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スラスト→トラスト ~最強騎士と半透明ヒロイン、嘘にまみれた世界をぶっ壊す旅に出る~  作者: 羽久間アラタ
第1章 落ちぶれ精霊騎士、旅に出る
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第18話 楽しい楽しい散財タイム

 プリムの治療が一区切りした後――

 着替えや清拭など、彼女の世話を買って出てくれたアイリスが、客室のドアを静かに閉めてこちらへと戻ってきた。


「どうだった?」

「はい、すっかり痛みも引いたみたいで。ぐっすりです!」


 と、答えた少女の、嬉しさが零れそうな笑みを見たことで俺達もようやく一息つくことができたのだった。


「本当にありがとうねえ、アイリスちゃん」

「助かったよ。俺達じゃ逆に悪化させかねないからな」

「いえいえ! わたしはこのくらいしかできませんから!」


 俺特製の足湯で回復したとはいえ、アイリスだって疲れてるだろうに。

 依頼人にここまでさせるなんて、ガサツで雑で戦闘くらいしか取り柄のない自分がつくづく恨めしい。


「たぶん、昨日あたりも殆ど眠れなかったんだろうな」

「こんなときにエルデの薬が使えないなんて、くやしいです」

「仕方ないさ。あれはあれでアイリスちゃんたちが生きていくために必要なものなんだからね」

「トラックスの言う通りだよ。そこまで依頼人の世話にはなれないしな」

「そんなこと……」


 まるでパーティーの一員だったかと錯覚してしまうほど俺達に馴染んでいるアイリスだけど、その辺の線引きはしっかりやっておかないといけない。

 少し突き放した言い方になってしまったけど、本来、俺達のパーティーの問題は俺達で解決すべきこと。依頼人の少女に負担をかけるようなことはご法度だろう。


「フランツさん、本当に助かりました。……それでですね、そのー。代金の方は……」


 この商人が自信を持って勧めてきただけあって、確かにアレは想像をはるかに超える効果を見せてくれた。

 案内どおりに加工し、完成した軟膏を塗った途端に患部の出血は瞬く間に止まり、傷が塞がり始めたのだ。

 何より、苦痛に歪んでいたプリムの表情が一瞬にして和らいだこと、あれこそが商人の言葉に一つも嘘が無かった何よりの証拠だろう。

 伝説に聞く『治癒魔法』とはきっとああいったものだったに違いない。


 ――とまあ、確かに素晴らしい薬草ではあったのだけれども。

 そうなるとやっぱり気になるのはお値段の方でありまして……。


「はい。あちらは銀貨十枚となります」

「じゅっ!?」


 思わず、間抜けな声を上げてしまった。

 でもまあ、仕方ない。あれだけの奇跡を目の当たりにしたんだ、この程度、安い……や、安い……もの、だ……。


 俺は覚悟して、自分の背負い袋からパーティー用の財布を取り出した。

 ええと、四枚、五枚、六枚……。


「ジール様。申し訳ございません。先程のは、冗談です」

「へ?」


 今まで真面目一辺倒だったフランツが微かな笑みを浮かべ、妙なことを言い出した。この人、冗談とか言う人なの?

 あ、実はもっと高かったー、とかいうオチ?


「命の恩人である貴方がたにそのような金額を吹っ掛けてしまってはアスフェルドの名折れにございますので」

「えーと、それってどういう」

「今回は我々が出会った記念ということで。無料とさせていただきましょう」


 フランツは両手を広げ、俺の予想の真逆よりも凄いことを言い出した。

 いやいや、銀貨十枚だよ? 俺一人なら半月は余裕で暮らせちゃう額だよ?

 いくらなんでも、そこまでしてもらうには恩と礼が釣り合っていない気がする。


「あれあれ、まあまあ。本当にいいの?」

「だ、ダメに決まってるじゃないか」

(何を遠慮しておる。あやつが良いと申しておるのじゃ。気にかける必要などなかろう)

「た、確かに、ありがたいですけどっ……でも商売は商売ですしっ。わ、わたし、どうしたら良いか分かりませんっ!」


 四者四様の反応で、全く一体感を感じさせない一行である。

 多分、俺達はこういう交渉事にはとことん向いていない。

 

「ジール様。残念ですが、我々は一度決めたことは覆してはならないという決まりがありまして。ですが、お気持ちも分かります。この取り引きに、どうしても気が引けると仰るのであれば――」


 そんな俺達を見かねてか、フランツは勝手に話を進めていく。

 このあたりの強引さも、商いを生業とするものには必要ということなのかもしれない。


「――代わりに、他の商品を無理のない範囲でお買い上げください。それで、今回の話は収めるということに致しましょう」


 *


 嵐の夜。

 廃村にあった元宿屋の中で突如として始まった、フランツ商店の特別出店。

 客は俺達四人だけ。いや、プリムは部屋で休んでいるから三人か。ああでも、アレも入れれば四人なのかもしれない。まあ、どうでもいいけど。


「この青いのと赤いのは?」

「ええ、そちらは魔法の効果を延長するポーションとなります。こちらは魔力を大きく回復させる効果がございます」

「へえ。それは良いねえ。青いのはどのくらい延長できるの?」

「おおよそ二倍ほどにはなるかと」

「じゃあ、そのポーション、どっちも頂戴。リーダー、支払いよろしくね―」

「はい。お買い上げ、ありがとうございます。合わせましてお値段は銀貨四枚となります」


 銀貨十枚がタダになったことでの感覚の麻痺か、それとも普段から貧しい生活をしていることへの反動か、俺達は半ばやけくそ気味に高額商品を次々と購入していた。


「わわ、この服もアスフェルドのなんですか?」

「いいえ、そちらは内環に立ち寄った際に仕入れたものです。今、王都ではこういった服が流行しているとか。いつの時代も、女性はお洒落というものに目がないものでございますので、きっと外環こちらでも良い値段がつくのではないかと思いまして。お気に召しましたか?」


 アイリスは服に興味津々のようだ。

 まあ、ついさっきあの『下着を隠しきれないエルデ村衣装』で散々恥ずかしい思いをしたばかりだからなあ。


「それもください」

「えっ!? だ、だめですよっ! そんなこと!」

「いいんだよ。いつも美味い飯を作ってくれるお礼みたいなもんだから」

「これはこれは、ありがとうございます。上下セットで銀貨四枚となります」


 はい、とだいぶ軽くなってきた財布の中から銀貨を取り出しフランツに手渡す。


「いいから、もらっておきなよ、アイリスちゃん。きっと似合うよー?」

「プリムの靴とローブも買ったんだし、ついでみたいなものだと思っていいからさ」

「ううう。あ、ありがとうございます」


 不承不承ながらもアイリスは受け取ることにしてくれたようだ。

 下側の服は丈こそ短いけど、ズボンのように二股に別れたデザインなので、あれなら彼女も『見えてしまう』心配をせずに元気いっぱい動くことが出来るだろう。


(……ふーん、じゃ。お主らは楽しそうで良いのう)


 ここまで静かにしていたダリアが、ついに口を開いた。その声は、明らかにいじけている。

 あ、まずい。今の声が聞こえたらしいアイリスが申し訳無さそうにしている。


「アイリス、本当に気にしないでいいから、ね?」

「でも……」

(ああ、良い、良い。乙女がより美しくならんと着飾るのは世の常であろう。むしろあのような野卑な恰好でおる方が余程罪じゃ)

「あの。どうされますか? おやめになりますか?」

「ああ、いえ! 買います! はい、銀貨四枚!」


 押し付けるように銀貨を渡し、アイリスの新しい服を購入した。


「あ、ありがとうございます……わたし、着替えてきますね! あ、あとプリムさんのも持っていってあげようっと」


 嬉しそうに自分とプリムの新しい服を抱きかかえると、アイリスはすたたたたーっとプリムたちの部屋へと入っていってしまった。


「さて、ジール様も何か興味のあるものはございませんか? 例えば、こちらの魔石などは"照明"の魔法を封じ込めた逸品でして、一度発動すれば何と三日間も……」


 客がひとり減ってしまったことで、フランツは新たなターゲットとして俺を定めたのか濃厚な営業トークが始まった。

 その様子を見ていたダリアが再びいじけて愚痴をこぼし始める。


(はあ……良いのう。儂は着替えたくても物にふれることもできんしのう。こやつはろくに甘味を口に入れんしのう。あーあ、儂は何と不幸なんじゃ)


 フランツの熱心な商品説明を聞き流し、生返事を打ちながら横目でダリアの表情を窺ってみると――彼女は唇を尖らせ、完全に拗ねていた。

 俺達に対する当てこすりか、ダリアは商品を端から端までつうーっと指でなぞっていくが、当然全部透けていってしまう。


(なーにが魔石じゃ。なーにが祈りの指輪じゃ。なーにが霊糸のショール……」


 半分も頭に入っていない俺と違って、ダリアは商品名をしっかり覚えていたようだ。

 やっぱり女の子って買い物とか好きなんだなあ、なんて見当違いのことを俺がぼんやりと考えていた、そのときだった――


「っ!?」

(おお!?」

「どうか、されましたか?」

「あ、いや、その、それは?」


 『霊糸のショール』が、動いたのだ。

 何も事情を知らない人間なら今の現象を見てもきっと何とも思わないだろう。

 なにせ、外は大嵐だ。ここがいかに頑丈な建物だったとしても所詮は廃屋で、隙間風なんて余裕で入ってくる。

 だから、俺達が視線を向ける半透明の謎の布切れが『透明な誰かに指で動かされた』としても『風のせい』と推察し、誰も気にも留めないはずだ。

 だが、俺は見た。そして、ダリアは感じた。その布切れの、確かな存在を――


「ああ、既にご説明申し上げました通り、そちらは特殊な素材を用いて作られたショールにございまして。私どもに古来より伝わる製法で編んだ逸品となっております。ジール様の恋人へのプレゼントなどにいかがでしょうか」

「く、くくく、ください。これ、ひと目見た瞬間にとても気に入りましたっ!」


 ほんの一瞬だけ、『さっきは説明しても生返事でスルーしてたでしょう?』という訝しげな表情を浮かべたものの、フランツはすぐに嫌味のない笑顔に切り替えてきた。


「これはお目が高い。ただ、こちらは少々値が張りまして……銀貨八ま」

「八枚ですねッ!?」


 説明を聞いている時間すらもどかしい。震える手で乱暴に銀貨を掴み取り、まだ差し出している途中のフランツの手に無理やり乗っける。


「こ、これはこれは。どうやら、よほど意中なご相手のようですね」

「え、あ!? べ、べべ、別にそういうわけでは……」


 しまった。あまりの出来事に完全に我を忘れてしまっていた。

 なんか俺、鼻息とかも荒いし。これはどう見ても『惚れた女を落としたくて高額プレゼントで何とかしようと画策する』スケベ野郎ではないか。

 まあ、もしアレを自分の手に巻いたら……という発想の時点でスケベ野郎には変わりないんだけど。


「隠さずとも良いでは有りませんか。ジール様にそれだけ想われるのです。その女性もきっと光栄かと」

(……む。何じゃお主。儂を……好いておったのか?)


 いやいやちょっと、ダリアさん? なんですか、その赤面&ジト目&目を逸らす、の高威力三段攻撃は。

 そういうのは僕、反則ではないかと……って、ああっ、まずい、俺の中で膨れ上がっていた雑念パワーが萎んていくうぅ!


「そ、そそ、そうかも知れませんねえ、ははは」


 ダリアが垣間見せた純情パワーにより、一瞬で腑抜けとなってしまった俺は、フランツとダリアの二人いっぺんに曖昧で適当な答えを返すのが精一杯だった――。


 *


「――夜も更けてまいりました。名残惜しくもございますが、今回はこの辺りでお開きと致しましょうか」

「ええ、もうお金も使い果たしましたし」


 俺はそう答え、チャラチャラとしか鳴らなくなった財布を振り、こちらも継戦能力が無くなったことを知らせる。


「それはそれは。皆様、お買い上げありがとうございました」

「こちらこそ。こんなに楽しい買い物は初めてでした」

「そう言っていただけると、商人冥利につきますね」


 俺達は衝動に突き動かされるままに買い物にのめり込み、結局、総計で二十枚以上の銀貨を散財することになってしまった。

 まあ、「本当にそれ必要だった?」というモノ(ショールとかショールとか)もあったけど、充実した時間だったことも事実だ。


 そしてそれは売り手側も同様なようで、上機嫌になったフランツはここに迷い込むまでの裏話などを話し始めたのだった――


「いやはや、実はここに来るまでの間、嵐のせいで大切な積荷がはぐれてしまいまして。この取引で少しは穴埋めが出来ました。お陰様で胸を撫で下ろす思いでございますよ」


 なにか微妙に引っかかる言い回しではあったが、あれだけ珍しいアイテムを販売していた人がわざわざ『大切な』とつけるには相当なお宝に違いない。

 夜の闇に加えて月明かりもなく、猛烈な雨と靄により視界は三歩先すら見えないくらいだ。なので、落としたとしても気づかないだろうし、気づいたところで見つけられるとも思えない。


「え、だったら嵐が止んでからでも取りに戻ったほうがいいんじゃ」

「そうしたいのは山々なのですが、そうもいかない事情もございまして」

「事情、ですか」


 いくら普段はあまり物欲の無い俺とは言っても、あれだけの神秘的なアイテムを見せられた直後だ。掻き立てられた好奇心を抑えることができず、どうしてもその『大切な積荷』のことが気になってしまう。


「まあまあ、リーダー。聞いてほしくない話もあるだろうし、良いんじゃない? その辺でさ」

「あ、ああ。そうだよな。フランツさん、立ち入ったことを聞いてすみませんでした」


 トラックスになだめられ、一瞬で興奮状態から覚めた俺はフランツに謝った。


「いえいえ。お気遣い、ありがとうございます」


 木箱をの蓋を開け、購入されなかった商品を戻そうとしているフランツは心なしか満足気に見える。

 そんな彼の所作を見ながら『大分使っちゃったなあ、明日からどうしよう』などと今更なことを考えていると、箱の中に眠っていた未見の商品たちが目に入ってきた。


「あれ、他にもまだまだあったんですね」

「ええ。今回のコンセプトは『旅の冒険者と、うら若き乙女たちに捧ぐ』というものでしたから」

「ほえー」


 聞き慣れない言葉に、生返事すらも間抜けな感じになってしまう。

 そうやってちゃんと相手を見て売るものなんだなあ、という聡い人間なら10歳にも満たないうちに気づくであろうことに感心してしまう、21歳の俺であった。


「まあ、今回お出ししなかったものは少々特殊だったり、少なくとも皆さんのお役には立たないだろうとこちらで判断した商品となりますので。こちらもご覧になりますか?」

「……いや、いいです」


 本当はちょっと興味があったけど、欲しくなったとしても残念ながら先立つものがない。

 特にここで『実は王都で話題の甘味がありまして』なんてことを言われたら色々台無しになりかねないし、今日はここまでで――


「――いや、ちょっと待ってください。フランツさん、それは?」


 俺の指差す先には、日の目を見なかった商品たちに埋もれるようにして、かろうじて頭だけを出していた乳白色の板切れがあった。


「ああ、これですか」

「ええ。見せてもらっても?」

「もちろん」


 そう言いながらフランツは商品を取り出す。

 乳白色で、表面はツルツルしていて、手のひらに収まる程度のサイズの平べったい直方体のそれは、これまで一度も見たことが無いはずなのに――何故か強烈な既視感を覚える『モノ』だった。


「お恥ずかしながら、我々にもこれが何か分かっていないのです。行商の途中で見かけて、珍しそうな物でしたので興味本位で仕入れてみたのですが……」


 商品を手渡され、触って確かめてみる。指ではなく、精神こころで。


「これ、いくらですか?」

「え? こちらですか……? 何に使うかもよく分からない物ですし、値段は付けていないのですが……」

「今すぐ値段を付けてください。買います。足りなければ、さっきのショールは返します」

(お主、勝手に何を言うのじゃ!)


 確証はない。

 ただ、感じた。あれは、俺に必要な物だと。


 ふむ、と呟きしばらく顎に手を当てて考え込んでいたフランツだったが、意を決したのか姿勢を正し、口を開いた。


「我々は商人。必要な人に必要なものを、幾許かの対価と引き換えにお渡しするもの。……良いでしょう。そちらの代金は――」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)

軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)

どうかよろしくお願いします!!

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