何があったというのか。


「それだよ、それ。いやまあ、絶賛大ピンチ中ではあるんだけどさ。なんで皆してこんなに重くなってんだよ」


 俺の問いに、彼女たちの言葉はなく、代わりに視線という形で原因を作り出した人間たちを指し示した。


「フランツさん? いや、そもそも何で二人が縛られてるんだ」


 ここまで一言も発しなかったから気づかなかったけど、フランツたちは――何故か、手足をピンク色の紐でグルグルに縛られ、動きを封じられていたのだ。


「もう何が何だかわからないんだけど。俺達がいない間に何があったのか?」

「この人たち。逃げようとしてた」

「……それでこれはやり過ぎのような」


 別に俺たちとこの二人は運命共同体って訳じゃないんだし。逃げる隙があったならむしろそうするべきだろう。

 ただまあ、ヤツの運動能力からするとあのタイミングで外に出るのは自殺行為だったとは思うけど。


「……まあ、『敵』はとんでもない強さだったし、二人をここに留めておいたの結果的には正解だったかもな。でも、もういいだろ」


 彼らを桃色の戒めから解き放とうとしたところで、俺の動きは止まった。

 ……これってどうやって外すんだ? 切ったら爆発とかしたりしないよね?


「待って、リーダー。まずは、聞いて」


 嫌すぎる予感に思わず足を止めてしまった俺に、プリムが呼びかけてきた。


「あと。触ったら、爆発する。かも」

「や、やっぱりか!」


 危ない危ない、俺の勘を信じてよかったぜ。


 *


「――なるほどねえ。『特別な積荷』が、あの白狼だった、と」

「はい。仰るとおりでございます」


 俺の言葉を、戒めを解かれたハインツが肯定する。

 プリムとアイリスに大まかな話を聞いた俺たちは、ここに至った経緯がようやく分かってきた。


「絶滅扱いだったはずの幻の獣が実はまだ生き延びていた、なんて聞いたらあの『王都の金持ち連中』が黙ってるとは思えないもんな、確かに」

「でも、だからといって群れで幸せに暮らしていた子を連れ出して売るなんてっ……どうして、そんなこと……」


 アイリスの言いたいことは分かる。そこまでしてお金が欲しいんですか、といったとこだろう。

 なるほど、彼女が感情的になっていたのはそれが原因か。


 ただ、この手の話は善悪や道徳、倫理、損得などの観点では単純化することができないものだ。

 複雑に絡まった事情を丁寧に全て解いていって、やがて最善に見える方法を見つけたとしても――万人の納得などは到底得られない、そんな話。


「アイリスには悪いけど、その話は一旦後回しにさせてくれ。まずは目の前の脅威をなんとかしてからだ」

「そうねえ。とりあえずアンタらさあ、なんで逃げようとしたわけ?」

「確かにそうだな。『大切な積荷』が自分から帰ってきてくれたんだから、もう一度捕まえれば良かったのに」

「……そ、それは……」

「……無理だ」


 言いよどむフランツに代わって、ここまで眉一つ動かさず沈黙を続けていたベルガーが口を開いた。


「相対したのなら分かっただろう。アレは人の手に負える存在では無い」

「それはごもっともだがねえ。じゃあ一体どうやってここまで連れてきたんだい」

「……生物の意思を奪う、特殊な首輪を使用しておりました」


 フランツの答えに、俺は絶句して息を呑む。

 アスフェルド族はそんなものまで作れるのか……。


「ですが、白狼というのは大きな音が極めて苦手な種族でして……」

「この村の近くまで来たとき、運悪く近くに雷が落ちた。雷鳴の恐怖が首輪の効力を上回ったのだろう。首輪は砕け、白狼は走り去った」


 ベルガーが一体どういった立ち位置なのかは分からないが、まるで他人事のように話す大男に、俺も段々と苛立ってきた。

 プリムにこいつらの枷を外させたことを今更になって後悔することになるとは。


「上回ったのだろう、じゃないだろ。全部お前らのせいじゃないか。自分たちで何とかしろよ」

(そうじゃそうじゃ)

「それができればとっくにやっている。最初に言っただろう。手に負える相手ではないと」

「じゃあどうするんだよ。このまま放置するのか?」

「そんなことしたら大騒ぎになっちゃうよ」

(どんなに珍しかろうがヤツは狼、肉を食らう獣じゃ。空腹には逆らえまい)


 大きな音が苦手な白狼が雷鳴でパニックを起こしているだけなら、この嵐さえ止めばそのうち落ち着いてくれるだろう。

 だが、『魔物の王』並の能力を持つ獣がこんな場所で放たれたら騒ぎが起きるどころでは済まない。

 万が一、エサを求めて人里に現れようものなら……間違いなく、大惨事になる。


「そこで……その……皆様を勇敢な冒険者と見込んでお願いがございます」

「お願い?」

「はい。あの白狼を……討伐していただきたいのです」


 フランツは、そう言って深々と頭を下げた。


 いやいや、正気か? こいつ。

 あんなの、どう見ても精霊騎士の管轄だぞ。

 そのへんの冒険者なんて、いくら討伐に向かわせたところで逆にエサになるだけだ。


「ほー。俺達がエサになってる間に逃げようっての?」

「そ、そのようなことは! 決して!」

「うちのメンバー、みんな中級なんだけど。中の下だよ? あんなのに勝てるわけ無いよー」

(まあ、大嘘なんじゃがな)


 俺達の遠回しな拒絶に、フランツは黙り込んでしまった。


 ……もちろん、正直な話をすればここでヤツを放っておくという選択肢などない。

 確かに俺は全てを剥奪され、何も持たない男に落ちぶれた負け犬だ。

 だが、それでも俺がそうありたいと思う限り、俺は騎士だ。弱き者が犠牲になるのが分かっていて見ぬ振りをすることなど、俺の魂が許さない。


「……発言しても、よろしいでしょうか」

「止めた覚えはないけど?」

「ありがとうございます」


 そう言うとフランツは立ち上がり、背筋を伸ばし、引き締まった表情で話しだした。


「我々が白狼で大金を得ようとしたのは事実です。それを悪だと思われる方も大勢いるでしょう。言い訳はいたしません。誹りも受けましょう。ですが、それと私の商人としての能力は別の話です」

「何が言いたい」


 てっきり、自分たちの保身を考えた言い訳でも出てくるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。


「私の行動が悪ならば、あなた方も嘘つきではありませんか」

「なっ……」

「中の下? 笑わせないでいただきたい。戦っている姿を見なくても分かります。貴方たちは上の上の上、それすらも突き抜けるほどの実力をお持ちだ。ただ、それをつまびらかにはできない事情がある。違いますか?」

「白狼に襲われて、ほぼ無傷で済んだ人間、しかもそれが二人同時など……オレは見たことがない」


 どうやら、俺達の『並の冒険者ごっこ』は二人にはもうバレているようだった。


「極めつけはそちらのお嬢さんです。我々を一瞬にして捕らえ、情報を聞き出した。凄まじい音量の何かを使って白狼を追い払ったのも貴女なのでしょう?」

「ああ、もう。分かったよ!」

「……と、言いますと?」


 これ以上ベラベラ喋られて、万が一、俺たちの正体がアイリスにバレてしまっては色々とマズいことになりかねない。

 仕方ない……非常に惜しいけど、ここはあの霊器もどきを使うつもりで行くしかないか。


「やってやるよ、その討伐依頼! あいつをぶっ倒して――」

「――だめ。リーダー」


 半ばヤケクソ気味にフランツの依頼を受けようとした俺を、プリムが止めてきた。


「どうしたんだよ、プリム。どっちにしたってやるしか無いだろ」

「条件、変えて」

「条件?」


 何のことだ?

 ああ、そういえば報酬のこととかは全然考えてなかったな。

 こっちは大事に取っておくつもりだった霊器もどきを使うんだ、それなら奴らの全財産くらい貰っておくのも悪くないかもな。


 なんて器の小さなことを考えていた俺とプリムの見ていた方向は全く違っていた。


「討伐じゃ無くて、無力化」


 無力化……?

 それって、命までは奪うな、ってことか?

 いやいや、『王』並の強敵に精霊なしでやれ、って言ってるのと同じだよ?


「アイリスも、そう言ってる」

「お願いします、ジールさん。あの子を元の場所に戻してあげてください」

「そう言われてもなあ……」

「しょ、正気ですか! 白狼を無力化だなんて――」

「――あなたは。黙ってて」


 証拠を消したいのか、どうしても討伐の方向に持って行こうとするフランツ。それを、呟くような一言でプリムが黙らせた。


「まあいいじゃないの、リーダー。俺達三人なら何とかなるって!」

「ううん。三人じゃ、ない」

(おお、儂も入れて四人じゃな!?)


 黙れ、戦力外。


「わたし、一人でいい」

「はあ!?」

「ちょっとちょっと、プリムちゃん。それはいくら何でも無理だって」

「あと、アイリス」

「は、はい!」

「もしかしたら、手伝ってもらう。かも」

「はい! わたし、頑張ります!」


 俺達の話も聞かずに、勝手にどんどん進めていくプリム。

 確かに、精霊を使わないのであれば彼女の謎魔法こそ最も効果的かもしれない。

 閉じた両目とぽやんとした表情からは、一体どこまで計算しての発言なのか読み取ることは難しいけど――


「――分かった。今回はプリムに任せる」

「うん。ありがとう、リーダー」

「ありがとうございますっ! ジールさんっ!」


 俺達が全力で斬って締めて蹴り飛ばしても大したダメージも与えられなかった相手を、プリム一人に任せるだなんて、我ながら正気じゃ無いとは思うけど。


「じゃあ、向こうで作戦会議」

「え、真っ暗の中でやるのか?」

「いや、リーダー。どうやらもう、時間切れみたいよ?」

「時間切れ?」


 と、ここで気づいた。さっきまでの豪雨と暴風、そして雷鳴の音が全く聞こえてこないことに。

 恐る恐るホールへと繋がるドアを開けてみる。


「朝、か」


 壁の隙間から、光が射し込んでいた。

 こうなってしまえば闇中の光源など探す必要はない。

 聴覚で、嗅覚で、俺達のいる場所などすぐに見つけてしまうだろう。


 もちろん、あのままどこか遠くへ行ってしまった可能性もある。

 だが俺には、あの白狼がここへ戻ってくるような予感がしてならなかった――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)

どうかよろしくお願いします!!

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