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スラスト→トラスト ~最強騎士と半透明ヒロイン、嘘にまみれた世界をぶっ壊す旅に出る~  作者: 羽久間アラタ
第1章 落ちぶれ精霊騎士、旅に出る
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第14話 かみあうとき

 そんな感じで出発した俺たち一行は、北へ向かって街道を歩いていた。

 太陽は頂点を過ぎてもまだまだ元気一杯で、照りつけられる俺達の体力と気力をじわじわと奪っていく。


(おい。こちらで本当に合っておるのか? 他に誰も通らぬではないか)


 街を出た直後こそ、俺達の周りは旅人やクエストに向かう冒険者、行商人や運搬人などとても賑やかだった。

 だが、西街道との分岐点で大半がいなくなり、旅人や冒険者も分かれ道のたびに少しずつ減っていき、今ではダリアの言う通り、俺達の他にロゼール街道を進む者はいない。


「いやあ、人が全然いないなあ」


 ダリアに反応した訳では無いが、見れば分かることを俺はわざわざ口に出してみた。

 まあ、これは次に繋げるためのステップ、というやつだ。


「アイリスはどう思う?」

(なんじゃその気色の悪い顔は)


 俺は振り返り、後を歩くアイリスにできるだけ明るい声で話し掛ける。

 

「え、その」

「あれ? もしかして疲れちゃった? 休もうか?」

(普段は森を駆け回っておる森娘じゃぞ。この程度で疲れるわけがあるまい?)


 俺とアイリスは所詮、依頼人と雇われの関係。

 でも、たかが十日だけだとしても、俺は昨日の微妙な距離感のまま旅をするのは嫌だった。なんとかして関係改善を図りたいところだが……。


「あ、いえ、その、平気です、大丈夫です、そのとおりです」


 うーん。何とも歯切れが悪い。最後の方なんて消え入りそうな感じで聞き取れなかったし。

 さて……ここは思い切って「何か気になることがありますか」と聞くべきか?

 でもそれで「アナタの顔が怖いんです」なんて言われたらもう立ち直れなくなりそうだしなあ……。


(ふん。何をグズグズしておる。気色悪いのう)


 そんなこと、お前に言われなくたって分かってるわい。

 俺は、肩を揺すって(うるせえ)とサインを送っておいた。


「……ご、ごめんなさい」


 せっかく頑張って声を掛けたのに、余計に萎縮させてしまったようだ。でも、「どう思う?」って聞いただけなのに……。

 実は俺って自分が思うよりずっと人相が悪かったりしてるんだろうか。


「いやー、それにしても歩きにくい道だな―、っと」


 俺はそれ以上アイリスに話しかけるのをやめ、再び前を向くと悲しみを独り言で紛らわした。

 護衛ミッションという関係上、アイリスを先頭や最後尾に置くわけにはいかない。

 ひとまず、俺が先頭、プリムはアイリスの後ろ、トラックスはやや離れた後方で殿役――という配置に落ち着いたのだが、これだとメンバー同士で会話するのが難しい。


 まあ、仕事なわけだしお気楽にお喋りしながら、なんてのは雇われの身として問題外なのは分かってはいるんだけど。


「……おっ?」

「ギシャアアアアアッ!」


 結局は余計なことを考えながら歩いていると、右前方の木陰からムカデ型の魔物が牙だらけで食事しづらそうな感じの口を開けて飛びかかってきた。


「アイリスに触んな」

「ギギャッ!」


 アイリスめがけて「いただきまーす」と飛んできたソレを、とりあえずビンタで張り飛ばしてやる。

 やつは登場してきた木の幹に紫色の体液を盛大にぶちまけ、べちゃっと張り付いた。


「街道なのにいったいどんだけ魔物出るんだよ」

(なんじゃ、大した事ないのう。もう終わりか)


 強さ的には最低ランクと言って差し支えない程度の雑魚で、脅威には全くならないものの、一応は街道と呼ばれる場所にこれだけ魔物が出るのはどうなんだろうか。


「リーダー。さすが」

「あ、おいプリム。勝手に隊列乱すなよ」

「平気。わたし、戦えないので」


 いつの間にかアイリスに並ぶように立ち位置を変えていたプリムは、いつものように「えっへん」と胸を張る。

 まあ、確かに後方からの奇襲に対応するために置いているのに、今の何の役にも立たないプリムじゃ意味がない。


「え、プリムさんはメイジさん、なんですよね?」

「そう。でも、魔力、すっからかん」

「あんな大技連発するからだよ」


 フルパワーで"鑑定眼"を使い、謎魔法を連発し、そして"魔法粘土"での偽ブラーク作成、とあの日の彼女は大盤振る舞いも良いところだった。

 まあ、代償として溜め込んでいた魔力はゼロどころか余裕のマイナスとなり、今はその返済期間のため一切の魔力行使ができない状態になってしまったらしいが。


「えっ、そんなに大きな戦いがあったんですか!?」

「リーダー、強かった」

「……ジールさんと?」

「わたし、殺そうとした。でも逆に、殺されかけた。リーダーに」

(あれは人ができる所業ではなかったのう)


 そう言ってプリムは未だに赤く腫れているおでこをアイリスに見せつける。

 まずい。あれじゃまるで、俺がプリムの頭に向けて鈍器か何かをフルスイングした、血も涙もない外道だと思われてしまうじゃないか。


「待てお前ら、人聞きの悪いこと言うなっ!」

「お前、ら?」

「あ……いや」

(阿呆じゃなあ。ほれ、森娘も呆れておるぞ)


 しまった。ついダリアもカウントに入れてしまった。ダリアの姿は、俺以外には見えないのに。


「じゃじゃーん! 呼んだかーい!?」

「トラックス! お前まで! ちゃんと見張りしてろよ! スカウトなんだろ!」

「まあまあ、そう硬いこと言わない。リーダーが投げて俺をぺちゃんこにしてくれた大岩くらい硬いねえ」

(あれでよく死なんかったものよ。……む。もしや、次の狙いはこの娘か?)

「ひっ」


 あーあ。トラックスが余計なこと言うからアイリスが完全に怖がっちゃったじゃないかよ……。

 どうすんだよ、これ。どいつもこいつも面白おかしく生きる方を優先しすぎだろ。


「と、とにかく。ちゃんと仕事しようぜ。あとアイリス、もし何かあったら遠慮なく言ってくれ。それから、俺はそんなことしないから。信じてくれ」


 とりあえず、いま出せる最大限の言葉でまとめておくことにする。

 できればこれ以上、俺の評価が落ちてしまうのは避けたいし。


「……はい」

「アイリス、何か、言いたい?」

「言っちゃいなって。リーダーは眉間のシワほど気難しい人じゃないから」


「……」


 二人に促され、それでもしばらく黙っていたアイリスだったが、ついに何かを決心したように口を開いた。


「その……わたし、なにか怒らせるようなことをしちゃったんでしょうか」

「は?」


 アイリスは、俺に向かってそんな事を言いだした。


「な、何言ってるんだアイリス! 怒ってなんてないよ! あ、この顔? これはほら、生まれつきだから! 元からこういう顔なの! ほらほら、何回伸ばしても戻っちゃーう」


 俺は、メチャクチャ早口で、そして眉間のシワを何度も伸ばしながらアイリスの勘違いを正そうと弁明する。

 そんな必死な俺を見て爆笑するダリア。


「な、なにがおかしいんですか! あ、貴女に聞いてるんですよっ!」

「あなた?」


 ちょっと待て。冷静になってみると、なんだかアイリスの視線が俺を向いてない気がする。どちらかといえば、彼女が見ていたのは、俺の右後方にいる――


(――む? もしや、この娘……)

「聞いてるんですかっ? 黒い服の、女の人っ!」


 そう、ダリア、だったのだ。


 *


 その後。

 俺は自分の置かれた特殊な状況について少ない語彙を総動員しつつ、なんとかかんとかアイリスに説明した結果――


「ほんっとうにごめんなさいっ! もう、わたしってば、いっつもこうなんですっ!」


 ――両頬を抑え、耳まで真っ赤にし、視線をぐるぐると忙しなく動かしながら、俺達に謝り倒している少女が完成したのである。


 つまり、彼女が俺に対してだけ妙に距離のある対応をしていた理由――というか原因は、ダリアだったのだ。


 そもそも、アイリスは幽霊だとかそういったものが見えたことは一度も無く、ギルドで俺達にくっついているダリアを見ても「お仲間の一人かな」くらいにしか思っていなかったらしい。

 そう思ってしまえば、ギルドで俺達と自己紹介をしたときも、俺の次はその周りでふらふらしていた黒いドレスの女性の番だと思うのも当然だろう。

 なのに、その女性は自己紹介どころか、ろくに目も合わせてくれない。口もきいてくれない。更には、俺に対する軽口がまるで自分に対しての遠回しな嫌味のように聞こえる……などなどが重なった結果――


「わたし、ダリアさんに嫌われちゃったのかと思ってて……」


 ――と、なったわけだ。


 以上が、『俺ってアイリスに嫌われてるんじゃね?』事件の真相である。

 まあ、当の本人は(そんなわけなかろう)と、ケロッとしていたのだが。


 さて。

 そうなったら居ても立っても居られなくなってしまった俺は、みんなを説得して次の結界地点――国が申し訳程度に用意した、道中の避難所のような場所――で、一晩を明かすことにしてもらった。


 この新発見はさすがに立ち話で済ませるような内容ではないし、俺とダリアの今後の指針にも大きく関わるテーマ。

 そして、そもそもな話、アイリスはパーティーメンバーではなく、俺達の依頼人である。

 こちら側の話は落ち着いてからにすべきだろうと、ダリアを弄りつつ危険な存在ではないことをアピールする程度にとどめて、足早に次の結界地点を目指したのだった。


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