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スラスト→トラスト ~最強騎士と半透明ヒロイン、嘘にまみれた世界をぶっ壊す旅に出る~  作者: 羽久間アラタ
第1章 落ちぶれ精霊騎士、旅に出る
18/24

第17話 出会い

 ――で、だ。


「……トラックス。この人たちは?」

「遅いよ! 普通こっちからでしょ!」


 トラックスにツッコまれつつ、改めて突然の客人である二人組に目をやる。

 一人は細身の長身、赤い髪を横に流したような髪型。切れ長の目、商人らしいゆったり目の服に白いクロークを羽織っている。


「ああ、これは申し遅れました。わたくしどもは世界を回って商いをしている者でして。私はフランツ、そしてこちらが」


 もう一人は筋骨隆々の大男。横を刈り上げた緑の短髪、切れ長の目、袖のないシャツに革製の胸当て。


「……ベルガーだ」


 そして、二人とも紅い瞳の色で、灰色がかった白い肌。

 その特徴は、よく知っている誰かにそっくりなような――


「以後、お見知りおきを」

「あ、こちらこそ。ジールです。冒険者やってます」


 フランツと名乗った男が頭を下げたのに釣られて、俺も頭を下げる。


「我々は突然の嵐に見舞われ、大変難儀していたところをこちらのトラックス様に助けていただきまして」

「いやー、ビックリしたよ。まさか人がいるなんて思ってなかったからね」

「俺達のことは話してなかったの?」

「この嵐だからねえ。とにかく早く避難させようと思ってさ。商品は俺が運ぶから、って言って先にここに行ってもらってたってわけ」


 なるほど。


 大嵐の中、奇跡的に出会った男に案内された建物に入ってみたら、そこにいたのは恍惚の表情を浮かべて呆けている幼気な少女。

 そして調理場の方にはなんと、怖がる少女に今にも飛びかからんとしていた間抜けな男の姿が!


 ――という状況だったわけだ。


「本当に助かりましたよ。何せ"照明"も役に立たないような酷い雨でしたから」

「へえー。魔法が使えるんですね」


 一般人でも、(比喩ではなく)『血の滲むような』鍛錬を積めば魔法を行使出来るようにはなるのは俺が身を以て知っている。

 だが、それでもせいぜい初級魔法を使えるようになるのが関の山。

 しかも、一度使ったら数日間は魔法行使による倦怠感や体調不良でまともに生活ができなくなる事もあって、実用レベルで魔法を使える人間なんてごく少数だ。

 そんな素質を持っている人がわざわざ行商人になる理由なんてあるんだろうか。

 色んな意味がこもった俺の問い大して、彼の言った答えは実にシンプルなものだった。


「はい。我々は北東の山間出身でして。そちらの出身者は魔力の資質に恵まれやすいようなのです」

「北方。山間」


 俺達の話を聞いていたプリムが例の記録書をペラペラとめくりだした。


「アスフェルド族。聞いたことある」

(……む?)

「ほう! これは珍しい! まさか我々のことを知っている方がいらっしゃるとは!」

「名前だけ。記録、ほとんどない」


 そうか、少数民族の人たちってことか。

 この国が一つにまとまる前は各地に色々な個性を持った部族がいて、それぞれが覇権を求めて戦ったという歴史を聞かされたことがある。

 今ではかなり混血が進み、特徴も薄れていっているらしいが彼の出身地では未だに他との交流は控えめなのだろう。

 とはいえ、これだけ特徴的な外見だ。もう少し噂なり話題なりになっても良さそうなものだと思うけど……。


「プリム、どうして記録が少ないんだ?」

「私は。知らない」


 まあ、それはそうか。

 プリムは知識の纂修は得意でも、別に研究者というわけではないのだから、知らないものは知らない、というのは当たり前のことだろう。

 普段だったらこれ以上深堀りする意味も無い、とさっさと次の話題に移るところ。


 ――だが、今の俺にはこれを初対面同士が打ち解けるためのただの雑談で終わらせるわけにはいかない事情が出来てしまっていた。

 テーブルの脇でふわふわしていた黒いドレスの彼女が、フランツが出身地について話し始めてから、(むううう)と唸りながら急に何やら考え事をし始めていたのだ。


 言うまでもなく、ダリアの紅い瞳と白い肌は彼らと共通した特徴だ。

 これで無関係なはずがない。もしかしたら、一気に謎の核心に迫れるかも――


 そんなことを考えていたら、彼が少し言いづらそうに再び口を開いた。


「……実は、我々はエルセリアと最後まで争っていた種族でして」

「やっぱり、戦争してたんですね」

「ええ。今の歴史が示す通り、最終的には敗れてしまったようなのですが」

「そんなに強かった相手がどうして記録に残してないのでしょう」

「……それは」


 俺の素朴な疑問に言い淀むフランツ。

 彼に代わって答えを口にしたのは隣に座るトラックスだった。


「まあ……粛清とか、虐殺とか、あったんだろうねえ」

「……ええ。我々の祖先は、最後まで抵抗を続けていたようですから」

「つまり、表に出したくない歴史を葬ろう、としたわけか……お? おぉ?」


 俺達の話を聞いているのかいないのか、ダリアは腕組みをして(そうか……いや、しかし……)などと眉間に皺を寄せていた。

 あと、あぐらをかいているので太腿などが大胆で大変な事態になりかけている。


(む? なんじゃ、お主)

「どうかされましたか?」


 俺の妙な視線に気づいた二人は、同時にツッコんできた。


「あ、いや、なんでもない。相変わらず、すごい嵐だなーって」

「そうですね。本当に助かりましたよ。それでは――」

「――すみません。もう少しだけ」

「はい。何か?」


 ムッツリ発動で変わりそうになっていた軌道を強引に元に戻した。

 ヤツの『うっふーん指数』が高すぎるのが悪いのだ。俺は悪くない。


「お二人はどうして行商を?」


 この国が一つにまとまる前、最後まで抵抗を続けていたというアスフェルドの民。

 彼らは歴史から抹消され、かろうじて名前のみが伝えられていただけの存在という話だ。

 そして、その話を裏付けるように、俺の知り合いに加え、ここまでの道中で出会った人たちに彼らと同じ特徴を見たことはない――ただ一人、ダリアを除いては。


 つまり、俺は100日という短期間で見たことのない特徴の人たちと三人も会ったことになる。

 これを偶然で片付けて良いものだろうか。


「これは……あまり大っぴらに出来る話ではないのですが……」

「それなら無理に聞き出さなくても良いんじゃないの?」

「無理なら構いません。言いふらしたりもしませんので」


 ダリアを直に見たことのないトラックスの諌める言葉を無視し、俺はあくまでも自分の要求にこだわった。

 でも、俺だけじゃなくアイリスだって、プリムだって、そしてダリアだって知りたいはずだ。なあ、そうだろう、みんな。


「そ、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」

「あ、いや、そういうつもりじゃ――」

「――いいえ。商人とは受けた恩は返す者。分かりました。お話しましょう」


 *


 フランツの口から聞かされた話は――ダリアの謎に迫るとか、人知の及ばない神秘性とか、そういったものとはかけ離れた――ひどく現実的で、権力者たちの打算や思惑が透けて見えるような、そんなものだった。


「なるほど。街道が整備されたことで高級品や珍品が流通しやすくなって、それを求める"中央"の権力者たちが更にそれを求めるようになって――」

「――ええ。珍しい道具を扱う我々の品々を求める声が日増しに高まるようになりまして。それが限界に達した結果――ついに私達も外の世界へ自由に出られるようになったというわけです。まあ、ごく一部を除き商人に限られた話ではありますが」


 なるほど、あいつらが他言を禁止するわけだ。と妙に納得できてしまう理由ではあったが、大いに肩透かしな内容でもあった。


「あの、例えば、例えば、ですよ?」

「はい?」

「その、人を透明にして、誰かに取り憑かせたりするようなアイテムとか魔法って……ありませんよね?」

「……そういったものは取り扱っておりませんね。ジール様はそういった存在をご存知なのですか?」

「い、いえいえ! た、たまたま。たまたま思いついただけ!」

「そうですか。それなら良いのですが」


 あ、危ない。さすがに唐突すぎたか、これは。

 でも、そうなるとやっぱりダリアは何者? という話になる。


「ちなみになんですけど」

「何でしょう」

「アスフェルド族の街、って俺でも行けたりするんでしょうか」

「……残念ながら、我々の居所は厳重に秘匿されております。本来なら喜んでお迎えさせて頂きたいところなのですが……」

「あ、いいんです! 今、俺達はこの子を護衛してて! それ終わったらどうしようかなあ、って思ってたところだったんで!」


 俺は本当の目的を伏せ、依頼が終わったら特に予定が無いということにして誤魔化した。


「そうですか。まあ、いずれ本格的な交流も始まることでしょう。その時が来たら、是非我が同胞と仲良くしていただければ幸いにございます」

「も、もちろんですよ!」

(……ふーむ。何となく、飲み込めんのう)


 他人事のように言うダリア。

 いや、お前はもっと気にならないのか。自分と同じような目の色なの、に……?

 ――あ、そういえば、俺ってアイツにアイツの目の色の話とかしたことあったっけ。

 鏡にも映らないから、もしかして自分の目の色とか知らないんじゃないか。


(なんじゃ? ソワソワしおって)


 くそ、あの即席サインじゃ(お前の! 目も! 紅いんだよ!)って伝えられねー!


「あの……ジール様。どうかされましたか?」

「あ、ああ、いえ、その……ああ! えっとですね、実は結構な長旅で! 体が凝っちゃったなー、なんて!」

(何という下手な芝居じゃ……見とるこっちが恥ずかしくなりそうじゃ)


 そんなこと分かってるわい。

 いや、でも彼らはアスフェルド族の代表者というわけでもない、一介の商人でしかないのだから、あまり踏み込んだことを聞いても困らせるだけだろう。

 一旦ここまでにして、後でダリアを打ち合わせしてから明日にでももう一度聞いてみることにしたほうが良いかもしれない。


 なんてことを考えていたら――


「――それはお困りでしょう!」


 と言いながら、ぱん、と手を打ってフランツが突然立ち上がったのだった。


「え、どうかしました?」

「何を仰います。我々が何者か、お忘れではないでしょう?」

「えーと、確か、商人さん」

「はい、その通りにございます! 商人とは、必要とされている方に必要なものを幾許かの対価と引き換えにお渡しする者!」


 突然の芝居がかった口調と、謎のハイテンション。今までのハインツとはまるで別人のようだ。


「ベルガー! 準備を!」

「……わかった」


 話の最中、自分の名前以外一言も口にしなかった大男がのっそりと立ち上がり、部屋の隅に置かれた大きな箱の方へのっし、のっしと歩いていく。


「少々お待ちを」


 フランツはそう言うと、こちらの「はあ」という生返事を聞き終える前にベルガーが運んできた木箱を開け、中身を手際よくテーブルの上に並べだしたのだった。


 *


「お待たせいたしました」

「こ、これって」

「フランツ商店、本日はシャビレー村での特別出店にございます! どうか手にとって商品をお確かめください! きっとお気に召す品物が見つかりましょう!」


 結局、フランツが並べだした商品は四人がけのテーブルにも置ききれず、アイリスが座っていた隣のテーブルにまで侵食することになっていた。

 ガラス瓶に入れられた赤や青の液体、乾燥した謎の葉っぱや木の実らしきもの、タリスマンと呼ばれるお守りのようなアクセサリーや指輪にネックレス、靴に加えて衣類らしきものまである。

 他にも雑貨類や用途がわからない謎のアイテムの数々。

 

 ランタンの光によって照らされたそれらの煌めきに、俺達は「おおー」と歓声を上げてしまった。


「これは、大したものじゃないの」

「わあっ! すごいです!」

(なんじゃ。菓子はないのか)


 経験豊富なトラックスでさえこの品揃えには驚いたようだ。

 いつの間にかこっちに来ていたアイリスは商品をかぶり付くように見ている。

 ダリアは……いつも通りだったが。


 しかしそんな中、ただ一人想定外の反応を見せたのはプリムだった。


「あれ……プリムはいいの?」

「……私は、いい。ここにいる」


 こういうとき、知識欲の強い彼女が全く関心を示さないとは思わなかった。

 それだけではなく、プリムは先程までと同じように足を投げ出した姿勢で地べたに座ったまま。

 いや……。これは、まさか――


「――プリム」

「だめ。来ないで」

「ごめんな。脱がすぞ」

「じ、ジールさんっ! 急に何をっ!」


 俺はアイリスの抗議を無視し、プリムに近づくと、彼女の足を持ち上げ、足首を掴んだ。


「いっ、痛! だめ、嫌」


 そして力なく抵抗するプリムから、無理矢理に革製の靴を脱がせると――


「……どうして、黙ってたんだ」

「ううう。だって」

「プ、プリムちゃん!? それ!」

「そんな……足が……」


 彼女の足裏は、血豆だらけで、そして至るところでそれが潰れ、血まみれになっていた。

 こんな足で歩くなんて、激痛どころじゃなかったろうに。


「いや、どうして、じゃないよな。……気づいてやれなくて、ごめん」

「うう。言えない。わたし、邪魔って。言われたく――」

「――フランツさん」


 俺はプリムの言葉を遮って振り返り、突然のアクシデントに気まずそうにしていたアスフェルド族の商人に声をかけた。


「え、ええ、はい。何なりと」

「プリムの怪我、何とかできませんか?」

「……ええ。良い商品が、ございますよ」


 そう答えたフランツは、笑顔を浮かべてテーブルの上にあった謎の葉っぱを差し出してきた。


「こちらは我らの地方にのみ自生する薬草を天日干しにしたものでして。こういった傷の痛みを和らげ、そして実によく効くのです」

「使い方は?」

「はい、それはですね――」


 人との出会いというものは不思議なものだ。

 プリムがブラークに出会わなかったら、俺と出会わなかったから――こんな徒歩での長旅なんてすることも無かっただろう。もちろん、足を血豆だらけにして、激痛の中、誰にも言い出せずに我慢し続けることにだってならなかった。

 でも、俺達と出会ったからこそ、彼女は自分の持てる力をすべて出し切り、負けても『楽しかった』と言える経験が出来たというのもまた事実。


 出会いによってもたらされるものは、良いことだけじゃない。

 それと同じくらい、悪いことだってある。

 でも、後者に関しては――こうして新たな出会いによってまた別な良い経験へと換えることだってできるのだ。


 もちろん、良かったはずの出会いが、形を変えて悪夢になることだってあるのだけど。

 まあそれについては今は考えないことにしよう。

 まずは、プリムの足を治してやらなきゃ。そして、俺特製の足湯に浸かってもらう。絶対にだ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)

軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)

どうかよろしくお願いします!!

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